5.柚子奈の友達(妹)
「柚子奈、おはよう」
「おはよう」
足が教室に踏み込んだ途端に、茶髪の女の子は挨拶してきた。彼女の声を聞いて、本を読んでいるもう一人の女の子は頭を上げて、小声でわたしに挨拶する。
「おはよう」
とわたしは応じる。
色があせた茶髪を伸ばして、制服に少しアレンジしているのがみーちゃん。彼女はクラスの中でも比較的におしゃれな子だ。彼女のフルネーム、三波みかには三つの『み』があったため、親しい人はみんな彼女をみーちゃんと呼ぶ。
一方、弥生ちゃんはいつも本を手から離さない読書家。成績もとてもいいらしくて、入学試験でわたしの次にある次席を取った。彼女は比較的に大人しい子で、聞く役を徹するほど極端的ではないものの、話題を始めるより相槌を打つ方が多い。それと、彼女は化粧をしたり、髪を染めたり、そういったことはまったくしていないが、今のままでも十分かわいいので、たまに男子に告白されることもある。
二人と知り合ったのは最近だけど、ある意味わたしの初めての友達でもある。昔小中学校で友達らしき人物もあったが、結局彼女たちはわたしの上履きをゴミ箱に放り込み、体操服に落書きをした犯人だった。動機は彼女たちが片思いしていた男子がわたしに振られたことらしい。
このことを発見した土曜日に火事の件があって、言う機会もなかったため、これはお兄ちゃんにも知らないことだ。
みーちゃんと弥生ちゃんもいい人だと知っているが、色んなことがありすぎて、わたしにはもうお兄ちゃん以外の人を信じることはできなかった。
席に腰をかけると、みーちゃんは口を開く。
「そういうはさあ、柚子奈のお兄さんって、柚子奈と似てないね」
「そうかな」
適当に相槌を打ってみると、弥生ちゃんは珍しくみーちゃんに反駁する。
「私はそうとは思わないなあ。柚子奈のお兄さんは地味に見えるけど、なんか柚子奈と同じ雰囲気がするし」
「そうかな。髪の毛の色と目の色も同じだけど、お兄さんはなんか普通の人っぽい」
「ちょっと、わたしも普通だよ」
と反論すると、さっきまで意見が食い違ったみーちゃんと弥生ちゃんも口を揃えて、そんなことないと言う。
二人の言葉に悪意を感じない。彼女たちを信じることができなくても、友達だとは思っている。
「それより、柚子奈って、本当にお兄さんと仲がいいね。いいなあ、あたしも兄が欲しくなったよ」
「いや、柚子奈たちは仲良すぎだって、普通の兄妹はそうじゃないよ。私も兄がいたけど、中学上がったらあまり喋れなかったし、昔は一緒にゲームとかしてたのになあ」
みーちゃんは羨ましげに語ると、弥生ちゃんはまた反論した。
ほかの兄妹はどうだったのかは知らないけれど、やはり傍から見てもわたしとお兄ちゃんは仲がいいみたい。今朝下駄箱に入れたラブレターの数も減ってたし、やっぱりあの時アピールして正解だった。
しかしゲームか。親と一緒に暮らした頃は毎日勉学に励んでいるため、ゲームをやったことがなかった。今はお兄ちゃんと二人暮らしになったし、ゲームをやってみてもいいかもしれない。
「どんなゲーム?」
「色々あるよ。ゾンビゲームとか、レースゲームとかもあるよ。興味があったら、明日貸してやるよ」
「ありがとう」
弥生ちゃんに感謝の言葉を告げた後、みーちゃんは新しい話題を持ち出す。
「最近池袋で通り魔があったらしい」
「そんなことあったの?」
と尋ねると、みーちゃんは答えた。
「あったよ。最近のニュースはそればっかたし」
「そうなんだ。物騒だね」
うちにはテレビがあったけれど、あまり使われていなかったため、通り魔があったなんて、まったく知らなかった。わたしとお兄ちゃんも必要のない外出は基本的にはしないが、いつよお兄ちゃんに知らせとこう。
そう思うと、ホームルームが始める前の予鈴が鳴り響いて、みーちゃんと弥生ちゃんもそれぞれの席に戻った。
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