0.お兄ちゃんの独白と柚子奈の日常(兄と妹)
青春。それは人生に一度しかないもの。人生が一番輝く時期。大人の義務を果たすことを強要されない時期。人生のしゃがらみが最も少ない時期。
大人になった大人なら、この言葉に賛同するはず。何故のなら、思春期ど真ん中の人類は、未熟な故に大人になったからの偏見が形成しきれず、色んなのことのために苦しんだり、悩んだりして、限られた選択肢から自分の道を選んだりする。人生経験が足りないからこそ、いざとなる時は、自分の気持ちを大切にすることが出来る。
というのは、偏見なのだろう。そもそも青春の形なんて、ただ大人になった人々が作り上げた幻ですぎない。記憶が完全に正解とは限らないし、思い出を美化して苦しいという現実から目を逸らしたかっただけだったのかもしれない。
いや、もちろん、全ての人間もそうだと言えないだろう。それこそ偏見なのだから。しかし、少なくとも、そう思う人間はいるだと俺は思う。例えば、俺とかは。
思い返せば、俺も結構青春してるのかもしれない。勿論、ぼっちな俺は大抵な人間との青春とはかなり異色的なものだった。性格も中二臭いだって言われているし。そういう自分のことが、これぽっちも好きにはなれなかった。自分はクズだってこと、自覚してるから。
しかし、そうだな。そういう俺でも、大切にしてるものがある。俺を取り巻く世界は好きになれないけど、苦しみしかない人生を好きになれないけど、変えられない自分の本質も好きになれないけど。それでも尚、大切にしたいものがある。
それは、俺の妹である氷上柚子奈。
高校の卒業式で、そんなこと考えでもあれだが。いや、もしかしたら、卒業式というのは、成人式のように、この三年間のことを反省すべきだったのかもしれない。そういうことを考えてる自分がアホらしいし、ダサいとも思う。
それでも、柚子奈は、俺が側にいて欲しいと願った。彼女がそう望む限り、俺は自殺しないだろう。意味のない余生にならなければ良いと、俺は密かに祈る。
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わたしには二つ年上の兄がある。彼はとてつもなくひねくれで、わたしが生まれてきてから、彼の目はもう死んでいた。目だけではなく、心まで腐れ果てている。彼以上に壊れた人間などないだろう。少なくとも、わたしにはあったことがない。
だからこそ、わたしはどうしようもなく兄に惚れている。
「ねえ、柚子奈、なんであの人の告白を断ったのか?あんなにイケメンだったのに」
進学校でありながらも髪を茶色に染めたみーちゃんは気だるそうに問いかけた。
顔だけで男を判断するのは、さすが浅はか過ぎる。中身を見ないと、付き合ったところで長く続かないだろう。意味のない付き合いなどしたくないし、時間をそんなくだらないところに費やしたくない。
勿論、そう正直に彼女たちを答うほどのバカではない。顔で自分の全てを晒け出す兄とは違って、なんでもかんでも完璧にこなせるわたしは、上手く受け流すことができる。
「いや、だってわたし、恋とか興味ないし。それに、お兄ちゃんの世話もしなければならないしね〜」
ちょっと困ったような微笑みに軽やかな口調。そうすれば、彼女たちはそれ以上の追及はしないだろう。
「ほんとブラコンだね」
弥生ちゃんの一言で、この話題を完結した。それから、他愛ない会話を交わして、のんびりな昼休みを過ごした。
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