91 カミラのお悩み1
これから、どう致しましょうね……。
エルナ様にお願いされるままヴァリスまで来たのは良いのですが、目的も頭が痛いのですけど、いきなり初日から問題を起こすなんて、明日からの行動も早くも悩ましいのです。
私もつい下品な者達が絡んで来るので、対処してしまいましたが、先ほどエルナ様から聞いた話によると、あの者達はこの国の女神の直属の騎士らしいのです。
鎧など着ていないので、服装でその辺の冒険者と思っていました。ちょっと恥を欠かせたつもりなのですが、当然ながら、私に対して何らかの罪で捕まえようとするのは明白です。
私としては、今すぐにここを引き払って、フェリス王国に帰りたいのです。
いつシノアが戻って来るのか分らないのですから、私としては静かに待っていたいのですが……。
こんな事でしたら、以前にエルナ様がヴァリスの事を言っていた時に、前もってノアさんに詳しい事を聞いておけば良かったのですが。悔やまれますが、まさか本当に来る事になるとは思ってもいませんでした。
一番の問題は、無断でシノアが勝手にどこかに行ってしまうのがいけないのです!
私は、ノアさんに会いに行かなければ、マイナスのポイントが増えてしまうと話してあるのに……最近は、ノアさんの私に対する態度が優しかったのに、きっと次に会うと高確率でお仕置きが待っています。
更に問題なのは、私の理性がいつまで保てるかです。
セリスさんは異常な執着心が増すだけで済みますが、私の場合は……もしもそうなってしまったら、アルカードさんに止めてもらうように頼んでおいた方が良いかもしれません……。
はぁ……取り敢えず明日からの事を考えると頭が痛いのですが……。
「カミラ殿、どうかなされましたか?」
いつの間にか、男性の姿の方に戻ってます。エルナ様がちゃんとお召し物を着て出てくれば良いのですが……。
まずは、アルカードさんにちゃんとお話をしておかないと、せっかく手配をしてくれたのに申し訳ありません。
「アルカードさん……実は先ほど下で食事をしていた時に問題が発生してしまいまして、申し訳ないのですがこの宿を早急に引き払う必要が出てきました」
「ふむ、問題とはエルナ殿が力比べをして、カミラ殿が下品な者達をひん剥いた事ですか?」
「見ていたのですか!?」
「エルナ殿の私物を持って来てから、受付の娘の要望に応えた後にカウンターで伺っておりました」
……殆ど問題を起こした時から居た事になりますが……受付の娘さんの要望に応えるというのは……流石に聞けませんが私の想像で、多分間違いはないと思います。
あの娘さんのアルカードさんを見る目がとても情熱的でしたが。ここを手配した時の事が私も知りたくなって来ました。
それにしても、私が外でしていた事も把握しているなんて、この方の監視能力は凄まじいですね。
「見ていたのでしたらお分かりかと思いますが、この国の女神に仕える騎士に目を付けられてしまいましたので、場所を移すか早急にフェリスに戻る方が望ましいと私は思うのです」
「ふむ、カミラ殿がひん剥いた者達は……」
「済みませんがアルカードさん。先ほどから私がひん剥いたと言うのを連発するのは止めて欲しいのですが……」
「我が主もよくやっていますので、あれは中々面白い趣向かと、私などは感心していたのです。カミラ殿がそう仰るのでしたら、言葉を控えます」
「そうしていただけると助かります」
「私でしたら、その場で殺してしまうのですが、あのような恥を晒させるのはある意味面白いと思いますぞ」
アルカードさんに任せたら、この国の人口が著しく減ってしまうような気がします。
私は単に装備を無力化してしまえば、諦めて帰ってくれるとしか思っていなかったのです。つい衣服も切り裂いただけなのですが、結果的にはシノアと同類と思われてしまったようです。
「私はむやみに人を殺したり傷付けたりしたくないだけなのですが……あれは仕方なかったのです……」
「ふむ、カミラ殿に1つ警告しておきますが、あの手の者達はかえって問題を起こす元になってしまいますぞ?」
「アルカードさんって、悪魔なのに人間の事に詳しいのですね? しかも人間らしい警告をするなんて、私の知っている悪魔のイメージと大違いです」
「長い時間の間に色々な生物を見てきましたが、人間ほど欲望に塗れた者はいません。私を呼び出した者の大半はあの手の輩が殆どでしたので、見飽きているのです。実際は、カミラ殿の思っている悪魔が大半を占めているので、間違ってはいないと思います。私のような個体はただの物好きなだけです」
「お陰様で私は話しやすいので助かっています。人生の先輩に聞きたいのですが、この場合は何が最善なのか教えて下さると助かります」
「ふむ、ここはエルナ殿の好きにさせてみるのが面白いかと私は思っています。気になされていますが、カミラ殿の心配は解決しておりますので安心して下さい」
「何が解決しているのかわかりません。彼らは明日の朝にでも私を捕らえに来ると思うのですが……」
「まず、あの者達はここには二度と近づけません。あの者達の深層意識に別の場所を認識させましたので、そちらを必死に探索する筈です」
いつの間にそんな事をしていたのでしょうか?
私にはアルカードさんの気配すら感じられないのですが、これがレベルの差なのでしょうか?
「そこまで対処しているのには驚きました。失礼ながら、悪魔とはすごい存在なのですね……」
「ふむ、カミラ殿には私がどのように見えますか?」
「それは能力の事なのでしょうか?」
「その通りです」
「私には上位の技能を持ったレベル1000もある強者に見えるのですが、違いますか?」
「カミラ殿はその目の真の力に気付いていないので、そこまでしか見えないようですな。サテラ殿は私の真の姿が見えたからこそ危険視をしたのですぞ?」
「それはどう言う事なのでしょうか? 真の姿とは?」
「ここで教えなくてもカミラ殿には知る事が可能なのでお教えしますが、鑑定できる者が今の私の能力を見た場合、シノア様から頂いた力の範囲内しか読み取れないのです」
「範囲内……すると貴方の本当の力は……」
「お察しの通りです。我らにも力の上限があるのですが、力の譲渡が出来る者と契約をすればその上限を超える事が出来るのです。なぜ余剰レベルなどと呼ばれる力が存在するのか疑問に思いませんでしたか? この世界には強さの限界が決まっているのです」
「では、貴方の本来の力にシノアが譲渡した力が加算されているのですね?」
「その通りです。ですがそのような譲渡が出来る存在は限られています。現時点ではシノア様達を除くと小間使い達しかいません」
それが事実なら、本当なら私達が勝てる要素など始めから無かったことになります。
アルカードさんの元の実力はわかりませんが、確かサテラさんの質問にこの世界の初めからと言っていた筈です……それでは、今のアルカードさんは?
「カミラ殿、そんなに警戒なさる必要はありません。代償として、私はシノア様に従う下僕になっています」
「貴方がその気になれば、他の神や魔王も凌ぐのではないのでしょうか?」
「カミラ殿の予想通り実力は越えれますが、残念ながら、あの者達に手を出す権限が無いのです。我らはあの者達の失敗作とも言えるので、何らかの枷が植え付けられている為に直接攻撃する事が出来ません」
「失敗作だなんて……貴方を見ていると完璧と思うのですが……」
「創造主様から見たら、我らの行いは目に余る物でしたから、次に生み出したのがあの者達なのです。我らと違って、あの者達も最初は従順でしたが、大きな力を持つにつれ少しづつ強い自我を持ち始めたのです。後はそれに気付かなかった創造主様が力を奪われて今に至るのです」
「その様なお話は初めて知りました……ノアさんにはそれ以降の話しか聞きませんでしたから……それにしてもレベルの上限などが存在したのですね」
「創造主様よりも力を付けさせない為でもあり、各種族にもあの者達を越えられないようになっていますが、不老の存在でもない限りは、その上限には達する事はありません」
「では、私の……いえ人族のレベルの上限を御存知ですか?」
「残念ながら、わかりません。人族は長命ではありませんので、その前に死んでしまいます。私が出会った事のある者に、1人だけ使徒にならずに最大レベルが1000を超えている者がいた事を覚えています」
「古の存在のアルカードさんが1人しか知らないのですか……でも普通に考えても、そで領域まで達するには使徒になるしかないですからね」
私が王都で探索した限り、使徒以外では、亜人の方でもない限りはシズクさんの御庭番の4名かダンジョンの90階層に挑んでいる人達しか高レベルの方は見た事がありません。
ギースさん達はあの事件の時にノアさんとパーティーを組んでいたので、一気にレベルが増えたのですが……。
そう言えば、シノアが「人を狩った方が経験値が良い」などと言ってましたが、まさか……。
「アルカードさん……このような質問はしたくないのですが、魔物よりも人を倒した方が良いなんて事はないですよね?」
「ふむ、カミラ殿は良く気付きましたな」
「本当にそうだったのですか!?」
「どこで知ったのかは知りませんが、ある程度の力を付けた者を倒した方がレベルは早く上がります。この世界で強くなるのは魂を強化する事なのですが、手早く魂を強化するには、別の者の魂に蓄積された力を奪うのが良いのです。魔物は核となる魔石と魂に分けて力が蓄積されますが、純粋な魂を持つ者は今までに得た力を魂に全て蓄積するのです。だから我ら悪魔が対価として魂を要求するのです」
シノアが感じていた事は間違いなかったのですね……。
たまにノアさんが他の生物を家畜扱いする理由がようやく理解出来ました。
「特に欲望に塗れた魂などはレベルが低くても大きな力になるので、我ら悪魔から見たら、人間の魂はとても魅力的に映ります。その点を踏まえると、戦争をして相手の王族や上位の貴族などを捕らえて強化したい者に殺させるのは、有効な手段とされてもいました。ある国は捕らえた後に死なない程度に拷問をして、自分達を憎悪させてから公開処刑をしていましたな」
「……少しは過去の歴史を知ったつもりでいましたが、そんな事実があったのですね……ノアさんが国家の滅亡の時の話をすると、必ず楽しそうに処刑の話をしていましたが……」
「いま現在残っている国も、紐解けば大量殺戮国家とも言えるでしょう。例えば、このヴァリスなどは自国民には秘匿にしていますが、敵対した国の国民まで全て殺しているのです。現在残っている古い使徒などは、神の名を使った粛清など平気で致していました。これは忠告なのですが、その者達は今でも強力な魔術を保有しておりますので、注意が必要です」
戦争なのですから、相手を倒すのは仕方がないとは思っていましたが、国民にまで手を掛けていたなんて……。
「中には、自国の国民を生贄にして、使徒にする者の強化を図った国もありましたが、逆に国力が低下して滅亡していました。国民には真実を告げておりませんが、追い込まれれば実行する確率は高いです」
「聞きたくないのですが……私達の……フェリス王国も同じ事をした歴史があるのでしょうか?」
「それを知ってどうするのですか?」
「済みません……いまの質問は忘れて下さい……」
「ふむ、カミラ殿の心中はわかりましたので、お答えします。アストレイア殿は民衆に手を掛ける指示を出した事はありません。それが現在の状況を招いているのですが、それ故に得ている物もあります。これ以上は憶測になりますので、答える事を控えさせていただきます」
「ありがとうございます。その事が聞けただけで十分です。それにしてもアルカードさんは本当に悪魔とは思えない程に私達の気遣いが出来るのですね。私が教えられた悪魔の印象が間違っているとしか思えません」
「以前にも言いましたが、私は変わり者の個体なだけです。人としての生涯も体験していますので、ある程度は相手の考えている事も理解出来ます。ある国の者は自分の魂を対価に私に自分の領地の発展なども頼みましたが、中々楽しい時間でしたな」
「領地と言う事は貴族の方ですよね?」
「私を召喚した変わった娘でしたが、私が唯一魂を手に入れれなかった者でした。私が人間らしいのはあの娘の影響なのかも知れません。私はてっきりあの娘に群がる害虫の駆除でも頼まれると思ったのですが、領地の発展だけなのです。あの娘に頼まれた内政程度ではあの娘の魂とは釣り合いが取れなかったのです」
「契約したのですから、叶えれば手に入ったのではないのですか?」
「ふむ、他の者ならそうしたでしょうが、私は同等の対価しか受け取らないと決めていたのです。あの娘の魂にはそれだけの輝きがありましたからな」
「魂の輝きですか?」
「私には魂の鑑定が出来るのです。カミラ殿の魂は強い意志を感じますので、我らが好む輝きをしていますが、別の魂と同化していますので、奪う事は不可能です」
「私の魂がですか!?」
「とても強力な魂と結びついています。それはシノア様の眷属になっているからだと思いますが、そう考えるとあの方は増々不思議な方です」
私はシノアの眷属なのですが、その眷属と私の魂が結びついているとは?
ノアさんからは特定の人格の方向に向いているとしか聞かされていませんが……私の魂はシノアと融合しているだけとしか思っていませんでしたが……。
いまのアルカードさんの話を聞いていると、シノアではない別の何かと私は繋がっているのでしょうか?
ノアさんには細かく質問をしないと余計な部分はわざと省いて説明する傾向があるので、質問する時はある程度の情報を得てから質問しないと、私のマイナスポイントが増えるだけなので要注意なのです。
今さら気づいたのですが、どうしてノアさんはこの世界について詳しいのでしょうか?
いつもはシノアの別人格としか言いませんが、シノアは生まれて16年目で、まだ外の世界に出て1年しか体験していません。
私はノアさんをもしかしたら女神様なのではないのかと思って、一度思い切って聞いてみた事があるのですが、ノアさんはそれを否定しました。
改めて疑問が出来たのですが、この事をノアさんに聞いても良いのか迷います……。
「私が余計な事を言ってしまった為に迷われているようですが、カミラ殿は迷う必要はありません。貴女はシノア様ととても深く結びついています。私から見たら羨ましい限りですな」
「アルカードさんが私を羨ましい?」
「最初に出会った時は、失礼を承知で言いますが、カミラ殿達はシノア様の生み出した人形にしか見えなかったのです。なので、純粋な魂を持っていたエルナ殿とシズク殿は殺す対象にしなかったのです。シノア様の事は前もってエレーン殿から聞いていたので試させていただきました。ですがシノア様と契約してから、カミラ殿とセリス殿の魂を見た時にお二人の魂は我らがかつて求めた場所に近いとわかったのです」
「アルカードさん達、悪魔が求める場所なのですか?」
「それが何であったのかは思い出せないのですが、そんな気がするのです。恐らくですが、シノア様の攻撃を受けた時に私の個体情報があの大鎌に吸収されてしまったようなのです」
確かシノアのあの武器にはノアさんの力の一部を移してあるとノアさんが以前に教えてくれましたが、悪魔のような存在を吸収するのは何故なのでしょう?
アルカードさんもシノアに悪魔と出会ったら、あの武器で攻撃すれば良いと言っていました。どこかで悪魔と遭遇した場合は有効ですが、アルカードさんのような古き存在には注意が必要です。
アルカードさんと同格の存在が私達を殺す気で来たら、神や魔王と戦うのと変わらない事になります。
古の存在の悪魔と対峙した時は、アルカードさんを呼ぶ事をシノアに警告しておいた方が良さそうですね。
「そろそろエルナ殿が戻って来ると思いますので、お話はこの辺りにしておきましょう。それよりも今後の事なのですが、あの者達はこちらの地区には近づかないように仕向けてありますが、カミラ殿があちらに出向いてしまえば流石に気付くと思われます」
「そうでした……アルカードさんから、そのような話を聞けるとは思っていなかったので、そちらの方に興味が行ってしまいましたが、私が歩き回るのは良くありませんよね……」
「特に気にしなければ、あの程度の者達なら、カミラ殿の実力でしたら、わからないように始末してしまえば良いかと思いますが?」
やはり最後には殺す事が前提になるのですね……常識は人間らしいのですが、考え方は変わらないようです。
異世界人のシズクさんもすぐに殺す行動を取るのですが、もしかして、悪魔の精神体の世界とは異世界の事ではないのでしょうか?
「出来れば誰も殺さない方向でお願いしたいのですが……」
「ふむ、あの程度の者達でも、邪魔をしてきたついでに始末してしまえば、シノア様の強化に繋がるので、カミラ殿なら賛成すると思ったのですが?」
「賛成など致しません! 確かに私が得た物は全てシノアの物になりますが、私は人を殺したくないのです!」
「ふむ、そうなのですか? セリス殿はシノア様に貢献できるのでしたら、下品な男を始末すれば良いと申しておりましたぞ」
「……」
確かに、シノアの事以外は躊躇いがないので、必ず実行する所があります。セリスさんは元は教会に仕える方と聞きましたが、そんな考えをしていたのですか……。
セリスさんの過去の事を詮索する気は無いのですが、男性に対しては容赦が無いのです。
ロイさん達のような普通に接する人には問題無いのですが、下心のありそうな男性は汚物でも見るような目で全く相手にしないのです。
女性の私から見てもセリスさんはとても魅力的な方なので、お使いを頼まれて外出するとたまにの男性の方に声を掛けられていたのですが、しばらくすると姿を見せなくなってしまうのです?
セリスさんに好意を寄せているナッシュさんが一度こっそりと尾行……ではなくて様子を見守っていたらしいのですが、わざと人気の少ない所に足を向けて、手を出した来たら相手を滅多切りにして男性の大事な所を切り落としてしまうそうです。
そして……潰して再生出来ない状態で相手を癒して、次は殺すと警告をして脅しているそうです。
大抵の方は男性としての人生を捨てて別の道を歩んでいるそうですが……どのような人生になるのでしょうか?
ナッシュさんはこの時のセリスさんの目に何か好感を覚えたらしく、訓練で怪我を治してもらう時にその目で見て欲しいとお願いしているらしいのですが……カチュアさんが言うには、人間的にはとても出来る人なのに救いようのない変態になったと言ってました。
噂では、セリスさんの事を薔薇の花に例えていたようですが、棘どころか猛毒もあるかと思います。
こうして考えると、私達のパーティーでまともなのは私とキャロさんしかいない気がします……。
シノアは物作りと料理に関する事をしている時はあんなに真剣に取り組んでいるのに、ちょっと目を離すと何か下らない事を考えるか私に悪戯をするので、ろくな事をしません。
シズクさんは衣装を作っている時は素晴らしい職人なのですが、忍者姿で刀を持つと完全な危険な子です。
セリスさんは気配りが出来て色々と頼りになるのですが、シノアに関わると極端にシノアの肩を持つので、たまにあり得ない行動をします。
エルナ様は先ほどのような事も多々ありますが、人の弱みをしっかりと掴んで手を回して来ますから、私に矛先が向かない事を祈るだけです。
でも、キャロさんは基本的にはシノアに従順なのです。言われた事は可能な限り行動するので、今後シノアが何か下らない事をお願いすれば、いけないとわかっていても実行してしまうでしょうね……。
考えれば考えるほど、頭痛どころか目眩でもしてきそうなのですが、怪我さえしなければこの体は常に健康体なのですよね。
「何かお悩みのようですが、どうなされたのですか?」
「ちょっと今後の事を考えると、悩ましいと思っていたのです……」
「ふむ、では私から提案があるのですが、お聞きになりますか?」
えっ!?
私が悩んでいた事がアルカードさんに洩れていたのでしょうか?
アルカードさんには、シノア達を何とかする良いアイデアがあるのでしょうか?
「それはどんな提案なのですか?」
「この国で、あの者達に気付かれないようにする方法なのですが……」
あ、そちらですか。
そう言えば今の問題はそちらでしたよね……どうも私も最近は考え事が増え過ぎて、シノアではありませんが、ちゃんと話を聞いてない傾向になってしまったようです。
「カミラ殿が男装をすれば良いかと思います」
「私が男装ですか!?」
「そうです。カミラ殿は少々目がきつめですので、髪型を変えて剣士風の恰好をすれば、先ほどのソルと申した者よりも美形の男性に見えると思います」
目付きがきついのは気にしていましたが、改めて言われると……シノアではありませんが、ノアさんに助けてもらった時に目だけ普通にしてもらいたかったです……。
「そうなのですか? しかし、私はちょっと胸が……」
「そんな物は長めの布で締め付けてしまえば目立たなく出来ますぞ? 宜しければ私が変身させて見せますので、お召し物を脱いでいただけますか? そのような事は経験がありますので、心配はありませんぞ」
「……申し訳ありませんが、せめて女性の姿になってもらえないでしょうか?」
「ふむ、これは失礼を致しました。カミラ殿は我らに近いので、そのような事は気にしないと思いましたので」
「私はこれでも少し前までは普通の人間の女性でしたので……いえ、今でも心は普通の女性なので、男性の前で脱ぐのには抵抗があるのです……」
私はアルカードさんの目にはどのように映っているのでしょうか?
魂だけの存在なので、性別など無いと思われているのかも知れません。
殿方と恋などはした事がありませんが、私にも夢に見ていた時がありました……もう無理になりましたが、一時で良いので私もいつか素敵な方と恋に落ちてみたいのです。
「今の貴族の女性は気にするのですな。あの娘は私の前でも平気でしたが、時代の流れというものなのですな」
経験があると言っていましたが、その方も貴族の女性だったのですね。
「1つお聞きしますが、その時のアルカードさんの姿はどちらでしたのでしょうか?」
「ふむ、姿ですか? その娘は私に自分の好みの同い年ぐらいの青年の姿を希望しましたぞ」
「同世代の男性の姿ですか……いつの時代の貴族の方か知りませんが、シノアのように羞恥心が無いのかも知れませんね」
「いえ、私以外には決して肌を見せる方ではありませんでしたな。今は滅んだ王国の大公家の娘でしたが、私に婚約者を演じさせて、お忍びで抜け出す時に変装していたのです」
「その方は抜け出して何をしていたのですか?」
「城下で普段では出来ない事をして、最後には飲んだくれて戻ると私がお相手をする日々でしたな。今でも私が召喚すれば会う事が出来ますが、直接会って話を致しますか?」
「えっ!? もうお亡くなりになっているのですよね?」
「他の国に攻め滅ぼされましたので、国は滅亡しましたが、その最中に娘の願いで私の眷属として魂を捧げてもらいましたので、淫魔として生まれ変わっております」
「アルカードさんの……悪魔の眷属になると淫魔になるのですか?」
「いえ、その娘が望んだからです。同じ悪魔にする事も出来たのですが、あの娘は性欲が強かったので私も苦労しましたぞ」
「……問題のありそうな令嬢様だったのですね……」
「口説いた女性は自分のメイドに取り立てて、気に入った男性とは仲良くなった所で自分が女性である事を教えて深い仲になっておりましたな」
……それはとても人格に問題のありそうな方なのですね。
しかも、自分の趣味の為に悪魔を召喚するなんて、アルカードさんのような悪魔じゃなかったら、普通に魂を取られていそうですね。
「久しく呼び出していないのですが、あの娘もカミラ殿のように少々目がきつかったので、男装をしても違和感がなかったですな」
「……」
「そうなるとカミラ殿が少々目がきついのは丁度良いかも知れませんな」
「済みません……私の目の事を言うのはそろそろ止めて欲しいのです。確かに昔から目付きが悪いとは言われていましたが、これでも気にしているので、出来れば触れないで欲しいのです……」
アルカードさんは悪気は無いと思うのですが、同じ事を続けて言う癖があるみたいなのです……大抵はその人が気にしている事を指摘してくるのですよね……。
「ふむ、強い意志を感じる良い目と思うのですが、カミラ殿が気にするのであれば控える事にします」
「お願いします。私もエルナ様のような優しい目で生まれたかったです」
「ふむ、エルナ殿ですか? 私には優しい目と言うよりも、何を考えているのか分らない他者を観察している抜け目のない目に見えるのですが?」
……確かに間違ってはいないのですが、表向きはあの笑顔が素敵だったのです……。
私もようやく理解して来たのですが、作った笑顔の時ほど何を考えているのかさっぱりわからないので、逆に怖いのです。
しかし、アルカードさんは本当によく見ていますので、お屋敷の警備よりも諜報関係を全てお願いすれば相手の考えている事も調べてくれそうですね。
取り敢えず、アルカードさんの提案に従って私は男装するのは良いのですが、早く終わらせて帰りたいです。エルナ様はいつまで入浴なさっているのでしょうか?
私が様子を見に行くと、幸せそうな表情でのぼせてしまっているようですが……きっと幸せな妄想でもしていたのですね。
私もエルナ様を見習って、少しは自分の思うように行動した方が良いのでしょうか?




