1.柚子奈とお兄ちゃんの朝(妹)
「ねえ、お父さん、お母さん、なんでわたしを見捨てたの? ねえ、どうして?」
赤い炎がメラメラと燃え上がり、白い煙が巻き上がり、燃や尽くされたものは灰となり、爆風に吹き飛ばされて、軽やかに宙に舞う。
その中に、進む道が炎に塞がれた幼き少女は大きな声で喚いた。その白い足は転んだせいで、傷口から赤い液体が流れて、羽織った白いドレスも灰に汚された。
五分、それとも十分? 少女は泣き止んだ。聡明な少女は、誰も自分を助けてこないという事実を理解するには、あまり時間をかからなった。
その時から、少女は決意したんだーーもう誰も信じないことを。
「おい柚子奈、もう朝だぞ」
「お兄ちゃん?」
寝起きのせいで、視界はまだはっきりとしていない。だけど、目に映した特徴的な金色の髪に気を引き締まらない表情は紛れもなくわたしの兄だ。それを気付くと、安堵する気持ちが湧き上がっくる。
「何があったんだ?」
死んでいた瞳に気持ちを込めてないと勘違いされる冷淡な口調。やっぱりわたしの兄は世の中に一番カッコいいな人。彼は極度な自己嫌悪で、わたしがいなければ自殺し兼ねない人間。
こんな余裕が全くない彼でも、わたしのことを心配してくれる。優しいお兄ちゃんがいるから、わたしは生きていけることを知らずに。
「いや、何でもないです」
「はいはい。分かったよ」
嫌々しているように見えるけど、わたしの頼みのであれば、なんでもこなしてくれる。そうやって兄と会話すると、知らないうちにわたしの冷めた心に温かい気持ちを注ぎ込んだ。
「お兄ちゃん大好きですよ」
「はいはい。俺も柚子奈が大好きだ」
お互いに愛の告白を告げるのは、わたしの愛を確かめる儀式のである。いつまで変わらないと約束するという意味を込めた愛の誓いでもある。
いつから始まったのかは、もう覚えてない。きっと自然とこうなったんでしょう。この誓いがある限り、今日のわたしもちゃんと生きていける。
「今から作るから、朝ご飯食べます?」
いつもわたしがお兄ちゃんより早起きので、お兄ちゃんが起きる前に全てあらかじめ用意することができた。しかし、今日はそうではなかった。妹としてあるまじき失態だ。
「いや、いいよ」
もしかしてもうわたしが作った飯を食べたくなったのかと落ち込んでいるわたしに、お兄ちゃんは語り続ける。
「このままのんびりしてると、遅刻するから、さっさと着替えたほうがいい」
お兄ちゃんは推理作家として働いてるので、朝から家を出る必要がない。大学の授業も昼から始める授業しか入れてない。なので、遅刻しそうなのは、もちろんわたしのこと。相変わらず冷たい口調で語っていたが、さりげなく心配してくれるお兄ちゃんは、やっぱり優しかった。
着替えが終えて、お兄ちゃんは送ってくと言い、わたしたちは一緒に家に出る。
そうやって、わたしの一日が始まる。
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