第二十三章 冬明けの戦闘
第二十三章 冬明けの戦闘
戦況を覆すために、大きな作戦が軍の本部からイサラ基地へ寄せられた。
冬が明ける頃の出来事である。
インデアル帝国とノードランド皇国の北の間にある、トゥアリス海における大規模な空母での戦闘作戦命令だった。
ほとんどの艦隊を失ったインデアル帝国は、この戦いにすべてを賭ける気であった。
最終局面と言ってもいいほどの決戦である。朝の六時に出航予定であった。
そして空母ロスト・アイランドを含む艦隊は、その出航する時間を待った。
乗組員にはファレアもエイジスもいた。
空母三隻と戦艦五隻は、駆逐艦十隻とともに、トゥアリス海の沖合いを目指して出航し、長い旅となった。
各艦に戦闘機五十機を乗せた空母たちは、軍港をあとにする。
しかし、この戦闘はあまりにも無謀な作戦で行われていたため、のちのトゥアリス海戦という名で知られる、とても悲劇的な戦闘へと入っていくのであった。
なぜ、先に悲劇的と記したのかというと、今後、インデアル帝国が進む道は悲しくも、戦況がますます悪くなる一方なのに耐え切れず、嘘の信念のもとに、まるで狂気としか言いようのない戦闘へと突入し、どんなにノードランド軍の攻撃に戦意を削がれようとも、引き際のタイミングすら失っていった国へと変わっていくことを、前もって偽りなく記したいからだ。
この先、インデアル帝国軍は、ノードランド軍を倒す力をどんどん失っていく。
敗北が続いたせいもあって、戦況も変えられぬまま、その後の無謀な作戦だけがそれでも続き、常に戦いは負け戦となっていった。しかしそれでも、戦力も人員も減っていく中、徴兵もさらに著しくなり、非戦闘員すら兵士として、手に武器すら持たされずに戦場へと送り込まれ、多くの死者だけを残して、すべての作戦は失敗に終わる。死んだ者の数はついに百万人を越えた。
その第一戦が、この空母による戦闘だった。
戦況は国民の期待を大きく裏切る展開となり、それを記すにはとても描ける作戦ではなかったのである。
冬明けのすべての戦争は、完全なる敗北しか知らない結果となった。
それでも狂気は尊い人間の命をたくさん奪い、国同士が互いの人間を殺し合い、なすすべもなく負け戦の血を流していく一方であったのである。
戦う者の意気込みは次第に薄れていき、死んだも同然の戦闘機や空母、戦艦などが、ただただ海に沈んでいくだけとなった。
これが敗戦の一ヶ月前のこととなる。
戦争で笑って盛り上がれることなど何一つないということだけは、ここに記しておこう。
戦争はすべてを裏切る。
そして、人々のつながりを断ち、道理を失い、それでもどこまで戦えば終わるのかもわからない結果となった。
エイジスは、戦闘機チェリー・ブロッサムで多くの敵パイロットを、敵の戦闘機とともに海に沈めた。
彼の武勲は上がる一方で、ほかのパイロットたちは空中戦の末に、撃墜されていく。エイジスが船旅の間に仲良くなれた戦友たちは、すぐに始まった戦闘により、戦死した。
敵はまさに大艦隊を率いてインデアル軍に立ち向かっていたのである。
その数はインデアル軍の兵力の倍に等しかった。
これでは勝ち目はなかったのは誰が見ても明らかである。
しかし、ラトゥーヒ総帥の名のもとに、インデアル軍はこの戦争だけは続けなければならない。
その思想だけのために、戦いはずっと行われ続けているのだ。
海戦は二十時間もの間、行われた。
損失はすでに、ものすごいものとなっていた。
戦艦は二隻とも、敵に撃沈されている。
空母も一隻は大破していた。
駆逐艦の数は六隻にまで減っている。
艦が沈んでいく中、漏れだした燃料のガゾリンや重油が海に流れ込んでいるのが、海面を見てわかった。
インデアル軍の戦闘機の編隊は総崩れで、数度の空中戦により、全部で百五十機だった戦闘機の数が、すでに六十六機にまで減っていた。
敵の大艦隊の火力は圧倒的で、静かに、しかしジワジワ、そしてゆっくりと戦況が変わっていったことに、インデアル軍は気づくはずもなかったのだ。
これは、ノードランド皇国軍が開発に開発を重ねてきた最新鋭の戦闘機アザミの登場によって、戦局が一変してしまったのである。アザミはチェリー・ブロッサム機以上の攻撃力を持っていて、その戦闘力が功を成していたのがノードランド軍にとっての大勝利へと導いていたのだった。。
しかも、海戦に現れたアザミの、その数は二百機以上であった。
これでは勝負にならない。
今や、エースパイロットの仲間入りをしたエイジスでさえ、互角に戦えるか否かの瀬戸際だったのである。
そんな中で、エイジスは本当によく戦った。
エイジスの腕が艦隊の半分を守ったとも言える。
しかし、ノードランド軍は圧倒的な戦力を持って、進撃してきた。
インデアル軍はこの戦闘により、撤退を余儀なくされたのである。
そして、戦況はこれからどんどん悪くなり、悲劇的な展開へと進んでいくのであった。しかしそれは、のちの歴史が語ることであり、今現在の戦いにおいて、これから、ただの狂気が戦争というものに歯止めを失わせるということに、気づくことすら許さなかったのだ。
エイジスは戦うたびに顔つきが変わっていった。
そう、戦闘機で敵をたくさん殺すだけの殺人マシーンのように。




