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12話 旅立ち

 今回のダンジョン攻略で、大量のウルフビーストの素材を手に入れることができた。

 おまけに、変異種の魔石もゲット。


 あまりに大量の素材を持ち込んだため、ギルドの資金が底をついてしまうということで、全部を買い取ってもらうことはできなかったが……

 手に入れた素材の半分ほどを売却。

 魔石はそのまま。

 そうして、かなりの金を手に入れることができた。


「分配についてだけど、僕達が二、アリアさん達が八でどうかな?」


 食堂で分配についての話をするのだけど、ニヒトにそんなことを言われてしまう。


「え? それじゃあ、ニヒトさん達の取り分が少なすぎません?」

「いや、これくらいが妥当なところだと思うな。というか、これでも、もらいすぎかもしれない」

「俺達は、今回のダンジョン攻略の企画者ではあるが、実際に攻略に大きく貢献したのはアリアだ」

「私達は、ほとんどなにもしてないからねー。これくらいでちょうどいいわ。アリアさんは、どう思う?」

「そうだな……まあ、そっちがいいって言うんなら、俺は構わないぜ」


 俺も、分配に関しては気にならないわけではないが……

 ニヒトなりの矜持やプライドもある。

 それを汲み取ってやるべきだろう。


 その後、今回の報酬をきっちりと分配した。


「これでよし」

「ああ、俺も確認した。問題ないぜ」

「それじゃあ、これでダンジョン攻略は完全に終了ということになるんだけど……一つ提案があるんだけど、アリアさんとミリハウアさんは、これから先、どうするのかな? よかったら、僕達のパーティーに参加しないかい?」


 ニヒトに勧誘をされた。

 マークスとレイも同意見らしく、期待の視線をこちらに送る。


「……それは、俺の力が欲しいからか?」

「うん、そうだね。アリアさんほどの規格外の力を持つ子がいれば、すごく助かる」

「隠さないんだな」

「事実だからね」


 ニヒトは穏やかなヤツではあるが、いつもこんな風に、バカ正直に話を進めているわけではないだろう。

 そんなことをしていたら、パーティーのリーダーなんて務まらない。


 俺に対しては、ストレートな言葉をぶつけた方がいいと判断したのだろう。


 嫌いではないし、むしろ好感が持てる方だ。

 マークスとレイに関しても、悪いヤツではないと確信している。


「……悪いな、それはやめておく」


 本当に悪くない話だとは思うが、


「今はまだ、ミリー以外とパーティーを組むつもりはねーんだ」

「そっか、残念だよ」

「わりーな」

「いや、仕方ないよ。ある程度は、こうなるだろうと予想していたからね」


 ニヒトと笑顔を交わして、


「はわわわ……私のことをそんなに想ってくれているなんて! うぅ、お姉ちゃん、感激です! アリアちゃん、今夜は一緒に寝ましょうね、ハァハァ」


 一方で、ミリーは暴走していた。

 余計なことを言わなきゃよかった。


「残念。私も、アリアちゃんをぎゅうってしたり、一緒に添い寝したかったんだけど」


 レイが残念そうに言う。

 お前もかよ。




――――――――――




「さてと……それじゃ、俺らはこれからどうする?」


 ニヒト達と別れた後、ミリーと今後について話し合う。


「んー、私は特に希望はないんですよね。かわいいかわいいアリアちゃんと一緒にいられれば、それで大満足です」

「お前、いつでもどこでもブレないよな……その姿勢、ある意味尊敬するわ」

「なでなでされてもいいんですよ?」

「なんでそんな話に繋がる。ったく……そういうことなら、今後のことは俺が決めていいんだな?」

「はい、問題ありませんよ。私の中で、アリアちゃんの望みが全てにおいて優先されますからね!」


 そこまで来ると、ちと怖い。


「そうだな……」


 今後のことを考える。


 当面の目的は、三つ。

 冒険者らしい生活を楽しむこと。

 転生前の俺の体について調べること。

 それと、クソ勇者がなにか企んでいないか、確かめること。


 後者二つは手がかりがなにもないため、難しい。


「しばらくは、冒険者稼業に専念してーな」

「だったら、この村を出ませんか?」

「ん? なんでだ?」

「言い方は悪いんですけど、ここは辺境なので、依頼も少ないんですよ。もう少し大きいところに行けば、色々な依頼がありますよ。単なる討伐、採取だけじゃなくて、護衛とか潜入とか人体実験とか」

「不吉な単語が混じっていたが……まあ、確かに、それの方が楽しめそうだな」

「それじゃあ……」

「そうだな。今日は準備をして、明日、他へ移動するか」


 今後の方針が決まる。


 新しい地では、どんな事件が起きるのか?

 あるいは、どんな出会いがあるのだろうか?

 考えるだけでワクワクする。


 これが冒険者か。

 なかなかに悪くない。


「えぇ!? アリアちゃん、村を出ていってしまうのかい!?」

「おいおい、マジかよ! 我らの女神さまがいなくなるなんて……」

「アリアちゃん教を立ち上げようと思っていたのに、真祖さまがいなくなるなんて……」


 なぜか、他の冒険者連中が嘆いた。


 っていうか、アリアちゃん教ってなんだ、アリアちゃん教って。

 こんな幼女を崇めてどうするつもりだ?


「なあ、本当に行ってしまうのかい?」

「あー……わりーな。この村は嫌いじゃねーが、俺は、もっと色々なところを旅してーんだよ」


 慕ってくれることは悪い気はしない。

 故に、柔らかい言葉で応えたのだけど、それが間違いだった。


「くううう……! アリアちゃんがそう言うのなら、俺達に止めることはできない!」

「でも、それならそれで、せめて最後は盛大に見送らせてくれ!」

「さあ、野郎共! 今から、アリアちゃん見送りの会の準備だ! 今夜は盛大に、最高に、おもいきりはしゃぐぞ!!!」

「「「おうっ!!!」」」


 とんでもなく乗り気な冒険者連中は、一致団結すると、すぐに行動を開始した。

 ギルドの職員も騒ぎに参加している。


「こいつらの行動力は、いったい、どこから出ているんだ……?」

「ふふっ、わからないんですか?」


 ミリーが優しい顔をして、こちらを見る。

 普段のふざけた態度は消えていて、この時ばかりは、お姉さん、という言葉がぴったりと似合う。


「みんな、アリアちゃんのことが好きなんですよ」

「俺のことが……?」

「だから、少しでも喜んでほしくて、がんばっているんですよ」

「ぶっちゃけ、んなこと言われても実感はねーけど……」


 俺は、唇を少しだけ笑みの形に作る。


 前世で魔王を討伐する旅をしていた頃は、こうして、親しみを覚えられて好かれるなんてことは皆無だった。

 あるのは、ただの殺し合いだけで、殺伐とした日常。


 だから、こんな光景をどう受け止めていいかわからない。

 わからないのだけど……


「悪くねーな」

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