11話 少女、呆れる
女神が新入生?
小夜ちゃんの後ろにいた夜雲さんがあきれたように説明してくれる。
「さっきの魔法はこのバカ女神がやらかしたものでな。魔物が普段より多く、非常に危なかった」
「上の指示だもの、正当な行為よ!!」
そう主張する女神に夜雲さんはつかつかと歩み寄り……
ゴッッッ
「~っ!!ーーっ!」
およそ人の身から鳴るとは思えない鈍い音でげんこつが落とされた。
頭を押さえてごろごろ悶絶する女神。
「反省しろ、反省を」
私はあわれみの視線を女神に向ける。
女神様は少しは悪く思っているようで、そっと目をそらす。
「……今回はもういい。他の子はともかく、お前の魔法は規模がでかいから基本的に使うなよ」
「へーい」
夜雲さんの注意に対して雑に返事した女神。
夜雲さんは訝しげな目を向けてからポータルへと消えていった。そこには一人取り残された女神が……。あ、もともとここに来る予定だったらしいから取り残されたわけではないのか。
「……とりあえずご飯ね!」
気を取り直したのか、元気よく宣言する女神。
「えっ食べるの?」
素で返事したくるみ先輩。
そりゃそうだね、私たちの夜ご飯担当のくるみ先輩は、基本ぴったり人数分作り上げるらしいので、女神様と……あ。
「私のもないんですよね……?」
「三冬の分、ないの?」
「「三冬ちゃんのはあるよ」」
里花先輩とくるみ先輩がハモった。三冬ちゃんが来たときくるみ先輩が台所に向かっていたのは、増やしていたんだろうね。ちゃっかり数に含まれていた。里花先輩は知らないだろうから、たぶん自分の分から分けるつもりだったんだろう。
くるみ先輩は少しだけ居心地が悪そうにしていたが、すぐに立ち直った。
「そうだ、作りおきのものでよければあるよ?ご飯も冷凍してあるのがいくつかあるし」
基本的にくるみ先輩はご飯の冷凍と、炊きたてをうまいことローテーションしているらしい。朝ご飯に出てくるのは味が落ちてしまう手前の冷凍ご飯だと言っていた。
女神様以上に、リーちゃんがほっとしていた。
献立は人数分用意されたホッケと里芋とニンジンを甘めに味付けした煮物、キュウリとカブの漬物だ。また和食中心である。嫌いでは無いんだけど、私はどちらかと言えば洋食派なので少し切ない気分に浸りながら漬物をちびちびと口へ運ぶ。
「こゆみんなにしょんぼりしてるのー?なんか『洋食食べたいな』って感じの顔してるよ?」
「私そんなに顔に出てます!?」
「うん。半分ほどテキトーに言ったけどね?素直だねーこゆみん」
すぐに首を縦に振る桃音先輩。私はどうやら考えが顔に出やすいらしい。今後はなるべく気をつけて行きたい所存です。あ、これダメなパターンだ。
「言ってくれれば材料次第で洋食も作ってあげられるよ?作れないって訳じゃないから」
会話を聞きつけたくるみ先輩が笑顔で答えてくれる。ええ、ぜひお願いします。くるみ先輩は先輩で「洋食も勉強しなきゃ…」と呟いた。
くるみ先輩は割と真面目なようで、今食卓に出てる料理も一度レシピどおりに作ってからメンバーの好みに合わせて調整していった産物らしい。私も意見を聞かれたけど、正直かなり美味しいので「このままで」と伝えておいた。
料理に関する話題に花が咲いた食事も終わり、くるみ先輩を中心に後片付けをしていく。これに関しては担当などは決まっておらず、別に手伝う手伝わないは個人の自由で気が向いたら手伝う、というスタンスで全然いいらしい。というのも、里花先輩が手伝いをするため、正直お手伝いがそんなに人数いても仕方ない、という点が大きい。
里花先輩のかなり効率の良いお手伝いもあり、片付けはすぐに終わる。
いつの間にやら用意されていた温かい緑茶を飲みながらくつろぎタイムだ。
「私のこと、伝えた方が良いわよね?何を言えばいいのか正直迷うから、気になる点をあなたがたから聞いてもらえるかしら」
女神はそんな事を口にした。
確かにまあ、うやむやにするのは良くない。そして、ことがことだけに説明するにはそれなりに膨大な情報量になるに違いない。こちらとしてもそんな校長先生の話みたいなものを聞くのはお断りしたいくらいなので、やはりこちらから質問して行くのが得策だろう。
「はい!一番、こゆみん!女神……様は学校に入学するの?」
「ちょっと言葉が違うわね。入学『する』じゃなくて、『入学していた』事になってるわ。それと、今の間はなによ」
出たな、女神の謎理論。この女神様の話は多分、因果関係とかそういった事に干渉した、といったところか?
それに対して小夜ちゃんが補足してくれる。
「さっきの大規模魔法、あれは『改変』の魔法でな。女神はこの世界に対して『魔力を持たない人は、自分を人間として認識する世界』にマインドコントロール、そのあとこの地区に対して『越神奏女という生徒が夢園学園へ入学していた』という風に歴史を変えたんだ」
とんでもないことしてるな、女神。そして女神はというと小夜ちゃんを見て「どうして分かるのよ……さすが化け物の妹」等と呟いている。化け物呼ばわりされてる夜雲さんマジ化け物。
「つまり、女神は人間に化けて、学園へ入学したということなのね。…神って暇なの?」
みくも先輩がさくっとまとめた。大体あっているだろう。そして、女神というのは存外暇に違いない。そもそも教室で昨日聞いた話では、暇だから地球に遊びに来たといっていたし。
「暇よ。だからあなた達の守護を担当しに来たんじゃない」
「そのまま回れ右してお帰りくださいー」
「お帰りくださいなのー」
里花先輩が軽口を叩き、三冬ちゃんは便乗した。これが女神に対する態度か。
私も人の事は言えないけどね。
「ちなみに私がいれば魔物は近くに出てこないわ。腐っても守護神だからね、今は」
「へー腐ってる自覚あるんだ!腐女神?駄女神?どっちがいい?」
にやにやと煽っていく桃音先輩。「それどっちも罵倒じゃない!!」と憤慨している女神。
この女神、あまりに威厳を感じられないから、こう、ふざけていくほうが気楽である。多分女神が本気で怒ってたらもっととんでもない事しでかすだろうし、実際はそこまで怒っているわけではないだろう。
「じゃあいいや、越神さんで統一しよっか!みんなおーけー?」
「OK!」
みんな口を揃えて承諾する。あえてバラバラにする必要もないのでね。
「質問、いい?」
これまで聞きに徹していた絢音先輩がゆっくりと挙手する。みんなが注目したことを確認して切り出す。
「女神……越神さんが魔法で世界いじって入学したのはわかった。でも気になる。この話ってそこのリー……ちゃんに聞かれていいものなの?」
女神様は何かに納得したような表情を浮かべて答える。リーちゃんに視線を向けながら答える。
「彼女はね。あなた達みたいに『自発的に使える魔法』を持つほどではないけど、私の魔力の影響受けてる子なのよ。あなた達を『異能力者』と呼ぶのなら、この子は『特異体質』レベルね」
ちゃんと説明もした、と女神。
彼女自身は、本来であれば女神の観察対象にはならない程度の影響らしい。
絢音先輩は続けて質問する。
「じゃあ、リーちゃんがFクラスに来たのも女神の計らい?」
「いや?ただの偶然よ?さっき言ったけど観察対象じゃないからね。そこのアホの子同様、入学前から決められていたみたいね」
「誰がアホの子ですかっ!!」
「美乃ちゃん、そこで怒ったら自己紹介だよ……」
「は!しまった!!」
苦笑いを浮かべたくるみ先輩がやんわりと教えてくれたが、時すでに遅し。『アホの子だという自覚がある』ということになってしまった。
「なるほど。リーちゃんと女神はそこまで密接な関係はない。けど魔法を隠す必要はない、と」
私たちにとって魔法は重要だ。隠す必要があるのかどうか、といった情報を絢音先輩が求めたのは道理と言える。
女神様は満足げに頷いた。
「もうひとつ。リーちゃんの特異体質というのは、危険はない?」
「危険ではないわ。そのうち気づくでしょうから、お楽しみってことで」
お楽しみ……あ、そういえば今朝もみくも先輩に同じこと言われた。あれは一体なんだったのか聞いておこう。
「みくも先輩、朝小夜ちゃんのこと聞いたとき同じこといってたよね?あれはなんだったの?」
「あー……そういえばうやむやになっちゃってたね」
「一足先に登校してリーテンの入寮手続きをしてたんだ」
「リーちゃんです」
「……リーちゃんの入寮手続きをしてたんだ」
リーちゃんにたしなめられて小夜ちゃんは言い直した。リーちゃんの圧力すごい。特異体質なのかもしれない。
「あの、女神様?」
リーちゃんが静かに手をあげる。
桃音先輩以外の視線が集まった。ちなみに桃音先輩は話は聞いているようだがスマホでゲームやってる。
女神様はゆっくり瞬きして続きを促す。
「三冬ちゃんにも、魔法とか特異体質あるんですか?」




