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装備を整えよう

 ギルドを出て武装屋に行く途中で、ある考えが頭をよぎった。

 魔物に襲われても怪我しないのに防具を買う必要はないのでは? ジャージにスニーカー、自分の着ているものを見ると、とても冒険者には見えない。

 これで魔物を討伐してきたら周りの人たちは俺を怪しむだろうな。

 それにもっと強力な魔物の攻撃なら怪我をしてしまうかも知れない。

 やはり最低限の防具は買ったほうがいいかな。




『武装商店ダンカン』の店先には中古武器がうず高く積まれていて店の外観が見えないほどだ。

 扉を開けて中へ入る、店の中は奥に長く続いていて、左右の棚には武器や防具が所狭しと並べられていた。


「こんにちは~」


 店の奥に誰かがいる気配がしたので、呼びかけてみたが返事がない。


「すいません! だれかいませんか!」


 少し大きな声で呼びかけると男が出てきた。

 背丈は俺の肩に届かないくらいで、体躯は横にどっしりと広がっている。

 毛皮のチョッキに革の前掛け、重量感のある革の靴を履いていて、歩くたびにゴツゴツと音を立ている。

 顔はひげで覆われていて表情がわかりにくい、しかし眼光は鋭く光っていて強者の雰囲気を醸し出していた。


[ダンカン…… 平民 鍛冶屋 レベル15(ドワーフ・男・67歳)・スキル…… 上級戦斧術 特級鍛冶]


 この親父けっこう強いぞ、只者ではないな。


「そんなに大きな声を出さんでも、聞こえてるわい」


 少し不機嫌そうな声でこちらを睨みつける。


「武器と装備を売って欲しいのですが」


 ずいぶんと無愛想だなと思ったが、買えないと困るので文句は言わないでおいた。


「あんた冒険者じゃな、それも成り立てじゃろう」


 鋭い眼光で上から下へ視線を動かしたダンカンは、おれの職業を言い当てただけではなく、初心者なことも言い当てた。


「俺トーヤと言います、たしかに冒険者に成り立てですけど、なんで初心者だってことがわかったんですか?」


「ダンカンじゃ、そのすきだらけの格好を見れば素人丸出しだってことは誰でもわかるじゃろうよ。それより装備を買いに来たのじゃろ、見繕ってやるからこっちに来い」


 ダンカンさんに試着スペースのようなところに連れて行かれた。

 

「さて、お前さん得意な武器はなんじゃ?」


「腰に差してあるナイフしか使ったことがありません、それも一回しか使ったことがないので武器も防具も何一つわからないです」


 見えを張っても仕方がないので正直に言ってみる。

 それになんとなくダンカンさんは信頼が置ける人のような気がする。


「あまり正直に手の内を他人にさらけ出すのは感心しないが、素直なやつは気分がええもんじゃ。わしにまかせとけば悪いようにはせんから安心しろ」


 正直に言ってよかった気に入られたようだ。


「そうじゃのう、おぬしは体が細いし、さほど大きくは無いからショートソードあたりが妥当じゃろうな」


 初心者でも扱いやすいショートソードを一本選んでもらう、値札をちょっと見たら銀貨十五枚だった。

 


[ショートソード…… 一般的な両刃の片手剣、刃渡り六十センチメートル]


 鑑定眼で剣を見ているとダンカンさんが裏から防具を一式持ってきた。


「この防具を付けて見ろ、だいぶましになるはずじゃ」


 まずは革の鎧をジャージの上から装着する、思ったよりも軽くて長時間つけていても気にならなそうだ。

 革の兜にはあご紐があり、激しく動いても脱げることはないだろう。

 革のグローブは剣が持ちにくそうだと思ったが、手のひらの部分が柔らかくなっていて違和感なく持つことが出来た。

 革のブーツは膝まで防御されていて、足にピッタリと吸い付いてきた。

 これならば長時間の歩行も疲れないだろう。

 

 最後に革の盾を左手に持ってみる、盾の裏のグリップを手で握り、腕をバンドで固定する。

 何度か構えてみると軽くて扱いやすいことがわかった。

 上から下まで全身革で包まれて強くなった事を実感した。

 装備の値段を見る、鎧が銀貨二十枚、兜が銀貨七枚、グローブが銀貨八枚、ブーツが銀貨八枚、盾が銀貨十枚。

 合計で銀貨六十八枚、結構な値段がするな。


「なかなか似合うのう、これでこの辺りの魔物なら、なんとかなるじゃろう」


 かっこよくて気に入ったので思い切って買ってしまおう。


「すごくいいです、いくらですか買わせて下さい」


「そうじゃのう、銀貨六十五枚でいいぞ」


 銀貨三枚分もおまけしてくれた、ダンカンさんに装備の微調整をしてもらう。

 剣と防具の手入れの方法を教えてもらってお金を払う。

 金貨一枚を出してお釣りに銀貨三十五枚を受け取った。


「このまま着ていってもいいですか?」


「もちろんじゃよ、またなにか欲しいときはいつでも来い」


 最後に剣帯をおまけにくれた。

 ショートソードを腰に帯剣し、盾をリュックの後ろに革紐で止める、これで両手が使えるようになった。



 店の外に出ると太陽が真上に来ていた、ちょうどお腹が空いてきたと思ってたんだよな。

 どこかで食べようとあたりを見渡すと、広場に屋台がたくさん出ているのが見えた。

 近づくと食欲をそそる香ばしい匂いがしてきた。

 焼きそばみたいなものが鉄板の上で焼かれている。


「らっしゃいっ! 旦那一つ買って行ってくだせい!」


 威勢のよい青年が声をかけてくる。


「一つもらおうか」


「まいどっ、3アルになりやすっ!」


 美味しそうだったので銅貨3枚を払って買ってみる。

 焼きそばみたいに皿に入ってくると思ったが、焼いたものを黒パンに挟み、葉っぱに包んで手渡してきた。

 ちょうど焼きそばパンみたいだな。

 一口かじる、麺が甘辛いタレとあっていて美味しい。

 黒パンにもたれが染み込んで柔らかくなっている。

 一個のボリームもなかなかで、お腹がいっぱいになった。

 とても気に入ったので、追加で十個ほど買ってリュックに入れた。


 次は雑貨などこまごましたものを買おう。

 広場にある青空市に向かう、歯ブラシや歯磨き粉は有るだろうか? 日用雑貨を銀貨一枚ほど買い漁り、リュックに詰め込んでいく。

 無限収納はとても便利だ。


 ジャージ一着しか無いので服を買わないといけないな。

 露天の衣料品店に向かう、服はどれも似たり寄ったりなので、適当に三着買った。

 ついでにトランクスみたいなパンツも三枚買った。

 

 そろそろ宿に帰ろうかと思っていたとき、街角に面白そうな店を見つけた、

 間口がとても狭く朝通ったときには見逃していたようだ。

 飾り気のない外観で、小さな看板には『イリーナの魔法屋』と書いてある。

 店の中に入ると思った以上に狭く、四方の壁一面に並べられた本に押し潰されるような感覚になった。

 他にも何に使うかわからないガラスの容器や、高そうな機械仕掛けの小物などが棚に並べてある。


 暗い店内はランプの明かりしか光源がなく、店の奥に老婆が椅子に座っているのがわからなかった。

 真っ黒なローブに身を包みフードを被った姿は魔女そのもので、少し気後れしてしまった。


「こんにちは最近この街に来たトーヤと言います、ここは何を売っている店なんですか?」


 勇気を出して声を掛けてみる、ついでに鑑定した。


[イリーナ…… 平民 魔法屋 レベル16(人間・女・72歳)・スキル…… 上級火魔法 上級風魔法 上級黒魔法 中級魔書士 特級錬金術]


 魔法使いタイプでかなりの使い手のようだな。


「いらっしゃい私はイリーナだよ、ここは魔法書や魔道具を売る店だよ」


 店に来る客には何時も同じ受け答えをするのだろう、イリーナは淀みなく店の説明をする。


「どんな魔法書を売っているんですか?」


 魔法を使えるなら、ぜひとも売って欲しい。


「主に属性魔法の書物さ、火・水・風・土・白・黒・無、これが基本の属性魔法だよ、素質があれば誰でも覚えられるよ。もっとも魔法書は高価なものだから、誰でも買えるものではないがね。どれ、素質を視てやろうかね、こっちに来て座りなさい」


 イリーナさんは懐から水晶玉を取り出すと俺を手招きした。


「ここへ座ってこの水晶玉に手をかざしなさい、そうすればお主にどの属性の素質があるか判明するからね」


 机を挟んで椅子に座る、俺が手をかざすと水晶玉が一瞬光り輝く。

 イリーナさんが一瞬目を見開き息を呑んだのがわかった。


「どうやらお主は全属性魔法の素質が有るようだね、正直驚いたが古い文献に記録がないわけではない、よほどの星の下に生まれたようだね」


 次の瞬間には落ち着きを取り戻し、冷静な声で話し始めた。


「魔法書は一冊いくらですか?」


 全属性の素質があるなんてびっくりだが、チートスキルや無限収納リュックなんてものを持っていたんだから、いまさら驚いてもしょうがないな。

 お金があまりないので買えそうにないが一応聞いてみる。


「初級魔法書は一冊銀貨十枚だよ。その上に中級魔法書があるけど値段は一冊銀貨五十枚さ」


 中級魔法書は高すぎて論外だな、しかし攻撃魔法は魅力的だ、所持金が今銀貨三十一枚だから一冊だけ試しに買ってみようかな。

 一瞬考えたが思い切って買うことにする。


「火の初級魔法書を下さい」


 銀貨を十枚、机の上に重ねて置いた。


「最初に覚えるには一番いい魔法だよ、それじゃこの本の上に手を置いてくれるかい」


 イリーナさんは銀貨を後ろの引き出しにしまい、代わりに表紙が赤黒い分厚い本を机に置いた。

 俺が本の上に手を置くと、手を俺の頭の上にかざし、聞き取れないくらいの小さな声で呪文を唱えた。

 手と頭の間に淡い光が出て、魔法書が光り輝いた。


[天堂 智也…… 平民 冒険者 レベル1(人間・男・18歳) ・スキル…… 下級火魔法 神級絶対防御 特級鑑定眼 特級異世界言語]


 ステータスを見るとちゃんと取得できていた。

 それと無職から冒険者になっているな。


「魔法は使えば使うほど強くなっていくよ、熟練の火魔法ならオーガでさえ一撃のもとに葬ることが出来るだろうよ、鍛錬を忘れないようにね」


「ありがとう、また寄らせてもらいますよ」


 イリーナさんに見送られて店を出ると、辺りが夕焼けで赤く染まっていた。

 宿屋に帰って夕食でも食べようかな。




『豚の耳亭』に戻って裏の井戸端に行く、店の裏庭は石畳が敷かれ排水路が掘られている。

 目隠し用の衝立が壁際に立てられていて、水浴びができるようになっていた。

 つるべを落とし水を引き上げる、桶に水を移し衝立の中に入った。

 革装備セットを脱ぎリュックに入れてみる。

 開口部はそれほど広くないのに、吸い込まれるように入っていく。

 盾やショートソードも余裕で入ってしまった。


 昼間に買った手ぬぐいを出し石鹸をつけて体を洗った。

 頭も一緒に洗ってしまう、途中で水が足りなくなってしまい、誰も居ないのを確認してすばやく井戸から水を汲んできた。

 体がさっぱりしたところで市場で買った服を着て、腰に護身用のナイフを差し夕食を食べに宿の酒場へ移動した。




 酒場は客で埋まっていて見知らぬ美少女が忙しそうに食事を運んでいた。

 

[ソフィア…… 平民 宿屋 レベル1(エルフ・女・16歳)・スキル…… 無し]


 なにぃ~、エルフ娘が増えているだと。

 アンナさんによく似た、美少女エルフが酒場で働いている。

 髪はプラチナヘアーで腰までのストレート、三角巾がとても似合っている、

 線が細いがスタイルはいい。

 透きとおった白い肌が、神秘的に輝いているようだ。

 美人な看板娘が二人もいる宿屋なんて贅沢だなっ。


 ちょうどアンナさんがカウンターに出てきたので挨拶をした。


「アンナさんただいま」


「トーヤさんおかえりなさい、お食事食べますよね?」


「はいお願いします、ところで酒場で働いている女の子は誰ですか?」


 気になる美少女の正体を聞いてみた。


「ソフィアのことですか? あのこは私の妹です、うちは父が厨房を担当していて、母と妹と私の三人で宿と酒場を運営しているんですよ」


 アンナさんとソフィアちゃんは姉妹だったのか、そして聞き捨てならないことさらっと言ったぞ。

 お母さんがいるのか、もちろんエルフだろうな、会うのが楽しみになってきたっ。


 酒場のテーブルについて食事が運ばれてくるのを待つ。

 ソフィアちゃんが運んできてくれるのだろうか? 緊張してきた。


「おまちどおさまです、夕食をお持ちしました」


 ソフィアちゃんが微笑みながら配膳してくれる。


「ありがとう」


可愛さに見惚れてしまって、言葉少なになってしまった。


「あの、トーヤさんですよね、私ソフィアと言います。お姉ちゃんに聞きました、うちをご贔屓にしてくれてるって、ありがとうございますっ。」


 トレーを抱えてペコリとお辞儀をする。


「いやいや、おいしい食べ物や、接客がいいから長居したくなったんだよ、

しばらく厄介になるから、これからもよろしくね」


「はいっ、こちらからもよろしくおねがいします」


 酒場が混み合ってきたので、会話を切り上げてソフィアちゃんを解放することにした。

 可愛い姉妹と話ができて、異世界に来れたことに感謝した。


 食事の方は、謎の魚フライだった。

 身が赤い色をしていて、歯ごたえがプリプリている。

 あんかけ風のタレがとてもあっていて食が進む。

 とろみの付いたキノコのスープは、胡椒がきいていてとても美味しかった。

 黒パンはお代わり自由なので三つも食べてしまった。

 ワインを飲んでほろ酔いになった俺は、明日のことを考えて早めに部屋へ退散するのだった。


 部屋に入るとドアに鍵をかけベッドに寝転ぶ。

 大型ナイフが邪魔だったので外してテーブルの上に置いた。

 異世界に来て今日で二日目、明日からは本格的に魔物を討伐することになりそうだ。


 期待と不安でなかなか寝付けなかったが、それでも睡魔は静かに忍び寄ってきて、意識が深くが沈んでいくのだった。

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