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生まれ変わったのですよね?  作者: セリカ
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94 欠点


 リックさんに案内されて進んでいるのですが、こちらの方角はまだ探索していない地区なのです……同時にあの騎士達が徘徊している地域なのです。

 今の私は見た目は男性に近い姿なので気づかれないとは思いますが、少々心配です。

 あの時は、彼等もかなり酔っていたし、私を舐めてかかっていましたから、あのような事が出来ましたが、彼等はレベル200前後の者達でしたので、まともに戦えば恐らく私も苦戦するかと思います。

 ノアさんの言われる通りに敵対する者は殺してしまえば良いのですが、私にはまだ人を殺す覚悟が出来ていないのです。

 初めから、魔法で勝負を決めてしまえば、防がれない限りは負けないと思いますが、その時は確実に殺してしまいます。


「カミラ殿、何かお悩みでしょうか?」


「こちらの地区はアルカードさんに警告されていた地区なので、彼らに遭遇したらと考えていたのです」


「ふむ、あの者達はカミラ殿よりもレベルは高いのですが、先に魔術で殲滅してしまえば問題ではないと思いますぞ?」


「それは考えましたが……私は人を殺したくないのです。いえ、その覚悟がまだないのですね……」


「なるほど、それでは私が始末をしてしまいましょうか? あのような穢れた魂の持ち主達は、早めに消した方が良いかと思います」


「いえ、自分で蒔いた種なので、自分で何とか致します。それにアルカードさんに戦ってもらった事をシノアに知られたくないので……」


「ふむ、そう仰るのでしたら、私は手を出しません」


「アルカードさんの申し出はありがたく受け取っておきます」


 ここでアルカードさんに任せてしまうと、きっと敵対した者が全て殺されてしまいます。

 それにシノアに知られたら、何かあったら自分も戦わせると言い出すに決まっています。

 サテラさんに同意している訳ではないのですが、アルカードさんの力を自分の物と勘違いをして、全て任せてしまうようになってしまう気がするのです。

 私は、決して駄目とは思わないのですが、ノアさんから、なるべく甘やかさないように言われているのです。どうしてなのかは教えてもらえません。

 シノアは、一度認めれば、必ず直ぐに約束なんて破るに決まっていますので、徹底しないといけないのです。

 しかし……それでも必ず何かしでかすので、私は頭が痛いのです。



 進むと程なく居住区かと思われるところに来ました。まだ夕方なのですが、人通りが少ないです。

 たまに見かける方を見ると、亜人の方が多めです。

 どうも、この地区は色々な亜人の方が住んでいる地区なのだと思います。

 私はシノア程ではありませんが、マナである程度の気配と相手の纏うマナの大きさも、ノアさんのしごき……いえ、特訓のお蔭で少しは感じられるようになりました。

 遭遇はしていませんが、私よりも強いマナの気配がします。あの者達ではない事を祈るばかりです。


「ここが俺の家なんだ。ちょっと待ってくれ。母さん、いま帰ったよ」


「おかえり、リック。それで……一緒に居ない所を見るとあの子は駄目でしたか……私が気付いていれば……それで、そちらの方達はどなたなのでしょうか?」


「ナオは大貴族のお嬢様が俺の代わりに何とかしてくれたので、無事だから安心してくれ。それとこちらの方は母さんの病気を見てくれるので、お願いして来てもらったんだ」


「あの子が無事なら、安心しました。その貴族様はどんな方なのでしょうか? このような姿で申し訳ありませんが、私はナリアと申します。そちらの御方も見た所貴族の方と思いますが、私共にはお返し出来る物はありません……」


「私は、いまはカミルと申します。私共の主は、困っている人を見逃せないだけなので、お気になさらないで下さい。それでは、アルカードさん。この方を診てもらえますか?」


「ふむ、娘さん。少々失礼しますぞ」


「私が娘さんだなんて……大変失礼なのですが、貴方様を見ていると年甲斐も無く胸が高まって来ます……病人なのにこんな姿を見られるのは何故か恥ずかしい気がしてきます……」


「母さん、何だか顔が赤いんだが熱でも出たのか?」


「アルカードさん、何か力でも漏れていませんか?」


「ふむ……抑えてはいるのですが、何故かこの娘は敏感になっているようです。申し訳ありませんが、腹部の方に何か仕込まれている感じがしますので、直接触れたいのですが宜しいでしょうか?」


「あ……私の体で宜しければ好きになさって下さい……寝たきりの体なのですが……宜しければそのままお情けが……」


「!? 母さん! 何を言っているんだ!」


「リックさん、落ち着いて下さい。アルカードさんも診察だけして、治せるのでしたら、治して下さい」


 私には何も影響は無いのですが、まるで宿屋の娘さんと同じかそれ以上な感じになっています。

 この方は淫魔の呪いでも受けているのでしょうか?

 しかし、私はシノアの眷属で良かったです……もしも、眷属ではなかったら、今頃はアルカードさんに身も心も捧げていたに違いありません。

 キャロさんに聞いたのですが、長い時間を近くに居ると、どうしても目が離せなくなってしまうそうなのです。

 一度、地下の掃除を一緒にしばらくしていたら、どうしょうもなくなって、その晩は大変だった事があったので、長時間の行動は避けているそうです。

 これが女性のアルカさんの時でも同じらしくて、かなりの被害者が出ているそうです。

 恐らくですが、この方は何らかの呪いで精神への抵抗値が著しく減っているのか、亜人の方だからなのでしょうか?

 アルカードさんが腹部を触って何かしていますが、どう見ても診察しているとは思えませんね……。


「原因は取り除きましたので、回復すると思います。取り敢えずこれを一杯飲んで下さい」


「あ……えっ……もうお終いなのですか……これを飲めば宜しいのですね……」


 ……完全に蕩けた表情をしています。リックさんは複雑な表情をしていますね……。

 渡された物を飲むと、顔色が良くなってとても健康な感じになりましたが、何を飲ませたのでしょうか?


「ありがとうございます。久しぶりにとても体が軽く感じられます。そして、年甲斐も無くお恥ずかしい姿を見せてしまい申し訳ありませんでした……いまは何ともないのですが、貴方様を見ていると自分が抑えられなくなってしまったのです……それにしても今飲んだ物は何だったのでしょうか? ここまで体調が回復する薬などは聞いた事は無いのですが?」


「ふむ、触媒を取り除いたので体の方は問題無いかと思います。貴女は元々の身体能力が高いので、いま飲んだエリクサーもその少しの量で十分に全快出来た筈です」


 いまのは神薬だったのですか!

 あんな少しだけで、あれ程の効果があるのですか!

 

「いま私が飲んだのがエリクサーと聞こえましたが……話にしか聞いた事の無い神薬だったと思いますが!?」


「ふむ、これですが、我が主から1本預かっていました。使い道が無いので、役に立つのなら好きに使って良いと言われていましたから、少し使いました。確かに現在は作り出せる者がいないので数は限られていますな」


 まさかそんな貴重な物を飲んだとは思わなかったので、ナリアさんがとても動揺しています。

 初めて見ましたが、とても神聖な感じと凝縮されたマナを感じます。

 確かにアルカードさんには不要な物ですが。すると残りはセリスさんが1本とシノアが2本持っている事になります。

 本当はもう1本あったそうなのですが、シノアが美味しいと言って飲んでしまったらしいのです……そんなすごい物なのだと分かってはいますが、私も何故かとても美味しそうに感じるのです。恐らくですが、マナに変換される比率がとても高いので、とても満たされるのでしょう……私も少しだけ飲んでみたくなって来ました。


「申し訳ございません! 私のような者にそのような高価な物を使わせてしまい、どうやって償えば良いのか分かりません。どんな事でも致します!」


 ナリアさんは、ベットから降りて床に跪いてしまいましたよ!

 さっきまで、寝たきりの病人だったのに、まるでアイリ先生の得意技を披露するぐらいの反応です!

 私も神薬としての知識しかありませんが、普通の人達にはまず手に入らない物です。


「ふむ、ナリア殿でしたな? お顔を上げて下さい。今の貴女を即癒すにはこれが一番良い方法でしたので、問題はありませんぞ? それにシノア様の錬金魔術が強化されれば、同じ物を作る事は可能になると思いますので、いま使い道がある物は使ってしまった方がこの薬を作った者も喜ぶと思います」


「しかし……」


「貴女の子供達もエルナ殿に仕えると申しておりましたので、貴女も仕えませんか? 貴女はレベルも高いので、護衛もこなせると思います」


「エルナ様と言われるのは貴方様の主様なのでしょうか?」


「我が主はシノア様と申します。エルナ殿はシノア様の従妹となっております。貴女の娘のナオ殿はエルナ様に仕えると申しておりましたぞ」


「分りました。ですが私は貴方の主のシノア様にお仕えする事にします。娘はエルナ様に救ってもらい私は貴方様に救ってもらったのですから、そうしたいと思います」


「ふむ、お会いした事も無いのにシノア様に仕えたいと思う事は大変素晴らしい事だと思います。エルナ殿を宿で待たせていますので、用意が整いましたら向かいたいと思いますが、宜しいでしょうか?」


 あの小悪魔に仕える事が素晴らしいなどと思っているのはアルカードさんだけです。

 私が少しでも隙を見せると、必ず何かして来るので、私は油断が出来ないのです。

 しかも、今では誓約魔術が昇華されてしまった為に、私の自由は完全に消滅しました……思考が読まれないだけましなのですが、シノアがその気になれば私の口から直接話させる事が出来るのに、強要しないで何とか私に自主的に喋らせようとするのですから始末に負えません。


「母さんの為にそんな貴重な物を使ってくれて俺からも改めて感謝する。特に大した物はもう無いから、母さんが着替えたらすぐに戻ろう。ナオの身請け金を作るのに金目の物はみんな処分してしまったから大した物は無いからな」


「それでも荷物があるのでしたら、必要な物は私の収納に入れて行きます」


「あんたは収納持ちだったのか……しかもそれだけいい女なんだから、さぞ重宝されそうだな」


「リック、その方は女性だったのですか? 男性にしては女性に近い感じがするとは思っていましたが……」


「取り敢えず今の私の設定は男性らしいので、国に帰るまではエルナ様に従って下さい。それでは用意が出来るまでお待ちします」


 それから二人が荷物を纏めている間に少しアルカードさんに話を聞いたのですが、元々エリクサーを作り出したのは救済の女神エリシアスと呼ばれる方だったそうです。

 その方は覇権争いはせずに、傷付いた者を助ける薬を作り出す為に錬金魔術を昇華させて、あらゆる薬を作り出したそうなのです。

 当然ですが、そんな物を作り出せば戦争に利用されるだけなのです。自分が正しいと思った者にだけ渡していたそうですが、秩序の女神ヴァリスに騙されて捕らえられた後に殺されてしまったそうです。

 アルカードさんの話によれば、彼らは創造主の力を超えなければ2つだけ己が望む能力を得られるそうなのです。

 そして、その能力を使い切ってなければ、倒した者がその回数を得る事が出来るそうなのですが、初期の者以外は全て使い切っているとの事です。

 ですが初期の時にその力を大量に手に入れている者がいればかなり有利な力を複数持っている事になります。

 恐らくですが、魔王ザインは最初に魔王を名乗ったのですから、確実に複数の力を所持しているに違いありません。

 アルカードさんは女神ヴァリスとも面識があるらしいのです。秩序などと名乗っていますが、欲望の女神の方が相応しいと言ってます。

 民衆に自分を崇めるように指示しているらしく、少しでも意に沿わないと濡れ衣を着せられて、女神の名の元に公開処刑もされる事もあるそうです。

 エルナ様と街で探索や買い物をしていた時も「女神ヴァリス様のお導きが有らんことを」などとよく言われましたが、余計な事を言わなくて良かったです。

 そんな話を聞いたら、早くこの国から離れたいと私は思いました。



 荷物を預かって、リックさんはともかくナリアさんまでも冒険者のような軽装の恰好をしているのですが……。


「あの……ナリアさんのその姿は……」


「私も昔は冒険者を生業としていましたので、その時の物なのです。今は持っていませんが、多少でしたら、剣を扱う事が出来ます」


「母さんは現役の頃は強かったから、剣の基礎は教えてもらったもんだ」


「そうなのですか……では、この剣を差し上げますので、護身用に持っていて下さい」


 ナリアさんは身嗜みを整えるとカチュアさんより少し年上と言った感じに見えます。

 私の剣を受け取った手を見てもとても綺麗な手をしています。

 エリクサーを飲む前は生活感のある手をしていましたが、十分にシズクさんのコスプレの標的になりそうな体になってしまいましたね……特に耳と尻尾がシズクさんの興味の対象になるに違いありません。

 男性のリックさんの年齢は24歳で年相応に見えるのですが、女性のナリアさんがとても53歳とは思えません。

 妖狼族の方達は人と違って、特に女性は年齢詐称が出来そうです。


「中々良い剣と見ましたが、宜しいのでしょうか? それにカミルさんの武器が無くなってしまいますが?」


「問題有りません。私は剣など使えませんので、それは変装用のただの飾りです」


「これが飾りなのですか? 私が使っていた物よりも軽くて使いやすい剣なのですが……」


「話が纏まりましたら、そろそろ移動した方が良いと思いますぞ。先ほど解呪した事は術者に気付かれていると思いますので、何者かがこちらに向かっているかと思います」


「アルカードさん、それは本当なのですか!? どうして、教えて下さらなかったのですか!」


「ふむ、特に大した者が来るとは思っていなかったので、気にしていませんでした。可能でしたら、術者本人が確認にでも来たら都合が良いかと判断しました」


 それは、アルカードさんから見たら全く脅威にならないからです!

 万が一ですが、テンプル・ナイツと呼ばれる者達に近い者達が来たら私は苦戦は免れません。

 この数日の探索で分かった事は、この国の平均レベルが私達の国よりも高いのです。

 奴隷市場で、この国の使徒を見かけましたが、レベル1500以上もありました!

 それ以外にも、使徒では無い者にレベル300以上の者がいたのです!

 私が見かけたテンプル・ナイツの者で隊長クラスの者もいましたが、使徒でレベルは800以上もあるのです。この女神の直属の騎士団の規模はかなり大きいらしいので、身分によっては他にも高レベルの者がいるはずです。

 私があしらった者達もレベル200前後なのですから、まともには相手にしたくありません。


「とにかく関わる前に早く戻りましょう!」


 そう思って外に出ると、丁度何人かの者達が居ます。1人だけレベル700以上の者がいます!

 

「よう、リック。一体どこに行くんだ? しかも、ナリアもいるし、あの状態からどうやって回復したんだ? 通常では考えられないんだがな?」


「ロルド……貴様、それはどう言う意味だ? まるで母さんの病気の原因を知っていたみたいな口ぶりだが?」


「知ってどうするんだ? それよりもお前の妹がえらい高値で売れたらしいが、良かったら俺が買い戻してやろうか?」


「貴様が騙して売り飛ばしたくせに何を言っているんだ! 今は良き方に仕える事になったから、貴様なんぞには世話になんてなるか!」


「どこかの金持ちの娘としか分からなかったが、お前なら知っていそうだな? それともナリアが回復した事にも関係もあるのか?」


「そんな事を知ってどうするんだ?」


「ちょっと気になっただけだ。それよりもどうしてナリアが回復しているかの方が気になるな……普通の医者程度には絶対に治せない筈なんだが?」


「やはり貴様が母さんに呪いでも掛けたのか!」


「俺じゃないぜ? 兄貴にちょっと入れ知恵しただけだぜ?」


「まさかオズマ様が!?」


 ロルドと言う者の背後にいたフードを被った者が前に出てきましたがこの者も使徒です!

 

「ロルド、余計な事を喋るな」


「オズマ様……嘘ですよね? 母さんの為に医者も手配してくれたのに……まさかですが、あの医者もグルなのですか?」


「困った物だな……そろそろ私を頼って来たら、解呪して回復させればナリアも私の方を見てくれると思っていたのに」


「オズマ様は、そこのいけ好かないロルドの野郎とは違うと思っていたのに……何故そんな事を……しかも妹にまで……」


「私は、ずっとナリアに惚れているのに、どんなに私が好意を寄せても私のものになってくれないからだよ……ネルソンを事故死に見せかけて殺したのに、私を拒んで退職して館から出て行ってしまうなんてショックだったよ。ナオの事はロルドが欲しいと言うから、好きにすればいいと言っただけだ」


「オズマ様……貴方様はクレオビス伯爵家の次期当主様なのですから、私の様な者とは釣り合いが取れませんし、旦那様も獣人の未亡人など決して認めはしません。それにあの人を事故死に見せかけたなんて……たまに会った時にナオの事を可愛がってくれていたのにどうしてなのですか?」


 ナリアさんが信じられないような目で話しています。この者の家に仕えていたのでしょうか?


「ネルソンが私の家庭教師の分際でいつの間にかナリアに産ませた子など到底許せなかったし、近い内に式を挙げたいなどと言うから、その前に始末しただけだ。幼い頃に助けられて以来、隣に立てるように努力して、使徒にまでなったが……もうこうなっては力づくで私に従わせるしかないな。ナオの事を可愛がっていたのは、少しでも私の心象を良くする為で、それ以外に興味はない」


「オズマ様の為に良かれと思っていたのに残念です……ですが、今のお話を聞いた以上は私は貴方を許す事は出来ません。旦那様には拾って頂いた恩義がありますが、ここでオズマ様の教育をし直す事でお返ししたいと思います」


「昔の私と思っていたら大間違いだぞ? 逆にもう剣など持てないようにして、私の事以外は見ないように教育するのも仕方ないな」


 ナリアさんが剣を抜いてしまいましたがあのオズマと言う者はレベル510もあります。

 ナリアさんのレベルは178と普通に考えれば高いのですが。私の見た感じでは技能的に有利かと思いますが、この差は埋めれるのでしょうか……。


「仕方ないから、リックの相手は俺がしてやる。お前達は残りの2人を捕らえておけ。ナオを買い取った奴の事も知りたいからな」


「貴様にはナオの借りがあるから、丁度良いのでぶっ殺してやるよ! どうせこの国からは去るのだから今までの借りもついでに返して置くぞ!」


「未だに力の差が分らんとは、死なない程度に遊んでやるから感謝しろよな?」


「黙れ!」


 2人がそれぞれに剣を交えると、私達の前には4人の騎士が立ち塞がるのですが、この者は!


「お前はよく見れば俺に恥を欠かせてくれた女に似ているが……」


「私は貴方など知りません」


「その声は間違いないな! 男装などしているがようやく出会えたな! あの時は酔っていて舐めてかかったから、あのような醜態を晒したが、今回はそうはいかんぞ!」


「ふむ、カミル殿。私もお手伝いをした方が宜しいかと思いますが、どう致しますかな?」 


 そろそろ、そのカミルと言う名前はもう良いと思うのですが……シノア達に感化されているのか知りませんが、アルカードさんも設定には素直に従うのですよね。


「私には手出しは無用で構いませんが、ナリアさんとリックさんの方は、危なかったら少しだけ助けてもらえると助かります」


「畏まりました。それでは少し観戦させてもらいます」


 そう言うと屋根の上に移動しましたが……何の動作も無く飛び上がるのは不自然過ぎると思うのですが……。


「なんだ、あの野郎は……まあいい。まずはお前からだが、あの身のこなしはかなり出来るはずだから、包囲して無力化させるぞ!」


 前回の動きで私の事を警戒していますが、この者達は全員が私のレベルを上回っています。

 本来の身体能力的には私はかなり不利なので、大きな攻撃をもらってしまうとかなり不味いのです。

 私はシノアのように痛みに耐えながら攻撃などは出来ないので、少しの怪我でしたら問題無いのですが、足が止まってしまったら恐らくは勝てないでしょう。

 相手は本職の鍛錬された戦士なので、私の俄仕込みの攻撃がどこまで通じるのか……。

 何とか防御に徹していて、隙を見ては攻撃をしていますが、あちらも本気なので、しっかりと防がれてしまうし、4人で連携して攻撃をしてくるので、躱すのが精一杯です。

 私に速度強化の魔法でも使えれば、もう少しはましなのですが適性が無いので使えません。

 何とか相手の剣を受け流していますが、まともに受けると受けきれないので、自分の小剣にマナで風を纏わせて何とか受けているだけです。

 躱し切れない攻撃をあちこちに受けて斬られています。痛みの激しい所は『キュア』を使いながら治癒していますが、私には複数の魔法の維持が出来ないので、マナを攻守に切り替えながら癒しています。しかし、これではマナの効率も非常に悪いので、このままですと私のマナが尽きるのが先になってしまいます。

 ダンジョンではセリスさんの支援があったし、地下神殿のゴーレムは初見で倒してしまえば変化が少なくて済むので無理なく倒せましたが、今回のような熟練の戦士と戦うのは私には厳しいようです。

 今は、この体が疲労をしないのが唯一の救いです。

 普通でしたら、私はとっくに疲れて足が止まっている所です。

 私はみんなの中で、一番マナの保有量が少ないので、長期戦には向いていないのです。

 シノアには後方支援に徹するなどと言いましたが、実際は前に出て戦うとマナの消費が追いつかないので、前衛を務めるのは不向きなのです。

 ノアさんからも、いくら能力を上げてもレベルが上がらないとマナが枯渇気味になるので、早期に行動不能になるから、前に出るなと釘を刺されているのです。

 リックさんとナリアさんを見ると、リックさんは完全に遊ばれている感じでボロボロにされているし、ナリアさんも動きは良いのですが、何故か攻撃が当たらないのです。まるで行動が読まれているような感じであしらわれています。

 アルカードさんは上から見ているだけですが……2人は大丈夫なのでしょうか?

 そんな事を考えていたので、正面の攻撃をまともに受け止めた時に足を切られて、痛みでバランスを崩した時に背中を斬られました。傷が深くて私には声を出さないのが限界でした。


「中々の動きだったが、ようやく大人しくなったな! しかし、俺達を相手にここまでやるのには驚いたが、その傷で悲鳴も上げないとはたいした物だな。ついでに邪魔な物も切れたから、女らしくなったな。調教し甲斐のある反抗的な良い目をしてるな」


「……集中力を欠いてしまったのは失敗でしたね」


「その状態で、そんな口が聞けるとは大したものだな!」


 背中が燃えるような熱を持って痛いです!

 切られた足の方も骨までは行っていませんが、普通でしたら立つのは不可能です。

 シノアやセリスさんがこんな痛みに耐えて行動出来るのには尊敬します。

 全力で表面以外は治癒していますが、私にはセリスさんのような速度の回復は出来ないので、深く斬られてしまうと時間が掛かるのです。


「まあ、お前には先日の借りがあるからな。おい! 剥いてから縛り上げるぞ!」


 野蛮な男性とは女性を辱める事が好きですね。

 こんな者達が女神の直属の騎士だなんて、この国は腐ってます。

 傷の痛みで私は思うように動けません。こんな事でしたら、アルカードさんの忠告通りに殺さないにしても魔法で戦えば良かったです。

 もしかしたら、殺してしまうのではないかと思って使いませんでしたが、私に人が殺せないのは致命的なようです。

 ノアさんにも散々言われてましたが、私にはどうしても出来ないのです……。


「ここまでのようですな」


 私が諦めているとアルカードさんが私の前にいます。


「なんだ貴様? さっさと上で高みの見物をしていたのに、今更何の用だ? 見た所、ただのひ弱そうな執事のようだが?」


「ふむ、何年経ってもこの国の騎士は下品ですな。戦争が遠のいて少しはましになったと思ったのですが、変わりませんな」


「何だと! 栄光ある我らテンプル・ナイツを侮辱するとは生かしてはおかんぞ!」


「御託は良いので、さっさと攻撃してきて下さい。戦闘は控えるようにしていますが、降りかかる火の粉を払うのは問題有りませんからな」


「ふざけやがって! 死んで後悔しな!」


 4人の騎士がアルカードさんに襲い掛かったのですが、全ては一瞬に終わってしまいました。

 正面にいた者はアルカードさんの影があっさりと手足を斬り飛ばして、相手の頭を掴んでいます!

 残りの3人も影に胸を貫かれた状態ですので、恐らく即死していると思われます。

 あの魔法は、シノアが近距離の魔物に使っていた影の槍の『シャドウ・アンカー』と呼ばれる魔法だと思います。制御が出来ればあれ程の同時攻撃も出来るとは、とても初級闇魔術に分類されている魔法とは思えません。

 私達の時とは全く違う戦い方ですが、ここまで差があったのですね。


「馬鹿な……我らが一瞬で倒されるなんて、化け物か!」


「ふむ、この状態でもそのような言葉が言えるとは、少しは精神面は強くなったのですね? 昔は必死に命乞いしかしないので、とても詰まらなかったのですが、少しは成長しましたな」


「貴様何者だ? 俺達テンプル・ナイツを手に掛けたのだから、生きてはこの国を出れんぞ!」


「ふむ、貴方に聞きたいのですが、ダラスと言う軟弱な使徒はご存知ですかな?」


「第6師団長のダラス様の事か?」


「ふむ、まだ生き残っていたのですか。戦時中は私に必死に命乞いをしていた屑が大層な身分になってますな」


「戦時中だと? ダラス様の事をお前は……あがっ!」


「もう良いです」


 言い終える前に相手の頭を握りつぶしてしまいました。こうして見ると、彼が普段とは違って悪魔である事が実感できます。

 しかし彼等を一瞬で倒すなんて……地下ではかなり手加減をされていた事がわかりました。これ程の力が有るのにシノアに従うのは不思議でなりません。

 ノアさんと戦う事を避けていたようですが、もしかしたら、互角の戦いが出来るのかも知れません。

 それにしても、人の生活も詳しく理解していて、同時にいくつもの事を処理も出来るし、戦いでは圧倒的に強いのですが、古代の悪魔とはみな同じなのでしょうか?

 アルカードさんは、自分以外の悪魔は倒してしまえば良いとシノアに言っていましたが、私にはとても勝てる気がしません。


「大丈夫でしょうか?」


「あ、ありがとうございます。自分で対処すると言っておきながら、助けてもらって感謝いたします」


「あのままカミラ殿が辱められる事は、我が主から何とかするように命じられていましたからな」


「シノアがですか?」


「ええ、先ほどお声が掛けられたので、カミラ殿が暴漢に襲われて困っている時の対処方法を聞いたら、そのような者達は殺せと命じられたのです」


 あの者達が暴漢扱いなのですか……騎士とも認められないのはいささか不憫に思いました。


「そうでしたか……戻ったらシノアにもお礼を言わなくてはいけませんね」


「私には癒しの魔術は使えませんので、申し訳ありませんが自力で癒して下さい。一応は回復系のポーションも預かっていますが、カミラ殿には効果が薄いので、魔術で治してマナを回復した方が良いかと思います」


 そう言うと私に上着を掛けてマナポーションを渡してくれました。アイリ先生ではありませんが、私も危ない所を助けてもらって、このように優しくされては、普通でしたら惚れてしまう所なのでしょうね。

 アルカードさんには抑えきれない魅了の力があるので、こんな事をされたら普通の者は恋に落ちるのは仕方がないかと思います。

 今の姿はシノアが考え出した姿と言っていましたが、この体は本来はシノアの物なので、アルカードさんには好感が持てるみたいなのですが……私のアルカードさんの見る目が変わってしまいそうで怖いです。


「そう言えば、あちらはどうなったのでしょうか?」


 つい自分の方に意識が集中してしまいましたが、私よりもナリアさん達の方が苦戦していると思います。


「ふむ、見ていますので大丈夫です」


 いつの間にかシノアも使っている護衛の盾が2人を援護しています。

 リックさんの方は膝を付いて満身創痍のようです。あのロルドと言う者は2本のマナの剣を防ぐので一杯のようです。

 一方で、ナリアさんの方には2枚の盾があの使徒の攻撃を全て受け止めていますので、いつの間にか立場が逆転しています。

 

「アルカードさんもあの魔法が使えたのですね」


「ふむ、中々便利な魔法なので、生み出した者より魂の代わりに手に入れました。本来は違う用途の魔法でしたが、気付けば戦闘に便利な魔法になってましたな」


「では、本来はどのように使われていたのですか?」


「単純に雨除けと運搬用に生み出された魔法です。物を乗せて運ぶのに便利と言ってました。あの者は少々怠け癖がありましたが、制御が完璧でしたので、形状を変えて自分も運んでいましたぞ」


 この魔法を生み出した方は怠け者なのですか……まさかあれ程戦いに便利な魔法が自分が楽をする為に作られていたなんて想像しませんでした。

 シノアがこの用途を知ったら、同じような使い方をしようとすると思いますが、盾としての制御しか出来ないみたいなので無理かと思います。


「あの者達はカミラ殿に危害を加えていませんのですが、このまま私が始末しても宜しいでしょうか?」


「私はまだ動けないのです。ナリアさん達の意思を尊重して上げて下さい」


「ふむ、畏まりました。それでは少し話をしてきますが、護衛は付けておきますぞ」


 アルカードさんがあちらに向かうと、私を守るように残りの2枚の盾が浮かんでいます。

 今の私は正直に言いますと、痛みで立てないのです。

 自分で癒せるのですが、私には習得が出来る適性はあっても才能が無いので、セリスさんのような速さで癒す事が出来ないのです。

 ましてや背中の傷などは余りの痛さで集中力も欠いてしまいます。深手を負っても行動が出来るシノアやセリスさんを尊敬しますが、シノアに言うと調子に乗るので言えません。

 少しは強くなれたと思っていましたが、ノアさんに言われた通り私は後方支援に徹するのが正しいようです。

 私の最大の欠点であるマナの保有量が少ないのは、この体では致命傷です。

 眷属になってから、レベルもかなり上がった筈なのにマナの保有量は余り増えていないのです。

 私のレベルや能力はシノアに依存しているので、生前のようにマナを使い切っても増えなくなっているのです。枯渇してしまうとシノアと同じように倒れてしまいます。

 シノアもマナの保有量があまり増えていないらしく、逆に魔法や自分の怪我の回復に使うマナが増えたと言っています。あまり強力な魔法を使うとすぐにマナが枯渇してしまうので、控え目にして、今は怪我に関してはセリスさんに癒してもらった方が良いらしいのです。

 唯一の例外のセリスさんだけは、レベルに応じてマナの保有量が上昇しているらしいので、全体のサポートも問題無いそうなのです。

 ノアさんは、私達は魂が違うだけで同一人物とこの世界に認識されていると言っていましたが、個々の差がかなりあるような気がします。

 私は近接戦闘はマナで補強しないとまともに戦えないのですから、少しでも戦いが長引けば行動不能になってしまうし、今の戦いで実感しましたが、深手を負ってしまえばもう立てないなんて……これではシノアの盾になるなんて無理です。

 もう一つの欠点は私にはまだ人を殺す覚悟がありません。

 殺す事を前提にしていれば、もう少しましな戦いが出来たと思いますが……いずれは私も覚悟を決める必要が来るのでしょうね。

 

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