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柚子奈の妹理論  作者: そら
第一章
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3.お兄ちゃんと放課後(妹)

 先生がどうでもいい話をペラペラと喋り出すと、わたしはぼんやりと窓を見る。すると、生徒たちが早足で駆け出して、正門方向へ向かったのが目にした。わたしは思わずお兄ちゃんの真似をして、ため息を吐く。


 ようやくうちの授業も終わり、鞄を持つと、褪色した茶髪が軽く揺れて、さっき教室に踏み出したみーちゃんは振り返ってみせた。


「柚子奈、あたしもお兄さんの顔を見てみたい」


 と宣言して、みーちゃんも正門に向かう。


 今朝調子が悪いわたしを心配した優しいお兄ちゃんは、学校まで送ってくれた。そのことが噂にされて、大事おおごとになった。登校する生徒が皆も経過する学校の正門前まで送らせたので、見られても不思議ではない。が、学園半分の生徒が大袈裟に騒がれるのは予想外だ。


 いや、違う。お兄ちゃんが付き添ってくれたことに浮かれて、つい油断しちゃっただけだ。普段のわたしなら、それくらい当然思いつく。


 噂が耳に届く前に、お兄ちゃんの迎えがくることを理由にして、みーちゃんたちの誘いを断った。そのこともまた周知されて、皆もわたしの兄を見にくることになった。実際面識がある人が多くはないけれど、かわいい一年生の兄というだけでそれなりの話題性があるらしい。


 元はと言えば、今朝のモヤモヤはとっくに解消したのに、わがままを言ってお兄ちゃんに迎えにくるとお願いしたわたしが悪い。今となっては、自分を責めても意味がない。後で反省しておくことにした。


 噂がここまで広めた以上、対処する方法は二つしかない。一つは、それ以上目立つイベントを作って、人々の注意を移り変えさせること。もう一つは、堂々とお兄ちゃんと睦み合うさまを見せつけること。 


 ちなみに、うちの学校には裏門もあるが、生徒が使用するのが禁止されていて、そこにも警備員がいるので、そこから出るのは不可能だ。通用門は正門の近くにあるので、そこにしても何の意味もない。


 その二つの案の中に、わたしが選んだのは、もちろん二つ目だ。お兄ちゃんと仲良しの姿を見かけたら、告白しにくる人数も減るし、お兄ちゃんに寄ってくるかもしれない害虫どもを追い払うこともできる。まさに一石二鳥。


 案を決めてから、そろそろ時間なので、わたしは靴を履き替えて、正門に向かう。途中に数多くの視線がこちらに集めるのを感じるが、一々気にすることはない。昔から注目されがちなので、今さらどうとも思わない。


 正門に着くと、活気のない目を持つ男の人がそこで立っていた。わたしは彼に呼びかけて、その胸に飛び込んで、ぎゅっと抱きしめる。


「お兄ちゃん」


 お兄ちゃんは数秒くらい戸惑ってから、軽く抱き返してくれた。もっと強く抱きしめてくれてもいいけれど、そういう気を遣っているところもまた彼らしくて、大切されていると感じらせる。微かに伝わってくるうちの洗濯剤の匂いも安心感を与えてくれる。


「なあ柚子奈、これは何のイベント? どうして真ん中だけ誰もいないんだ?」


 お兄ちゃんは困惑しているような声を発した。多分わたしの背中を通して、真ん中だけが空間を開けて、脇に並び立つ人の群れを見たんだろう。


「気にしなくいいんですよ。お兄ちゃん、一緒に帰りましょう」


 わたしはお兄ちゃんから離れる。もう少しこのままでいたいけれど、これ以上いたらお兄ちゃんは何があったのかを気づいてしまう。わたしのためなら我慢するが、お兄ちゃんは本当は人の視線が苦手な人だ。だから、そうなると次は迎えにくることを拒むかもしれない。

 

「まあ、柚子奈がそう言うならいいけど⋯⋯」


 お兄ちゃんは釈然としない顔をしている。だが、追及する気はないらしい。


 その後、わたしはお兄ちゃんと手を繋いで、家に帰った。

お読みいただきありがとうございます。

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