表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/28

16話 格の違い

 盗賊団の本隊がいる場所に乱入した。

 ちなみに、危険なのでミリーは俺が捕縛した連中の見張りを任せている。


「なんだ、このガキは? ……そうか、部下が言っていたガキだな? こんなところに現れるとは、失敗したというのか。ガキ一人捕まえることができないとは……やれやれだ。再教育が必要だな。まあいい。部下の失敗は俺が……」

「ぐだぐだと長々とうるせーよ、ゲス野郎」

「……は?」


 突然、幼女の口から飛び出した暴言に驚いているらしく、男の目が丸くなる。


「は? じゃねーよ。間抜け面晒してんな。って、そのままでいいか。ゲス野郎はゲス野郎らしく、そのまま黙ってろ。喋るな。空気の無駄だ。存在事態が害悪だから、自分で窒息して死んでくれ」

「……よし。とりあえず、お前は死ね」


 マジギレしたらしく、男が風の速度で駆けてきた。

 鋭い黒のナイフで俺の首を斬ろうとするが……遅い。

 あくびが出るほどに遅い。


「七曜の拳・弐之型、散華!」


 拳で敵の攻撃を受け流して、カウンターを叩き込むという武装術で、男を迎撃する。


 武装術というのは、肉体的なエネルギーであるプラーナを使用することで発動する、物理戦闘専用の術だ。

 要するに、物理系の必殺技というヤツだな。


「ぐあっ!? ば、ばかな……俺の動きを見切るなんて!?」

「まさか、ボスがやられた!? ボス! しっかりしてください!」

「まるで動きが見えなかった……あのガキ、何者なんだ!?」


 俺は魔術を専門をする賢者ではあるが、武装術もしっかりと習得している。

 なので、近接戦闘も可能だ。


「まだ意識があるんだろ? 来いよ。そこの人にしたように、俺も、お前で遊んでやるよ。それともなにか。自分より弱い相手じゃないと遊べないのか? はっ、とんだチキン野郎だな。それでも男か? 情けねーゲス野郎だな。呆れ果てて涙が出てくるぜ」

「この……クソガキがぁあああああっ!!!」


 まんまと挑発に乗り、血管がブチ切れそうな勢いで男が激高した。

 まあ、幼女にここまで言われたら、誰でも切れるわな。


「死ね! お前は今すぐ死ねっ!!!」


 男は真正面から突撃してくるが、


「それは幻術による幻。本体は……こっちだな」

「なっ!?」


 右方向から飛び込んできた男の攻撃を避けて、その腕を掴む。

 その上体で懐に潜り込み、


「七曜の拳・弐之型、崩打!」


 拳を叩き込む。

 肋骨をまとめて数本砕き、さらに、その奥の内臓にダメージを与える。


 男は吐血して、その場に崩れ落ちた。


「ど、どうして……この俺の幻術を……」

「なぜ見破ったのか、って言いたいのか? そんなの簡単なことだ」

「なぜ、だ……?」

「あんな低レベルの幻術、俺が見破れないわけねーだろうが。ボケ。術が甘い。幻体が完全でないからわずかに揺らいでいるし、気配も薄い。人によっては騙されるかもしれねーが、俺を騙せると思うな。もう一度、一から修行しなおしてこいや。まあ、そんな機会はないだろうけどな」

「コイツは……化け物、だ……」


 そこで限界に達したらしく、男が気絶した。


 男が使う幻術は、まあまあのレベルで、決して悪くはない。

 人一人分の幻体を精密に再現して動かすことは、並大抵の努力ではできない。


 しかし、だ。


「相手が悪かったな。その程度、俺にとっては朝飯前なんだよ」


 ニヤリと笑い、男を魔術で拘束した。


 それから、周囲で様子を見ていた残りの盗賊達を見る。


「さて」

「「「っ!?」」」

「それじゃあ……ゴミ掃除といくか」

「「「ひっ、ひぃいいいいい!!!?」」」


 盗賊達の悲鳴が林の中に響き渡るのだった。




――――――――――




「ま、こんなところか?」


 一分後。

 俺達を取り囲み、圧倒的に優勢だったはずの盗賊団は、ひとり残らず地に伏していた。


 二十人ちょい、用意していたみたいだが……

 いくら数を揃えても、雑魚は雑魚。

 質より量という展開にはならず、全て、俺の術の前に踏み潰された。


「しかし、ホント、しぶとい連中だな」


 本気を出してはいないが、かといって、手加減もしてない。

 それなのに、死んだヤツは一人もいなさそうだ。

 しぶとさに関しては天下一品かもしれない。


「エリンッ、エリンっ! しっかりして、ねえ、お願い! お願いだから目を開けて!!!」


 女の子が泣いていた。

 血に濡れた女騎士を抱きしめて、何度も何度も呼びかけている。


「……なあ。こんなことは言いたくねーが、もう、彼女は死んでいる」

「っ!?」

「あんたを守ろうと、必死に……必死にがんばった結果だ。今は、ゆっくり休ませてやろうぜ?」

「それは、でも……だけど……」


 女の子は諦めきれない様子で、全身を震わせていた。

 やがて、必死な眼差しでこちらを見る。


「お、お願いします! エリンを助けてください!!!」

「いや、だから、その人はもう……」

「で、でも、あれほどの力を持つあなたなら、もしかして……お願いします! お願いします! エリンは私の騎士ですが、それ以前に、姉のような存在なんです! このまま姉を失ってしまうなんて、そんなこと、耐えられなくて……だから、どうか、お願いします……私にできることはなんでもしますからぁ、ぐすっ、お願い、しますぅ……」

「あー……まいったな」


 詳細は知らないが、この子は貴族だ。

 下手をしたら、この子を通じて、聖光国にいるであろうクソ勇者に俺の情報が流れる可能性がある。

 そのことを考えると、余計なことをするべきではない。


 ないのだけど……


「仕方ねーか」

「え? それじゃあ……」

「女の子の涙には誰も勝てない、ってな」


 見た目は幼女だが、中身は男だ。

 己の騎士を思う彼女の涙に、俺の心は強く動かされた。


「少し離れていてくれ」

「は、はい……」


 さて、どうするか?

 死者蘇生に一番適しているのは聖光術なのだけど、クソ勇者の国専用の術なので、俺が使うことはできない。

 その代わりとなると……やはり、星の力を借りる、占星術になるか。


 聖光術に比べると、治癒の力は劣るものの……

 死後、長時間が経過していなければ、問題なく蘇生できるだろう。


「星の力よ我が右手に。心と霊の欠片をこの左手に。優しさと慈しみをこの胸に。運命の鐘を鳴らせ、時の門を開け。スィー・ステラ・ラル・エル・ラクシエル。女神の聖域<ソフィア・サンクチュアリ>」


 星の力……神の占いによって、対象の運命に手を加える。

 死者の蘇生すら可能とする、かなり強力な力を持つのが、占星術だ。


 攻撃、防御、回復、補助。

 一通りのことはなんでもできる。

 しかも、陽術や陰術と違い、その力は大きい。


 難点があるとすれば、しっかりとした詠唱をしなければならず、しかも長い。

 術の発動までに時間がかかるために、前衛がいないと機能しないところが問題だ。


「あっ……」


 占星術が発動した。

 空からキラキラと輝く光が舞い降りてきて、女騎士の体を優しく包み込む。


 時間を逆再生するかのように、背中の傷がゆっくりと塞がり……

 ほどなくして、傷一つない綺麗な体に戻った。


「こいつはおまけだ」


 パチンと指を鳴らして、魔術を起動。

 血に濡れた衣服を綺麗にしてやる。


「……うっ」


 ほどなくして女騎士が目を覚ました。

 寝起きのような感じで、目を擦りつつ、静かに体を起こす。


「これは……? 夢、なのか……確かに、私は、あの男に負けて……」

「エリンっ!!!」

「ひゃ!?」


 突然女の子に抱きつかれて驚いた様子で、女騎士がかわいらしい声をあげた。

 それに構うことなく、女の子はミリーがやるような感じで、必死に女騎士に抱きつく。


「エリンっ、エリンっ、エリンっ! よかった、無事に生き返ったのね! 本当によかった、よかったぁ……!!!」

「お嬢さま? えっと、これは……」

「うぅ、エリン……エリン……」

「……お嬢さま、私のことを案じていただき、ありがとうございます。この通り、私は無事なので、どうか安心してください」


 女騎士は、まだ現状を正確に把握していないようだったが、今は、主のことを優先することにしたようだ。

 己のために泣いてくれる小さな主を抱きしめ返して、その頭を優しく撫でる。

 そんな二人の姿は、とても仲の良い姉妹のようだ。


「ひとまず、問題解決ってことでいいかね?」


 仲の良い二人を見つつ、俺は微笑むのだった。

作品を読んで「おもしろかった」「続きが気になる!」と思われた方は

下方にある評価欄の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けますと、

執筆の励みになります。

長く続くか、モチベーションにも関わるので、応援、感想頂けましたら幸いです。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ