第二十八章 終戦の鐘
第二十八章 終戦の鐘
夏に入る前のことだった。
クレオナが病院内で仕事をしている時に、ラジオで、ある放送があったことを聞いた。
フロレンスがクレオナに呼びかける。
「クレオナ、聞いた?戦争は終わったのよ。終戦よ。」
「そう。」
味気ない声でクレオナは返事をした。
「インデアル帝国は負けたのよ。ラトゥーヒ政権ももう、倒れちゃうらしいわ。それにこれから、ノードランド軍がこっちに兵を送ることになる。わたしたち、一体どうなっちゃうのかしら?」
「わからないわ。でも、負けることはもうわかっていたことだから・・・。」
「どうしてそう思っていたの?」
クレオナを見つめるフロレンス。
「ひょっとして、タァーロ一等兵のこと?」
クレオナはうなづいた。
「残念だったわね。」
クレオナは呆然としていた。
仕事の手が止まる。
「まだ、実感が持てないわ。」
「クレオナ・・・。」
フロレンスはじっとしているクレオナを抱きしめた。
「どうして泣かなかったの?」
「わたしは、帰りを待っているから。それだけよ。」
「で、でも・・・。」
クレオナはゆっくりと腕を回していたフロレンスをどかした。
「いいのよ、これで。わたしはもう決心したから。どんな結果になろうと、自分の心は変えられない。それにわたしは不幸なんかじゃない。それどころか、ずっと幸せよ。戦争が終わったのなら、もうドクトルエッグ衛生部隊もそのうち解散するわね。わたしはこれから大学へ行きたいの。医学部があるところにね。わたしの将来の夢は、医者になることだから。その夢を叶えるために、これからも前向きに生きるわ。そして報いたいの。これまで戦争で亡くなった、たくさんの人たちの命のために。」
「クレオナ・・・。」
フロレンスはまるで自分のことのように思い、涙を流した。
その時、鐘楼のほうで鐘が鳴った。
クレオナが窓から外に見える鐘楼を見て言う。
「終戦の鐘・・・。この国が変わる、その、時の鐘よ・・・。」
フロレンスはクレオナの言葉を聞いて、涙をこらえた。
「そうね。終戦ね。これから、この国はどうなるのかしら?」
「フロレンス、わたしたちは生き抜くのよ!そして、生きて生きて、誰も不幸な死に方をしない世の中になるといいことを願いながら、患者さんたちを救うのよ。」
「それって、平和な世?」
「そう、そうよ!わたしたちは皆、ちょっとずつその平和な世界を実現していくの。わたしたちがこれからも生きてお互いを愛し合えるために。」
「そうね。それがこれからの世の中の在り方になるのかもね。クレオナ、あなたはとても強いわ。」
クレオナはクスッと笑った。
わたしは、戦争が終わっても、必ず戻ると約束した人を待ち続ける。わたしに笑うことを教えてくれた、あの人を待ちながら、この世界を笑顔で生きてみせる。
クレオナはそう、心の中に自分の気持ちを刻んだ。
そして、敗戦を受け入れるクレオナであった。
負けてもいい。その分、多くの人たちが生きれるのであれば、それはどうでもいいことだ。わたしたちは生きる。
新しい生き方を見つけるために。
そしてこれからの人生をまっとうするために。
それに、新しい世代のために!




