17話 お礼と依頼
「「ありがとうございました」」
ミリーと合流した後、改めて礼を言われた。
女の子の名前は、シェリア・フォン・ローゼンベルグ。
俺達の目的地である次の街の貴族らしい。
女騎士は、エリン・ラクウェル。
シェリアに仕える騎士だ。
「俺は、アリア・テイル。冒険者だ」
「ミリハウア・グラーゼンです。冒険者兼アリアちゃんのお姉ちゃん候補です」
わけのわからん自己紹介をするな。
「えっと……改めて、ありがとうございました。アリアさん達がいなければ、私達はどうなっていたことか……それに、文字通り、エリンの命を救ってくれました。なんて感謝したらいいか……本当にありがとうございます」
シェリアは、深く深く頭を下げる。
これほどのことができる貴族というのは、なかなかいない。
彼女はとてもまともな貴族なのだろう。
「一応、他の四人の護衛も蘇生しておいた。エリンよりも深手だったから今は意識がないが、そのうち目覚めるだろ」
「盗賊達は、私がきちんと動けないようにして、全員、まとめておいたので安心ですよ」
ミリーは、こういうサポートはものすごく手際が良いんだよな。
驚くほどの手際の良さで、ついつい感心してしまったほどだ。
調子に乗って、抱きしめさせてください、とか言いそうだから絶対に口にしないが。
「で……いったい、どういうことなんだ?」
「それは……」
「なにか事情があるんだろ? 俺達は単なる偶然みたいだが、盗賊連中、明らかにあんたらを狙っていたからな」
「……狙われる心当たりはあります。でも、それを話したら、あなた達を巻き込んでしまうことに」
「おいおい、もう十分に首を突っ込んでいるだろ? それに、ここまできてはいさようなら、っていうほど薄情じゃないんだよ」
「ふふっ。アリアちゃんは、シェリアちゃんとエリンさんのことが心配なんですよ。でもでも、照れ屋さんだから、素直に心配です、って言えないんですよ」
「ミリーは黙っていような?」
心配しているのは事実ではあるが、そのような言い方をされると、非常に恥ずかしい。
「困ってんだろ? なら、力になるぜ」
「どうして、助けてくれるの? 私達は、今日、出会ったばかりなのに……」
「あ? 変なことを聞くな。人を助けるのに理由なんていらねーだろ」
「……」
シェリアの目が丸くなる。
エリンの目も丸くなる。
ややあって、シェリアが優しく微笑む。
「ふふっ、そうなんだ。アリアさんは、とても優しい人なんだね」
「……んなことはねーよ」
「これも、アリアちゃんの照れ隠しですよ?」
だから、ミリーは黙っててくれ。
――――――――――
その後、シェリアの事情を聞いた。
彼女は、この先にある街……エクスタインを治めるローゼンベルグ家の一人娘。
父と母に愛されて、その人柄故にたくさんの人に愛されて、宝物のように大事に育てられてきた。
しかしある日、同じ街に暮らす、同程度の力を持つ貴族のドランに目をつけられてしまう。
ドランは、まだ十二歳のシェリアに求婚をして、嫁にすると宣言したという。
ドランは四十を超えている。
三十歳差を気にしない生粋のロリコンであれば、まだ話はわかりやすかったのだが、そういうわけではない。
彼はローゼンベルグ家の財産と権力を目的としていた。
当たり前の話ではあるが、ローゼンベルグ家はドランの求婚を一蹴した。
するとドランは、あの手この手で嫌がらせを始めて、シェリアを引き渡すように迫ってきた。
ローゼンベルグ家はとても誠実な家柄であり、陽の道を歩んできた、由緒正しい貴族だ。
それは誇らしいことではあるが、しかし、荒事や暗躍に慣れていないというマイナス面もあった。
貴族ともなれば、いつの時代も、正しいだけではやっていくことはできない。
ある程度の悪を受け入れないとダメなのだ。
そして、ローゼンベルグ家はドランに追い詰められていき……
果てには、シェリアの誘拐という事件に発展したという。
「とんでもない貴族ですねっ、許せないです!」
話を聞いたミリーは憤慨してみせた。
俺も同じ気持ちだ。
貴族の政治抗争はよくある話ではあるが……
こんな小さな子供を巻き込むなんて、まともな人のすることじゃない。
「貴族社会についてはそれほど詳しくねーが、叩き潰すわけにはいかねーのか?」
「ドランの家……グレスハイド家は、王都の貴族と親密な仲と聞きます。下手に手を出せば、逆にローゼンベルグ家に火の粉が降りかかってしまうかもしれないのです」
エリンが悔しそうに言う。
きっと、これまでも色々な対抗策を考えてきたのだろう。
しかしどうすることもできず、追いつめられることしかできなかったのだろう。
シェリアを守る騎士として、これ以上歯がゆく、悔しいことはないだろう。
「ふむ、どうしたものかね?」
「あ、そうです!」
名案を思いついたという様子で、にこにこ顔でミリーが口を開く。
「そのドランの家を、アリアちゃんが吹き飛ばしちゃうのはどうですか? 物理的に叩き潰しちゃうんです!」
「さすがにそれは、まずいことになるんじゃあ……」
「そもそも、グレスハイド家は王都との繋がりがあるだけではなくて、軍事力も相当なものです。一人で太刀打ちできるとは思えぬのですが……」
「ん? やろうと思えばできるぞ?」
「「えっ!?」」
シェリアとエリンが、マジで!? というような感じで驚いた。
「えっと、その……ドラン家の軍事力はかなりのもので、個人で、一つの街に匹敵するほどの兵と武器を所有してて」
「三級に匹敵するような実力者も、複数いると聞いていますが……それでも、太刀打ちできるぞ?」
「できるな」
「「……」」
即答すると、二人が唖然となる。
ただのハッタリではなくて、負けるわけがないと確信していることを、二人は理解したのだろう。
幼女に転生したものの、前世の力は健在だ。
そこらの一軍に負けるようなやわな鍛え方はしていない。
「うーん……まさか、と言いたいところだけど、アリアさんなら、本当にやってしまいそう」
「そうですね、お嬢さま……盗賊団を一瞬で討伐した力、私を蘇生した力。アリアさまならば、確かに可能なのでしょう」
「まあ、だからといって、本気で物理的に潰すわけにはいかねーけどな」
「えっ、どうしてです?」
「あのな……ミリー、少しは考えてくれ。んなことすれば、どう考えても、国家反逆罪に問われるだろ。話を聞いた感じ、ドランは相当にあくどいクソ野郎だから、悪事の証拠も巧妙に隠しているだろうさ。それなのにケンカを売れば、悪になるのは間違いなくこちらだ」
「むぅ……なかなかにめんどくさい話ですね。正義はアリアちゃんにこそ、あるはずなんですけど」
ミリーの考え方が、ちょっと宗教めいていて怖いぞ。
「まあ……ひとまずは、現状から手をつけていくか。盗賊団をしかるべき場所に引き渡す。それと、シェリアとエリン、護衛の四人を、安全にローゼンベルグ家に送り届ける。まずはそこからだ」
「なにからなにまで、本当にありがとう。私、シェリア・フォン・ローゼンベルグの名に賭けて、アリアさんとミリーさんに受けた恩は必ず返すと、約束します」
「私も、この剣、主であるシェリアさまの次に、あなた達に捧げると誓いましょう」
シェリアもエリンも、とてもまっすぐな性格をしていて、非常に好ましい。
クソ勇者に裏切られた時は、こんな結果になるなら魔王討伐なんて参加しなければよかったと思ったが……
結果的に、この二人を守ることに繋がったのならば、使命を果たした甲斐はあったのだろう。
少し救われたような気分になり、俺は、自然と笑みを浮かべるのだった。
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