3話 間違えて幼女になってしまった
六歳くらいだろうか?
頬は丸く、瞳はくりくりとしていて、幼さ以外なにもない顔。
瞳はエメラルドグリーン。
宝石のように輝いていて、見惚れてしまいそうになる。
髪は、光を束ねたような金色。
それでいて絹のようにサラサラで、腰まで伸びていた。
完璧な美少女……いや。
幼女がそこにいた。
「……マジか」
間違えて子供に転生したと思っていたが……
それだけじゃなくて、まさか、幼女になっていたとは。
激しい脱力感に襲われて、思わず膝をついてしまう。
「どうしたんですか? 大丈夫ですか? まさか、ハウリングベアーとの戦いで怪我を!?」
「いや……大丈夫だ。そういうわけじゃない。ただ、今の俺の姿にショックを受けただけだ」
「そんなにかわいいのに、どうしてショックを受けるのか、お姉さんはちょっとわかりません」
「……あんたは、ある日、朝起きたら自分がカエルになっていたらどう思う?」
「ショックですね」
「それと似たような気分なんだよ、俺は」
「なるほど……なるほど?」
女はあまり理解していないらしく、小首を傾げていた。
まあ、理解できるわけがないか。
「なあ、あんた。聞きたいことがあるんだが、ここはどこだ?」
見たことのない景色に首を傾げつつ、女に問いかけた。
「ここは、そよ風の森ですよ」
「質問を間違えたな。どこの国のどこら辺だ?」
「アルカシア王国の辺境にある村の近く、ですよ」
「ふむ」
アルカシア王国は、平和な国だったはずだ。
辺境というのは困りものだが……クズ勇者の国、聖エルドアーク光国でなかっただけ良しとしておこう。
「それと、他にもあんたに聞きたいことがあるんだが」
「ミリハウア・グラーゼンです」
「あん?」
「私の名前ですよ。ミリハウア・グラーゼン、っていいます。どうか、気軽にミリーと呼んでくださいね。ちなみに、あちらこちらを旅する冒険者です」
「わかった、ミリー」
「あなたは?」
「俺は、アーグ……アリアだ。アリア・テイル」
もしかしたら、ミリーは前世の俺の敵かもしれない。
その可能性を捨てきれないため、適当に思いついた、別の名前を名乗ることにした。
「アリアちゃん、ですね。うーん、名前もかわいいですね。ちょっと、ぎゅうって抱きしめていいですか?」
「お断りだ」
「つれないところもかわいいです♪」
ミリーは、めげるということを知らないようだ。
ある意味で恐ろしい。
「ところで、私からも聞きたいことがあるんですけど、アリアちゃんは、どうしてこんなところに? それに、その格好は?」
魔獣が徘徊する森に、ボロボロの服を着たボロボロの幼女が一人。
不審極まりない。
とはいえ、俺自身も謎なのだ。
この体の持ち主が、なぜ、森の中で死んでいたのか?
なぜ、奴隷のようなボロボロの衣服をまとっているのか?
あいにくと、転生時に前の人格、記憶は全て消失しているため、理由はさっぱりわからない。
その辺りも、やはり調べていかないといけないな。
当面は、俺自身のこと。
それと、今の世界の調査をしなければいけないだろう。
「あー……ちと、俺にもよくわからねーんだ。記憶喪失なんだよ」
「そうなんですか? 大変ですね……」
あっさりと信じた。
たぶん、ものすごいお人好しなのだろう。
まあ、俺が幼女だから油断している、っていう可能性もあるだろうが。
「ひとまず、近くにある村に来ますか? 小さな村ですが、冒険者ギルドはあるので、もしかしたらアリアちゃんを知っている人がいるかもしれません」
「そうだな、そうするか。と、その前に……」
絶命したハウリングベアーに手の平を向ける。
「我が手に集え」
魔術を使い、ハウリングベアーを異空間に収納した。
魔獣の素材は色々と役に立つからな。
余裕があれば、きちんと回収することにしている。
「……」
「ん? どうした、ぽかんとして」
「今の……も、もしかして収納魔術ですか?」
「そうだけど、それがどうしたんだ?」
「す……すごいっ!!!」
ミリーはキラキラと目を輝かせつつ、俺の手を握り、興奮気味に言う。
「魔術を使えるだけじゃなくて、収納術も使えるなんて! すごい、すごいです! そんな人、聞いたことありませんっ。それこそ、昔、世界を救った勇者さましか使えないような秘術だと聞いています!」
「これくらい、大したことねーよ」
「十分に大したことありますよ。魔術を扱える人は、ごく一部の限られた才能を持つ人だけと聞いていますから。アリアちゃんは、すごい才能を持っているんですね」
褒められて悪い気はしない。
ただ、俺の場合は前世の力を引き継いでいる、という理由がある。
やや反則技なので、素直に賞賛を受け止めることも微妙だ。
さっさと話を逸らすことにした。
「それより、村に案内してくれないか? ちと腹が減ってきた」
「あ、ごめんなさい。私ったら、ついつい興奮しちゃって。こっちですよ、私についてきてください」
ミリーが先導する形で、俺は辺境の村へ向かう。
途中、魔獣が何度か襲ってきたものの、全て撃退した。
そして、収納。
その度にミリーが感動して興奮するものだから、なかなか足が進まない。
一時間ほどかけて、ようやく村に辿り着いた。
「本当に小さな村だな」
大きな嵐が来たら、そのまま消えてしまいそうな村だ。
ただ、自然は豊かで、村人達の笑顔はとても明るい。
きっと良い村なのだろう。
「冒険者ギルドはどこだ?」
「はい、こちらですよ」
案内されたのは小さな建物だ。
まあ、他の家と比べると大きいと言えるかもしれない。
辺境だからこんなものか。
とにかくも、中へ入り……
「もうダメだっ、俺は我慢できねえ!!!」
「っ!?」
突然大きな声が聞こえてきて、ビクリと震えてしまう。
「ミリハウア一人に任せるなんて、俺にはできねえ!」
「で、でもよ、低ランクの俺達がついていっても、大したことはできないだろ?」
「むしろ、足を引っ張る恐れも……」
「だからなんだ! このままミリハウアを見殺しにするのか? そんなことできねえぞ。なにか、できることがあるはずだ。盾になれるかもしれねえ。だから……俺は行くぞ!」
なにやら盛り上がっているが、どういうことだ?
不思議に思っていると、ミリーが一歩前に出る。
「あのー……みなさん? 私なら無事ですよ」
「「「ミリハウア!?」」」
冒険者らしき男達が一斉に駆け寄ってきた。
こちらは幼女なので、男達は巨人のように見えるため、ちょっとした恐怖だ。
「よかった、無事だったんだな!」
「俺ら、ミリハウアが死ぬんじゃないかって、心配で心配で……」
「俺達も、やっぱり一緒に戦うよ! ミリハウア一人に任せておけない」
「みなさん……心配してくれて、ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。ハウリングベアーなら、討伐されましたから」
「えっ、アイツを倒すことができたのか!?」
「いいえ、倒したのは私じゃありません。こちらの、アリアちゃんです」
刮目せよ、というような感じで、ミリーが俺の背を押す。
男達の前に出ることになり、自然と視線が集中する。
「「「はあ!?」」」
男達は揃って、ありえないだろう、というような声を発するのだった。
19時にもう一度更新します。
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