表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/23

強者の死闘

 翌朝も暗いうちに目が覚めた。

 今日から本格的に冒険者として活動していく予定だ。

 まずは比較的弱いというゴブリン討伐をして、自分の実力がどのくらいなのか見極めなければならない。


 ベッドから起き上がりペットボトルを出して水を飲む、ついでに机に桶を置き水を注ぐ。

 ペットボトル中の水が無くならず桶がいっぱいになった。

 顔を洗ってカミソリで髭を剃る、昨日市場で手鏡を探したが売ってなかった。

 もっとも、これだけ暗ければ顔も見えないだろう。

 異世界に来るまでは電動カミソリばかり使っていて、床屋の使うような刃がむき出しのやつは初めて使った。

 肌を切ってしまうかヒヤヒヤだったが、ここでも絶対防御が働いて、髭は剃れるが肌は傷つかなかった。

 歯ブラシを出して歯を磨く、実は歯ブラシが異世界にあったことが一番うれしかった。

 俺は歯磨きが大好きなのだ。

 桶の水をトイレに捨てに行く、二階のトイレは穴が空いているだけでちょっと臭かった。


 革防具セットを出して装備する、ショートソードを左に帯剣して大型ナイフを右に差す、盾は邪魔なのでリックの中に入れたままだ。

 なれていないので装備するのに少し時間を食ってしまった。

 これだけの重装備なのに重さを全然感じない、どうなっているのだろう。


 一階に降りていくと、アンナさんとソフィアちゃんが二人で話しているところだった。

 こちらを見てチョトだけ驚いた顔をする、完全装備をアンナさん達に見せるのは初めてなので恥ずかしい。


「トーヤさんおはようございます」


「トーヤさんっ、おはようございます」


 二人がほぼ同時に挨拶をしてくれた。


「アンナさんソフィアちゃんおはよう、朝食もらっていいかな?」


 緊張して返事がちょっと素っ気なくなってしまった。


「その格好、すごく素敵ですね」


「うん、すごくかっこいいです」


 二人共大絶賛だ。


「ありがとう、うれしいよ。今日から魔物を討伐することにしたんだ」


 はにかみながらお礼を言った。


「そうなんですか、でも気をつけてくださいね」


 アンナさんが少し心配そうにしている。


「はい、あまり無茶なことはしないつもりですから大丈夫ですよ」


「トーヤさんっ、がんばってくだい」


 ソフィアちゃんが応援してくれた。



 朝食を早めに済まして宿を出る、日が昇り始めた街なかに朝霧が漂っていて幻想的な風景になっている。

 城門まで大通りを歩いていくと、門が開くのを待つ人達の列が早くも出来ていた。

 俺も最後尾に並んで開門を待った。


 カーン カーン カーン


 開門を知らせる鐘の音が響き渡る。

 門番が重い城門を外側へ開けていった。

 農民や商人、冒険者など様々な人と一緒に城の外へ出た。




 この世界にも方位磁針がある、イリーナさんの店で売っている魔導具の方位磁針は結構な値段がした。

 なんでも方角だけではなく、ある一点を決めるとそこを指し示してくれるらしい。

 イリーナさんに探索で迷ってしまうから買って行けと言われた。

 銀貨十枚だったので買ってみた。

 リックから魔導方位磁針を出す、城門をターゲティングして針を覗き込んだ。

 通常の北を指す針とは別に、もう一本細い針が盤面にあった。

 細い針は常に城門を指し示している。

 これなら街を見失うこともなさそうだ。


 眼の前には田園風景が広がっていて、魔物が出没する様子はなさそうだった。

 やはり郊外の森に行かなければ、ゴブリンなどの魔物は居ないのだろう。

 異世界に来た時の森にでも行ってみようか、さほど早くない歩調で森に向かった。




 森との境目に来たので火魔法の実験をしてみる。

 頭に浮かんだ火魔法の呪文はファイアーボールだったので、どこかにぶつけて威力を測ろうと思う。

 あたりを見渡すと、ちょうどいい感じの大岩が十メートルほど先にあった。

 

「ファイアーボール」


 右手を開いたまま前に出して、呪文を唱える。

 すると体から力が抜けていく感じがして、次の瞬間右手のすぐ前からこぶし大の火球が大岩めがけて飛んでいった。

 大岩に当たると大きな炸裂音がして岩の表面がえぐれた。

 スピードは相当早く避けることはできそうにない、体が少しだるいので連射はできないかもしれない。

 覚えたての呪文にしては威力が少々強くないか? 腑に落ちない点はあるが、実験はこのくらいにして森の探索しよう。

 盾をリュックから出して左腕に装着する、準備が整ったので眼の前の森の中へ分け入った。



 慎重に森の中を進む、ブナの巨木がうっそうと茂っており、いたるところで倒木が朽ち果てている。

 所々にぬかるみがあり、足が取られやすくなっていた。

 下生えが視界を阻み、魔物の気配を事前に察知できそうにない。

 遠くが見通せない状況に神経が徐々に消耗していく。




 森に入って二時間ぐらい経ったあたりで、最悪の敵に遭遇してしまった。

 黒い北極熊、といえば解るだろうか。

 眼の前二十メートル先に体長が三メートル以上ある黒い塊を発見した。


[フォレストベアー…… 巨大な熊の魔物、個体数が少なく遭遇することは稀。鋭い爪はカミソリのように鋭利で、鉄の鎧も紙のように引き裂く。ぶ厚い毛皮は攻撃が通りにくく、B級冒険者パーティでも戦うのを避けたほうがいい。咆哮は即死効果がある]


 俺にこいつを倒せるのだろうか? 完全に相手がこちらを認識しているので逃げることは出来ない。

 十メートル位まで魔物が詰めて来た。

 背中に冷たい汗が流れる、やるしかない。

 こちらの殺気が伝わったのだろうか、後ろ足で立ち上がった魔物は地響きのような咆哮を上げた。


 重低音の地響きの中に金属的な振動が混ざっている。

 これが即死効果がある咆哮なのか、俺の体が青白く発光し絶対防御が発動したのがわかった。

 普通の冒険者なら今ので死んでいたな。

 恐怖が込み上がってきて、次に怒りが湧き上がって来た。

 

「なめやがって」


 それは誰に向けた怒りだったのか、目の前の熊なのか、それともこの世界に勝手に転移させた存在になのか。

 眼の前の視界に赤いフィルターが掛かった、薄くまとっている絶対防御の膜に象形文字の魔法陣が浮かび上がる。


「ファイアーボール!」


 完全に切れた俺は、無意識に右手を熊に向けて叫んでいた。

 鋭い風切り音があたりに響き渡る、右手から発射された球体は、黄金色に輝いていて、目にも留まらぬ速さでフォレストベアーへ飛んで行った。


 間髪入れず魔物の左腕で爆発が起きる、腕がちぎれ飛んで回転しながら木の幹に叩きつけられた。

 俺は魔物に走り寄って剣を下腹に叩き込んだ。

 剣は魔物の皮膚をやすやすと切り裂き臓物が足元に流れ出る。


 魔物は苦悶の咆哮を上げ、残った右腕を俺の顔めがけて振り下ろしてきた。

 太くて長い爪が俺の頭をナマスにしようと迫ってくる。

 とっさに盾で爪を弾き飛ばし、勢いを殺さず盾で体当たりをかました。


 地響きとともに大きな爆発音がして、熊の上半身が爆散した。

 あたりの巨木が俺を中心に爆風でなぎ倒されていく。

 俺の体が強く発光する、絶対防御のカウンターが発動した事を本能で理解した。

 フォレストベアーの残骸は徐々に光の粒子になって消えていった。



 フォレストベアーは討伐部位として爪を残していった。

 そしてもう一つ小鳥の卵ぐらいの大きさの透き通った赤い石を残した。


[フォレストベアーの爪…… 討伐部位、武具の材料になる]


[フォレストベアーの魔石…… 魔力の結晶、魔導具の材料及び燃料、高値で取引されている]



(俺はあんな化物にも無傷で勝てるのか)


 しばらくその場で大の字になって呼吸を整える。

 しかしさっき撃ったファイアーボールは何だったんだろう、明らかに練習の時よりも威力が上だった。

 そして魔物の腹に入れた一撃、あんなに切れ味がいい剣ではないのだが。

 最後の魔物が爆発した現象だけはわかっている。

 あの技はシールドバッシュだ、絶対防御の内包スキルで、盾を持った状態で絶対防御が発動すると、盾で殴った相手を吹き飛ばす事ができる。

 偶然にだが強い攻撃スキルを手に入れてしまった。

 三日前まで暴力なんて無縁のサラリーマンだったけど、戦闘に興奮して楽しんでいる。

 タガが外れるとは、今の状態みたいなことを言うのかな。


 休憩を切り上げてリュックに爪と魔石を入れて出発する。

 お昼にはまだ時間があるので、ゴブリン探しを再開した。




 途中で小川を見つけたので、下流に向かって探索する。

 太陽が真上に来てもゴブリンは見つからなかった。


(この辺で昼飯でも食べるか)


 苔むした石に座り昨日買った焼きそばパンをリックから出す。

 まる一日近く経っているのに熱々の状態を保っていた。

 昼飯をすばやく済まし、探索を再開する。

 暫く行くと、切り立った崖が見えてきた。


 何かの話し声がしたような気がして草陰に隠れる。

 見つからないように顔を出して崖の方を覗いてみた。

 

 崖の裂け目が洞窟になっていて、洞窟の前で亜人が三匹集まって騒いでいる。

 見張りをしているつもりのようだ。


[ゴブリン…… 子供の背丈ほどの緑色の肌をした小人、残忍で弱いものいじめが得意。力は弱く単独での戦闘力は皆無である。集団戦を好むが、統率は取れない。稀に上位種が誕生し、統率力を発揮することがある。声を聞くと混乱することがある]


 やっと見つけた、少し観察していると、見張りそっちのけで喧嘩をし始めた。

 あいつらを倒したら巣窟の中から他の奴らが出てくるだろうか。

 洞窟の中にはいったい何匹のゴブリンが居るのだろう。

 

(あ、一匹ナイフで刺されて倒れたぞ)


 二匹のゴブリンは倒れたゴブリンを解体して食べ始めた。

 魔物が魔物を倒すと粒子になって消えることはないのか。

 ひとがたをしていたから、倒すのをためらっていたがあれは畜生だな。

 とりあえず巣窟の前の二匹を倒して見ようか。




 俺は勢いよく草陰から躍り出た、唖然として固まっているゴブリンの片割れを、盾ですくい上げる様に弾き飛ばす。

 幼児ほどしか無い体は、空中を錐揉み状態で壁に向かって飛んでいった。

 今回もシールドバッシュがきまって、洞窟の入り口の横にゴブリンの死体が張り付いた。

 盾の遠心力を使いクルッと回り、もう一匹を剣で袈裟斬りにする。

 ゴブリンは肩口からお腹にかけて二つに分かれ、反撃もできずに絶命した。


 あたりが急に静かになって鳥のさえずりのみが聞こえる。

 洞窟の方でベチャッと音がした。

 剣を構えて振り向くとゴブリンだった肉塊が、重力に負けて地面に落ちた音だった。


 注意深く入り口をうかがう、中は魔物がいる気配がない、ゴブリン二匹の討伐部位を拾ってリュックに入れた。


[ゴブリンの耳…… 討伐部位、畑の肥料になる]


 うわ、ゴブリンの栄養で育った作物とか、ちょっと気持ち悪いな。

 気を取り直して入口に近づく、中を覗き込むと真っ暗で何も見えない。

 明かりが必要だがあいにく持ってきていない。

 

 潮時だな、洞窟から少し離れて魔導方位磁針を出した。

 街の方向を確認して足早にその場を後にした。

 時折木の幹にナイフで印をつけて、ゴブリンの洞窟が分かるようにした。



 暗くなる前に無事森を出ることが出来たので、イリーナさんの店に行って

魔石を鑑定してもらおう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ