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17話 少女、交錯する

17話 少女、思案する


目を覚まして最初に目に入ったのは、だだっ広く広がる黒い空だった。

次にあたりを見渡して見ると、どこまでも遠くに地平線が見えた。

構造物と呼べるものが一切ない、平らな世界だった。

まるで某クラフトゲームのスーパーフラットみたいな世界である、と思った。


「ここは?……あ、渚ちゃんの能力で飛んだ世界かな」


記憶はちゃんとある。

私は玄関を開けて入ってきた渚ちゃんと目が合い、そこで魔法を使われた。

それにより私は別の世界へとやってきた。そういう事なんだろうけど、少し納得がいかない。


「制御できないんじゃなかったのかよ~……あ、でもくるみ先輩も『暴発するけど好きに発動することもできる』って言ってたな」


つまり、あの規則性みたいなのはあくまでフェイクだったのかもしれない。

後二時間は大丈夫、と思わせる事で確実に当てる作戦だと考えるとふに落ちる。

まあ、巻き込まれてしまった物はしょうがないのでその辺は一旦おいておく事にする。

このあとどうするかを考えるのが先だ。


確かコチラの世界に飛ばされたあと、何もない世界だけど、現実でもあるから餓死するんだっけな。で、死ぬと元の世界の、元の時間に戻る。だから傍目には突然死に見えると。

確かそんな感じの能力だったはず。


「あ。このまま帰ればいいだけじゃん。ふふ、私とて、魔法を持つ少女の一人なんだよ」


――《接続(オーバーラップ)!》


この世界を亜空間とつなぎ、亜空間を私の部屋につなげてみる。

歪んでずれていた一本の切れ目が繋がり、真っ直ぐになるような、手ごたえを感じた。

それをハッキリ感じた私は、躊躇なく私の世界へ飛び込んだ。



「どういうことだ」


「……何が?」


小夜の問いかけに、渚は首をかしげた。

小夜は強くにらみつけるようにして怒りを隠して問いかける。


「何故、魔法が使える?二時間のクールタイムがあるんじゃないのか」


渚は心底楽しそうに笑って応えた。


「ああ!それはフェイクだよ。敢えて任意発動はせず、暴発だけしてたんだ。上手くいったみたいでよかったよ!都合よく誤解して、油断してくれたもんね」


人をバカにしたようなその態度に小夜は唇を噛み締めた。

そんな時、後ろにいた桃音が小夜の抱えている美乃を見て叫んだ。


「小夜ちん!こゆみんが起きたぞ!?」



目を覚ます。どうやら無事に帰ってこられたようだ。

向こうの世界に跳んでいたのは意識だけだったからか、接続先を体以外にしたからか分からないが一時的に昏睡していたらしい。


「美乃!?大丈夫なのか?」


私は身体を起こして軽くひねったりして無事である事を伝えた。

そんな私を見て信じられない、と言わんばかりに目を開いている渚ちゃんを見つけた。


「どう、して……死んだんじゃ?」


「あいにくと、私の魔法の前では意味がないみたいだねぇ」


私は指を振ってちょっと強気な発言をしてみた。

小夜ちゃんの隣へ行き、気づいた事を報告する。


「渚ちゃんの魔法、くるみ先輩と同様に暴発するけど任意発動もできるらしいね」


「ああ、まんまと騙された。話し合うのも、危険かもしれない……」


「大丈夫だよ。彼女の魔法は、きっと避けられる」

私は彼女に魔法をかけられた時に、何故か確信めいたものを感じていた。

彼女の魔法は、私と目が合った瞬間に発動した。

思えば、対象を選ぶ必要がある効果を持つ魔法を持つ人は、必ず目を合わせている。

くるみ先輩も舞先輩も夢依先輩もだ。


私は後ろにいる彩月先輩に声をかける。

「先輩、未来予知できるんですよね?渚ちゃんが魔法を使うタイミングを視て、目を閉じるよう指示してください」


そう声をかけるも、小夜ちゃんが待ったをかけた。

「いや、その必要はない。目が見えなければいいんだろう?……光を奪え、《黒の牢獄》」


短いその詠唱により魔法陣が発生する。え、なにこれ。


「私はあらゆる並行世界の私を体験してきた。コレは『異世界の管理者として君臨している私』の持つスキルの一つだ」


「!?……目が、見えない?」


目を押さえて混乱する渚ちゃん。どうやら小夜ちゃんの魔法で目が見えなくなったようだ。

私の予想が合っていれば、彼女の能力はコレで封じれたはずだ。


その予想はすぐに判明した。


彼女の目が一瞬光ったが、何も発生しなかったのだ。

「やっぱりそうだね。これでキミは私達を殺せないよ」


私はドヤ顔を決めてやった。相手には見えていないだろうが、気分的な問題である。

彼女は歯を食いしばってコチラを睨みつけてくる。


「!……、殺す手段は魔法だけじゃない!!」


彼女が腕を振ると、服の袖の中からナイフが手元に出現した。

そのナイフをコチラ目がけて放り投げてきた。


目が見えないから適当に投げたんだろうが、不運にもナイフは桃音先輩に向かって真っ直ぐ飛んでいった。


しかし、桃音先輩に向かって飛んだのは、不幸中の幸いでもあった。


「ビックリしたぁ」


彼女は人差し指と親指でナイフを挟んで止めていたのである。

桃音先輩はFPS界隈でもかなり有名なプレイヤーで、その卓越した防御テクニックは超人的なんだそうな。


「残念でしたぁ~投げナイフも効かなかったね!さて、どうやって殺すのかな?かな?」


彼女は桃音先輩の言葉を聞いて目を見開いた。

そりゃそうだ、普通に考えてこの狭い室内で、投げナイフが外れるとは考えにくいにも拘らず、効かなかったのだから。


彼女はもう一本のナイフを取り出し、コチラに切りかかってくる。

目が見えていないはずなのに、彼女のナイフは正確に私達の喉元を切ろうと迫る。


「お前達さえ、消えれば……っ!!消えろ!消えてくれ!!」


小夜ちゃんは見切ってかわし、桃音先輩は奪ったナイフで迎撃している。

彼女達二人が食い止める事で私を含めた後ろ側のメンバーにはその凶刃が届くことはない。

うっとうしいと言わんばかりの勢いでナイフがふり回されているが、彼女達は難なくしのいでいた。


「私のために死ね!!うわぁぁぁぁああああ」


彼女が叫ぶ。それと同時に、私は嫌な予感がした。

彼女の周りに黒いモヤのようなものが見え始めた。

まるでアニメキャラがまとうオーラのようなものが彼女を覆っている。

しかしその色は真っ黒だった。


「これは、まさか?狂化か……?何故渚がこんなことに」


小夜ちゃんは何か心当たりがあるようだった。

渚ちゃんが再びナイフを振りかぶって突進してくる。

しかしその早さは先ほどとは比べ物にならないほど早くなっていた。


「うぁっと?!ちょっと、この子一気に強くなったぞ!小夜ちん何これ?!」


「原因は分からんが凶暴化している!今の彼女には理性がない!」


桃音先輩はどうするんだー!と頭を抱えるようなしぐさをしながら回避し続けている。

ナイフによる迎撃は諦めたようだが、回避は全然出来ている。


「お前達が、消えれば世界が戻るんだ!!魔法のなかった、あの世界を返せ!!」


小夜ちゃんの頬をナイフがかすり、血が出る。


「そりゃ、死ねばいいと思ったさ!!あんな親は消えてくれと願いもした!!」


彼女は目をかっぴらいてコチラに怒鳴りつけてきた。


「どうして、無差別に人を殺すような能力に目覚めたんだよ?!私が殺したいのは、嫌なやつだけだったのにぃぃぃ!!」


だんだんと動きが早くなっていく。同時に小夜ちゃんにも切り傷が目立つようになってきた。

なお、桃音先輩は未だに無傷でかわし続けている。


「お前らが皆消えれば魔法は消えるんだろ!?だから、私のために死んでくれよぉぉぉ!!」


「何を言ってるんだ!?私達を殺しても、キミの魔法は消えない!!」


「嘘だ嘘だ嘘だ!!アイツは確かに言ったんだ!!『魔法はエオラス・マユのチカラを消せば消える』って!!『オーバーラップズを殺せば魔法はなくなる』って!!」


小夜ちゃんが反論しても、彼女は聞く耳を持たない。

そして今、彼女が何故私達を殺そうとするのか、その理由の一端が分かった。


彼女は、自身の魔法を消したがっている。


私がそれに気づいたと同時に、ソレはやってきた。


『ああそうさ。ウソなんかじゃないとも。そこの全員が死ねば、エオラスは守護の反動で死ぬ。彼女が死ねば、魔法は消える。簡単だろう?』

「!?」


天井をすり抜けて、一人の男が降り立った。

黒いシルクハットに、黒いタキシードと英国紳士のような格好をしている。

不気味な事に、その顔は見えなかった。


『残念だね、オーバーラップズのみなさん。私がきたのであなた方の命はここで終わるよ』


彼はどこからともなく、剣を取り出し、構えた。

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