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お姉ちゃん

 城門で身分証を見せて中へ入れてもらう、『豚の耳亭』を右手に望み大通りを北に真っすぐ歩いていく。

 広場手前にある『イリーナの魔法屋』の扉を押し開いた。


「こんにちは、イリーナさん居ますか?」


 暗い店内で目が慣れないので話しかける。


「おや、トーヤじゃないか今日はどうしたんだい?」


 昨日と同じ椅子に座っていて、返事をしてくれた。


「実は今日森で魔物を倒したんですけど、そのときに魔石が取れたので、イリーナさんに見てもらおうと思って来ました」


 目が慣れてきたので奥に進んで行く


「魔石かい? ちょっと見せてみな」


 俺に椅子に座るように言って、机の上に丸い板を敷いた。


「この板の上に魔石を置いておくれ、これは鑑定版というんだよ。魔石の種類と価値がひと目で分かるのさ」


「便利な物があるんですね、これです」


 俺はリュックから魔石を取り出し板の上に置いた。

 イリーナさんは板の上に置かれた魔石を興味深そうに見た。


「ほう、良い石だね」


「森の中で熊の魔物に遭遇したので、ファイアーボールを熊にぶっ放したら、恰好な致命傷を与えることが出来まして、あとは剣でトドメって感じですね」


 絶対防御のことはごっそり省略して倒した方法を伝える。


「これ買い取ってくれませんか」


 確かイリーナさんは魔石の買い取りもやっていたはずだ。


「いいよ、ちょっとお待ち」


 机の引き出しから金貨を二枚出してテーブルの上に置く。

 金貨一枚で『豚の耳亭』に食事付きでおおよそ一年泊まることが出来るから、結構いい値段なのではないか。


「ありがとうございます、でもどうせなら属性魔法の書物で払ってもらえませんか、そのほうが有意義だと思うんですよ。あと魔道具も少しほしいです」


 金貨をイリーナさんに返す。

 火魔法は昨日買ったので初級魔導書が合計で銀貨六十枚、中級魔法書を二冊で、金貨一枚。

それに魔道ランプと魔導懐中時計で銀貨四十枚だったはずだ。


「そうかい、それじゃさっそく魔道具を見繕ってあげようかね」


 イリーナさんは金貨とフォレストベアーの魔石を、大事そうに机の引き出しに入れしっかり鍵をかけると、俺のほしい魔道具を選び始めた。



「まずは魔導ランプだね、半永久的に光り続けて特殊な光も放つことができるすぐれものだよ。次に魔導懐中時計、私の自信作だよ。小型軽量でどこでも日付と時間を教えてくれる。これも半永久的に動き続けるから高い買い物ではないよ。二つで銀貨四十枚でいいよ」


 魔法書を流れ作業で取得していく、まず初級魔法書を取得していった。

 水、風、土、白、黒、無、それぞれの魔法が頭に入ってくる。

 次に中級魔法書を二冊選ぶ、一冊は火魔法に決めたが、二冊めが決められない。


「イリーナさんあと一冊が決められないんですが、何がおすすめですか?」


「そうだね、私は使えないけど無属性の中級魔法は強力だって聞いたことがあるよ、なんでもワームホールを作って行き来できるらしい。使い方次第では最強のスキルなんだそうだ。あくまで人づてに聞いただけだからそのつもりでたのむよ」


「ワームホール面白そうですね、それに決めますよ」


 中級魔法を取得して魔法が充実した。

 ステータスを見てみよう。


[天堂 智也…… 平民 冒険者 レベル3(人間・男・18歳) ・スキル…… 中級火魔法 下級水魔法 下級風魔法 下級土魔法 下級白魔法 下級黒魔法 中級無魔法 神級絶対防御 特級鑑定眼 特級異世界言語]


「ありがとう、いい買い物が出来ました」


 イリーナさんにお礼を言って店を出た。

 イリーナさん的にも有意義な取引だったようだ、俺も大満足なので良かった。




 討伐部位を換金するために冒険者ギルドに行く。

 ギルドに入ると中途半端な時間だったのか、エントランスホールは閑散としていた。

 タルトちゃんの姿はない、休憩時間なのだろうか。


 一番窓口に行ってフローラさんに話しかける。


「こんにちは、新参冒険者のトーヤですっ、討伐部位をもってきまちたっ」


 緊張して最後かんでしまった、美人に微笑まれたら誰だってこうなるよ。


「はい、こんにちは。ギルド職員のフローラといいます。トーヤさんが、冒険者になったことは知っていましたよ。これから、よろしくお願いしますね」


 フローラさんは俺の手を包み込むように握って、にっこりと微笑んだ。


「はい! こちらこそよろしくおねがいします!」


 最高の美人が最高の笑顔で俺を見ている、頭が茹で上がっていまいそうだ。


「うふふ、げんきねぇ」


 フローラさんは微笑みを絶やさず、なかなか仕事を進めない。

 いつまでもこうしていたいのはやまやまだが、心を鬼にしてリュックから討伐部位を出した。


・ゴブリンの耳、二枚

・フォレストウルフの牙、一本

・フォレストベアーの爪、一本


「あらあら、魔物さんの討伐部位ね、お耳さんが二枚に、わんわんさん、熊さんもあるのね。トーヤさんは一人で討伐出来てえらいわねぇ。じゃあ、ちょっとまっててね」


 トレーに討伐部位を乗せると三番カウンターの方へ移動していった。

 あれだけゆっくり話されるとイライラしてしまいがちだが、美人と話すと癒やされてしまう。

 美人恐るべし! それに何と言ってもすごいのは、メイド服を押し上げている胸元のふくらみだ、目線が吸い寄せられるのを必死に我慢した。

 少し待っているとフローラさんがトレーに銀貨十四枚を乗せて戻ってきた。


「おまちどおさま、今日の報奨金は、銀貨十四枚です、内訳はお耳さんが二枚で銀貨二枚、ワンワンさんが銀貨二枚、熊さんは銀貨十枚になります。記録しますから、身分証明をちょっとだけ出して下さいね」


 丁寧に説明してくれる、その間フローラさんの顔を見たり視線が下に行きそうになったりでたいへんだった。

 そそくさと銀貨をリュックに詰め込む。


 フローラさんが慣れた手付きで身分証明を受付横の棒にこする、一瞬光ったような気がした。


「はい、今日はこれでおしまいです。また貯まったらお姉さんのところへきてくださいね、本日はお疲れ様でした」


 ふかぶかとお辞儀をするフローラさんが頭を上げると何かが胸元で揺れたような気がした。

 もう溜まってしまいましたよ、フローラさん。



 外に出ると辺りはすっかり暗くなっていた。

 この世界は闇夜が一般的だ。

 月の光は淡く輝いていて、星々も瞬くだけで光源にはならない。

 俺は今、ギルドから『豚の耳亭』に帰宅途中だ、いつもなら歩くこともおぼつかない暗闇だが、きょうの俺の足取りは軽やかだった。

 なぜなら魔導ランプの光が昼間のごとくあたりを照らしているからだ。


[魔導ランプ…… 魔石の力で半永久的に光るランプ、使用者のみに見える光を出すことが出来る。もちろん普通のランプとしても使える]


 俺以外の街の人は魔導ランプの明かりが見えず、普通のランプの弱い光を頼りに、一歩一歩慎重に往来している。

 俺はこのスグレモノのランプを買って心底良かったと思った。


『豚の耳亭』に戻り、遅めの夕食をとる、アンナさんの後ろ姿が気になってついつい目で追ってしまう。

 ふと思いついて酒場の常連達を観察してみた、グループで来ている野郎ども、端っこでコソコソ一人で飲んでいるやつ、そして一番多い誰とも話さないでアンナさんとソフィアちゃんをガン見している奴ら、酒場の席は九割方埋まっていて大半が男だ。

 右からアンナさんが現れると顔を向け、左からソフィアちゃんが現れると左を向く、まるでテニスの試合を見ているようだ、一部の野郎なんかジョッキのビールが左右に振られ、大量に中身がこぼれている。

 ふと自分も無意識に顔を振っていることにに気づいた。人のことは言ってられない、美人大好き!


 カウンターでお湯をもらい銅貨一枚を渡す。

 桶のお湯がこぼれないようにゆっくりと二階へ登っていった。




 部屋に入る前に桶を床に置き、リュックからランプ出して明かりをつける。

 もちろん使用者しか見えない光だ、鍵を開けて部屋の中に入る、壁のフックにランプを掛ける。


 桶を机に置き鍵をかける、部屋の中は他人が見れば真っ暗だが、俺の目には昼間のように明るく見える。

 革防具セットを外し、リュックに入れ、歯ブラシと手ぬぐいを出した。


 あれ? 歯ブラシと手ぬぐいが乾いている、リュックの中は時間が止まっているはずなので、朝に使った手ぬぐいや歯ブラシは当然濡れているはずなんだけど。

 気になって中のものを取り出していく、別段おかしな事はない、ジャージを出したときに違和感を感じた。

 匂いを嗅いで見る、無臭だった、二日着続けたジャージは脱いだときに汗臭かった。

 それなのに新品無臭なのは流石におかしい、リュックを鑑定する。


[無限収納のリュックサック…… レベル2 亜空間につながっていて無限に物が入るリュック。何が入っているか頭に浮かんでくるので整理整頓がいらない。中は時間が停止している 収納した物を修復する]


 レベルが上っているだと、修復機能が付いてしまった。

 どこまでも便利になっていくのが少し怖いな。


 体を拭いて歯を磨く、ジャージを着てトイレに桶の水を流す、ついでに用を足した。

 部屋に戻って鍵を掛けベッドに寝転ぶ。

 ゴブリンは弱かった、今の俺は魔法も使える。

 絶対防御があればシールドバッシュで吹き飛ばせる。

 よし、明日はゴブリンの巣穴に行こう。


 壁のランプに向かって消えろと念じる、ランプは命令どおりに明かりを消した。

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