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21話 少女、助ける

渚ちゃんがやってきたその日は、一旦お開きにすることにした。

渚ちゃんを助けるに当たって、準備が必要だったからだ。

彼女には小夜ちゃんに盲目魔法をかけ続けてもらい、要塞に泊まっていってもらった。


その間、私は渚ちゃんを助けるためにいろいろと準備をすすめた。

主にスーパーに行ったり、山に行って材料とってきたりだ。


翌朝私はすぐに作業に取りかかった。


台所に立ち、皮を剥いだり、炒めたり、煮たり、つぶしたり、混ぜたり……

ちなみに興味本位で見に来たくるみ先輩は、始まってすぐ気持ち悪くなって立ち去った。

材料自体は普通の食材だが、なぜかこの順番で処理すると魔力が発生してくるのである。


ソレを利用したのが、私の十八番。魔力ポーションだ。


ぐつぐつと煮込み、変な匂いがたちこめ始める。

これは、完成した時の香りだ。いつもならここで終わりだけど、今回は最後に一手間加える。


「ヨシ、出来た!!」


出来上がったソレを小皿に取り、薄めてから口に含む。

体を流れる感覚が薄まり、効果がちゃんと出ている事が分かる。


「ね、ねぇ美乃ちん、ソレ……本当に飲みもの?なんかぐつぐつしてるよ……!?」


私がソレを作るところを後ろから見ていた桃音先輩がドン引きしている。


まあそれもしょうがないだろう。傍目から見ると、赤くてぐつぐつと煮えたぎる変な匂いのする液体でしかないのだ。私は慣れているから気にならないが、普通はこれをみて飲み物と思えるほうが異常なのである。


「大丈夫、ちゃんと効果はあるから!」


私はソレをコップに注ぎ、居間にいる渚ちゃんの元へ向かった。


「渚ちゃん、これ飲んでみて!名付けて『魔力ポーションりばーす』!」


渚ちゃんはコップを見て戦慄した表情を浮かべた。

恐る恐る顔に近づけ、匂いを嗅いで顔をしかめた。


「これ……大丈夫なの?毒入ってるよね?さっきのスイセンだよね?」


「一般的には毒だけど、私の天才的な調合なら大丈夫!」


渚ちゃんは私を訝しげに見ていたが、意を決してグイッと飲み干した。

そして飲み干した瞬間、彼女はぐらついてぶっ倒れた。

咄嗟に近くにいた桃音先輩が受け止める。

「なぎさっち!?美乃ちん、さすがにこれはマズいのでは?」


「大丈夫!ただの魔力欠乏症だよ!一気に飲んだからそうなっただけで大丈夫」


渚ちゃんは身体を起こし桃音先輩から離れて私の方に向き直る。

「体の力、一気に抜けたわ……魔力がないの?今の私は」


私は親指を立てて答える。


「うん!今ので二日くらいは魔力が回復しないよ。そして~」


私はオーバーラップを使用して、亜空間から材料を一部見せる。


次の瞬間、材料が一瞬にしてビンに入ったポーションになった。


「!?」


桃音先輩も、渚ちゃんも驚いている。

これは私のオーバーラップの能力の一つ、『整理整頓』である。

この能力は「空き箱」のような入れ物と小さなものが亜空間にある時、この能力を使うと亜空間内で空き箱の中に小さなものを入れられる。

そして、なんとビックリこの能力で調理までできるのである。

卵を入れておけばいつでもゆで卵に出来る。

卵を、「ゆで卵」として取り出せばいいだけなのだ。

これを利用して「皮を剥いで炒めて煮てつぶして混ぜた煮汁をビン詰めした物」として取り出すとこんな事になる。この前知った。便利である。

ただし、自身が工程を把握している必要があるので、自分で作った事がないと難しい。


「同じポーションを一年分!これを毎日飲むといいよ」


私はポーションを箱詰めして取り出し、渚ちゃんに渡す……つもりだったが、

彼女に持たせてみたところすぐに体勢を崩して落としそうになったので、一旦やめた。

私が毎日渡せばいいと言う結論になった。


渚ちゃんは十年近く監禁されていたため、体が弱いそうだ。

彼女の体調はくるみ先輩達に任せることにしよう。


「ありがとう、美乃。これで私は人を殺さずに歩けるんだね。毎日飲むよ」


私の「魔力ポーションりばーす」により渚ちゃんの魔法は封じ込められたといって過言ではない。彼女はもう人殺しなんかではないのだ。


「渚ちゃんはこのあとどうなるの?施設に戻されたりしない?」


私は思った疑問を口にしてみたが、ソレに答えたのは別の人だった。


「その心配は要らないわ」


屋根をすり抜けて入ってきたのは、久しぶりに会った女神様…エオラスその人だった。


「皆久しぶり。無事で何よりだわ」


渚ちゃんは女神様を見て萎縮している。少し後ずさったのがいい証拠である。

女神様は渚ちゃんの方を向いて告げた。


「まず、あなたを唆した邪神デランのことなんだけど。彼は堕ちた神よ。天からは追放されたはずだった。そして、あなたが洗脳されていたことも天界は認識済み。あなたに非はないわ。まぁ、人を殺したという事実は消えないでしょうけどね」


女神様は手を振って空中に映像を映し出す。

それは、渚ちゃんによって起こった、変死に関するニュースだった。


「で、あなたの罪について、天界で話し合いがあったわけだけど。その結果。あなたは、無罪となりました」


「え……?」


渚ちゃんは絶句している。

私も驚いた。少なくとも40人は亡くなっているのだ。


「まず、あなたのせいであると証明できる人がほとんどいないから、あなたが殺人者として逮捕されることはない。そのうえ天界でもメリットが見えたのよ」


「どうして私は無罪になったんですか?」


女神様は手元に紙をいくつか召喚して見せてくる。

紙には調査記録というタイトルがついていた。


「あなたの能力で死んだ人間が生きていた場合の世界線をカルナが調べたの。結果、あなたの魔法で死んだ人間は全員【犯罪者】となって、今亡くなった人数よりはるかに多い犠牲者が出ることが分かったのよ」


「人間でいうトロッコ問題というやつに似てるわね。少数の犠牲で多くを助けるか、責任を負うことを避けて多くを見捨てるか。天界は前者を選んだというわけ。あなたがこの時代で約四十人犠牲にしたことで、未来の一万人ほどが救われた」


女神様は紙の束をぱらぱらとめくり、一枚取り出して渚ちゃんに押し付けた。


渚ちゃんは額に押し付けられた書類手に取り、目を通す。


「以下のものはカルナの名に免じて無罪とする……」


「ちなみにだけど。あなたは今日からここに住むのよ。いいわね?」


「え?」


「え!?」


渚ちゃんに続き、私も声を出してしまった。

女神様は顔をしかめながら耳をふさいだ。


恐る恐る耳から手を離しながら説明を加える。


「しょうがないじゃない、カルナが勝手に住所変更しちゃってたんだから。まったく、どうやったんだか……」


「でも私、学生じゃないよ?学生寮に住むのは……」


「バレなきゃいいんじゃない?」


女神様はあっけらかんと言い放つが、女神様がそんなこと言って大丈夫なのか。


「お生憎さま。もうバレてるのよねぇ」


廊下の方からそんな声かした。

視線を向けると、そこにはこの学校の生徒会長様……美桜先輩がいた。


つかつかと歩いてきて小夜ちゃんの隣に腰かける。


「お疲れ様。体調はどう?魔法どうなったの?」


小夜ちゃんがかいつまんで説明する。


美桜先輩は頷きながら話を聞き、少し考え込んでから顔をあげた。


「事情は理解したけど、学生じゃないとここには住めないと思うわよ……あれ、いや待って?そういえば」


美桜先輩は鞄から分厚いリングファイルを出してパラパラとめくり始めた。何かの資料だろうか?


突然美桜先輩の手が止まり、そのページを取り出した。そしてテーブルの上に置く。


「この建物、書類上で見ると学校は権利手放してたわね。教師陣も把握してないみたいだったけど」


書類に目を落とすと、確かに学生寮を譲渡する旨が記載されていた。その捺印は先代校長のものだった。生徒手帳に歴代校長の名前は記載されてるので見覚えがあった。


「学生寮ではなく、単に入居者が学生しか来ないってだけらしいから学生じゃなくても住めるみたいね」


つまり、渚ちゃんがここに住むことにはなんの問題もないようだ。


美桜先輩はおもむろに書類をファイルに戻し鞄にしまうと今度は女神のいる方を見た。


「私は四十崎美桜。で、あなたは誰?天界とか言ってたけど」


名前を聞いて女神の表情が少しこわばる。


「四十崎?あなたがそうなのね……。私はエオラス。魔法神よ」


女神は名乗り返したあと…ハッとした表情を浮かべた。そして恐る恐るといった様子で口を開く。


「……あなた、私が見えるの?魔力を持たないのに」


美桜先輩はキョトンとした様子で答える。


「えっ見えてないわよ?ただ、声が聞こえるから場所は分かるわ」


私たちFクラスのメンバーは魔力を持っている。

忘れていたが、女神様は魔力を持っていないと見えないのだ。

それでも声は聞こえるようだけど。


「あなた達Fクラスは魔法を持ち、そして女神ね……なるほど?」


美桜先輩は納得した様子で一人頷いていた。


「非日常なのは構わないけど、迷惑にならないようにしてね、皆。それじゃ」


それだけ言い残して美桜先輩は立ち去ろうとした。


「待ちなさい四十崎さん。あなたに渡すものがあるのよ」


女神様に声をかけられた美桜先輩は振り向いた。

その手元に光るものが飛んでいった。女神様がなにかを投げたのだが……。


「指輪?」


美桜先輩は受け取ったそれを暫し見つめた。

キレイな銅色の指輪である。


「今後、なにか不吉なことがありそうなときはそれを右手の人差し指につけなさい」


「へぇ……ありがとう。もらっとくわね」


お礼をいって今度こそ先輩は帰っていった。


「絶対、死ぬんじゃないわよ……」


帰る美桜先輩の後ろ姿を眺めながら女神様はそんな呟きを残していたのだが、私たちは誰も知らなかった。


「さて!!なぎなぎもここに住むわけだから、歓迎会だ!!」


桃音先輩が唐突にそんなことを宣言した。

わざわざ反論する人もあまりいないので桃音先輩の宣言はほぼ実行される。


小夜ちゃんがため息をついた。


「……それじゃ、みんなで買い出しに行こうか」


「よし!肉買おう!!」


「無駄遣いは控えてね……?」


「走らないで~!」


商店街に向かう先輩方の背中を見送り、私は空を見た。


あの日と違い、星は見えない。


それでも、新しい仲間を加えた新しい生活にワクワクしながら、今夜は楽しもうと心に決めた。

最初のお話は、これでおしまい。

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