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14話 少女、引っ越す


「よいしょ、っと」


タンスに手をつき、オーバーラップを発動する。タンスはするすると虚空に吸い込まれ、部屋の中からは完全に消え去った。

といっても消滅したわけではない。虚空の中に収納しただけだ。

私のオーバーラップはものを収納するための異空間への接続で、その中に私はものを詰め込む事が出来る。


私は少し前から部屋にあるもの全てにこの能力を使用し、片っ端から収納した。

広くなった部屋を見渡して、深く息をつく。


「よし!これで全部しまい終わった!」


空っぽになった部屋は、私の部屋。

何を隠そう、これから引越しをするのである。



引越し先…学生寮《要塞》に戻って私はすぐに部屋の中のものをどかし、床をほうきで掃いて一通りきれいにしてから自宅から持ってきた家具を全て取りだす。幸い部屋の大きさや窓の位置が同じようで、ほとんど同じ置き方が出来た。


「こんなもんかなぁ」


全作業が終わり、落ち着いた感じの私の部屋が戻ってきた。


「あ、こゆみん掃除終わったー?」


換気のために開けっぱなしにしていた扉からひょっこりと里花先輩が顔を覗かせる。

彼女の服はいつもの部屋着ではなく、パーカにホットパンツという余所行きの格好をしていた。


「終わったよー!先輩出かけるの?」


里花先輩は首を横に振った。


「お客さんが来ててね。こゆみんも少し着替えてきて」


珍しいな、学生寮にお客様が来るなんて。一瞬生徒会長かと思ったが、彼女は小夜ちゃんと仲良しだからわざわざそこまでしないだろう。


「わかった、すぐに向かうね!……あの、出ていってもらえると…」


「お気になさらず~」


「ダメだよ!!!」


里花先輩は手を振って笑いながらもがっつり見ている。

無理やり部屋から叩きだしたあと、ゆっくり着替えて一階へと向かった。



一階に降りた私に、階段が見える位置に座っていた桃音先輩が気づいてこっちを見た。


「お、こゆみん!お引越しお疲れっ」


「おかげさまですぐ終わりました!それで…そちらの方がお客様ですね!私は恋雲美乃です!」


座布団に丁寧に正座しているお客様に声をかける。彼女は背中に届くほど長くて赤い髪に、中心あたりをぼさぼさに結んだヘアをしている。

背が高いからか正座がとても様になっている。しかし、最も目を惹くのはその顔だ。

整っている顔立ちは、腹立つどころか声が出ないほどである。そして両目の色が違っている。左目が黄色なのに対し、右は赤だ。いわゆるオッドアイ。カラコンだろうか。


「ふふっ、これはカラーコンタクトじゃないですよ」


マジマジと眺めていると、心を読んだような事を言われた。

まあ、きっと言われ慣れていて予想がついただけなんだろう。


落ち着きのない私を見かねて小夜ちゃんが声をかけてきた。


「美乃、とりあえず座ってくれ。彼女について色々話をしたいから、皆に集まってもらったんだ」


「了解でっす」


適当に返事をして近くの座布団に座る。


それを見届けてから小夜ちゃんが切り出した。


「集まってくれてありがとう。全員に召集をかけた事で薄々気づいているかもしれないが、彼女は新しい入居者となる人だ。時園さん、皆に自己紹介を」


入居者?て事は彼女はFクラス行きになったのか?


「はい。時園彩月(ときぞのさつき)です。昨日、学校に転校してきました。Fクラス行きを指示されていたので、本日引越しにきました」


ビックリした。転校時点でFクラス行きを命じられているなんて一般的な生徒からして見れば死の宣告に等しい行為だぞ。


…ん?一般的な生徒?


改めて彼女の姿を見る。…一般的ではないような気がしないでもない。髪色が赤なのは問題ない。我が高校は染髪自由なので皆思い思いの髪色をしており、ファンタジーの世界みたいになっている。ちなみに魔法を得ると髪が変色することもある。……しかし、オッドアイ自体は存在しない。しかもカラコンでない、つまり肉体的にオッドアイなのだ。この点でいえば一般的な生徒とは言いがたい。


「あれ、でもたしかFクラスって…なんか色々事情があるんじゃなかったっけ?」


Fクラスの私ですら忘れかけていたが、そもそもこのクラスは問題時の集まりなのだ。


「そうですね、そう聞いています。私自身は…そうですね…学校内に敵が多い、とでも言っときましょうか。私、人付き合いが苦手でして」


「隠さなくていい、時園さん」


小夜ちゃんにそう言われて時園さんはハッとしてそちらを見る。

よく見ると、小夜ちゃんの右目がうっすらと光を帯びているような…?


「これは『鑑定眼』。視認した対象の任意の情報を引き出す魔眼だ。私はこれを任意に発動できる」


説明を聞いてみくも先輩が「私の上位互換…目に負けるなんて…」とうなだれていた。スルーした。


「君のその左目…魔眼だな?いつでも発動できる未来視の力。だな?」


時園さんは目を閉じ呆れたようにため息をついて答える。


「はぁ。聞いてた通り、化け物ですね、泣森さんは……さすが夜雲さんの血縁者」


「小夜でいい。…詳しく教えてくれ。関係性までは分からないからな」


「分かりました。口封じもされていませんしね」



そうして時園さんはどうして自分がこの学校に来たのか、Fクラスに来たのかを語ってくれた。


小夜ちゃんは予想していたのか、終始冷静に聞いていた。

ただ、最後の方に昨日女神と話題に上がっていた疫病神な少女……星取渚の名前が出てきたことに驚いていた。


「そうか。君に力を与えた時空神カルナと言う存在は、渚の動機に着眼しているわけか…」


それはなんとなく思っていたことだが、誰も突っ込まなかった部分だ。

彼女がこちらに来ていると言う話は来たが、「どうして来たのか」という点については分かっていないのだ。


みくも先輩が自問自答するように考察している。

「女神は10年前に魔法を与えてから、ずっと気づかず放置してた。その間、その渚という少女は監禁されていたが、何故か今年になって出てきたのよね?それって、やろうと思えばいつでも出られたって事で…それでも出る必要はないというか、出たくなかったから閉じこもっていた?そして、今年に限って出たくなったから外に出てきた…と?」


みくも先輩の考察がアツイ。そう言えばこの人そういうの大好きそうだもんな…。


考察に聞き入っていた小夜ちゃんが何かに気づいてハッとした。

珍しく慌てたような顔をしている。


「もしかしたら……渚とやらは、私達を…殺そうと、しているんじゃないか?」


昼間の和室が、一気に凍えた気がした。

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