13話 狙う者
盛大な歓送会をしてもらった翌日、俺とミリーは辺境の小さな村を旅立った。
辺境故に、馬車なんてものはない。
近くの街まで、おおよそ一週間。
のんびりと徒歩の旅だ。
「ふむ」
林道の中をゆっくりと歩く。
木の葉の隙間から落ちてくる、温かい陽光。
サラサラと吹く心地の良いそよ風。
自然を感じながらの旅は、なかなかに快適だ。
そのような感じで、俺は旅を満喫しているのだけど、
「……おえっ」
ミリーはそうもいかない様子で、顔を青ざめさせていて、フラフラと蛇行していた。
「おい、大丈夫か?」
「だ、大丈夫れすぅ……うぷっ」
「ったく。調子に乗って、酒を飲みまくるからそうなるんだぞ」
「だって、みなさん、どうぞどうぞってお酒を勧めてくれてぇ……えぷっ」
完全に二日酔いだ。
ミリーは数歩歩く度に足を止めて、口元を押さえている。
かなりの美人ではあると思うが……
ここ最近の付き合いで、色々と残念な面が表に浮上してきていた。
「ちっとは自重することを覚えた方がいいぞ? こんなこと言いたくねーが、んなことだと、将来、嫁の貰い手が見つからねーぞ」
「そ、その時は、アリアちゃんと結婚します……」
「今の俺は女だ」
「そうなんですよね、ピュア天使なんですよね……でも、普段のアリアちゃん、とても男前だから、ついつい……」
俺の前世に気づかれたのではないか? と、ドキリとした。
「だから、アリアちゃんが私の嫁になることは問題ないんですぅ……」
やっぱりというか、天然の発言だ。
ドキリとして損した。
「うぅ……アリアちゃんの前でリバースするわけにはいきません。で、でも、色々ともう限界です……アリアちゃん、私のどんな姿を見ても、嫌いにならないでくださいね?」
「おとぎ話の悲劇のヒロインのような台詞を言うな」
「それくらい辛いんですよぉ」
「ったく、仕方ねーな」
俺はアリアに手の平を向ける。
「傷よ癒えろ」
回復魔術を使用した。
正確に言うと、二日酔いは傷ではないが、それでも、一種の状態異常であることは間違いない。
なので、回復魔術の適用範囲内だ。
「お、おおおぉ……二日酔いが綺麗さっぱり消えていきます!」
「俺に癒やしてもらればいいから、って何度も二日酔いにならねーように、なるべく使用は控えていたが、今回は特別だ。次は、酒の量はきちんと守れよ」
「あ、アリアちゃん……あなたは天使ですか!? ううん、天使でしたね! 私のマイスイートエンジェル!!!」
「ふぎゅ!?」
感極まった様子のミリーに、おもいきり抱きつかれた。
そのまま、ついでとばかりに、スリスリと頬をこすりつけられる。
「アリアちゃん、アリアちゃん、アリアちゃん!」
「ええいっ、調子に乗るんじゃねー!!!」
――――――――――
静かな林道を、一台の馬車がゆっくりと走っていた。
商人の荷馬車ではなくて、きっちりと作られた、貴族などが乗る馬車だ。
護衛の騎士が左右に二人ずつ、計四人、付き従っている。
それを遠くから見る影があった。
「ボス、情報通りです。標的が見えてきました」
「護衛は?」
「四人ですね」
「いいぞ。そこも、きっちりと情報通りだな。相手は騎士だろうが、こちらは三十人以上いるんだ。負けるわけがない」
木陰に身を潜めて馬車を監視しているのは、盗賊だ。
ただのならず者ではなくて、三十人以上の構成員を誇る盗賊団、『シャドウリンク』だ。
脅威度は五級。
アルカシア王国で賞金首をかけられている、筋金入りの悪党だ。
彼らはとある情報を元に、貴族の馬車を狙うという計画を立てていた。
護衛の騎士は皆殺し。
そして、馬車の中にいる貴族を誘拐。
そのまま、誘拐した貴族を依頼主に引き渡す。
本来は、身代金などをせしめたいところではあるが……
あいにくと、今回は依頼主がいる。
馬車の中にいる貴族の敵から、ヤツを誘拐して連れてこいと頼まれたものだ。
危険な内容ではあるが、提示された報酬は予想以上のもので、二つ返事で引き受けた。
この仕事を成功させれば、一ヶ月は豪遊できるだろう。
その時のことを考えて、男は思わず笑みをこぼす。
「ボス」
周囲を警戒する部下が戻ってきた。
「どうだ? 異常はないか?」
「それが……」
「なにか問題が?」
「旅人らしき二人組が見えました。こっちに近づいています」
「なんだと?」
なんてタイミングの悪い。
男は舌打ちする。
「どんな二人組だ?」
「女とガキです。女は冒険者のようですが、こちらに気づいていなかったので、大した力はないと思います」
「ふむ」
予定外の事態に、男は今後の方針を考える。
二人組を他所に遠ざけるか、それとも、まとめて始末してしまうか。
相手の正確な素性がわからないだけに、なかなかに判断に困る。
「ボス、提案なんですが、女とガキも誘拐しませんか?」
「ほう、それはどうしてだ?」
「見たところ、かなりの上玉でした。女もそうなんですが、ガキの方が、とにかくやばいですね。俺が言うのもなんですが、天使のようなガキで、売れば、とんでもない額になると思います」
「いいな、そいつはいい話だ。よし。この幸運を逃す手はない。女とガキもさらうぞ」
「了解です!」
……女とガキというのは、ミリーとアリアのこと。
そして、二人を狙うことを決めた盗賊達は、その判断を一生後悔することになるのだけど……
それはまた別の話だ。
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