第3話「とりあえず、全世界が敵に回ることになったのですが、国の中も滅茶苦茶だしどうにかする方法ってないですかね?」
レオナード王国の建国と共に時世はうねりを挙げた。
ケイリオス王国滅亡とレオナード王国の建国によって変わったものは大きい。
まず、レオナード王国には課税制度は存在しない。民草を無駄に圧制して国全体を衰弱させ自らだけに力を集めるというこの世界の旧王国制度の在り方というものを真っ向から否定した。
国民はそんなレオンに陶酔し、自らすべてをささげだせるような最早、洗脳にも近いものとなっていた。
世界最強と言われる王は特に何もしなかった。
何を強いるでもなく、何をするでもなく。
ただ、「自由に暮らせ」と。
国民は王の言葉に魅せられた。
中には自由に暮らせと言われて、犯罪まがいの行動に走るやつもいるだろうと愚直に予想はできるだろうか? ただ、世界最強の王の庇護下にある中、犯罪は全てが死罪になることは誰もが理解していた。
だからこそ、犯罪という犯罪はこの国では全くと言っていいほど起きなかった。
一方、レオナード王国を魔王城と揶揄して敵対する国は後を絶たなかった。
「全世界が敵か……いいね、悪くないね」
大都市や地方諸国は魔王討伐連合国として同盟を結んだ。
中心は旧ケイリオス王国同盟軍ではない。かの国は2万4000の軍を無謀にも死地に送ったとされ、閑職へと追いやられていた。ならば中心国はどこなのか?
名をブリトーという、同盟国の兵力が減少したことにより少数精鋭を謳っていたブリトー帝国は一気にこの世界の軍事力のトップに躍り出ることになった。王の名前はなんだったかな。覚えていない。ただ、かなり民衆からの支持は高いようだ。
それと対を成すように、魔法国リルデガランも同盟に名乗りを上げた。
リルデガランは魔法研究とそれを生活に生かす技術でのし上った自治組織国である。通常、国というものは王と呼ばれる絶対的な権力が民を導いていく。だが、この国に王は存在しない。何か決め事がある場合、国民全員でセンキョと呼ばれるものを行い、物事や方針を決めるらしいのだ。そして身分格差などはなく、国全体の幸福度は非常に高いと呼ばれる部類である。そしてこの国にしかないものが、魔法研究所である。
魔法研究所とは、現在の魔法や、過去に使われていた魔法などを小紋書を通じて古の魔法の復活や、新魔法の生成研究を行っている。
かくいう俺も、この国に立ち寄って魔法を習っていたことがある。つまり、この国に現在ある魔法では俺に傷一つ付けることができないということだ。でもまあ、新魔法でそれは看過されそうな気もするが、ただ少しだけ脅威になりうる可能性は孕んでいる。
この2国、武と知の結晶を集めた2国を中心として連合国は形成された。
おいおい、圧倒的な構図だなあ。
でもまあ俺をバカにしすぎるのも大概にしろよな。
俺は魔王討伐のためにこの世界を渡り歩いてきた。
どの国の文化レベルがどのくらいなのかなんてある程度は理解している。
それを計算に入れたところで、俺を倒すまでにかかる時間はこいつらの世代から100世代経過しても無理だろう。
こうしてレオナード王国兵力1と全世界との対立化は起こったのだ。
王として君臨した俺を慕う民は多い。
別に課税制度などないのだが、毎日のように俺に贈呈物が届く。
政治なんてものはこの国にはない。別に俺がルールだと言っているわけでない。ただ、決まり事など敷かずとも、民衆は王をルールだと讃え、慕い上げる。
ある意味、最高の自治国家の完成された状況である。ただまあ、王に対して意見などを民衆それぞれが言うのは王が疲れてしまうだろうと考えた民衆は、その中でリーダーを建てることにした。
そして、リーダーになったのがゲイルである。
「レオン様、此度より民衆代表として王様のお言葉を届けさせていただきたく思います。ゲイルと申します。よろしくお願いいたします」
「堅苦しい真似はよせ、ゲイル。俺は王になった。だが、俺は貴様らを導くつもりなど毛頭ない。勝手にしろ」
「かしこまりました」
ゲイルは一礼をすると王室を出た。
ゲイルが民衆のリーダーになることに俺は別段不満を感じているわけでもなく、興味すら沸かなかった。ただ、俺が興味があるのは連合国同盟。どうやって潰してやろうか。国々を相手取るというのは少し面倒なことは分かっている。なぜなら、リーダーなんてものは移り変わるものであり、それを潰しても新たなリーダーが台頭するからである。現にケイリオス国王ディスケを殺し、新たに俺が王となっている。
「どうしたものか」
俺はふと、考えを巡らす。
武力の守りとして圧倒的安全位置にいるこの国も、一つだけ画策しなければならない事柄がある。
それは食糧問題である。
俺が問題かさせれしまったそれは、解決をできないままにいた。
俺自身は肉体が鍛えられているため飲まず食わずでも3年は生命を維持できるが民衆は違う。飢えている。あらゆる魔法を行使できる俺だが、それは戦闘で役立つものだけであった。そして、俺の使う魔法は全て威力が規格外になってしまう。
そこで考え着く打開策
①民衆に鍛錬を行い少しばかり強くする
メリット
戦力の拡大化
デメリット
時間がかかりすぎる。その過程による犠牲の多さ
②新しい品種の食糧を特産品として作成
メリット
食糧自給率の向上と飢餓の打開
デメリット
品種改良によって生み出される可能性の低さ、またそれまでの犠牲
③他国と同盟国を結び貿易を行う
メリット
他国の情勢、情報の収集と飢餓の打開、そして世界征服の足掛かりとなる。
デメリット
こちらの手の内を明かすことになる。
まあ、すぐ思いつくのはこれくらいか。
俺はこれらの策をとりあえず出してみたが、ふむなるほど、王というものは案外面倒なものなのだな。
俺はゲイルを呼びつけた。
「ただいま参上しました。王よ、どうなさいましたか」
「ゲイル、俺はこの国を導くつもりはない」
「それは存じております」
「だがな、困っている民衆も見捨てるつもりはないぞ」
「王……」
「だから、打開策をいくつか思案してみた。率直な意見を聞かせてくれ」
俺は考えた3つの策をゲイルに聞かせた。あえてメリット、デメリットは伏せてその案を聞かせてどう思うのかを問うた。
仮にも、民衆の代表となったものだ。俺の考えを少しくらい汲むことができないと、務まらないぞ、と少しゲイルを試すような真似をした。
「すばらしき、お考えです」
「ふむ、で?どう思った?」
「現実的に行くのなら、他国との貿易がメインになるでしょうな。なにより情報収集ができるのがかなりのメリットと私は考えました。仮にこちらの手の内が漏れようと、レオン様がいれば、どうということはございません」
「たしかに」
「続けて進言してよろしいですか?」
「言ってみろ」
「世界では、レオン様を魔王と揶揄するものが多くいると聞きます」
「まあ、ここ発祥だからな」
「そこで私は考えました」
「何やら面白そうだな」
「私は、あなたが魔王になればよいと考えています」
「なるほどな、実に面白い」
ゲイル。コイツ、かなりできる。
俺の案を肯定するだけして、提言までしてきやがった。
つまりこいつはこういいたいのだろう。俺に魔王になれと。
悪のままを尽くし、自分たちを魔物にしてほしいと。
「私たちを好きに使ってほしいのです。王の御心のままに……」
「いいだろう。使ってやる、ゲイル。全国民を王宮広場に集めさせろ」
それはレオナード王国初めての出来事でした。
王が初めて国民に求めること、王としての最初の仕事が今、始まろうとしていた。
続く