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1話

ーーーー遠い昔の夢を見た。


まるで周りから空気を奪われたような息苦しさで目を覚ましたら、そこは辺り一面が火の海だった。

燃え盛る家屋に下敷きになっている村人や恐ろしい牙を持った獣が周囲を彷徨(うろつ)いている中、自分が生きているのは不幸中の幸いだったのだろう。

 とはいえ、危険な状況に変わりはない。僕の手足は全く言うことを聞かず、地べたを這うことでしか移動が出来なかった。


「た……ぅ……」


 助けを呼ぼうとしても喉が焼けていたのか声が出ない。代わりに激痛が襲ってくるだけだった。

 今更考えてみると、例えここで声が出ていても魔物に気付かれて僕の命はあっけなく刈り取られていただろう。でも、そんなことを考える余裕は当時の僕には存在しなかった。

 あるのは恐怖。魔物が近くにいること、辺りが火に囲まれていること、他に生きている人が見当たらないこと、その全てが怖かった。


 ……それでも前へ、前へと這いずりながら進む。

 この先に救いがあるかなんて当然わからない。ただ、このまま息が止まるのを待つなんて嫌で体が自然と動いていた。


 倒れている村人を乗り越え、崩れ落ちてきた屋根を間一髪で躱し、ひたすら火の弱いところに突き進んだ。

 それでも世界は残酷で、希望の光など一寸も見えなかった。

 意識が朦朧としていく。身体が酸素を得ようと口をパクパクと動かす。目を開けていられなくなる。

 どうやら魔物もこちらに気付いたようで、恐ろしいスピードでこちらに向かってきていた。

 

 …自然と、この一瞬だけは恐怖が無かった。

 この時、僕はただ『自分が死ぬ』という事実を目の当たりにしただけ。身体は動かず背面は猛火。襲いかかる牙はもう1メートルも無かった。


 避けることを諦め、必死に開けてきた目を瞑ろうとする。せめて痛みを感じることなく死にたいと思っていた。


 ーーその時だった。


 突然、自身を囲い込む火と共に魔物が一閃された。

 眼の前に立っていたのは巨大な剣と鎧を着た一人の男。こちらをチラリと確認してから、男は僕を見据えることなく喋り始めた。


「……よくここまで命を繋ぎ止めた。心配はいらん。少しの間眠っていればすぐ終わる」


 目がボケていてよく見えなかったが、その男は無数の魔物と対峙していた。

 鎧は傷だらけで、体から血も流していた。圧倒的な死の空気の中、それでも男はーーーー大胆不敵に笑っているようにも見えたのは幻覚だったのだろうか。



ジリリリリリリリリリ!!



………頭上から鳴る騒音を片手で止める。


「ん……今何時……」


 寝ぼけた目で、止めた目覚まし時計を確認する。

 時計は6時を示しており、いつも通りに起きることが出来たようだ。本来あまり寝坊をすることは無いのだが、昨日は”天恵の式”の準備で夜更ししてしまったため少しだけヒヤッとしてしまった。

 なにしろ天恵の式は1年に1度しか執り行われない貴重な儀式。もしもそれに遅れるようなことがあったら、僕は念願の夢への第一歩を一年先延ばしにすることになってしまう。


「とりあえずいつも通りに起きれたし、後は忘れ物しないようにゆっくり準備していけばーー」

「エドヴィル! あんた時間大丈夫かい!?」


 僕が布団から出るのとほぼ同時に、テレサ伯母さんが扉を勢いよく開けてきた。

 テレサ伯母さんは孤児になった僕を引き取ってくれた方だ。

 もう結構な年のはずなのに、それを感じさせないくらい活気に溢れている。


「大丈夫だよテレサ伯母さん。ちょっと寝不足気味ではあるけど、ちゃんと目覚ましでいつも通り起きれたーー」


 …そこまで言って僕は何か違和感を感じた。確かに目覚まし時計は毎日変わらずかけていて、時間を変えたことは無い。だからいつもの仕事に支障は無いはずなんだけど……


………()()()()()()


「……すみませんテレサ伯母さん。天恵の式の開始時間っていつでしたっけ」

「今すぐここ出なきゃ間に合わないよ! 普通大事な日に寝坊なんてするかい? 私も手伝ってやるから、ほらさっさと顔洗ってきな!」


 テレサ伯母さんに部屋から叩き出され、せっせとこの村を離れる支度を整える。

 天恵の式とは首都のアルトスで行われ、天上の神からの恩恵を被り、国公認の戦士となるための儀式だ。この儀式を受けずに戦士は名乗れず、魔術やアビリティなどを使えるようにもならない。


「荷物の準備は出来たよエドヴィル! さっさと馬車に乗り込みな!」

「わかってるよテレサ伯母さん!」


 一度戦士になった者は基本的に首都の近辺に住むか王国中を転々として暮らすこととなる。

 なので、ここを離れる前にお世話になってきた人達ヘ感謝を伝えようと思っていたのだが、そんな時間は無かった。

 ……それでも、テレサ伯母さんには一言でも言わないと気がすまなかった。


 急ぎ足のまま馬車に乗り込み、そのまま馬車が出発しようとする。

 

「テレサ伯母さん。今までありがとうございました! 有名になったらまた帰ってきます!」

「ふん、そういうのはもっと雰囲気ある時に言うんだよ! ……あっちで怠けてたらタダじゃおかないからね!」


 テレサ伯母さんの激励を受けながら馬車は出発した。少々応援とは違うような言い様ではあったけど、それが彼女らしさでもある。


僕が5歳頃に起きた故郷の惨劇で生き残ったのは僕一人だった。

 両親や知人がいなくなり本来なら悲しむ所なのだろうが、不謹慎なことに僕は違う感情が最も強かった。

 それは、あの絶望的な状況で助けてくれた一人の戦士への強い尊敬と憧れ。僕を助けた後はすぐにその場を離れたらしく、名前を知らなければ顔も知らない。

 それでも、僕はあの姿を忘れることはできなかった。

 そして、もしも僕が同じように人々を助けられたのなら、それはあの命の恩人に対しての最大へのお返しであり僕の望む姿と思い続けてきた。


目指すは首都アルトス。そこで僕は夢の第一歩を刻むのだーー!

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