第2話「復讐ってもんはやらないと後悔するし、やった方がスッキリするからやるべきだよな」
俺が魔王として降臨して3か月が経過しようとしていた。
歴代最強の勇者と謳われる俺を相手にするなんて無謀という言葉を知らんのかね?
間違いなく、俺が今この世界最強だということはわかってたはずだが?
俺は勇者として魔王討伐への道中、様々な経験をした。
その経験が俺を強くした。仲間との戦いが俺を成長させた。
おかげで、全ての魔法は俺に通用しないし、毒の類も俺には効かない。
そんな、苦難を共にした仲間が殺されたんだ。
別に俺は英雄になりたかったわけじゃない。
俺は右手にある聖剣を見る。
刀身がエメラルド色に発光しており、どんな防御も受け付けないという魔法剣である。
この剣が勇者だった頃としての最後の名残である。
この3か月間、俺は別に遊んでいたわけではない。かといって何をしたわけでもない。
ただ、存在し続けた。
ケイリオス王国の門前に。
俺を勇者として送り出した忌まわしきケイリオス王国。
俺はこの国を亡ぼすためにここにいる。
俺が魔王を倒したという速報は世界中に駆け巡った。
まあ、誰だって紫煙に包まれた空が一瞬で明るく澄み渡ったらなんとなく察するよね。
そして、ケイリオス王国を中心としたその同盟国が俺を抹殺しようとしていることも世界中を駆け巡った。
だから俺は動かずじっと待ったのだ。
ケイリオス王国の門前で、何もせずに。
あぁ、でも何もせずにというのは間違いだったかもしれない。みんなだってコバエが近くを飛んでたら苛立つだろうし、手を振って牽制するだろうさ。
俺が門前に現れた午後、まずはケイリオス王国の兵士が2000の兵を連れて俺を包囲した。
何やら、俺を襲う大義名分の口上を述べているみたいだが、そんなもの難癖としか受け取れないような内容で俺がどうしたって俺の討伐命令が出ているのだから、こいつらも俺の討伐を断念することもないだろう。あぁ、兵士って面倒な職業ね。
「まぁでも、大義名分なら今与えてやるよ。」
俺は聖剣を抜くと、兵士に向けて薙ぎ払った。
そして一瞬にして2000の命は赤い液体を地面に残し、霧散した。
1週間後に同盟国からの連合軍2万4000名が到着した。
俺の実力を知ってか、間合いがかなり空いている。
もう既に国家魔術師連合が俺に向けて上位魔法を連発してきているが、それは俺に届くことがない。
こんなのユメの魔法に比べれば子供の駄々のようなものだ。
まぁ、その最高の魔術師はお前らが殺したんだけどな。
「初級火炎魔法」
俺の放った魔法は、魔導書に少し目を通せば、5歳児でも扱えるような低級魔法だ。
誰にでも扱えるそんな低級魔法。
2万4000くらいならその程度で十分だろ。
放ったその小さな火の玉は大群に高速で向かっていった。
その道中、みるみるを球体が肥大化を行い敵軍の中心で霧散した。
光に包まれたこと以外、何も感じなかっただろう。そして2万4000の命は影になった。
「俺は勇者だったんだぜ? 魔法もできるに決まってんだろうが」
それからというもの、ケイリオス王国には誰も訪れなくなった。
同盟国はケイリオス王国を見放したのだ。
かつて貿易が盛んだったその町は一気に衰退した。
そして食糧不足が起こり、治安は悪化。
募り募った民衆の怒りは誰に向かうか、わかるよな?
そう、この状況を作り出すに至った張本人、ディスケ・ペイ・ケイリオス23世、現国王である。
俺の見立てでは1年くらいと思ったんだけどな。案外早かった。
ディスケは民衆の反乱軍に捉えられ投獄された。
しばらくすると、俺の前に一人の男が現れた。
男は少し体をこわばらせ何が起きてもすぐ反応できるような緊張感で俺に対峙していたが、俺も別に特に恨みがないやつをサクサク殺すほど魔王ではない。
「どうした?」
「この国で革命が起きた。俺が主導者だ」
「ほう?」
興味深かった。俺としてはこの国を亡ぼすつもりだし、こんな男の言葉など聞いてやる価値もない、くらいには思っていた。
「ディスケの処分を勇者レオンに任せたい」
「くだらん」
あんな男一人殺したところで、仲間は帰ってこない。
「いや、アンタが下すべきだと俺は思う。仲間のためにも」
「黙れ」
「俺の名前はゲイル、俺はアンタを支持してるんだぜ、午後に王宮噴水広場でヤツへの糾弾を行う、待ってるからな」
そう告げると、ゲイルはドシドシとガニ股で帰っていった。
「仲間のため……本当にそうなのか?」
--ただ、鬱憤を晴らしたいだけじゃないのか?
「別にそれでいいじゃないか」
--何を迷うことがあろうか。
午後になり、俺は噴水広場へと向かった。俺見る視線は恐怖に染まり、かつての羨望は薄れていた。
広場へ着くとディスケが両手を縄で縛られ吊るされていた。
「おい、お前ら! よく考えてみろよ。世界を救ってくれた勇者に対する仕打ちがおかしくねえか?」
つるし上げられたディスケに蹴りを入れながらゲイルが怒鳴り散らす。
周囲では俺がいることに気づいたものもいるらしく数奇の視線が突き刺さる。
「俺たちがよ! そんなことされたらどう思うんだ! えぇ!? みんな!」
ゲイルの怒号が広場に響き渡る。
すると周囲からポツリポツリと不満の声があふれ出す。
「あいつのせいで俺たちは今こうなってるんだ……」
「あいつが……」
「許せない」
最初は小さかった不満の声はやがて熱を帯び始め、やがて一つの声が飛び交った。
「コロセ!!!」
「こーろーせ! こーろーせ! こーろーせ!」
やがてそれはひとつの掛け声にも似たようなものになり、広場全体を支配した。
そんな喧騒の中、俺に近付いてくる影があった。確認するとゲイルだった。
「来てくれないか」
「どこに」
「あそこにだ。主人公は勇者さんアンタだぜ」
なるほど、やることは理解した。
ディスケの隣に来るとゲイルが声を張り上げた。
「おい! お前ら! ここに勇者レオンが来てくださった。 こいつの処罰は勇者様に決めてもらうのはどうだろうか? まあ、全員賛成だよな。目を見ればわかる」
観衆の視線が俺に集まる。
「勇者レオンだ。俺は何もやっていない。やったことと言えば、世界を救っただけだ。助けたんだぜ?なのになんで俺の仲間は殺されたんだ?」
喋り出すと目に溜まっていたものが決壊した。
「世界を、すくったん、だ、ぜ? な゛ん゛で、な゛ん゛で仲間を殺したんだよ゛ぉ゛ぉ゛お゛!」
俺は言葉を続ける。
「コイツを殺すのは簡単だ。だけど、こいつを殺しても仲間は帰ってこない。また、悲しみの連鎖が生まれるだけだ。俺はこいつを許すよ。 縄をほどいてやってくれ」
「いいのか?勇者さん」
「あぁ」
縄を解くとディスケは俺の前に土下座し、咽びながら、ありがとう、ありがとうと言っている。
王なんて玉座から降りてしまえばただの人だ。
「あり゛がと゛う゛ございあす゛」
「あぁ、いいよいいよ。もう間違いはするなよ。来世ではちゃんと生きるんだぞ?」
そういって俺はディスケの首を跳ね飛ばした。
観衆の声援。はは、悪い気はしねえな。
俺は観衆に応える。
「王は死んだ。俺は世界最強だ。お前らなら、誰についてこればいいか、よくわかるだろ?
よってここに宣言する。俺は王となり、ここにレオナード王国の建国を宣言する!」
こうして俺は魔王になったのだ。
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