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ハナノナ  作者: あばたもえくぼ
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第二十一章  クレオナの行動

  第二十一章  クレオナの行動



 すぐに野戦病院には知らせが届いた。敵の攻撃目標になっているという情報だ。病院内の通信機がイサラ基地からの警告を聴いたのだ。

そして、戦闘機部隊が援護してくれるように連絡が来たのは昼前のことだった。

その話を受けて、サイレンが鳴る。

突然のサイレンの音に、病院内が騒然となった。

アナウンスが入る。

『病院内にいる者たちはすぐに外へ避難しろ!繰り返す。病院内にいる者はただちに外へ避難しろ。これは演習ではない。』

その放送は外にも響いた。

「テントにいる者はすぐに外へ出るんだ。負傷者には手を貸せ!すぐに病院から離れるんだ!急げ!」

軍人があわただしく叫びながら走り回っているのを見て、クレオナは何事かと聞きにいった。

「どうしたんです?」

「衛生兵、ここに敵軍の爆撃が行われるとの情報が、さっき入ったんだ。すぐに患者たちを連れてここを離れるんだ。緊急だ。車両を出させるから患者を皆、荷台に乗せろ。乗せられるだけ乗せるんだ。ドクトルエッグ部隊はしんがりを務めてくれ。急げ!」

「は、はい!」

クレオナはすぐにドクトルエッグ部隊の者たち全員に声をかけて回った。

「皆さん、早く避難してください!ここは危険です。救急車両に乗って移動します。ここを離れて、できるだけ遠くへ!フロレンス、誘導は任せたわ!ほかの者たちは患者さんに手を貸してすぐに移動させて!わたしがしんがりになってギリギリ最後までここに残るから!」

「わかったわ!あなたも気をつけてね!」

フロレンスは外のテントにいる全員を誘導して、並べられた軍の車両の荷台に多くの負傷兵たちを乗せる指示を出した。

クレオナは、病院内の人たちを外に出すのを手伝い、最後の一人が避難できるまでくまなく回った。

 タァーロはそんなクレオナのことをつゆ知らず、誘導されるままに車両の荷台に乗った。だんだんすし詰めになる荷台。

「どうしたんだ?避難って、ここがヤバいのか?」

「敵の爆撃隊がここに向かっているそうだ。遠くへ避難するのだと。」

そばにいた負傷兵がそう言った。

「本当ですか?大丈夫かなぁ・・・。」

「まだ攻撃をされないうちに、みんなで逃げるのだと。」

「敵の爆撃機の姿はまだ見えないけどなぁ。」

「見えたら、もう終わりだよ。狙い撃ちにされるだけさ。」

「そうですね。」

車両が順番に走り出した頃、遠くから飛行機の爆音が聞こえてきた。

爆撃機の編隊がやって来たのだ。

遠くの空に黒いつぶつぶが見えた。

その数はおよそ三十機。重爆撃機ばかりだ。

「来ました。ここまであと十五分ぐらいですよ。」

「ああ、すぐに病院を離れないとな。」

反対側からも爆音が聞こえた。

インデアル軍の編隊だった。

「見てください、応援部隊が来ましたよ。これはここまで来る前に空中戦になりますね!」

「ああ、流れ弾に当たらないといいがな。」

「大丈夫ですよ。その前にここを離れられますから。」

タァーロの乗った車両は、最後に出るようだった。

まだ運転手が乗っていない。

ドクトルエッグ部隊もこの車両に乗ってくる。

「もうこれで最後?」

乗ってきたフロレンスに尋ねるタァーロ。

「これでもう、ほとんど乗ったわ。あとはクレオナが最終確認をして終わるだけよ。彼女を待ちましょう。」

「運転するのは?」

「えっ?」

フロレンスは運転手がいないことに気づく。

「もう、来てるのだとばっかり・・・。運転手はもうここにはいないわよ!」

「え?そうなの?ってことは、この車両を動かせる人はここには誰もいないってこと?」

そうこうしているうちに、クレオナが走ってきた。

タァーロは車両を降りてクレオナのところへ来る。

「クレオナ、大変だ!この車両には運転する人がいない。」

「えっ?」

クレオナは驚く。

その間に、上空ではすでに空中戦が始まっていた。

急降下する戦闘機が地上スレスレを飛んだ。

ものすごい風が舞う。

そのまま立ち往生する車両。

上空からは、無造作に爆弾が落ちてくる。

狙いが定まっていないため、逆にどこへ爆弾が落ちるかわからなかった。

炎の塊があちこちから激しく吹き出して爆発する。

機銃の流れ弾も飛んできた。

辺り一面が戦場と化す。

早くここを離脱しなければ、巻き込まれるかもしれなかった。

「タァーロ、ここはもう危険よ。わたしが運転するからあなたは助手席に乗って!車を動かして逃げるのよ!」

「えっ?僕たちで?君が運転してかい?」

「そうよ、それしかないわ。早く!」

そう言うと、クレオナは運転席へと飛び乗った。エンジンをかけるために鍵を探す。

タァーロも助手席に乗った。焦っているクレオナの姿が運転席にいた。

「どうしたの?」

「鍵がないのよ。どこ?」

タァーロは手を伸ばし、クレオナの座る座席のお尻の下を手でまさぐった。

「きゃっ、ちょっと!」

クレオナがお尻をどかすと、タァーロは置いてあった鍵を手に取った。

「あったよ。」

クレオナは鍵をもぎ取ると、エンジンをかける。

深く息を吸って、ギアを入れるとアクセルを踏んだ。

突然、車両はスピード全開で動き出す。

タァーロはびっくりした。

「クレオナ、運転はどこで?」

「お兄ちゃんからこっそり教えてもらったの。ごめん、もう黙ってて!」

車が走り出してからすぐに、病院は爆撃を受けて、建物の一部が欠けた。破片が辺りにバラバラと飛び散る。病院は黒煙を上げた。

そして、車両の周りにも爆弾が落ちて、爆発が起こる。

車両を動かしていなかったら、すでに全員の命が終わっていた。

しかしまだ、ゾッとするのは早かった。

爆撃機からの機銃掃射が地上を襲う。

土の柱が一直線に立ちのぼった。

落ちてくる撃墜された爆撃機も地上に墜落してくる。

もうここは、危険きわまりない場所となっていた。

クレオナは無我夢中で車両を動かした。

スピードはすっと全速力だった。

乗っている人は皆、車両の動きに振り回される。

「クレオナ、ハンドルはそのままにしておくんだ!まっすぐ走ってくれ!」

「わかってるわ!」

戦場を車両は駆け抜けていった。

ようやく流れ弾の届かない場所へと移動できた車両は、ゆっくりと減速していく。運転の要領が解ってきたようだ。

タァーロがハンドルを握るクレオナに声をかけ続けていたこともあって、クレオナのテンションも少しずつ落ちていった。

気持ちが整うクレオナ。

「大丈夫?」

タァーロはクレオナに言う。

「ええ、大丈夫よ。でもこれからは運転は控えるかも・・・。」

「そうだね。それがいいと思うよ。僕も死にたくはないからね。」

「何か言った?」

「いや、なんでも・・・・・。」

タァーロは助手席にあった地図を見つけて広げた。

「ここから北西の方に行って。三十キロ先に別の病院がある。」

「わかったわ。ありがとう。」

車両は方向を変えて、ひんやりした広野をずっと走っていく。

うしろでは、爆発音が耐えなかった。

空中での戦闘は、まだ空でずっと続いていた。



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