9話 少女、駆け付ける
書き貯めに夢中で、投稿してないことにさっき気づいた
「どうして!?」
警察との電話を終えた会長が叫ぶ。
それもそうだ、自分が交番へとつれていった少女がいなくなったのだ。多少なりは愛着もあったかもしれない。
「落ち着け四十崎、おまえらしくないぞ。こういう雑多なことはこいつらの仕事だろ?それと、泣森も連れてお前も同行していい。手続きは俺が引き継ぐからさ。Fクラスども『課外活動』の時間だ」
先生はそういって私たちに教室を出るように促す。特に反抗する理由はないため素直に外に出る。
四十崎さん(会長)は小夜ちゃんを呼びに行くといったので一度別れ、私たちは昇降口へ移動した。
「えっと、何が起こってるの?」
私の呟きを拾った桃音先輩が教えてくれる。
「先生が正義感強くてね、なんていうか、こういったボランティア活動もFクラスの特徴の一つなの。今回で言えば『失踪した少女を探せ!』みたいな?先生は一応私達が少し人間離れしてる事を知ってるからね」
まあ日常生活でどうしても不思議な点が目に付くからね、魔法は。
多少は猜疑的な目で見られても仕方ない。そこは上手くごまかしているようで、魔法の事自体は知らず、ちょっと人間離れしているだけという認識らしい。
「お待たせ!小夜、よろしくね!」
小夜ちゃんを連れて四十崎さんが戻ってきた。
「事情はだいたい聞いた。今回の『課外活動』は姿を消した少女の捜索。情報は……」
こうして小夜ちゃんが告げた情報をみんなメモを取り、これを元に手分けして捜索するのだ。捜索範囲は学校近辺、川沿い、交番の回りが確定していて、あとは聞き込みしながらあるくしかない。
私は手元のメモを見る。そこには可愛らしい少女の写真がはってある。表情はまるでなく、人形のような目をしている。笑えば絶対可愛いのにな。パッと見中学生くらいの少女で、黒のロングヘア。服装は白いワンピースで、ところどころ汚れている。
これが今回の捜索対象の少女で、写真は四十崎さんが用意したものらしい。
「捜索時間は夕方までだ。昼食は各々で取るようにして、11時、14時に私に状況を連絡。
また、対象と思わしき人物を見かけた場合は写真を撮って四十崎へ送ること」
私は小夜ちゃんと四十崎さんの連絡先をメモして、ポケットへしまう。
ここからは探し物の時間だ。探し物なら割と勝算がある。小さな頃から人を見つけるのは得意であり、かくれんぼで私に見つけられなかった人はいない。
ドッキリで人が隠れてる場合なんかでも、どこか空気が違うといった違和感を感じるのだ。
「17時にここに戻ってくること。遅れる場合は連絡を。捜索開始だ!」
私達は散り散りになって別の方向へ向かっていく。学校周辺や川沿いと一言で言っても、結構な範囲である。だけどーー
写真を見た時から、見つける方法が私にはなんとなく分かった。
「無事でいてね……」
私は直感を信じて駆け出した。
◆
小夜たちFクラスが捜索対象について話をしている時、里花はすでに捜索を開始していた。
……最も彼女自身はそれが捜索対象になってることを知らないのだが。
「ここか……」
先ほど少女がいなくなったという電話を会長が受ける直前、里花の能力は勝手に発動した。
それを彼女は『悲劇の言葉』と呼んでいる。里花自身の能力は「時間の止まった世界を通る」といったものだが、それとは別に「人のためになる善行」の気配を察知する力を持つ。
『悲劇の言葉』はこの力がマイナス方向に作用した物で、『強い負の気配』に反応した結果聞こえる耳鳴りである。
ゆえに彼女には『何か良くないことが起ころうとしている場所』が分かったのだ。
もともと人に優しい里花は、そうしたものを放っておくことなどできなかった。
里花は軽くその建物を見上げる。学校と同程度の高さだ。そばに外付けの階段があり、それは最上階まで続いている。そして、まだ新しい泥の靴跡もある。
「ここを登ったんだ。いけない……助けないと」
里花は迷わず階段を登り足跡の主を追う。音を立てないように慎重に歩を進める。
まるで忍者のように完璧に足音を殺したまま、最上階へとつく。扉は開いたままになっており、足跡はそのまま階段を登った先、屋上へと続いている。
一歩ずつ、一歩ずつ距離を詰めて屋上へと向かう。
階段の下へ付き上を見上げる。人が通ったからだろうが、ここも扉が開きっぱなしだ。音を立てる心配が減ったのは不幸中の幸いといったところだ。
音をたてることなく、里花は屋上までたどり着いた。
◆
『もしもし、美乃?何かあったか?』
「少女、発見!!場所は……」
手短に場所を伝える。見たままだ。
先ほど四十崎さんへと写真を送ったところビンゴだった。
チラッと見えたのだが、同じところにすでに里花先輩がいたのでそれも伝えておかないと。
『……里花が?そういえばいなかったな……いつものやつで事前に察知したか。まあいい、みんなでそちらへ向かう。ちなみに美乃はどこにいる?』
「駅の近くの展望ビルの最上階!」
こちらの場所もさくっと伝える。ここから見つかるという直感を信じてこのビルに登ったのだ。ちょっと遠いけど見つけたのだから結果オーライだ。
『……さっき言ってた建物、むしろ駅から遠くないか?』
確かに歩くには結構な距離だ。遮蔽物もないし見る分には問題はないのだが。
「大体500mくらいかな?そこの屋上に少女が座ってるの。写真で見た通りの表情だから本人だと思うよ」
『……里花もそうだが美乃も化け物じみてるな』
心外な。てか小夜ちゃんが言うかそれ。
いくら少女見つけるのが早かったとはいえ、小夜ちゃんほどではないだろう。
てか里花先輩がしれっと化け物呼ばわりされてる。あの人小夜ちゃんの同類なの?
ちなみに小夜ちゃんが化け物じみているのは予測力である。相手の動きを読んだりするのがかなり上手だ。
小夜ちゃんとの通話がグループ通話へと切り替えられる。
最初に話し始めたのは里花先輩だがかなりの小声で「今出られない」と告げて通話を抜けた。まあ張り込み中みたいなものだしね、先輩は。あ、慌ててる。
『どしたのさよちん?見つかった?』
『美乃が対象を発見した。場所はチャットへ貼った通りだ。現在すでに里花がいるようなので手出しはしなくともいい。とりあえず、そのビルの下へ集合だ』
『了解』
みんなは手早く返事をして、そのビルへと移動を開始する。
「私も行かないとな。また今度ここに遊びに来よう」
◆
里花は焦った。いきなり通話がスタートしたからである。
振動すらしないサイレントモードだったから良かったものの、音が鳴ったら大変な事になっていた。
屋上の縁のうえで、一人の少女が膝を抱えて座っている。
下手に声を掛けて落ちてしまったら……そう考えるだけで、身動きが取れない。
しかし、先に動いたのは少女のほうだった。
彼女はこちらを向いて告げる。
「そこにいる人……誰なの?もう気づいているの。例え小声でも、声は声なの」
どうも彼女は音に敏感らしい。逆に言えば、それだけ音に敏感な少女相手に、つい先ほどまでは気づかれずにいられたと言うわけだ。完璧な隠密だったと自賛したい。
若干風が強めに吹いているので音が聞き取り難いだけなのかもしれないが。
里花は観念してそのまま歩いて屋上の床へ足をつける。
少女は立ち上がり、こちらへ向き直る。
「一つ聞くの。あなたは、三冬を知ってる人?」
「キミが誰なのかは知らない。けど……辛そうにしているのは分かった」
少女は少し目を開いたが、すぐに嫌そうな顔をした。
「三冬を知らないあなたに、一体何が分かるっていうの?」
「それも分からない」
彼女は空を見上げて、呟く。
「三冬もなの。三冬は三冬を知らないの。名前以外ほとんど何も分からないの。けど、少しだけ覚えてることがあるの」
里花は何も言わずに少女の話に耳を傾ける。
「母さんが…よく言ってたの。『人の記憶に残っているのは生きてる証』って」
彼女は目に涙を浮かべながら、一生懸命言葉を重ねる。
「三冬を知る人は、もういない。三冬ですら、三冬を知らないの。誰の記憶にも、三冬は、いない。もう、死んだも同然なの」
彼女はそう言って一歩後ずさった。まずい……死ぬ気だな、これ。
下手に動けば飛び降りかねない。せめてもう少し、話をしなければ。
「今私と話してるキミは、今までのキミとは別人だよ。他人と言っても差し支えないだろう。他人が死んだだけ……キミは死んでなんかいないよ」
里花は胸に手を当て告げる。
「少なくとも、今のキミはもう私の中で生き始めてる。でも、まだキミの事はよくわかってないからさ……」
一歩ずつ、一歩ずつ近づいていく。
あと、5歩、あと4歩――。
「っ!」
一瞬強く当たった風。それだけなら何の問題もなかったのだ。強く当たったのが里花なら。
「あっ……」
突風に煽られて体勢を崩し、宙へ投げ出された少女。もともと痩せていたのだろう、小柄な彼女はあっという間に重力に引かれ落ちていく。
「転移!」
使わないつもりだったが、背に腹は変えられない。
魔法を唱えた途端、世界は白く染まり色を失っていく。
落ちていく彼女の体はその場に止まる。
躊躇なく飛び降りて彼女をお姫様抱っこで抱え、時間停止が解ける。
世界は色を取り戻し、まるで彼女を殺そうとするかのように重力はその身を加速させる。
さっきまでなら為す術なく彼女は死んでいた。
「キミはもう、私のものだ!死なせはしない!!」
襲いかかる重力に抗うため、彼女を強く抱き抱えたままビルを蹴る。
幸い路地が狭いため、対面にも建物があり足場には困らない。
対面のビルを蹴り飛ばし、元のビルへと跳んで行く。それを何度か繰り返し、見つけたソレへ近づく。まだ勢いが強すぎる……けど仕方ない!!
お姫様抱っこから普通に抱きしめる形へ変えて、後方に宙返りするようにして体勢を変えながらビルから付きだした金属の棒へ――ここだ!
その棒の下スレスレを通りながら、タイミングよく足を後ろに曲げて引っ掛ける。しゃちほこのような体勢で足を使い棒を挟みこむ。あまりの勢いに膝に激痛が走るが、意地でこらえた。勢いが強すぎて何度も回転するが、意地でも離さない。
ようやく回転が収まり、鉄棒でいうコウモリのような状態になった頃。
「里花!?どういう状況なのこれ?」
「うわー!!里花ちゃんパンツ丸見えだーー!!」
「見えてない!スパッツ!これはスパッツだから!てかふざけてる場合かっ!」
下にいたのは、みくもと桃音であった。
◆
私が追いついた時にはすでに全員揃っていた。少女は無事であり、滅茶苦茶泣いていた。
里花先輩がずっと抱きしめてたので事情聴取は後回しにしたのだ。
「なるほどね。生きていく意味が分からなくて、自殺しようとしていたと」
落ち着きを取り戻した彼女に事情を話してもらう。重たい理由があった。
「はいなのです。昨日学校から帰ったら家が燃えてて、分かったの。もうお父さんもお母さんもいない、帰る場所もないんだって。そこから、もう、記憶がないの」
どうやら彼女の家は火事にあったらしい。それで両親を失い、家を失い……辛すぎるだろ。
それがショックとなって記憶まで失ったのか。
「でも今は違うの。三冬、頑張って生きようと思うの!全てはお姉さまのために!!」
「……へ?」
キラキラした目で彼女が里花先輩に対して爆弾発言をした。わーキレイにフラグたてたね先輩。
「三冬はもうお姉さまのものなの!!頑張って役に立つの!」
「でもキミ、学校は?お葬式とか大変じゃないの?」
里花先輩の言葉を聞いて彼女は顔を曇らせる。
「…私にはもうお姉さましかいないの。学校にもいけないの。だから、お願いします」
彼女はそういって頭を下げる。
里花先輩は困ったようにこちらを見る。
「ええと、どうしようか…お願いしますと言われてもな…」
話を振られたものの、私にはあいにくそういった経験は無いので何も思いつかない。
冠婚葬祭についてもまだ知らなくてもいいと思いたいした知識も持っていないのだ。
「キミ、両親のご遺体については何も聞かされていないのか?」
小夜ちゃんが少女へ訪ねる。もしも彼女を喪主として葬儀を行うのであれば必須の情報である。少女が喪主をするかは別として。
「二人とも病院へ運ばれたの。私の両親はもう親族いないから、多分国が直葬するの。ちなみに私も死んだ事になってるの…」
学校にも行けない、というのはそういうことか。死亡した扱いになっているならばそりゃ通学もできないね。というかそれだと人生ハードモード過ぎるのでは?
「お姉さまがいればそれでいいの」
「ダメ、それだと私が良くないの。キミにも真っ当な人生を歩んで欲しいから」
この子、ぶれないな……。
「あまり使いたく無い手段であって、決して褒められた方法じゃないが法律の目をくぐって彼女が生活を続ける方法は、ある」
小夜ちゃんがそんな事を言った。さすがっすわ先輩。
里花先輩が滅茶苦茶食いついた。
「ほんと!?…でも使いたくない手段なの?あまり無理強いはしたくないけども…」
「絶対ダメというわけではないんだ。多分、みくもは知ってるぞ」
里花先輩が今度はみくも先輩をターゲットする。
みくも先輩は小夜ちゃんを睨んでる。
ちなみにそれみて桃音先輩がちょっと笑いこらえてる。
「もしかして……あの人?」
「む、やはり力を知ってたな。なら話が早い、呼ぶといい」
そう告げられたみくも先輩は目をつむって、祈りを捧げた。
瞬間どこからともなく空気は割れ、そこから昨日見た女性剣士…夜雲さんが現れた。
「お前から私を呼んだのは久しぶりだな」
みくも先輩と軽く挨拶をかわして小夜ちゃんへと向き直る。
小夜ちゃんから説明を聞いて納得したようだ。
「なるほど、身寄りを失った少女のために私の力を、か…。……まあいい、可愛い妹の頼みなんだ、協力しよう。それでもこの力を頼るのはあまり感心しないがな」
「感謝する」
短く会話を終え、夜雲さんは剣を抜き放つ。禍々しくも美しい剣だ。
「あまり大きな改変にならないようにしたい。どうする?」
こっそりみくも先輩に聞いたところ、夜雲さんの持つ剣は魔剣カルナフタス。
事象・状態・現な歴史などさまざまなものの書き換えを行う魔法を持つとんでもない魔剣だそうな。
「『影無三冬』は生まれる家族が違った。彼女は私の……『雨崎』の妹だったということにしてほしい」
里花先輩がそう言った瞬間、少女…三冬ちゃんの目が大きく開かれる。
夜雲さんは頷いて、剣を高く掲げる。
「分かった。カルナフタスよ、我が命に答えろ。《夢か現か幻か》」
その言葉が終わると同時に、剣が発光する。剣を中心に光が広がり、空をすごい早さで覆っていく。
ほんの数秒だろうか。見とれているうちに光は消えていた。
剣の光を音も無く消えていった。
夜雲さんは静かに剣を鞘へ納め、三冬ちゃんへ向き直る。
「改変が終わり、世界は更新された。三冬はこの世界に『雨崎三冬』として生まれていた事になった」
スケールでかいことするなぁ…女神と通じてるだけあってこの人もとんでもない人だよね。
なんにせよ三冬ちゃんが喜んでいるし、救われたからいいことだよね。
「それって、私の両親はどうなった感じなの?」
「今の世界からみればお前の親は子どもとともに火事で亡くなったという感じだな。言ってしまえば火事が起こる前まで時間をさかのぼる方が楽ではあるんだが、さすがにそれは不本意だろうからな」
彼女自身は親に対して未練があったわけではなさそうだ。むしろあったならもっと録り乱していただろう。記憶を失ったのは家を失った事によるショックの方が大きかったのかもしれない。
三冬ちゃんは勢いよく頭を下げた。
「ありがとうございました!頑張ってお姉さまの元で生きるの!!人生尽くすの」
「そこまでしなくていいよ」
里花先輩はやんわりと断りをいれた。
「断りますなの!!これは既定事項なの」
彼女はもうぶれる事はなさそうだ。これで彼女の籍に関する問題は解決?後の問題は……。
「ねえ夜雲さん。彼女の住所情報とか、どう変わったの?」
「彼女の公的書類の大半はお前の妹として不自然でない形になっている。ようは同じだな」
里花先輩は彼女のポケットからひょいっと黄色いうさぎの財布を取り出し、中身を確認する。
取り出したのは健康保険証だ。
「確かに住所は私と同じだね。名前も雨崎三冬になってるよ」
「名実ともどもお姉さまになったの!感無量なの!」
三冬ちゃんはぴょんぴょん跳ねて大喜びしている。
しかし小夜ちゃんと夜雲さんは若干表情がかたい。
誰も傷つかないですむ、一番いい方法だと思うんだけどな……。
「小夜。今回の件はお前が担当しろよ」
「分かっているよ、姉さん。それは上手くやるさ……少なくとも去年よりはね」
短く挨拶をかわした二人。そして夜雲先輩はポータルを開いてどこかへ消えていった。
やっぱあの人色々おかしいよね(褒め言葉)
ちなみに先輩方と一緒に合流していた四十崎さんはいつの間にか眠っている。
おそらく、というか絶対人為的に眠らされてるよね、あれ。まあ魔法とか見られたらまずいしね。いつから寝てたんだろうか。
「四十崎、起きろ」
そういって小夜ちゃんは桃音先輩の肩に担がれている四十崎さんの額にでこピンをつけて、空を切る。
空を切ったのは、四十崎さんが目をとじたまま頭を曲げて紙一重ででこピンを回避したからである。恐ろしい反射速度、というか本能?勘?どのみち寝ている状態からでも攻撃を避けたのだから色々とすごい。そして四十崎さんは目を覚ました。
「びっくりした。脅かさないでよ小夜」
「むしろ避けられた事にこっちが驚いたんだけどな……っとまあそれはどうでもいい」
小夜ちゃんはそういって後ろにいる三冬ちゃんを示す。
四十崎さんはとっても嬉しそうに駆け出す。
「元気になったんだね!!よかったー!!!」
そういって飛び込んでいった四十崎さんを三冬ちゃんは半身で避けて足をかける。ひどい!
四十崎さんは躓き前へと倒れ込み、そのまま受身を取ったと思ったらばねのように跳ねて回転して起き上がった。何今の。
「私はお姉さまのものなの。気安く触らないで欲しいの」
……この子愛が重くない?ほら、四十崎さんが「かわされた……」って結構へこんでる。ちょっとかわいそうに思えるね。
「三冬ちゃん、ハグしてこい!」
「はいなのー!!!」
里花先輩の指示を素早く聞いて四十崎さんへとハグする。あ、今度は幸せそうな表情浮かべて…というかちょっとアブナイ顔してるよ先輩。私の抱いていた四十崎さんの人物像がガラガラと崩れていく。そりゃね、幼い少女に抱きつかれて興奮する様子をみたらヤバイ人だと思うよね。
四十崎さんが三冬ちゃんに骨抜きにされたところで里花先輩が口を開く。
「三冬ちゃん、中学校は今までどおりの所だよ。親の名前が必要なところがあれば『雨崎晴花』か『雨崎守幸』を使ってね。私の親の名前だから。住所は保険証の裏にあるやつだよ」
「はいなの!!……ところでこの住所ってどこなの?」
三冬ちゃんが首をかしげて里花先輩へと訪ねる。先輩は学生寮生活だからきっとその住所は実家のものだろう。いくら設定が変わったからとはいえ、三冬ちゃんからすれば他人。知らない人のいる家に『ただいまー』と上がっていくのはハードル高そうだ。
「それは私の実家だね。両親ともそこにいるから身の回りの問題は気にしなくていいと思うよ」
「頑張ってお手伝いするの!お姉さまと同じ高校目指すの!!」
この勢いだとFクラス入りを希望しそうだな。
でも問題児でもなければ入れないと思うけども。
この子のことだし、問題起こしてでも無理矢理来そうだ。
「それじゃ三冬ちゃんと里花は一度親へ顔を会わせてくるといい。私たちは学校へ戻り報告をする」
「指図するな、なの!」
反発された小夜ちゃんはちらっと里花先輩を見る。里花先輩が三冬ちゃんの肩に手をおいて呟く。
「三冬、帰ろう?」
「はいなのー!!」
キレイな手のひら返しである。
そしてはぐれないように手を繋いで二人は家に向かった。
「あれだけ見たら微笑ましい姉妹ね」
みくも先輩が後ろ姿を見送りながらそっと呟く。
「幼女連れて家族に紹介って言うとなんか響きヤバくない?」
桃音先輩は相変わらずバカなこといってる。
その言い方だと里花先輩が幼女を嫁にしようとしてるように聞こえるな……。
とにもかくにも捜索は終わり、私たちは学校へ戻ることとなった。