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23話 襲撃

 アリアが証拠を手に入れて、そしてシェリアの屋敷を後にして、一日が経過した。


 ドランを弾劾するために、エリンを始め、ローゼンベルグ家の者達は色々な準備を進めている。

 思ったよりも作業は順調。

 この調子ならば、当初考えていた通り、最速の三日でドランを告発することができるだろう。


 その作業を手伝いつつ……

 ミリーは、時折、窓の外を見てアリアのことを考えていた。


 大丈夫だろうか?

 無茶をしていないだろうか?

 悪い人に騙されたりしていないだろうか?


「うぅ……心配です」


 アリアはとんでもない力を持つ。

 何度も何度も驚かされて、それでいて、まだ全ての力は見せていないだろう。

 今まで見てきたものは、彼女の持つ力の一端にすぎない。


 そんなアリアの心配をするということは、おこがましいことなのかもしれない。

 ただ、それでもミリーは心配してしまうのだ。


 アリアは、どこか危うい。


 力に自信を持つからなのかもしれないが、平気な顔をして危険地帯に突撃する。

 常人なら危ないと足がすくむような場面でも、アリアは笑顔で飛び込んでいく。


 口が悪いが、とても正義感が強い女の子なのだ。

 おそらくアリアは、泣いている人を助けるためならば、迷うことなく火の中でも水の中でも飛び込んでいくだろう。


 それ故に危うい。


 強い正義感は讃えられるべきではあるが、しかし、己を顧みない行為は決して褒められたものではない。

 なぜ、そんなことができるのか?

 近くにいるミリーは、一つの仮説を立てていた。


 自分が死んでも悲しむ人はいない。

 だから、無茶ができる。


 いつしかミリーは、アリアはそんな風に考えているのでは? と思うように。

 彼女と一緒にいればいるほど、そんな雰囲気、予感を覚えさせるのだ。


「どうして孤独を感じているかわからないですけど……でも、違いますからね。アリアちゃんは、決して一人なんかじゃないんです」


 アリアのことを想うミリーは、胸元に手をあてつつ、そっとつぶやいた。




――――――――――




 二日目。

 ドランを告発する準備は順調に進んでいた。

 明日、全てに決着をつけることができるだろう。


 一方で、アリアは未だに帰ってこない。

 いったい、どこへ消えたのか?

 ミリーだけではなくて、シェリアやエリンも心配するようになった。


 不安が積み重なり……

 そして、事件が起きる。


「お、お嬢さま!」


 明日の準備をしつつ……

 合間に休憩をしていると、血相を変えたメイドが部屋に駆け込んできた。


「ドラン・グレスハイドさまが……」

「キミは下がりなさい」

「っ!?」


 続けて姿を見せたのは、ドラン・グレスハイド本人であった。

 一人ではない。

 黒いローブを着て、顔も隠した者を五人、従えている。


 いったいなにを企んでいるのだろう?


 シェリアは内心の動揺を必死に隠しながら、毅然とした態度で問いかける。


「ドランさま、本日はどのような用で? いえ……そもそも、勝手に屋敷内に立ち入るなんて、あまりに失礼なのでは?」

「愛しいシェリア嬢、そのように怒らないでくれ。仕方ないのだよ、火急の用事というヤツだ」

「火急の用事……?」

「そう、大事な大事な用事なのだよ。私を貶めようとするキミ達の暴走を止めるという、とても大事な用事さ」

「っ!?」


 こちらの考えていること、準備している計画、その全てが見抜かれている。

 どうすればいいのかと、シェリアは顔を引きつらせた。


 一方で、エリンとミリーは落ち着いていた。

 こうなるかも、という忠告はすでにアリアから受けている。

 いざという時に覚悟は決めていたし、準備も万端だ。


「みなさん!」


 エリンの合図で、騎士が部屋に突入して、ドラン達を囲む。

 さらにその後ろに、武装したメイドと執事が並び、完璧な布陣を敷いた。


 戦力差は二十対六。

 ネズミ一匹逃さない包囲網。

 これで勝てないわけがない。


「ドランさま、あなたがなにを考えているかわかりませんが、私達は、あなたの不正を知っています。いえ、不正と言うには生易しい、おぞましい実験をしていることを」

「おやおや、そこまで知っていたか。やはり、あの天使がいたずらをしたのかな? いつの間にか消えていたし、本当にいけない子だ。おしおきと躾をしないといけないね」


 ドランはあくまでも余裕だ。


 その様子を見て、シェリアとエリンは警戒する。

 ドランは無能というわけではなくて、むしろ、頭の回転は速い。

 現実をきちんと認識できる男だ。


 余裕が続いているのは、この状況を打破できるという自信があるから。

 なにかしら切り札があるのだろう?

 それは……


「ドランさま、あなたを拘束させていただきます。みなさん!」


 シェリアの合図で、騎士達が一斉にローブを着た者に剣を向ける。

 足の辺りに狙いを定めて、刃を滑らせるように薙いだ。


 問答無用の攻撃ではあるが、命を奪わないだけマシだと思ってほしい。

 いくら家柄が違うとはいえ、他家に無理矢理押し入るようなことをすれば、死罪になってもおかしくはない。


 しかし、


「なっ!? き、効いていないだと!?」

「なぜ動け……ぐあ!?」


 確かな手応えを得たはずなのに、ローブを着た者達は反撃に出た。

 痛烈な一撃を食らい、数人の騎士が吹き飛ぶ。


 重力が横に変化したかのように、数メートルを転がる。

 普通に考えてありえないことだ。

 一流の戦士でもなければ、そのようなことは不可能。


 まさか、一流の戦士を五人も集めたというのだろうか?

 シェリアは、ごくりと息を飲む。


「驚いているようだね、はは、なによりだ。その反応が見たくて、色々とがんばった甲斐があるよ。まあ、本来の研究成果ではないのだけどね」

「いったい、あなたはなにを……」

「ははは、これが私の力だ。見るがいい!」


 ドランはローブを取る。

 その下から現れたのは……すでに死んでいる戦士、ゾンビだった。

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