19話 少女、守られる
激しい爆発音に思わず目を閉じていた私だが、不思議と痛みなどは感じなかった。
「なんだこれは?」
小夜ちゃんの声が聞こえてきたので、私は目を開けた。
驚くことに、あんな爆発があった割には建物が倒壊するといったことはなかった。しかし玄関から廊下にかけて壁に大きなヒビが入っている。
そのあとすぐに私の周囲を囲うように虹色の膜が張られている事に気づく。
周りを見渡すとこの場にいたほぼ全員に同じ事が発生していた。
美桜先輩は奥の台所まで吹っ飛んで倒れている。
なぜか虹の膜が見当たらない。
『はははっ!どうだったかな、ミオよ?正面戦闘では分が悪いので、少し小細工をさせてもらった』
どこからともなく男の声がした。
美桜先輩は倒れて目を閉じたまま動かない。
息もしていないようで、胸元も上下していない。
その時だった。
ヴォン、という耳障りな音とともに、再び男が現れた。
「あとは君たちを殺すだけだ。今ならトクベツに、辞世の句を聞いてやろう」
「……そうか。最後に聞かせろ。お前は誰だ?」
小夜ちゃんが美桜先輩から視線をはずし、男を見て苦しそうに声をしぼりだす。
魔力濃度が爆発と同時に、バカみたいに上がったのでさすがに耐えきれなかったのだろう。
「私の名は、デラン。邪神デランだ」
「デラン、私たちを殺し、何をしようとしてたんだ?」
なぜか過去形で話す小夜ちゃん。
「エオラス・マユを殺し、カルナ・フタスを殺し、そして最後にネルフィス・フォーティを殺す。そしてこの世界をわがものにするのだ」
指揮者のように両腕を持ち上げ、空を仰ぎみる仕草をする男。
その瞬間。
「…………は?」
男の首が宙に舞った。
彼の後ろ……玄関を出た門のあたりに彼女はいた。
小夜ちゃんの愛剣を持って。
「爆発ごときで、私が死ぬとでも思った?」
首だけになった男だが、腐っても神だからか即死はせずにいる。彼女……美桜先輩の声を聞いて動揺している。
「何故だ!結界も加護も何もないお前が、あの爆発を受けておきながら何故生きている!?」
「結界も加護も要らないわ。身を守るのなんて身体で十分」
そう言って彼女は肩をぐるぐる回した。
「そんなバカな……至近距離での爆発だぞ?」
男の声に怯えの色を感じる。
まぁ確かに、人間が至近距離で爆発食らってピンピンしてたら怖くもなるよな。
「そんなことより……あなたしぶといのね。頭と身体がお別れしてるのに」
「か、神は不滅だ。仮初めの身体が壊れたところで何でもないのさ。……ミオ、いずれ必ず殺してやるから首を洗って待っていろ」
そう言い残して男の体はチリになった。
どうも今の体は偽物だったらしい。
少しの間、静寂がその場を支配した。
◆
「それで、小夜?ぜーんぶ話してくれるわよね?」
「ああ、もちろんだ」
邪神を撃退してしばらく経ち、すでに直った建物の中で私たちは再び会議を開いていた。
私たちは全員がそれぞれ話をした。
魔法を持っていること、渚ちゃんに殺されかけたこと、男が黒幕で邪神だったこと。
彼女は大層驚いていたが、妙にすんなり納得してくれた。
「昔から妙に達観してたりしたけど、納得だわ」
美桜先輩はうんうんと頷いて一人納得していた。
その時、客間の扉が開かれた。
「これ、どういう状況?」
入ってきたのは、黒い布を目元に巻き付けた渚ちゃんだ。その布には魔方陣が書かれている。
「その布には暗闇の魔法をかけてある。君の能力は視力がないと発動しないようだからな。そうしないと話も安全にできないから理解してくれ」
「それはいいんだけど……ここ、どこ?何で私外にいるの?」
まさか。
「あなたたちは、誰?」




