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1話 少女、夢を見る

1話 少女、夢を見る


懐かしい夢をみている。

これは、10年前、流星群の観測をした日だ……


………

……


私は夜の星空を見上げていた。

空を埋め尽くすほどの星空は、山特有の澄んだ空気によってその輝きを余すことなく地上へと運んでいる。都会ではなかなか見られない光景だ。

私は親に連れられて、山中の天体観測スポットへ来ていた。

周りを見渡すと、同じように星を見にきた家族や学生がたくさんいる。

もう一度空を見上げた時、視界の隅で星が動くのが見えた。


「あ、流れ星だ!!」


私は空を指差し、叫んだ。

周りにいた人も気づき、あちこちで感嘆の声が上がる。本日は流星群の観測日なので、もうしばらくすればその数は大きく増えるだろう。

素早く胸の前で手を組み、目を閉じて空へお願い事をする。詳しいことはわからなかったが、絵本でそんなシーンを見たことがある。ようは、見よう見まねである。


――神様。もし違う世界があるなら、繋がりがほしい。


母がそっと私の右手を握る。

どうやらさっきの願い事、口に出していたようで、ちょっと不安になったようだ。反対側の手は父が握っていて、笑いながら教えてくれた。


「流れ星にはな、3回お願いするんだぞ」


流れ星に対して三回願い事を言うべきだということを私はここで知った。今度は心のなかで二回唱えておく。もっとも、今はまだそんなに数もないので無駄かもしれなかったが。


「美乃ちゃんったらけっこう怖い物知らずなのね。親の顔が見てみたいわ」


「そりゃー、お前のことだ……あ、いや俺もか」


笑いながら父が答える。

母はちょっと抜けたところのある、穏やかな女性だ。髪は茶色できれいなロングヘアーである。

対する父は黒髪で四角いメガネをかけている。私はどちらかと言えば母に似ていた。

私はそっと二人を見上げる。


「星はたくさんいるから、一回で叶えてくれるお人よしな星もいるかも!!」


周りを見渡すと、いい感じに小さな丘を見つけた。公園の砂場ほどの小さな丘。

私は親の手をするりとほどいてその丘に駆け出した。

途中バランスを崩しかけたが、何事もなく登りきる。息を整えながら空を見上げると、また星が動いた。しかも、ひとつどころではない。

数多の星が夜空に線を引き夜空を彩り駆け抜けていく。


少し遅れて両親もやってくる。

両親も同じ空を見上げ、思わずため息をつく。ついに流星群が始まったのだ。


「綺麗……」


しみじみと母がつぶやく。それは私も激しく同感だ。都会ではまず星すらまともに見えないため、ここに来てからというものの星の綺麗さに、かなり惹き込まれていた。父は無言で空を見ていたが、きっと同じ気持ちだろう。


そこかしこに流星がきらめき、通り過ぎていくなかに、ひときわ目立つ明るい流星を見つけた。ゆっくりとした流星であった。


たくさんの流星があるのに、美乃はなぜかその流星から目が離せなくなった。

綺麗な青い光。水色の尾を引くようにして落ちていく流星。

吸い込まれるように目を惹かれ、そして不思議な感覚がした。何かに引き寄せられ、得体の知れない繋がりが発生して、まるで世界から切り離されたような……不安な感覚。不安なはずなのに、暖かくて包まれるような……

10秒程度だろうか。しばらくすれば突然眠りから覚めたかのような感覚がして、周りには先程と変わらない光景が広がっていた。

気がつけば、その手は母が握っていて心配そうに見ている。


「美乃?大丈夫?いつにもましてぼーっとしてるけど……」


流星に見とれていただけなのだが、母に心配されていた。もう一度空を見るも、あのきれいな星はもう姿を消していた。

私は心配して体調を聞いてくる母に、笑顔で「何でもないよ」とだけ伝えた。

私としてはそれで終わると思っていたが、そうは問屋が許さなかった。

父が私の手を軽く握って呟く。


「まぁ、ここまで来るのは長旅だったしな。美乃も眠いんだろう」


私としては少し違うのだが、そういうことにしておこう。寝ろと言われたら寝られなくはない程度には眠気はあるので、間違ってはいない。

そういう父は言ったそばからあくびをしていた。

つられてあくびをしながらも母が言う。


「そうかもしれないわね。ふぁぁ……それじゃ、そろそろコテージへ戻りましょう」


ここに来る途中、車の中で寝ていたため私は親ほどは眠くなかったが、特に反抗する理由もないためおとなしく手を引かれていく事にした。

戻る途中に自分の体の些細な変化に気づいた。

少し、温かい感じがする。今は冬なのでよくわかった。熱があるようなだるさは感じられないので、きっと流星を見て興奮したのだろう。

とはいえ問題があるわけじゃないから些細なことだ。意識の片隅においやり、そのまま忘れていった。


周囲に視線を振り撒きながらコテージへ向かう途中のことだった。

私たちがいるところより少し離れたところに、さっき私が上ったのと同じほどの丘があった。そこには空を見上げている子がいた。見たところ、私と同い年くらいだろう。

その落ち着いた佇まいが気になった私は、その子に話しかけてみたくなった。


「ごめんなさい、ちょっと話しかけてくる!!」


そう言って親の手を離し、丘へ向かう。

せいぜい20m程度の距離。そう遠くないのですぐにたどり着いた。それでも丘についたときには息を切らしてしまったが。息を整えて顔を上げると、ピッタリ視線が重なった。

そっと口を開いて私へ大丈夫か、と訊ねる。


「うん……大丈夫!星、見てるんだよね?」


私が来るまでと同じく、その子は空を再び見上げる。私も隣にたって空を見上げる。

そっと呟くように答えてくれる。


「……うん」


少年にしては、澄んだキレイな声をしていた。

しかし、背丈や髪型は少年のようである。


「おんなじだね!さっきのすっごいきれーな星、見た?」


私の表現に一瞬呆然とした様子だったが、すぐになんのことを言っているのか察したようだった。

そっと笑いながら答えてくれる。


「ふふっ……うん、見たよ。何か暖かい感じがした」


ひっそりと咲く花のような、落ち着いた笑顔だった。その笑顔は私の言葉によるものか、他人と話が成立することを楽しんでいるのか、私に知る由もなかった。

ゆっくりとこちらを見て、私の目を見て問いかける。


「なんだか……暖かい、よね?」


それはさっきから私も思っていたことなので素直に同意した。どうも私だけではなかったらしい。

先程親にも聞いてみたが、両親はそんなことはなかったため、私だけなのでは、と不安になるのも自然なことだった。


「美乃ちゃーん?おしゃべりもいいけど、そろそろ帰りましょうー」

少し後ろから、私を呼ぶ声がした。振り返ると、そこには母がたっていた。

聞くと、父は先にコテージへ戻り寝る準備をしているらしい。さすがにそろそろ戻らないといけないだろう。


「ごめん、もう行かなくちゃ!えっと……私は美乃!キミは?」


私はこの期に及んでようやく相手の名前を聞いていなかったことに気づいた。名前を聞くときは自分から名乗るよう言われているので、先に名乗ってから名前を聞く。


「私は小夜、泣森小夜」

「私ってことは……女の子なんだね!」


返事を聞いて、ようやく腑に落ちた。声のトーン的に少女ではないかと思っていたが、確信が持てずにいたからだ。実際少女として見ると、すこし背が高く、キレイな髪である。さよは苦笑していた。


「ばいばい、小夜ちゃん!」


私は手を振って小夜へ別れを告げて、母と共にコテージに戻る。


友達ができた。思わず笑みがこぼれる。体はまだポカポカしているが、わざわざ気にすることもない程度には心地よいものだった。私はそのまま布団をかぶり、ほどなくして私は睡魔に身を任せ、意識を手放した。


……

………


次の日、私は自宅で目が覚めたのを今でも覚えている。起きたときには警察やら両親やらがいて、大変心配された。

どうやって帰っただの、勝手に帰るなだの、根掘り葉掘り聞かれたが、私にだってわからなかった。

結局あのとき何があったのかは誰も知らないままだ。


今ならわかる。あれは「魔法」だったのだと。



次話投稿は12/29です。

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