第4話「王として出来ることはとりあえずやったし、世界滅ぼす為に旅に出ることにしました」
もしあなたが命じれば
喜んで盾になりましょう
もしあなたが命じれば
嬉々として敵を討ちましょう
もしあなたが死ぬのなら
喜んで私も死にましょう
もしあなたが死んだなら
あなたの事を語り続けましょう
国の吟遊詩人が勝手に作ったものだ。
まあ、気分がいいといえばそうなのだが、少し小っ恥ずかしくも思う。
それだけ、支持されているのだと思うことにでもしないとやってらんないね。
広場前には国民が集まっていた。ただ、何か音を立てるでもなく、王の登場を今か今かと息を飲んで待っていた。そして俺は王宮テラスから国民を見渡す。
「王、準備が整いました。レオナード王国国民総勢2万3214名。集合が確認されました」
俺は第一声を発する。 羨望がある分だけ緊張する。おちつけおれ、落ち着いておれ... ...。
「やっ、ややあ!」
ーーー噛んだッッッッッッ!!!???
パチパチパチとゲイルが拍手をする。
それにつられて戸惑っていた民衆もそれに続き、喝采となった。
気を取り直して...
「やあ、諸君」
広場は静まり返る。 王の御言葉を聞き流すことのないように民衆は俺に傾聴をする。
「俺は、お前たちを導くつもりなんて毛頭ない。別に王になったことですら、気まぐれだぞ? だから、気まぐれでお前たちを殺すことだってあるかもしれん」
民衆は動揺することはなかった。
「ただな。別にお前たちを見捨てる気もないよって話をしたい。この国では、現在深刻な食料不足が起こっていることはわかっていると思う。まあ俺も1ヶ月は飯を食っていない」
民衆はざわめいた。
「王でも召し上がっていないのに私たちは... ...」
「私たちの為に王は絶食を... ...」
「あぁ、なんてお優しいお方., ...」
なんて勘違いも甚だしい内容が聞き漏れてくる。
「だから、な。 俺はお前たちに提案をする為に今日集まってもらった。よく聞いて欲しい」
辺りはまた静まり返る。
「お前らを魔物にしたいんだが、いいか?」
民衆には同様の声が広がるかと思ったが、そんなことはなかった。別に驚いている様子でもないし、立ったまま失神している様子でもない。ただ、当然のように王の言葉を理解して、それに従おうとするような眼差しが向けられていた。
「まぁでも、お前らにゴブリンやオークのようになれと言っているわけではない。なりたいやつは勝手になってくれてもいいけど、俺はあんまおすすめしないぞ。人に、戻れなくなるからな」
「して、王よ。私たちはどのようにして魔物になればよいのですか?」
「あぁ、簡単なことだよ。生きていてくれ。それでいい。ほらよ」
俺は全身の魔力を解き放った。
ただ、それは俗にいう殺傷目的の魔法ではない。勇者レオンとしての溢れるばかりの魔力のお裾分けである。
魔力分与は魔力総数が1万を越え、かつ、世界にあるほとんどの魔力を知らないと扱えない究極の魔法である。
それは奇跡と呼ばれ、かつてこの魔法を使ったのは創造神だけだと言われるほどに効果に対してリスクが大きすぎる魔法とバカにされてきた。
その効果は使用者の魔力と魔法を対象に分け与える能力。
俺は国民に対してこの魔法を行使した。
そして、魔法を失った。
と、言うわけにもいかず、2万ぽっちの魔法など失っても痛くない。
俺の潜在魔力はそれをはるかに凌駕しているし、使える魔法はその倍はある。
つまり、魔法を国民に分け与えることによって手早く簡単に軍事力の拡大と身体強化を図ったのである。
人というものは、身体能力と精神能力によって構成される。身体能力と言うのはその人が持つ寿命を指す。これが枯渇することによって人はその人生に幕を下ろす。これは生を受けた時に自動的に最大値が受け取られそこから行動をすることによって消費されていくものだ。そして次に精神能力。これは才能とも呼べるもので生まれつきにそれには大きな振り幅がある。これがないと魔法の行使はできない。また、精神能力には限りはあるがそれは睡眠とともに回復をする。つまり、健康的な生活を行なっていればそれは枯渇することはないのだ。
だが、身体能力と違って精神能力は個人差が激しい。全くと言っていいほど能力が低い奴や産まれながらに莫大な精神能力を誇る者もいると言う。
俺が行った魔法によって国民の精神能力は常人の2倍程度には増加しただろう。
そこまでして、俺が何をやりたかったかというと富国強兵。俺が導かずとも、自分たちで道を切り開く能力を与えたかったのだ。
俺はこの国の王として君臨したが、ここにとどまるつもりなどない。
「なぜなら、俺は復讐者だからだ」
従来の魔王のように玉座にふんぞり返り、自らが討伐されるのを悠々と待っているような間抜けじゃあない。
こちらから打って出る。
「ゲイル」
「はい、どうなさいましたか王よ」
ゲイルは別にずっと俺のそばにいたわけではない。ゲイルの固有魔術、俺の側にだけ瞬間移動ができる魔法によって現れたのだ。まるで召喚獣のようだと、笑う奴もいるだろうがゲイル自身がこの魔術を望んだ。魔力分与を使う際、望む者がいれば出来るだけそれに則した魔法を与えた。
「俺はこの国を出る」
ゲイルは別段と驚かなかった。
「民を頼んだ。まあ、ここに攻め行って勝てるような軍事力は他国にはないだろうが用心に越したことはない。何かあったら、魔法で俺のところに知らせに来るように」
「かしこまりました」
こうして、俺は国を出て復讐者としてまた一歩歩き出したのだ。
続く