10話 変異種
「風よ刃となれ」
「雷よ敵を穿て」
「アンブラル・ブリザード」
ダンジョン攻略は順調だ。
予想以上の数のウルフビーストが発生していたのだけど、この程度の雑魚、いくら数を揃えようが俺の敵ではない。
逐一、魔術や陽術を使い、駆逐してやる。
「……ねえ、ニヒト」
「……なんだい、レイ」
「……私達、必要なのかしら?」
「……どう思う、マークス?」
「……俺に振るな」
ニヒト達三人は、顔をひきつらせていた。
ふむ?
なぜそんな顔をするのだろうか。
ダンジョン攻略は順調。
素材も、全て俺が収納しているため、かなりの数を回収できている。
なに一つ、問題はないのだけど?
「って……」
ふと、ニヒトがなにかに気がついたような顔に。
「アリアさん。キミ、マナは大丈夫なのかい?」
「あっ……そ、そういえばそうよ。さっきから、魔術と陽術を連発しているじゃない。そんなことをしていたら、すぐにマナが枯渇してしまうわ」
「え? いや、別に……」
これくらいで俺のマナが枯渇するなんてこと、ありえない。
この程度の術なら、あと一万発くらいは撃てる。
「アリアちゃん」
なにも問題ないと言おうとしたところで、ミリーにぽんぽんと肩を叩かれた。
内緒話の合図だ。
「少し休みませんか? アリアちゃんのかっこかわいいところはもっと見たいですけど、無理をしてないか、心配になります」
「別に無理なんてしてないぞ」
「それでも、お姉ちゃんとしては心配なんです」
誰が姉か。
「……わかったよ」
転生後なので、どれだけ力を使えるか試しておきたいところではあったが……
ミリーの言う通り、無理はいけない。
もしかしたら、子供の体ということで、疲労に気づいていないかもしれない。
「なあ、ニヒト。俺、ちょっと疲れたから、最初の作戦通り、後衛に戻っていいか?」
「あ、ああ……もちろんだよ」
「というか、俺達がもっと早くに察するべきだった。すまないな」
「本当、ごめんなさいね。私達の方が力は下でも、年上なのに」
「気にしてないから」
前世も含めたら、本当は俺の方が年上だ、なんてことは間違っても言えないな。
――――――――――
その後は、ニヒトとマークス、レイがアタッカー中心となり、ウルフビーストを排除していった。
三人は六級と言っていたが、ベテランの領域だ。
その力はさすがのもので、無理なく、危なげなく敵を駆逐している。
俺とミリーは、彼らの後をのんびりとついていくだけだ。
前半活躍したのだから、のんびりしてほしいとのことだが……
なにもしないっていうのは、少し居心地が悪いな。
まあ、俺も調子に乗ってやりすぎた感はある。
今は彼らに任せるとしよう。
俺は、いざという時の切り札として、備えておけばいい。
「ふふふ……切り札か」
自分でいうのもなんだけど、かっこいいな。
「よし、次が最下層だ」
二時間ほどで、五層に到着した。
ダンジョンの最下層には、主と呼ばれる特殊な魔獣が存在する。
霊脈の影響を一番強く受けた個体だ。
ソイツは力は強いが、それに見合うボーナスもある。
通常の素材だけではなくて、魔石とよばれる、力の結晶を手に入れることができる。
色々なものに転用可能で、高値で取り引きされている。
自分で使うも良し、売るも良し。
ぜひとも、ゲットして帰らなければ。
「それじゃあ、主を探そうか。ここの主は、ウルフビーストが進化した個体になると思うんだけど……マークス、反応はあるかい?」
「いや、なにもないな」
「そうなのかい? おかしいな……」
五層は大部屋になっていた。
百メートル四方の空間に、十メートルほどの高さ。
スポーツができるような、巨大な空間だ。
マークスは、今度は陰術ではなくて、魔道具を使用しているらしい。
見たことのない魔道具だ。
この三十年で開発されたものだろうか?
「その魔道具は?」
「コイツは、主を探知することに特化した、専用の魔道具だ。効果範囲は百メートル。だから、普通なら反応があるはずなのだが……」
なにもない、ってわけか。
確かにおかしな話だ。
「もしかしたら、他の冒険者に先を越されちゃったのかしら? ただのウルフビーストは、すぐに再出現するけど、主はしばらく時間がかかるもの」
「うーん、そういう話は聞いていないんだけどな……」
三人が頭を悩ませている。
そんな中、ミリーは眉をしかめていた。
「どうしたんだ?」
「いえ……なんか、イヤな匂いがするんですよ」
「匂い?」
ちっ、そういうことか!
「全員、俺の後ろへ!!!」
「「「っ!?」」」
ニヒト達は驚きの表情を浮かべて……
しかし、すぐに動いて、俺の後ろへ移動した。
ミリーは、三人よりも早く動いていた。
「力よ盾となれ」
魔術の盾を展開した直後、
ギィンッ! と金属と金属をぶつけたような、甲高い音が響いた。
「ほう……たかが人間ごときが、俺様の攻撃を防ぐか」
空間が揺らいで、巨大なウルフビーストが現れた。
五メートルはありそうな巨体に、三人の顔が引きつる。
「ばかな!? 主といえど、せいぜい二メートルが成長限界のはず。それなのに、この大きさ……それに、姿を消す能力は?」
「人語を解するということは……こいつ、もしかして変異種か?」
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