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辺境都市ガルド冒険者組合

 異世界の朝は早い。

 人工の明かりというのがランプしかないので、夜明けとともに起きて日暮れとともに寝るのが常識なのだ。

 俺も異世界人を見習ってまだ外が薄暗いうちにベッドから身を起こした。

 ここはどこだと一瞬思ったが、頭が冴えてくると異世界に来たことを思い出した。

 朝の身支度をすると言っても特にすることはない。

 リュックからペットボトルを出す、昨日半分ぐらい水を飲んだのに満タンになっている。

 まさかこれは魔法具なのか?


[異世界のボトル…… 清浄な水が無限に湧き出てくる魔法具]


 やはり魔法具だったのか、ほかの持ち物も調べてみるか。


[無限収納のリュックサック…… 亜空間につながっていて、無限に物が入る背負い袋。何が入っているか頭に浮かんでくるので、整理整頓がいらない。中は時間が停止している]


 チート確定、こんなすごいリュックだったのか、笑いが止まらない。


[大型ナイフ…… 切れ味が鋭い普通のナイフ]


 流石に武器まではチートではなかった、やはり武器を買わないとこれだけでは心もとないな。


[金貨…… アトラルト王国発行の貨幣、銀貨百枚相当]


[銀貨…… アトラルト王国発行の貨幣、銅貨百枚相当]


 持ち物を調べていたら外が明るくなってきたので、一階に降て朝食を食べよう。

 階段を降りていきながら酒場を見回す。

 するとアンナさんが他の客に食事を持っていったところだった。


「アンナさんおはようございます」


「トーヤさんおはようごさいます、よく眠れましたか?」


 ニコニコと微笑みながら、こちらを見てくる。


「おかげさまでぐっすり眠れましたよ」


 朝から美人を見ると幸せな気分になる。


「それはよかったですね、いま朝食を持ってきますね」


 早々に話を切り上げ、厨房に戻っていった。

 相変わらず忙しそうだ、いつ休んでいるのだろう。


「おまちどおさまです、パンはおかわり自由なのでいっぱい食べてくださいね」


 朝食はシンプルにハムエッグとコンソメ風スープ、付け合せにサラダが付いていた。

 パンをおかわり出来るのはお腹いっぱいになっていいな。

 ここの宿は居心地がいいな、連泊してもいいかもしれない。


「連泊って出来ますか?」


 食事を終えてカウンターに居たアンナさんに聞いてみる。


「もちろん出来ますよ何日の予定ですか?」


 帳簿を取り出し羽根ペンにインクを付けてからこちらに微笑みかける。


「そうですね十日食事付きでお願いします」


 美人の笑顔は強すぎる、思わず多めに言ってしまった。

 特に違う街に行く予定はないのでまあいいだろう。


「十日もですか! ありがとうございます。合計で300アルになります」


 連泊する客は宿を気に入っているということなのでとても嬉しそうだ。

 銀貨を3枚出して支払う。

 

「それでは引き続き今の部屋を利用して下さい。ベッドのシーツなどを換えるために係の者が部屋へ入ることがあるので、貴重品などは部屋に置かないで下さいね。」


 一生懸命に説明してくれるのを見ながら癒やされる。


「冒険者ギルドがどこにあるか教えてもらえますか?」


「それでしたら宿の前の大通りをお城の方に行って、広場の横にある二階建ての大きな建物ですよ、間違わないと思います」


「ありがとうございます、では早速行ってきます」


 もっと話をしていたいが、出かけることにする。


「いってらっしゃい、お気おつけて」


 手を降って微笑みながら見送ってくれた、美人最高だな。



 店を出て石畳の道を城の方に向かい歩いていくと、いろいろな店が並んでいるのが見えた。

 その中に『武装商店ダンカン』という看板が目に止まった。


(武器屋を見つけたぞあとで行こう)


 ほどなくして広場の右側に大きな石造りの建物が見えてきた。

 建物を外から見渡すと、一階の真ん中に大きな両開きの扉がある。

 扉の上には分厚い木の一枚板が掲げてあり、『辺境都市ガルド冒険者組合』と書かれていた。


 中に入ると広いエントランスホールになっていて、正面奥にカウンターがある。

 窓口が全部で三ヶ所あり、板で仕切られていて、職員が一人ずつカウンターの後ろに立っている。

 右から一番、二番が受付で、少し間が離れて最後の三番目が買い取り所となっていた。

 ゆっくりと見渡す、一番と二番は女性職員で最後の三番目が男性職員だ。

 女性職員の顔を見た俺は、一瞬思考停止してしまった。

 絶世の美女と超絶にカワイイ子だったからだ。

 この世界に来てうすうす気づいてはいたのだが、女性の容姿がやたらと綺麗なのだ。

 アンナさんレベルの美人は、そうそう居ないと思っていたが、冒険者ギルドの女性職員も負けていなかった。

 これはぜひ鑑定しなければならない。


 一番窓口


[フローラ…… 平民 ギルド職員 レベル1(人間・女・19歳)・スキル…… 無し]


 髪はブロンドで肩口までのストレート、目が大きく整った顔立ち。

 衣装はフリルの付いた紺色のメイド服だ、スタイルが抜群で、胸が服を押し上げている。

 表情は笑みを微かにたたえていて、優しい性格に違いない。


 二番窓口


[タルト…… 平民 ギルド職員 レベル1(獣人・女・16歳)・スキル…… 無し]


 猫耳少女きた~

 異世界だからいるかも知れないと密かに楽しみにしていたけれど、ここにいましたネコ娘。

 髪は栗色でショートカット、身長は小さめでスレンダー。

 特徴はなんと言っても頭の上にある一対の猫耳だろう、ふわふわの産毛に包まれていてピクピクと動いている。

 肌は人間と変わらなく決め細かい色白美肌だ。


 共通して言えることは、容姿が二人共ずば抜けて美形という点だ。

 ギルド美人姉妹、と命名しよう。


 どちらに話しかけるか真剣に考えていたら、扉のほうが騒がしくなって冒険者達が横に移動し始めた。


「おらおらぁ、どきやがれ! 死神の影団のお通りだぞ!」


 見るからにガラの悪いチンピラ風の冒険者が勢いよく入ってきた。


「そこのお前、聞こえなかったのか? どけって言ってるんだよ!」


 タイミング悪く道を塞ぐ形になってしまった俺は、チンピラ冒険者に押されてしまう。

 結構な勢いで押されたにもかかわらず、絶対防御が働いてびくともしない。


「なんだおめえはぁ! やんのかぁ!」


 抵抗されたと思ったチンピラ冒険者は、俺を睨んで威嚇いかくをしてきた。

 腰の短剣に手を添えて今にも抜刀しかねない。


「いや、別に何もするつもりはない」


 内心面倒くさい事になったと思ったが、平静を装い返事をする。

 周りの冒険者は誰も仲裁に入ろうとせず、遠巻きにこちらをうかがっている。

 その時チンピラの後ろから、見上げるほど大きな男が歩いて入ってきた。


 身長が二メートル半はあるだろうか、背中に幅広の大剣を担ぎ、フルプレートに身を包んでいる。

 赤髪に一対の角が生えた、黄色い肌の巨人がこちらを一瞥すると一言、言い放った。


「モコ、その辺にしておけ」


 人間離れをした体躯は体重が俺の二倍はあるだろうか?

 エネルギーをはちきれんばかりに内包した筋肉は、並の鍛錬では取得できないだろう。


[メイガス…… 平民 冒険者 レベル12(ハーフオーガ・男・32歳)・スキル…… 上級剣術 中級槍術 中級格闘術 中級火魔法]


 この男は強いな、レベルが高いかどうかは比較対象が居ないからわからないが、剣術は相当高いのではないだろうか。

 いずれにしても敵にはしたくない相手ではある。


「しかしメイガスの旦那! こいつは反抗的ですよ!」


 モコと呼ばれたチンピラが、しつこく食い下がる。


「モコ、お前は取るに足らない虫ケラをいちいち相手にしているほど暇なのか?」


 メイガスは俺のことを完全に無視して、カウンターの方へ歩み去った。


「おいお前! 命拾いしたな、これからは注意しろよ!」


 モコが捨てぜりふを吐いてメイガスを追いかけていった。

 

 何が注意しろだ、絡んできたのはそっちだろうに、俺はもやもやした気持ちを抱えつつ、後ろに下がった。

 死神の影と言っていたな、メイガスがリーダーなのか? モコというやつは軽装で動きやすそうな格好をしている。


[モコ…… 平民 冒険者 レベル5(人間・男・24歳)・スキル…… 中級短剣術 中級格闘術 中級斥候術]


 ゲームで言うところの盗賊って職種ではないだろうか、あとは女が三人、順番に鑑定してやるか。


[クリスティー…… 平民 冒険者 レベル6(人間・女・20歳)・スキル…… 中級白魔法]


 メイガスの隣りにいるためか小柄に見える。

 頭からすっぽりとフードをかぶっていて顔を見ることが出来なかった。

 スキルを見る限り僧侶だろう。


[マリー…… 平民 冒険者 レベル7(エルフ・女・30歳)・スキル…… 中級火魔法 中級風魔法]


 メイガスを挟んでクリスティーの反対側に黒いローブの女は立っていたが、存在感がないというか影が薄い感じがした。


[ライザ…… 平民 冒険者 レベル8(獣人・女・25歳)・スキル…… 中級剣術 中級格闘術]


 最後の獣人の女はひと目見て気性が荒いのがわかった。

 周りを睨みつけながら時折低く喉を鳴らしていた。

 死神の影団の中では、二番めに強いステータスをしている。



 死神の影団は受付で用事を済ませると、来たときと同じように我が物顔で帰っていった。

 受付が空いてきたのを狙って話しかける。


「こんにちは冒険者になりたいのですが」


 猫耳が似合うタルトちゃんの窓口だ。


「いらっしゃいませぇ、冒険者ギルド職員のタルトです。新規登録の方ですね、お名前と生まれたところ、得意な技などを言ってもらえますか」


 興味深そうにこちらを見ながら明るく対応してくれる。


「トーヤです東京から来ました。得意分野は特にないです」


 出身地なんか無いのだから日本の首都の名前を言ってみた。


「トウキョウ? 聞かない町の名前ですねぇ、まあいいかぁこの板に手を乗せて下さいね」


 街に入ったときに門番の青年に出された板とそっくりのものを出してくる。


[トーヤ 平民 無職 犯罪歴なし]


 また一瞬光って板の上に文字が浮かび上がった。


「はい確認できましたぁ、辺境都市ガルド冒険者組合への加入を歓迎します。このカードの上に親指を付けて下さい」


 差し出された身分証明書に親指をつけると、一瞬光って名前とランクが浮かび上がってきた。


[辺境都市ガルド冒険者組合所属 トーヤ ランクE]


 こちらにカードを渡すと冒険者ギルドの説明を話し始めた。


「街での暴力沙汰、犯罪行為などはやめてくださいね。見つけた場合は冒険者ギルドの除名処分、騎士団に通報をします。クエストの成否で、ギルドの判断で昇格、降格があります。失敗の場合は罰金が発生します。怪我や死亡は冒険者ギルドとしては一切責任を負いかねますので気をつけて下さい。以上で説明を終わりますが、なにか質問はありますか?」


 一気に説明をされた。


「けっこうきびしいんだな」


 殺伐とした説明に思わず本音を漏らしてしまう。


「そんなに難しく考えなくてもいいんですよぉ、みんなで仲良く程々に冒険しようってことですよ」


 さっきの事務的な話し方ではなくフレンドリーに笑ってくれた。

 いいなぁ可愛い子の笑顔は癒やされる。


「まあ大体わかったよそれで早速クエストを受けたいのだが、なにかいいクエストはないかな」


 気分を変えて仕事を斡旋してもらおうと思う。


「そうですねぇ、採取系なら安全ですが報酬が少ないですね。討伐系ならそこそこの報酬がもらえますけど、どちらがいいですか?」


 首をかしげながら上目づかいで聞いてくる。

 報酬が少ないのは勘弁してほしいな、討伐系にしようか。


「討伐系の簡単なクエストは何があるのかな」


「一番簡単なやつはゴブリン退治ですねぇ、常時討伐ですから討伐部位を持ってきてもらえば銀貨一枚の報酬を出します。ちなみに討伐部位は倒すとドロップするので間違わないと思いますよ」


 お、しっぽが生えているぞ、尻尾を左右に揺らしながら得意そうに説明してくれる。


「ゴブリンはどこにいるか教えてもらえるかな?」


「生息地は、街の周辺の森の中に広く分布しているので、簡単に見つかりますよ。たまに強い魔物も出るので気をつけて下さいね」


 親切丁寧に教えてくれたのでとてもためになった。


「なるほど、ゴブリン討伐をしてみるよ」


「お役に立ててぇよかったです、トーヤさん、頑張って下さい!」


 手をブンブン降って見送ってくれるタルトちゃんに見送られながら、ギルドをあとにした。

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