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18話 少女、戦う

目の前におり立って剣を構える男からは、底知れない魔力を感じた。

その魔力が溢れてきただけで、魔力酔いしてしまいそうになったほどである。


「うっ……なにこれ」


「禍々しい魔力だぁ……」


くるみ先輩は頭を抑えてうずくまってしまった。

気づけば舞先輩や夢依先輩も倒れている。

この人数を同時に体調不良に陥らせるほどの魔力を放つとは……。


私は小夜ちゃんに聞いてみる。


「一体なんなの、あの人?」


「分からないが……美乃、この魔力濃度でも大丈夫なのか?」


私はガッツポーズした。

私が合成していたエナジードリンクは、魔力回復効果を持っている。

そんな劇薬のような物を、毎日飲んでいたのだ。

ちょっと魔力が濃くなった程度じゃ私には効かない。今の魔力濃度からすれば、あと十倍ぐらいになっても耐えられる。


「これはこれは、正直君達の事を舐めていたよ。この魔力濃度でも動けるものがいようとは」


「……渚も動けなくなっているみたいだがいいのか?お前の仲間だろう?」


男は玄関の方に振り返り、足元に倒れている渚ちゃんを一瞥して……剣を振り上げた。


「この子はもう少し役に立つと思ったが、もういらないさ。遅かれ早かれ始末するつもりだった」


彼は無慈悲にもそのまま剣を振り下ろす。


しかし、そのタイミングで、偶然にも第三者により玄関が開かれる。


「お邪魔するわねー、なんか騒音の苦情が来て……って!うわ!?」


玄関を開いたその人がみたのは、自分の方を向いたまま剣を振り下ろす人物だ。

そりゃ当然驚くだろう。


慣れ親しんだ技術が反射的にでるくらいには。


「……ん?」


それはいつの間にか外に吹っ飛ばされた、男の呟いた言葉だ。

彼は、渚ちゃんを切ろうとしたら偶然玄関が開いて、入ってきた少女にいきなり投げ飛ばされたのである。


「小夜、これは一体どういうこと?この少女どうしたの?この男誰よ?」


入ってきた第三者……四十崎美桜先輩が足元の少女を見て、男を見てそういった。

小夜ちゃんがほっとした顔で、美桜先輩に話しかける。


「すまない、説明は後でするから、今は何も言わず手伝ってくれ。……彼は、そこの少女を傷つけた。その男を捕縛する」


「ん、了解。佐倉さん、ソレ貸して?ぽいって投げて」

美桜先輩は桃音先輩の握っているナイフを指差して示す。

桃音先輩は少し前魔力に当てられてぐったりしていたが声はしっかり聞こえているらしく、ソフトボールのようにぽいっと軽く投げた。

美桜先輩はソレを手に取り、数回振る。そして玄関の方に向き直り、外に投げ飛ばした男を正面に捉える。


男は起き上がって服をはたきつつ楽しそうに笑った。


「はは、なるほど、君がミオか!確かにこれは正面戦闘は分が悪いだろうね」


彼の言葉に美桜先輩は少し眉をひそめた。


「私の事を誰かに聞いてるのね。だったら、大人しく捕まりなさい!」


美桜先輩は両手を広げてから軽く左にステップし、身を低くしながら右上へと流れるように体を動かし、首へと迫る。


「……むっ!?」


美桜先輩のナイフが、的確に左肩(・・)をえぐった。


……左肩?


「どういうことだい?……キミは明らかに首を狙っていたはずだが」


私もそう思った。美桜先輩の動きは明らかに首に行くはずで。


「そういう質問にペラペラ答えるのは負けフラグよ。教えるわけないでしょう?」


美桜先輩は同じような動きで何度か切りかかっている。

左肩にいくと思ったら脇腹を、右肩にいくと思ったら左手首を、といった具合に不思議な攻撃だった。


私はそのうちに、ひっそりと渚ちゃんを回収した。


「すっご……」


思わず口をついて感嘆の声を漏らしたのは、顔を上げていた桃音先輩だ。

その意見には激しく同意するよ。

私にとって不思議な事がもう一つあった。


美桜先輩、なんでこの魔力濃度の中で動けるんですか……?


魔力は普通の人間に対しては非常に強い毒である。

私の作るエナジードリンク……魔力回復の効果を持つアレは普通の人が飲むと体調を崩すし、魔力のある場所では普通の人間は不調をきたしやすくなる。それは濃度を増すと魔法を持っている私達でさえ耐え難い不調を与える。

現に今この場にいる人の半数が先ほど彼が放った魔力により、いっせいに体調を崩している。


なのにだ。


「右肩、左手首、右耳、右手首、右腕、脇腹……」


美桜先輩は言葉を混ぜることで、さらにでたらめな攻撃をしていた。

「右肩」と言っているのにナイフは右脇腹をえぐる軌道を描くのに、実際に切られているのは左脇腹だ。


「ぐぅうぅぅ!なんだお前、何故動ける?本当に人間か!?実は同類じゃないのか?!」


「その言い方だと、まるで自分は人間じゃないみたいな言葉ね」


美桜先輩の言葉に男は顔を歪ませた。どうも図星らしい。


「あと、なぜ動けるかっていったわね?逆に、どうして私が動けないと思うのかしら?確かに身体能力は普段の6割くらいしか出せないけど、6割で動けば普通に動けるわよ」


訳が分からないよ。


「訳分からない事をいいおって!仕方がない……世界にはびこる怨嗟よ。羨望に呪われしその左手で、わが前の敵を縛れ!」


彼の詠唱が終わった直後、彼の周囲から緑色の手が沢山現れた。

彼が指を振り、美桜先輩を指差した。その瞬間緑の手はいっせいに彼女に殺到する。


「四十崎流奥義……八咫烏(やたがらす)!!」


美桜先輩の短剣が空を踊る。次の瞬間、

殺到したはずの緑色の手は全てが粉々と言っていいレベルで切り捨てられていた。


「ば、ばかな……」


彼は驚きに目を見開いている。いや、彼だけではない。

私も小夜ちゃんも、正直驚いていた。160つもあった手を全て一瞬で切り刻んでいたのだ。


「無駄な抵抗はやめなさい。命までは取るつもりないから」


「た、頼む、見逃してくれ……この通りだ」


彼は警察に投降する犯罪者のように、手を上げた。


「じゃあ、縛らせてもらうわ」


彼女は肩にかけていたウエストポーチから手錠を取り出した。

なんでそんなの持ち歩いているのか非常に興味があるが、ここは我慢だ。


彼女が彼に手錠をかけた瞬間、……笑ったように見えた。


「最後に一つ、聞きたいことがある。……私のように激しく抵抗していた者が、突然投降するのは、どんな時だと思う?」


「え?そりゃ不利な事を悟ったから?」


彼女の答えを聞いて、彼はにやりと笑う。

そして、彼の体が発光し始めた。黄色く、白く、赤く……まるで、爆発するような色に。


「それはな……勝利を確信したときさ。人形爆弾(ドールブラスト)


彼の体はみるみる膨らみ……そして爆発した。


最後に見た光は、虹色だった。

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