8話 少女、驚愕する
懐かしい日を思い出した初登校日に遅刻して女神に会うというなかなかに濃かった一日が終わり、新しい日が訪れた。
目を開けると見慣れない天井が目に映り、ここが私の部屋ではないことを思い出す。
流石に夜遅くに家に帰るのも嫌だったため、ベッドと布団は元々おいてあったものを借りている。
今夜もこの寝具にお世話になるので親睦を深めるためにもう一度深々と布団をかぶり二度寝する。
いや、訂正しよう。二度寝しようと布団を引っ張ったとたん、すごい勢いで布団をひっぺはがされたのだ。
「起きたのに寝かせるか!!起ーきーろ!」
「二度寝は伝統文化なのにー!?」
謎の理屈を唱えながらも私はやむを得ず体を起こし、布団を剥ぎ取った人を見る。
「おはよう!入学式もそうだけど、初日も遅刻だよこゆみん。連帯で私たちもだけどさ……」
この先輩は……雨崎里花先輩だ。
青いロングヘアかつ、サイドテール。リボンは緑。先輩は私を起こすために奮闘していて遅刻が確定したそうだ。小夜ちゃんに報告をして「全員で遅れる」という荒っぽい方法で解決?したらしい。(何も解決してない気もするが)
私は布団を畳んだあと制服に着替えながら、ナチュラルに私の着替えを凝視してる先輩に問う。
「このクラスって全員で通学するってルールがあったり?」
小学生じゃあるまいし流石にそれはないだろう。
「あるんだよ」
……あるのか。
「だから一人でも起きてこないとみーんな遅刻!だから私が起こして回ってるわけよ。まぁ大体私が行くときには起きてるけどね……起こしたそばから二度寝する子は初めて見たよ」
そりゃ伝統文化ですし(?)。しない手はない。
着替え終えた(終始里花先輩に見られながら……)私は里花先輩とともに下へ降り、昨日同様リビングへと集まる。すでに私以外は揃ってくつろいでいる。めっちゃリラックスしてるけど、これ遅刻してるんだよね?
まるで気にしていないかのようなくつろぎっぷりである。
私にいち早く桃音先輩が気づいた。
「おー、ねぼすけこゆみんだー」
「おはよう、桃音先輩」
敬語はいらないと言われてはいるが、流石に先輩にちゃん付けはハードルが高かったため、名前だけは敬称をつけることにしている。ちなみに小夜ちゃんは幼なじみ特権である。
「おはよう。朝食はそれね、焦らないように急いで食べてね」
みくも先輩がテーブルを指した。
献立は味噌汁と卵焼き、あとご飯。
ザ・和食という感じだね。くるみ先輩の得意料理が和食なんだそうだ。そして小夜ちゃんの好みでもある。
てか「焦らずに急げ」って。難しくないですか。
さほど時間もかからず食べ終わり、食洗機に……出そうとしたところで絢音先輩に止められる。
先輩の魔法により使う前の状態になった食器はそのまま棚へと戻される。雑用的チートである。
その物体を上書きするような魔法は、使いすぎは禁物らしいが、このくらい小さければほとんど影響はないそうでむしろそういう使い方ばかりしてるらしい。まあそうなるよね。
食洗機ェ……。
何はともあれ全員揃ったので、戸締まりをして学校へ向かう。先日通った道を逆走するだけだ。この道しっかり覚えないとね。
そういえば……
「みくも先輩、小夜ちゃんは?朝もいなかったよね」
「着いたら分かるよ。お楽しみってことで」
何事もなく学校へと着いた。忘れそうになっていたけど、遅刻の真っ最中なため他に生徒は見当たらない。
と思ったら一人いた。生徒会長だ。
忍び足でこっそりと向かっている。何故?
「彼女はAクラス。あのクラスは先生が緩くてね。『朝のHR中に来た子』は遅刻つけるのに、『朝のHR中にいなかった子』は遅刻つかないのよ…」
確かに緩い。いいのかそれで。
私たちは普通に歩いているため会長もこちらに気づく。
「呆れるくらい堂々と遅刻してきたね、あなた達……」
それは私も思った。遅刻魔な私でも、もっと慎ましやかに行動するわ。これはこれで楽なんだけども。
「会長、よければ一度Fクラスの教室へ行きませんか?頃合いを見計らって自分の教室へ行けば自然に見えるでしょうし」
「そうね……じゃあお言葉に甘えるね」
会長が仲間になった!
冗談はさておき会長とともにみんなでFクラスへ向かう。今さらだけど、Fクラスの担任に見つかるのは問題ないのか?
桃音先輩が勢いよく扉を開ける。
「先生、いつものー!」
どゆこと!?
教壇にたっている先生は少し苦笑いしている。
「新人入ったそばからかよ……ま…頑張れよ、雨崎」
「私が頑張って起こす前に起きるべきかと……」
こうして私はFクラスの、桃音先輩のいう「いつもの」とやらを果たした。またの名を「寝坊」。
今までも何度もあることのようだ。
「四十崎もだ。まあお前は滅多にないからあまり心配してないけどな」
「今日はたまたま……寄り道する必要ができてしまって遅れました」
なんだ寝坊じゃないのか。会長はしっかりしているように見えるから、こう言うところで抜けてると可愛げがあるというのに(なにさまだ)
「ふーん、なんか問題が?解決したのか?」
「一応…解決したと思います……川のところに朝から一人でボーッとしている中学生くらいの少女がいたので、交番へつれて行ったんです。警察の方に任せましたから大丈夫だと思います」
迷子か…。会長は善人だなぁ。というかこの辺市街地なのに、迷子?
川沿いに歩けば小学校も中学校もあるから、迷子とは考えにくいよね…。
可能性としては、家出…とか……?
その時鳴り響いた携帯の着信音が、思考をさえぎる。
けたたましく鳴り響くのは会長の携帯だ。
何故だろう、妙にその音が不安に感じられた。
「知らない番号…何処だろ?…はい、どちら様でしょう?あ、警察の…」
警察かららしい。朝の件で事情聴取だろうか?大事にならなければいいけれど。
後ろに立っていた雨崎先輩が突然顔を上げて、告げた。
「先生、みんなゴメン。私……行かなくちゃいけない。聞こえるんだ!」
里花先輩はそう言ったと同時に姿を消した。
先輩は自己紹介で魔法の効果を「転移」と言っていた。
厳密には時間の止まった世界を通っているだけらしいが、この際どちらでも構わない。
その力を使って先輩はどこかへ向かった。
「えぇぇぇ!??今朝の少女がいなくなった!?」
会長が素っ頓狂な声を上げた。
…これは、大事件の予感がする。