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終局

 光の渦が少しずつ収まっていき、俺を攻撃をした物が正体を姿を表した。

 金色に輝く鱗が全身を覆い、長く太いしっぽが地面を苛立たしげに強打している。

 その体軀たいくは大型二階建てバスよりも首一つ大きく、体長に至っては尻尾の先まで入れると電車二両分ぐらいあった。

 長く鋭い鉤爪がついた太い腕が地面をえぐり、フォレストジャイアントの胴回りを軽く上回る後ろ足の太さは、相当な脚力を要していることが容易に推測出来た。

 恐ろしく大きな牙が無数に生え揃っている口を大きく開けて、血のように赤い先の割れた長い舌をチロチロとうごめかせている。

 真紅の眼光が怒りをあらわに俺を凝視していた。


 ドラゴン


 ファンタジー世界の代名詞である大型の龍が、俺の目の前に獰猛どうもうな姿を現した。

 金色のドラゴンの機嫌が悪いのは一目瞭然で、呼吸と共に鼻からオレンジ色の炎を吹き出している。


「眠りについた我を無理やり起こしたのはお前か? 矮小わいしょうなニンゲンよ」


 低い唸り声の様は言葉で、俺に語りかける。

 あまりの急展開に言葉が出ず、固まったまま見上げることしか出来なかった。


「まあよい、我を眠りから起こした代償は、この一帯のニンゲンの命であがなわせよう」


 ドラゴンの怒りは尋常ではなく、怒りのオーラが目に見えるようだ。

 そして怒りの矛先を最初に受けてしまった俺は、ドラゴンと対立することが避けられなくなってしまった。


[エリサ・フレイムタイド…… 亜神 調律者 レベル155(エンシェントドラゴン・女・5200歳)・スキル…… 上級火魔法 超回復 防御 ドラゴンブレス]


(強すぎる! 特にレベルがやばい)


「ちょっと待ってください、俺は召喚していませんよ。召喚したのはあっちの騎士たちです」


 騎士たちを指し示し関係ないアピールをする。


「そのような事は関係ない、我は今機嫌が悪い皆殺しだ」


 ドラゴンは吐き捨てるように言うと、肺に空気を吸い込んでいく。

 周りの地面が微振動を始め、ドラゴンの胸のあたりがオレンジ色に色づき始めた。

 やばいと思い盾を構えて、しゃがみ込む。

 次の瞬間大きく開かれた口から、光り輝く炎が吐き出され俺に吹き付けられた。


 炎の勢いは凄まじく、俺の周りの地面の表層が根こそぎ吹き飛ばされていく。

 むき出しになった岩や土が一瞬で溶解し、グツグツと泡立ち始めた。

 絶対防御が一層光り輝き、炎を取り込み始める。

 炎の渦が俺の周りに現れたのを見て、ドラゴンが攻撃を止めた。


「ほう、少しは防御を操れるやつがニンゲンに居るのか、面白い」


 まだ炎の残滓ざんしを口から漏らしながら、ドラゴンが尻尾を地面に叩きつける。

 

「炎は防ぐことは出来るようだが、物理攻撃はどうだ?」


 素早く前足を振り上げ、真上から潰しにきた。

 速度が早すぎて回避することが出来ず、まともに鉤爪の攻撃を食らってしまう。

 その圧力は今までのどの攻撃よりも凄まじく、溶解した足元の地面に身体が膝までめり込んだ。


「すごいぞニンゲン、我の一撃をここまで耐えた奴は冥王ザーティンの眷属以来だ!」


 興奮気味に言葉を発して、足を踏み鳴らして全身で喜びを現した。

 しっぽがゆらゆらと左右に揺れ、だいぶ機嫌を直してきたドラゴンは、

 俺に興味を示してきた。


「ニンゲンよ、ソナタの防御は我と同じくらい硬いようだな、ソナタに少し興味を覚えたぞ」


 鼻息荒くまくしたてたドラゴンは大きな顔を俺に近づけてきた。

 魂を覗き込むように俺を見るドラゴン、しばらく凝視した後に一段と目を見開いた。


「ニンゲンよ、お主は女神イシリス様の使徒なのか? お主から女神の加護を感じるぞ!」


 興奮気味にしっぽを一振り地面に強く打ち付けるドラゴン、完全に機嫌が良くなっていた。




 俺とドラゴンのやり取りを横から遠巻きに傍観していた豪華な鎧を着た騎士が、おもむろに馬に乗って寄ってきた。

 周りの騎士を振り切って来た騎士は怒り心頭に発している。


「余はカリヨン・フォン・ビスマルクである、そこのドラゴン! 召喚の盟約に従って下賤な逆賊を討ち取るのだ!!」


 俺を剣で指し示し、興奮して喚き散らしている様は、とても元小国の貴人とは思えなかった。

 俺は呆れて固まってしまい、無言で騎士を見ていた。


「あのニンゲン達はお主の知り合いか? 我を召喚したなどとうそぶいておるが」


 ドラゴンがさして興味がなさそうに俺に聞いてくる。


「いいえ敵対している盗賊達ですよ、召喚した男はもう死んでいますし、あいつらは今から俺が殺します」


 ドラゴンをまっすぐ見て、殺害の意思があることを明確に示す。


「そうか、それなら我が手伝ってやろう」


 ドラゴンは言った瞬間に長い尻尾をムチのようにしならせて、後方の騎士団を薙ぎ払った。

 強力な一撃を受けた三十名程の騎士団は一瞬のうちに吹き飛ばされ全滅した。

 それを見た盗賊の頭領カリヨンは、なにか喚こうとしたが、ドラゴンの前足に潰されて血溜まりになってしまった。


「これで邪魔者はいなくなった、早くお主と女神イシリス様との関係を教えるのだ」


 蚊を叩き潰した程度の気軽さで大量の騎士を殺したドラゴンは、満足気に喉を鳴らして騎士達のことを忘れたようだった。

 この瞬間、辺境を恐怖に陥れていた『魔の森の騎士団』は総勢三百の命を荒野に散らしたのだった。




「我の名はエリサ・フレイムタイド、世界の調律者にして恒久の時を生きるエンシェントドラゴンじゃ」


 今俺は裸の幼女を前に完全に思考を停止していた。

 背は俺の腰より少し高い位で華奢な体つき。

 髪は白に近い金髪で肌は透き通るような白さだ。

 綺麗なピンク色の目が興味津々に俺を凝視していた。

 


 なぜ幼女が荒野に居るのかといえば、ドラゴンが巨大すぎて首が疲れるとつぶやいたのを、ドラゴンが聴いて、気を利かせて人間の姿になってくれたのだが、まさか幼女になるとは思わなかった。


 慌ててリュックの中から予備の服を出して、嫌がるドラゴンに服を着せる、着せただけではダブダブなので、そですそを折り返しなんとか格好をつけた。

 目を離すと服を脱ごうとするので、服を脱がないことを入念にお願いして了承してもらった。


 三百人の死体のそばで幼女と楽しく会話は出来ないので、少し離れて椅子とテーブルを出す。

 時刻はお昼をとっくに過ぎた午後一時、お腹がすいていたので串焼き肉や鳥の照り焼き、焼きそばパンなどをリックから出してテーブルの上に並べた。

 もちろんキンキンに冷えたコーラをコップに注ぎ幼女にも与える。

 荒野の戦場での奇妙な昼食会がスタートしたのだった。




 ドラゴンというファンタジーで浮き世離れした生物だったからか、俺は自己紹介を済ませると、絶対防御をはじめとする、あらゆる秘密を幼女に聞いてもらった。

 一度話し始めれば秘密にしていた鬱積うっせきが爆発して、長々と自分語りをしてしまった。


 幼女は特に長話を気にする様子もなく、適切な質問と絶妙な相づちで俺の話を引き出していった。

 終いには一人異世界に放り出されて、頑張って生きてきた感情があふれて号泣してしまい、頭を撫でられ慰められてまた泣いてしまった。

 

 鬱な話から楽しい話まで色々な話を聞きながらクシ肉やチキンの照り焼きを大量に胃袋に収めていく様はさすがドラゴンだと思った。


「なるほど、お主はトウキョウという異世界からやってきて、女神イシリス様とは会ってないんじゃな? しかし女神の加護は明確にお主にまとわりついておる。なんとも不思議な事じゃな」


 クシ肉を両手にいっぱい掴んでかぶりつきながら話すドラゴンは威厳も何も一切なかった。

 ドラゴンにしてみれば、明確な答えはそれほど重要ではなく、俺が女神の関係者ということが重要らしかった。


「それにしても絶対防御というスキルは聞いたことがないの、それも神級なんて階級、ある事自体信じられんのじゃ」


 五千年以上生きてきたドラゴンでさえ初めて聞くスキルに、三十二年の人生しか生きていない俺は、気にしても無駄だということだけわかって、有る意味清々した気持ちになった。


 俺はこれからマール村に帰ることを幼女に話し昼食会を終了することにした。


「よし! 我もお主についていくぞ!」


 元気に宣言してテーブルの上のコーラを飲み干す。

 コーラはドラゴンにも好評で、底なしの胃袋にペットボトル何本分入ったかわからなかった。


「しかし人間の世界の常識とかわからないんじゃないんですか? いきなり頭にかじりついたりしたら大事になってしまいますよ?」


 ドラゴンという危険極まりない魔獣が、人間世界に馴染めるはずはないと決めつけ難色を示す。


「我はエンシェントドラゴンだぞ、お主達人間より余程理性的で知的な存在なのじゃよ」


 自信有りげにない胸を張って、安全アピールをしてくる幼女。

 むげに追い払うのも可愛そうなので、条件を出して感触を探る。


「決して暴れないと約束してくれるなら、一緒に来てもいいですよ。それと人前で元のドラゴンに変身してはだめですからね?」


「わかっているのじゃ、美味しい食べ物をたべにいくのじゃ!」


 頭の中はマール村での祝勝会のことでいっぱいのようで、どこまで話を聞いていたのか怪しいものだった。

 しかし頭がいいのは本物だ。

 伊達に五千年生きているわけでは無いようで、いろいろな知識を持っている。

 ドラゴンが近くにいてくれることは頼もしいので同行を許した。




 時刻が二時過ぎていたので、戦場の武器防具、そして死体や壊れた荷馬車なども手早くリュックに収納した。

『魔の森の騎士団』はいろいろなお宝を所持していて、リュックの中はお宝で一杯になった。

 戦闘の痕跡が綺麗サッパリ消えて無くなった荒野に、リュックから死体を出してうず高く積み上げる。


 ファイアーウォールを四発連射して、死体を囲い一気に火葬した。

 数分で全てを焼き尽くし一段落したので、マール村に向けて歩き出した。

 辺りはまだ明るく日が暮れるまでは時間があるので、少しでもマール村に近づいておこうと思った。

 決して大量の人が死んだ土地で一夜を過ごすのが怖かったわけではない。




 幼女はノロノロと地べたを歩くのが飽きたらしく、おれの背中の上によじ登って器用に居眠りをし始めた。

 三十分ほど歩いていくと、丘の上に一台の馬車が止まっていて、ロトキンさんが手を振っていた。


「どうしたんですか、村になにかあったんですか?」


 一抹の不安を覚え、早口に尋ねてしまった。


「いやいやなにもない、ただ単にトーヤだけに村の命運を任せてしまって不甲斐ないと思ったんだ。だからせめて戦闘を見守ろうと思って、引き返してきたんだ」


 どこか疲れ切った表情をしたロトキンさんが、無理に笑顔を作った。


「それじゃ戦闘を見ていたんですか? すべて見た上でここで待っていたということですか?」


 盗賊団を大量虐殺した俺を、ロトキンさんは怖がらないで待っていてくれたのだ。


「トーヤは村の命の恩人だ、どんな事があってもそれは変わらない。戦闘はほとんど怖くて見ていられなかったけど、トーヤの凄さは改めて思い知らされたよ」


「俺マール村に戻ってもいいかな? 迷惑になるんじゃないだろうか」


「迷惑だなんて村の人間誰も思わないぞ! トーヤを迎えに来れて嬉しいんだ! さあ、早く馬車に乗ってくれ、村に帰ろう」


 ロトキンさんが手を俺に差し伸べる、その手を握って馬車に乗せてもらった。


「ところで首に巻き付いている女の子は誰だ?」


 ロトキンさんの視線の先には俺の首に巻き付いて寝ている幼女がいた。




 夕日をバックに三人を乗せた馬車が静かに動き出した。

 速度はどんどん加速して風のようにマール村に向って走り去っていった。

 

魔の森の騎士団のあっけない最後、盗賊たちにはお似合いの結末でした。

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