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ゴブリン虐殺

 朝起きたら風が強かった、木戸がバタバタと音を立てている。

 こんな日は他の冒険者は何をやっているのだろう。

 普通に仕事をする冒険者が大半だろう、しかし気分が乗らず休みを取る冒険者もいるだろう。

 そんな冒険者たちは、酒場で酒を飲み交わし、昔の武勇伝を順番に披露するのだろうか。

 それとも明日の戦闘を想定して、部屋にこもってトレーニングに明け暮れるのだろうか。




 身支度を済ませると一階に降りる。

 アンナさんは今日は遅番らしく、ソフィアちゃんが一人で宿屋の切り盛りしていた。


「ソフィアちゃんおはよう」


 ビックリさせないように視界に入ってから声を掛けた。


「トーヤさんおはようございますっ」


 いつもどおりの元気な挨拶、朝の癒しだな。



「今日も美味しかったよ、それじゃいってきます」


 朝食を手早く食べて一声かける。


「いってらっしゃいっ、気をつけてくださいね」


 元気に送り出してくれた。




 今日も革装備にショートソードのフル装備だ。

 頭の中には昨日覚えたばかりの呪文が浮かんでいた。

 城門を通過する、急に風が強くなって土埃を巻き上げた。


 魔導方位磁針を出し、城門を指定して針を覗き込んだ。

 問題なく作動しているようだ、針が城門を指し示している。

 田園の中をゆっくりと移動をする、程なくして森との境に来た。

 昨日呪文を大量に入手したので順番に呪文の試し打ちをする。

 十メートルほど森から離れ、適当な木の幹に向って呪文唱えた。


「ウォーターボール」


 右手からこぶし大の水の塊が発射された。

 速度はファイアーボールと同じくらい、やはり人間が避けられるような速さではない、透明な水の塊だが衝撃は相当のもので、幹に当たった瞬間に大爆発を起こした。

 木の幹は爆風で葉や枝が吹き飛び、幹が深くえぐられて倒れた。


(やっぱり威力がおかしくないか?)


 ファイアーボールもそうだが初級の割に威力がありすぎる。

 気を取り直して実験を再開する、次は初級風魔法を唱えた。


「ウィンドカッター」


 周囲に風切り音が響き渡り、不可視の塊が一直線に木の幹に突き進んだ。

 木の幹が地面から一メートルぐらいの位置で上下に切り離され、静かに傾き倒れた。

 近づいてよく見てみると、木の幹は鋭利な刃物で切断されたようになっていて、切り株の後ろの幹も半分ほどまで直線の溝ができていた。


 魔法の威力に関しては深く考えるのはやめたほうがいいな、これが普通だと思いこむ。

 昨日呪文を唱えた時、体から力が抜ける感覚があったが今日は全くない。

 ゲーム的に考えると、レベルが上がって魔力が増えたのか? 魔力が増えたかどうか解らないので、これも普通だと思うことにした。


 次に初級土魔法パネルランスを平原に設置した。

 このパネルランスは頭の中で場所を指定して念じると発動するみたいだ。


 すると五メートル四方の地面が、暗く色づいた。

 そこに適当な大きさの石を投げ入れてみる。

 次の瞬間、鋭い金属音とともに地面から一斉に先の尖った槍状の突起が、二メートルほどの高さまで突き上がった、密集している槍は避けることは出来ないだろう。

 えげつない光景に流石に顔を引きつらせた。


 中級火魔法を試そうと思う、初級であれだけの威力が出るので、かなり心配だが試し打ちをしないといざというときに使えない。


 鑑定眼で中級魔法を調べると、呪文はファイアーウォールと出る。

 直訳すると炎の壁だ。

 防御系の魔法なのかな、辺りに人影がないのを確認して、森を背にして二十メートルくらい前に魔法を発動した。


「ファイアーウォール」


 大きな爆発音とともに幅二十メートルほどの地面から、爆炎が吹き出す。

 それは巨大な炎のカーテンとなって眼の前を赤く照らした。

 高さは二十メートル位ありそうだ、炎が激しく渦巻き竜巻となって壁から這い出てくる。

 これだけの炎なのだから放射熱で熱いはずなのだが、絶対防御が発動して熱さを感じなかった。

 地獄のような光景を見て中級魔法の恐ろしさを知った。


(ちょっとこれは使えないぞ)

 

 ファイアーウォールは攻防一体型の呪文のようだ、複数の敵と戦うときに有効だろう。


 初級白魔法はキュアで、治療魔法のようだ。

 初級黒魔法はスリープで、相手を一時的に眠らせる魔法だ。

 どちらも実験したいけど、対象が居ないので保留。


 最後に無魔法、初級無魔法はバリアで、人間や物に透明な壁を出して攻撃を防ぐ魔法のようだ。

 絶対防御を持っている俺にとってはいらない呪文だな。

 いつか使うかも知れないので一応取得しておいた。


 中級魔法のワームホールは、空間に穴を開け半径二十メートル以内の距離を移動できる呪文のようだ、さっそく呪文を使ってみる。


(ワームホール)


 呪文は念じるだけでいいらしく、眼の前と前方二十メートルほど遠くの空間に楕円形の真っ黒い穴が空いた。

 小石を拾い穴に投げ入れると、前方の穴から小石が出てきた。

 今度は恐る恐る手を入れてみる、すると前方の穴から俺の手が生えてきた。

 思い切って体ごと穴へ入ると、瞬間的に二十メートル移動できた。


(消えろ)


 穴に向かって念じると、音も立てずに消え去った。

 移動手段としては微妙だが、戦闘で使えれは不意打ちで相手を攻撃できるな。


「ふう、これで一通り試したな」


 妙なため息が出てしまった。

 さて、ゴブリンを倒しに行きますか。




 昨日ゴブリンを倒した巣穴に移動してきた。

 木に印を付けていたので迷うことはなかった。

 巣穴近くの草陰に隠れて入口の様子を見る。


 見張りがいると思っていたが一匹も居ない。

 ここでじっとしていても仕方がないので、慎重に入り口に近づいて行った。

 剣に手をかけて中の様子を見るが、中が真っ暗で何もわからなかった。

 リュックからランプを取り出しスイッチを入れる。

 他人には見えない明かりが周りに広がり、洞窟の内部を照らし出した。


 明かりで照らされた内部は、人の手が加えられた形跡がなく、天然の岩肌がむき出しになっている。

 ひと一人が通るのがやっとの道幅で、十メートルほど先で右に曲がっていてその先は見えなくなっていた。

 ランプを腰に取り付ける、剣を抜刀し左腕に盾を構える。

 音を極力立てないようにして内部に潜入していった。




 狭い通路を壁にぶつからないように進むのは骨の折れることだ。

 亀のようにノロノロと進み、右に曲がる所で顔だけだして前方を確認する。

 通路はなだらかな傾斜で下っており、途中で二本に分かれていた。


 右と左どちらに行こうかな、なにか手がかりがないか丹念にあたりを調べる。

 すると、左の地面に何か重いものを、引きずって出来たような新しい傷を発見した。

 今わかることは、左の通路は使われているということだ。

 今回の目的はゴブリンの討伐なので、ゴブリンが居る確率が高い左の通路を進むのが正解だろう。

 

 少し進むと道幅が広がってきて、手を広げてもつかない様になった。

 天井も高くなって三メートル以上ありそうだ。

 左右の壁にはところどころ亀裂ができていた。

 周囲の空気は淀んでいて動物の腐ったような匂いが微かにする。

 進むに連れて動物の足の骨や、背骨が散乱してきた。

 何かがおかしい、妙に静かすぎるのだ。


 ここをゴブリンが住処にしているのは確定なのに、一匹も居ないのはありえないのではないか、もう戻ろうかと思い始めた頃、開けた場所に出た。

 広さはそれほど広くはない、ランプの光が隅々に届くほどである。

 奥に続く通路はなく、広場は行き止まりのようだ。

 一メートル、二メートル、三メートル。

 ゆっくりと、あたりを警戒しながら五メートルほどすり足で進んだ時、目の端にチラッと動くもの見えた。


(今のなんだ)


 後ろを振り向いた瞬間、ゴブリン達が通路に向かって走り寄っているのが見えた。

 やばいと思い後ろに向き直り走り出そうとしたが、もうその時には通路はゴブリン達に塞がれてしまった。


(しまった! 罠か!)


 左右の壁の亀裂から次々にゴブリンが湧き出てきた、いったい何匹居るのかわからない。

 ほとんどのゴブリンは手に棒を持っていて裸に近い。

 後ろの通路を固めたゴブリンは、俺のナイフと同じくらいの刃渡りの錆びた短剣を持っていて、中には盾を構えているヤツも居る。

 そして最悪なのが、ボロボロのローブを着て手に杖を持っているゴブリンも居ることだ。

 広場の奥に、ゴブリンに守られて立つ一匹の魔法使いがいた。

 

[ゴブリンシャーマン…… 稀に発生するゴブリンの上位種。知能はそこそこ高く、呪文への対抗手段がない冒険者では太刀打ちできない。初級魔法を操り、配下のゴブリンに指示を出すことが出来る]



 ゴブリン達はすぐには襲ってこなかった。

 魔導ランプの光はゴブリンたちには見えないので、暗闇を住処とする彼らは、俺が暗闇を手探りで進んできたと思っているようだ。

 いつでも殺せる状況に余裕の表情が見て取れる。


 俺は時間稼ぎに話しかけてみることにした。


「ええと、俺の話がわかるか。これは何かの手違いなんだ、誰か話せるやつは居ないか?」


 もちろん話ができるとは思っていないが、少しでも時間稼ぎをする作戦だ。


「そうだ、もう帰ろうかな、道を開けてくれよ」


 でたらめなことを言いつつ、どれから攻撃しようかを考える。

 やはりシャーマンかな、そう考えて無意識に前方へ一歩動いた瞬間。


「ギャグギャググ」


 シャーマンが杖を振り上げて何かを叫んだ。

 一斉にゴブリンたちがこちらに向かって殺到する。

 地面を走ってくるやつ、天井に張り付いて近づいて来るやつ、亀裂からは次々と新手が湧いてくる。


 辺りはゴブリンの鳴き声で溢れかえり、鼓膜がおかしくなりそうだ。

 身体が淡く発光する、絶対防御が発動し音を遮断した。

 しかし完全に遮断したわけではなく、適度に聞こえるぐらいまで抑えた感じだ。


 どれから攻撃しようかと思ったその次の瞬間、前方のシャーマンが杖の先からファイアーボールを飛ばしてきた。

 とっさに盾を構えると、盾に弾かれ鈍い音とともにファイアーボールの軌道が変わり、左から走り寄ってきていた集団に着弾する。


 小さな爆発が起きて、数匹のゴブリンが押し倒された。

 確実に死亡したのは直撃した個体だけで、他のゴブリンは気を失っているだけのようだ。


(うん? 威力がやけに小さいな、不発なのか?)


 一瞬疑問に思ったが左に少し余裕が生まれたので、右に全力で駆け寄った。

 眼の前のゴブリンの頭に、まっすぐ縦に剣を叩きつける。

 ゴブリンの頭は、真っ二つにパックリと割れ、どす黒い血が噴水のように溢れ出た。

 俺はすばやく剣を引き抜き、横から棒で殴りかかろうとしている小人の頭に突き入れた。

 一瞬剣からブルリと振動が伝わり、小人の身体が崩れ落ちる。

 その間もとめどなく四方から棒で殴られているのだが、一切衝撃が伝わって来ない。

 絶対防御がことごとく跳ね返し、そのたびにゴブリンたちは体勢を大きく崩し、後ろに倒れていた。

 右の壁際まで来れたので、壁に背を向け小人の集団を見据える。

 馬鹿なゴブリンでも攻撃が効かないのが分かるらしく、様子を見始める個体も出始めた。


 まず退路の確保が優先だろう、入ってきた通路に陣取っている集団に、魔法をお見舞いする。


「ウォーターボール」


 剣を握っている右腕を、通路に向けて呪文を唱えると、通路を固めていた十匹前後が一瞬で爆散した。

 その威力は凄まじく、一人として綺麗な体のものが居ない、飛んでいった死体に巻き込まれたゴブリンが、左の壁際まで飛ばされていた。

 俺はすばやく通路に続く床にパネルランスを仕掛けた。

 塞がられていた通路が一時的に手薄になる、そこを穴埋めするようにゴブリンが押し寄せた。


 道幅いっぱいに広がった罠の上に、我先に殺到するゴブリン達。

 次の瞬間、鋭い金属音とともに槍状の突起が無数に生えた。

 地獄の針山の光景はこんな感じなんだろう、ゴブリンの身体が槍に貫かれて空中に縫い付けられている。

 大半は絶命しているが、うまく急所が外れた個体が断末魔の奇声を上げてもがき苦しんでいた。

 恐慌状態になったゴブリンたちが同士討ちを始めた。


 目の端で広場の奥を見る、そこにはなんとか態勢を立て直そうとするシャーマンが見えた、シャーマンに向けて初級黒魔法をお見舞いする。


「スリープ」


 シャーマンを筆頭にゴブリンたちがバタバタと倒れていく。


(よし、ボスはおねんねの時間だ、そしてここからは俺が場を仕切る!)


 ウィンドカッターを放射状に連射する、風が吹き荒れて不可視の刃が壁にめり込んだ。

 当然のごとく刃の通過した軌道上に居たゴブリンはただでは済まない。

 俺に走り寄ってきたゴブリンが、頭を横に半分にされて即死する。

 お腹のところで上下に分かれるもの、あしを切断されてその場に転がるもの。

 どちらも仲間に踏みつけられて、動かなくなった。


 だいぶこちらに攻撃してくるゴブリンも少なくなってきた、床に伏せて命乞いをするやつまで出てくる始末だ。

 ここで情けは掛けない、こいつらは許してやっても後ろを向いたら、平気で殺しに来る魔物だ。

 ゴブリンの頭に革のブーツを踏み降ろす、ダンカンさん特製の硬い靴底が、簡単にゴブリンの頭を潰した。

 

(ここでファイアーウォールを使ったらどうなるだろう)


 暗いひらめきが脳裏によぎった。

 普通の炎ならば酸欠になって俺まで死んでしまうが、魔法の炎は酸素を必要としない。

 おまけに絶対防御で熱も無効だとなれば、使わない手はないのではないか。

 誘惑に負けて呪文を唱えた。


「ファイアーウォール!」


 大音響とともに部屋の真ん中に天井まで届く爆炎が立ち上った。

 直撃を受けたゴブリン達が、一瞬で消し炭になる。

 運良く直撃を免れたゴブリン達も、強力な放射熱で身体を焼かれ、身体から煙を出しながら地面を転げ回っている。


 ファイアーウォールから炎の竜巻がチロリと顔をのぞかせた。

 次の瞬間、何本も竜巻が爆発的に発生し、逃げ惑うゴブリン達に襲いかかった。

 炎の手は意思があるかのごとくゴブリンを包み込む。

 全身を炎で包まれ火達磨になった小鬼たちは、立ち上がって色々な方向へ逃げ惑う。


 断末魔の咆哮が竜巻の風切り音と混ざって阿鼻叫喚あびきょうかんを極めた。

 その場にいた俺以外の者が消し炭になるのに、それほど時間はかからなかった。

 唐突に炎が消え去る、部屋の中は動くものが一切ない完全な静寂が訪れた。




 全滅




 終わってみれば圧倒的な戦力差で、魔物を消滅させることに成功した。

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