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22話 もどかしい時間

「ってなわけで、ドランの悪事の証拠と証人だ」


 シェリアの屋敷に戻った俺は、みんなと合流した。


 証拠の資料を机の上に並べる。


 オーデルは屋敷の使用人に引き渡しておいた。

 まだ意識は戻っていないが、戻り次第、色々と尋問されることだろう。


「どうだ? これだけの証拠があれば、あのゲス野郎を叩き潰すことはかの……」

「アリアちゃあああああぁんっ!!!」

「ふぎゅ!?」


 いきなりミリーに抱きつかれて、変な声が出てしまう。


「おい、なにを……」

「これだけの証拠を掴むためとはいえ、あまり危ないことをしないでくださあああい! 私、すごく心配だったんですよ!!!」

「……ミリー……」


 ミリーは涙目だった。

 言葉以上に、俺のことを心配していたのだろう。


「……悪い」

「もう、ホントですよ……あまり無茶はしないでくださいね?」

「わかったよ。できるだけ約束する」

「うー……できるだけ」

「仕方ねーだろ? 今回みてーに、やらなきゃいけない時はあるからな。その時は、迷うことなく危険なことでもなんでも実行するぞ」

「それは、なんのために?」

「俺が俺であるために」

「……」

「……」

「ぎゅう、ってできたから今回は許してあげます」


 話はここで終わり、という感じで、ミリーは俺から離れた。

 二度と危ない真似はするな、とは言わなくなったため、一応、認めてくれたみたいだ。


「ふふっ、二人は仲が良いんだね」

「とてもうらやましい関係ですね、お嬢さま」

「はっ!?」


 シェリアとエリンに見られていたことを思い出して、とてつもなく恥ずかしくなる。

 くそ、ミリーのせいだ。


「あー……話を戻すぞ」

「ごまかした」

「ごまかしましたね」

「うるせー」


 この二人、息がぴったりだ。


「とにかくも、ドランの悪事の証拠は手に入れた。証人も確保した。コイツを有効活用すれば、合法的に叩き潰すことができる。そして、晴れてシェリアは自由の身だ」

「ありがとうございます。ここまでしてもらうなんて、なんてお礼を言ったらいいか……」

「礼はまだはえーよ、全部終わってからにしろ。今は、どういう風に動くか、それを話し合おうぜ」

「そうですね……確かに、アリアさんの言う通りです。証拠を手に入れた以上、迅速に動かなければ、ドランに気づかれた場合、証拠を隠滅されるかもしれません」

「そういうことだ。で、どれくらいで叩き潰すことができる?」

「そう、ですね……」


 エリンは考えるような仕草を取る。

 そのままの体勢で固まること、数分。


「最速で三日、というところでしょうか」

「ちとなげーな」

「ドランも貴族です。悪事の証拠があるとはいえ、家を潰すとなると、やはり即日というのは難しく……公の機関、騎士団に動いてもらうとなると、最速でも三日はかかるのではないかと」

「……ちっ、相変わらず融通の効かねーところだな。三十年経ってもなにも変わってねー」

「今、なんて?」

「なんでもねーよ、単なる愚痴だ」


 適当に答えつつ、今後のことを考える。


 ドランを正式な方法で叩き潰すのならば、エリンが言ったように、三日を待つしかない。

 他に方法はないだろう。


 ただ、ドランがおとなしくしているのか? という懸念はある。


 資料は処分できても、地下の実験場を三日で消すことは不可能だ。

 あの地下室だけでも十分な証拠になるだろうから、証拠隠滅について恐れる必要はない。


 俺が恐れていることは、ドランがなりふり構わず、強硬手段に出るということだ。

 普通に考えれば、そんなことをすれば、私はやましいことがありますと言っているようなものなので、常識人ならばそんな手はとらない。

 しかし、相手はロリコンゲス野郎のドラン。

 バカ故に、阿呆な行動に出る可能性もある。


 強硬手段に出てくるのならば、正当防衛で遠慮なく叩き潰せるのだが……

 小悪党故に、なにかしら手を打つ可能性が高いな。

 例えば、こちらに罪を被せるなど。


「……ちと、俺の方でも手を打っておくか」

「アリアちゃん?」

「わりー。俺はちょっと出かけてくる」

「え? どこに行くんですか?」

「野暮用だ」

「まさか、アリアちゃん……」


 ミリーが鋭い目でこちらを見る。

 俺の考えていることに気がついた?


「まさか、おトイレを我慢していたんですか!?」

「ごはっ!?」


 斜め上すぎる珍回答に、思わずコケてしまう。


「そういうことなら、私がお手伝いを……」

「させるわけねえだろ!? っていうか、ちげーよ! アホか!」

「うぅ、ひどいです、そこまで言わなくても」

「そこまで言わねーと、ミリーはわからねーだろうが」

「でもでも、アリアちゃんにジト目を向けられるのも、ちょっとゾクゾクします」

「あのな……」


 俺、なんでこんなのと一緒に旅しているんだろう?

 ついつい真剣に考えてしまうのだった。


「じゃ、俺は行くからな」

「アリアちゃん」

「あんだよ?」


 再び呼び止められて、足を止めてしまう。

 律儀に話を聞く俺、偉い。


「気をつけてくださいね」


 とても心配そうにして、そんなことを言う。


「ミリー、お前……」


 俺がなにをしようとしているのか、やはり理解しているのでは?


 一見するとアホに見えて、感情の赴くままに動いている彼女ではあるが……

 しかし、鋭い観察眼を持つ。

 そしてなによりも……優しい。


「わかった、気をつける」

「はい」

「で……ちゃんと、ミリーのところに帰ってくるさ」

「はい!」


 ミリーはうれしそうに、にっこりと笑うのだった。


 転生して、気がつけば三十年。

 世界に一人、取り残された俺は、この笑顔に何度救われたことか。


 この事件が終われば、ミリーが喜ぶことをしてもいいかもしれないな。

 そんなことを思う。


「じゃ、行ってくる」


 俺は軽く手をひらひらと振り、シェリアの屋敷を後にした。

 向かうは……この街の騎士団支部だ。

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