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生まれ変わったのですよね?  作者: セリカ
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85 古城の最上階にて


 私が隙間から覗いてから、静かに扉を閉めるとシズクから質問が来ました。


「お姉様、どうでしたか?」


「でっかい蠍がいますよ。しかもレベルが200以上なので、私達よりも上ですね」


「やっと強敵の登場ですね!」


 どうもシズク先生はやる気満々のようです。


「言い直します。レベルは250ですよ?」


「物足りなかったので、期待しています!」


 どうも、戦う事しか頭に無いようですが……どうしましょうね?


「お姉様は、戦う事には反対なのですか?」


 私が考え込んでいると、残念そうに聞いて来るのですが……。


「相手の能力がレベルしか見えないのが気になるのですよね……何か特殊技能で隠蔽されているとは思うのですが、魔物で見れないとか初めてなのですよ」


 例外で、見れないのはエレーンさんとアルちゃんだけです。

 あの2人を見るには私のレベルが同じにならないと駄目らしいので……まさかこの蠍も同じ条件なのでしょうか?

 そう考えると何か危険な能力でもあるのかも知れませんね。


「お姉様にお聞きしたいのですがその蠍はお姉様に取って脅威に感じていますか?」


「特に脅威には感じていませんが……」


「なら、大丈夫ですね! さっさと倒して調査を続けましょう!」


「どうして大丈夫なのですか?」


「お姉様が脅威を感じないのでしたら、倒せない相手ではない証拠です。お姉様も言っていましたが、この世界でのレベルは高ければ必ず強いわけでは有りません。それよりも警戒しなくてはいけないのは技能なのですが、お姉様が脅威を感じないのでしたら、能力的にも強くないと判断します」


 ……私の感覚は強者判定機ですか?


「確かに私もそう思うのですが、シズクにもしもの事があったらと思うと慎重になってしまうのですよ」


「お姉様が私を心配してくれるのはとても嬉しいのですが、冒険に危険は付き物ですから、ここは進みましょう!」


「仕方ありませんね。セリスはいつも通りにシズクの守りを優先して下さい。もし危険と判断したら、転移陣を書きますので時間を稼いで下さい」


 恐らく倒せると思いますが、安全策だけは取っておきたいです。

 転移魔術は非常に便利なのですが、パーティーで移動する場合は、術者である私の足元にマナで魔法陣を作成する必要があるのが難点なのです。

 予め発動しておけば楽なのですが、地味に魔法陣の継続にマナを使うし、私が移動したりすると消えてしまうので、これまたマナの無駄遣いになってしまうのです。

 エレーンさんやアルちゃんのように単体で移動する場合は、行きたい場所を認識するか特定の人物の所に移動する方法として、その人物に印を付けておくそうです。

 アルちゃんが最初に私にキスして印を付けたので、私の居る所には自由に転移出来るらしいのです。

 アルカードの場合は、私と繋がりがあるそうなので、それを辿って転移して来るみたいなのです。もっとすごいのはエレーンさんの転移です。

 一度行った場所と戦闘中なら、認識している空間ならどこにでも転移出来るらしいのです。どんなに警戒しても部分転移なんて事もしてくるから、前後から同時に斬るなんて芸当も出来るとサテラが言ってました。最早詐欺みたいな能力です。

 エレーンさんが私の所に転移して来れるのは、自分と同じ加護を辿っているだけらしいのです。それって、私とエレーンさんしか、あの女神様の加護を持つ者が居ないからですよね?

 私が慎重になんて言うから、セリスが黙って身体強化を掛けていますね。

 使いどころはセリスの判断に任せていますので、最近では言葉にしなくても無詠唱でも十分な強化が望めます。

 最初の内は呪文を言葉にしないと強化比率が下がっていたのですが、レベルの上昇で魔術の威力が向上したのは良い事です。

 強敵と戦う時以外、普段は使わないようにしているのです。普通だったら、使った方が良いんですけどねー。

 エルナなんかは、常に使って欲しいと言っています。私はこれに頼ってばかりいるのは実力を見誤ると思って、普段は控えているのですが、どうなんでしょうね?

 シズクは私と同じ考えなので、普段は無しでも良いとの事です。

 まあ、ここで私が色々と考えても仕方ないので、何か変化する前にさっさと倒してしまえば良いのですよ。



 扉を開けて中に入ってもこちらを見ただけで、攻撃して来ません?

 よく見ると奥に祭壇のような物があるのですが、もしかしてあれを守っているのでしょうか?

 多分ですが近づかない限りは攻撃して来ないのでしょうね。

 そうなると奥の祭壇に行ってみたくなって来ましたよ。


「お姉様、あの蠍はこちらに攻撃して来ませんね?」


「私達よりあの奥の祭壇に何か大切な物があるから、それを守護しているみたいですね」


「古いお城に魔物に守られたお宝とか、冒険者になったみたいで、わくわくして来ましたよ!」


「まあ、動かないのでしたら、まずは何か強力な魔法でもお見舞いしてみますか」


「えー……もしそれで死んでしまったら、面白くないのですが……」


 いやいや、安全に勝てるのでしたら、それに越した事は無いと思うのですが?

 どうも、シズク先生は刀で倒さないと気が収まらないようです。

 正直、シズクはマナが高速で回復するし、無詠唱で魔法が撃ちまくれるのですから、魔法に拠る遠距離攻撃に徹した方が楽できるのに、敢えて斬って倒す事に執着していますからね。

 威力は詠唱とマナを籠めれば私の方が強いのですが、通常の威力でも手数の勝負でしたら、シズクの方に分が有るぐらいなんですよね。


「わかりました。それでしたら、雷の槍を撃たせてください。あの魔法はちょっと気に入っているのですが、蜘蛛のメイドさんに半端なダメージしか与えれなかったので、控えていたのですよね」


「あの演出だけは、かっこいい魔法ですね。あれなら、問題有りませんのでどうぞ撃って下さい。足の1本ぐらいなら、我慢します」


 見た目だけの魔法とか言われてますよ……唱えると雷の槍が手に触れるか触れないかの位置で現れて、投擲の要領で目標に撃つ事も出来るのです。雷がスパークしながら、飛んで行く様子は中々派手なんですよね。

 マナを籠めると槍の大きさを変える事が出来るので、初級だけど威力を調整できるので使い勝手が良いと思うんですよね。

 だから、こうすればいいのですよ!


「我は求める裁きの雷よ 一つに集いて我が前に立ち塞がりし敵を貫け! ライトニング・ジャベリン!」


「ちょっと、お姉様! どうして、詠唱なんて足しているのですか! しかも前に見た時よりも大きいなんて、無駄にマナを籠めてますね!」


 どうしても何も、私は一撃しか撃ちませんよ?

 威力を底上げしてはいけないとは言われていませんので、私のかなりのマナのを籠めてみました。5倍位の大きさになって飛んで行きましたが、あのまま貫けば絶対に倒せますよ!


「詠唱をしないでとは言われていないので、可能な範囲で努力しただけですよ?」


「お姉様は変な所で無駄な努力をするから、カミラお姉ちゃんにいつも小言を言われるのですよ! せっかく強そうな魔物と戦えると思ったのにあれでは一撃で終わりそうです……」


 楽に倒した方が良いのに、私から言わせれば武術を得意とする人は頑張るのが好きですね。

 (僕も魔物は君の考えに賛同するけど、自我のある者はいたぶって殺す方が楽しいと思います)

 ほら、私よりも酷い考え方をしている人が語り掛けて来ましたよ。

 着弾して倒したと思ったら、何故か無傷ですよ?

 今の攻撃でこっちに敵意丸出しで向かってきました。こいつ魔法が効かないのですか!?


「ちょっと! 私のマナまで籠めた攻撃が全く効いてないんですけど!」


「お姉様の魔法が効かないなんて初めて見ました。ここは私の出番のようですから、お任せください!」


 元気よく突撃していきましたが、シズクの刀が弾かれています。あの理不尽な攻撃が通らないなんて、防御力というか硬い体ですね。

 他の魔法も試してみたいのですが、この状態ではシズクも巻き込んでしまうので、私の魔法はちょっと使えないです。

 (あいつには上級魔法しか効かないから。さっきの『ライトニング・ジャベリン』は、基本が初級に分類されているので、君がいんちきしても中級扱いだったんだよ)

 そうだったのですか……最初から、『クリムゾン・フレア』でも使えば……あれ?

 もしかして、ノアにはあいつの能力が見えているのでしょうか?

 (んー、見えるから教えてあげているんじゃないかー。ちなみに火属性耐性が上級なので、上級火魔術を使ってもダメージが半減されてしまうねー)

 どうしてノアに見えて私には見えないのでしょうか……。

 (んー、君は弱っちいから、ちょっと格上の相手が技能隠蔽系の技能を持っていると看破出来ないだけですから。はっきり言うとレベルが足りないんだよ。この世界の今の奴らを見通すなら、一部を除いて最低でもレベル1000は必要かな?)

 またもや私の気にしている弱っちい発言が……これで弱っちいとかおかしいでしょ!

 (まあ、気にしないで、僕で攻撃すればあいつに攻撃が通るから、頑張ってねー)

 それだけ言うと静かになりました。会話が出来るのは良いのですが、私を落とす行為だけは止めて欲しいですよね。



 私も攻撃に参加する事にしましたが、こいつは図体の割に意外と動きが素早いです。

 両方の腕は鋏なのに突きばっかりしてきます。見た所では内側は刃が無いみたいなので、あれに捕まったら動きが封じられるぐらいで済みそうですが、体を挟まれたらかなり痛そうです。

 腕の攻撃に気を取られていると尻尾から針みたいな物が飛んで来ます。シズクはしっかりと躱していますが、私はたまにもらっています。ご丁寧に毒があるみたいなので、普通の人がもらったら多分即死するぐらいの強力な毒と思います。

 これが刺さると私の気分がすごく悪くなるので、ちょっとだけふらついてしまうのです。

 そして、追加とばかりに尻尾で叩かれて壁に吹き飛ばされています……シズクは無傷なのに私だけボコボコですよ!

 ノアがこの大鎌なら攻撃が通るとか言ってましたが、それは嘘です!

 ちこっと切傷が出来るだけなので、これで攻撃が通っているとは言えませんよね?


「お姉様、大丈夫ですか? 先ほどからズタボロに吹き飛ばされていますがもう少しよく見て躱した方が良いと思いますよ?」


 私を心配して近くに来たと思ったら、警告でした……分っているのですが、体が動きに付いて行けないんですよ……来ると分かっている攻撃を受けるのも結構辛いんですよ……。


「これでも頑張って回避行動をしているのですが、どうしてももらってしまうんですよ」


「お姉様は、まともに武器で受け過ぎなのです。私が訓練に誘っているのにちっとも練習をしないから、あんな大振りの攻撃の対応が出来ないんです。お姉様はマナの流れで動きが見えているのですから、鍛錬すればこのぐらいの攻撃なら躱せるはずです」


「私の体術の技能がいつまで経っても初級のままだから、いけないんですよ……ノアが解放してくれればいいのに……」


「お姉様、技能に頼り過ぎは良くないかと思いますが? それよりもこいつに攻撃が通らないのが厳しいですね。何か弱点の属性とかないと決め手に欠けてしまいます」


「ノアが言うには、上級魔術なら攻撃が通るらしいのですが、火属性耐性がかなり高いらしいのです。私が使える上級魔術は火魔術しか無いのですよ」


「この状態で、ノアさんと会話が出来るのですか? 眠っている時に気まぐれに会えるだけと聞いていましたが?」


 (僕なら、ここにいますよ?)


「えっ!? いま頭の中にノアさんの声が聞こえました。お姉様は変化していませんよね?」


「あー、実はこの武器にノアの意識の一部があるので、ノアが無視しなければ会話可能です」


 (んー、別に無視なんてしてないんだけどねー。セリス、『ホーリー・ウォール』を張りなさい)


「畏まりました」


 セリスにも聞こえているみたいで、即座に私達の前に光の壁を作り出しましたよ。


「お姉様、蠍が攻撃して来なくなりましたね?」


 (あいつの目は聖属性を見通す事が出来ないので、君達が消えたと思っているのですよ。ちなみにあいつには聖属性攻撃が一番効果的です)


「私は聖魔術は殆どダメなんですよね……するとセリスの魔術なら、攻撃が通るのですか?」


 (セリスは、支援特化ですから、攻撃系の魔法が余り使えませんよね? それにマナを変換した魔法は効きにくいので、あいつには物理攻撃が有効なのです。僕なら、あの程度は1分で始末出来るんだけどねー)


「では、私とちょっと入れ替わって倒して下さい」


 (君、ちょっとは自分で頑張ろうよ? 相手が確実に手に負えない時以外は助ける気はないので、努力しましょうー。それにいま忙しいから、お馬鹿な頭でも使ってさっさと倒すといいよ)

 力をあんなに消費したのに使えないですね……私に無い攻撃手段を教えてもらっても意味ないじゃん!

 それに、2人にも聞こえているのにお馬鹿さん扱いとか酷すぎます!


「セリスお姉ちゃん、私の刀に聖属性を付与して下さい。それで攻撃が通るはずですから、時間は掛かりますが、なんとか倒して見せます!」


 (シズクの方がいまの助言で倒す努力をしているのに、楽して僕に倒してもらおうとする君とは大違いだねー)

 

「弱っちい私をノアがいじめるよ……」


「お姉様、大丈夫ですよ! 私はお姉様の剣なのですから、近接戦闘は私に任せて下さい!」


 (まったくゲームに集中出来ませんね。君には重力魔術があるんだから、それを使ってシズクのサポートをすればあんなの雑魚だよ。一応言っておくけど、あいつは魔術が使えない代わりにかなりのパワーがあるから、押しつぶすのは無理だと警告しておきます)

 そう言えば、重力魔術には、等級の制限がありませんでしたね。

 それにしても反応が無いと思ったらまたゲームですか?

 私もあの空間に行って一緒に遊びたいのに、ノアだけずるいですよ。

 しかし、ドラゴンのおっちゃんを潰した魔法が駄目みたいなので、別の魔法を使うしかありませんが、これかな?


「星の戒めよ かの者に拘束の重しを与えん グラビティ・フィールド!」


 私の言葉と共に、蠍の動きが何かの重しに耐えているように見えます。この魔法は指定した相手を狙える利点があるのです。それ以外の他の者に影響はないのですが、維持をするのにマナの消費が半端ない欠点があるのです。

 いま私にわかるマナの最大保有量の減り方が激しいのです。多分ですが、あいつの抵抗する力が大きいので、それに比例して減っているのだと思います。


「シズク、この状態なら好きなだけ攻撃出来ると思いますので、私が倒れる前に倒して下さい。余り長い時間は維持出来ませんので、お願いします」


「お任せ下さい、お姉様! こいつの最大の難点は巨体の割に動きが早いのが長所でしたから、動かない的でしたら、余裕で倒せます!」


 聖属性の付与がされているので、先ほどとは違って攻撃が通ります。甲殻の部分はいまいちなので、関節の付け根を狙って手足を先に斬り落としています。

 魔物を無力化したら、後は頭部らしき所を滅多切りにしたら倒せました。結局は強敵を倒したと言うよりは、動けない相手を切り刻んだだけのような?

 それにしても重力魔術の系統の魔法はマナの消費率が高いのが最大の欠点ですね。

 最初に雷の槍にかなりマナを使ってしまいましたが、今の数分間の重力魔術の使用だけで、私の3割のマナを使っています。

 取り敢えずマナポーションだけ飲んでおかないと、今の私の残りのマナは1割を切っていますので、連戦などしたら倒れて戦力外になってしまいます。

 やっぱりダメージを受けないようにシズクの訓練に付き合わないと、怪我をしまくるだけでもマナの効率が悪くなってしまいますね。

 この体の欠点の1つが強制治癒なのです。最初の頃はどんな怪我をしても、マナを回せば早く治るので重宝していたのですが、私の最大マナが増えたのにマナの消費率が昔よりも多く消耗して癒しているんですよね?

 そして、レベルがこれだけ上がったのに、途中から最大マナの増える率が上がらないのです。なんか昔よりも効率的に魔術を使わないと、すぐにマナ不足に陥ってしまう欠点も出来てしまったのです?

 なので、死にそうな大怪我とかをしまくって癒していたりしていたら、マナの効率が悪すぎるので、今はセリスに癒してもらった方がましなのです。

 自分の魔法で治しても良いのですが……私は初歩のキュアとヒールぐらいしか使えないので、聖魔術のレベルが上級にでもならないと無意味とは言いませんが、いまいちな技能なのです。

 私が大きなダメージを負っている場合は、セリスにも回復を頼んでいるので、それと併用して癒しているから、直ぐに戦闘に復帰できるのです。

 普通だったら、さっきの蠍の尻尾の猛毒を受けて、そのまま壁に叩きつけられたら、毒と叩きつけられたダメージで絶対に死んでますよ。

 私が死なずに済んでいるのは、毒類が効かないのとダメージを負っても即死する怪我じゃない限りは即治癒が始まるので、死を回避出来ているだけです。

 致命傷以外は、マナをコントロールする事で、治癒を遅らせる事も可能なのですが……その間は痛みに耐えなければいけない苦行が待っています……慣れたけど痛いものは痛いのです!

 昔は剣の訓練とかしていたのですが、シズク達と差が開きまくってからはめんどくさくなって、練習とか遠慮して好きな事をしていたのです。仕方がないので少しは努力する事にしましょう。

 何はともあれ、この名前のわからない蠍を回収して、この魔物が居たとでもギルドにでも報告しましょう。

 えっ?

 目の前の祭壇の事は良いのかと?

 そんなのは、もしも宝とか有ったら、自分の物にしたいから、報告なんてしませんよ?

 祭壇に近付くと宝箱じゃなくて、これ棺ですよね……箱らしき物が見えたからてっきり大きな宝箱と思っていたのにね。


「お姉様、これはどう見ても立派な棺桶です」


「私は、豪華な宝箱と思っていたのですが……もしかして、これを開けたら真のボスが登場とかじゃないですよね?」


「何か気配とか感じますか? 私には気配などは何も感じないのですが、お姉様なら、マナを敏感に感じ取れるのでわかるのかと思うのです。何も感じなければもしかして、金貨とか入っているかも知れませんね!


「うーん。何も感じないのです。ちょっと私が開けてみますか」


 即死するような罠があっても、私かセリスなら死なないので、安心してトラップに引っかかっても良いんですよね。

 死なない努力をしないといけないと思っているけど、得る物がある時は仕方ないですよね?

 棺の蓋を少しずらすと……いきなりマナの気配を感じました。中には綺麗な子が眠っていますよ?

 しかし、生きている感じがしないのですが……。


「お姉様、どうですか? 何か入っていましたか?」


「それが……綺麗な女の子が入っているのですが。マナを感じるのですが、生きている気配がしないのです?」


 シズクとセリスも覗きこんでいますが、全く反応がありませんね。


「なんというか綺麗な子ですね。まるでお人形のような子なのですね」


「シノア様、この子は呼吸をしていませんので、死んでいると思われます」


「だけど、どうしてマナの気配を感じるのでしょうね?」


 ちょっと試しに鑑定して見ると……。




 名称:レン


 種族:トゥルー・バンパイア


 年齢:2512


 職業:


 レベル697


 技能:初級体術 初級投擲術 初級闇魔術 初級誓約魔術 中級物理耐性 中級魔術無効 中級聖属性耐性 気配感知 危険感知 気配遮断 魔力索敵 魔力感知


 固有能力:闇の加護 魅了の魔眼 眷属召喚 




 ……はぁ!?

 能力もそうですがレベルも高いではないですか!

 なのに私には何も感じないのは何故?


「この子、トゥルー・バンパイアとかいう種族なのですが、レベルが700弱ですよ……しかし技能がすごいのですが、攻撃系は初級ばかりなので、強いのか弱いのか判断しかねます。レベルが高いのに特に脅威と感じないのが不思議です?」


「この子は吸血鬼なのですか? 私の知っているゲームの設定だと、トゥルーとは真祖とかの意味なのでしょうか?」


「全く反応が無いので、このまま見なかった事にして、帰りましょうか? 突然目覚めたら、やばそうですし……」


 (その子、今なら封印されているので、君が支配してしまえば良いよ)

 無視して帰ろうかと思ったら、ノアからお言葉をいただきました。どうして封印されているとか分るんでしょうね?


「封印されているのですか?」


 (シズクの予想通りその子は、吸血鬼の真祖に連なる者です。この世界での真祖は自然に生まれた吸血鬼の存在を指すので、ただの吸血鬼は感染した者になります。もう種族自体が全滅しているはずなので、配下にすると面白いかと思います)


「全滅した種族ですか」


「シノア様、私の知っている教会の教えによりますと、かつて世界に一大勢力を築くまでに至った種族でしたが、複数の神や魔王が共闘して滅ぼしたと伝えられています。恐るべきは他の生物を感染させて自らの眷属としてしまうことです」


 (君が完全に支配してしまえば、優秀な配下になるので、楽が出来るかも知れませんよ?)


「との事なのですが、2人はどう思いますか?」


「私は、シノア様の意見に従います」


「お姉様が支配して、眷属を増やさないように命令してしまえば問題は無いと思います。私も支配されている身ですが、お姉様の本気の言葉には恐ろしい強制力があるので、絶対に逆らえません。体の行動権までお姉様のものなのですからね……あっ! いま思い出しましたが、私が寝るとランダムでおねしょする命令を取り消して下さい! お蔭で私は寝る前にオムツをしないとセリスお姉ちゃんに怒られてしまうのですよ!」


「……そんな命令なんてしてませんよ……」


「目がしっかりと泳いでいるではないですか! 下手に言いがかりを付けると余計に何か増やされるので今まで黙っていましたが、この歳でおねしょとか本当に恥ずかしいのですよ!」


「シズクが私の作っている料理にダメ出しばっかしするから、ちょっと仕返しがしたくなっただけですよ……」


「美味しい物を追及するのですから、妥協なんて出来ないからアドバイスしているのに、理由がおかしいですよ!」


「いまは、それよりもこの子をどう致しますか?」


 セリスは、シズクのおねしょの事など、どうでもいいみたいですね。


「セリスお姉ちゃん、これはとても大事な事なのですよ!」


「貴女が我慢するか、オムツを穿けば良い事です。シノア様にそのような振る舞いをしなければ良い事なので、私は知りません」


「ここでその話をしていても仕方ないので、まずはこの子支配でもしてしまいましょうか」


「帰ったら、また抗議しますからね……お姉様も、おねしょをするか、オムツを穿いて起きた時の蒸れた感触を知れば、絶対に嫌だとわかるのに……」


 そんな事は知りたくありません。カミラに悪戯してお漏らしさせた事があるので、見ている私としては面白いから、止められないのですよ。

 さて、いまの私なら、シズクと同レベルの誓約魔術をこの子に掛ける事が出来ます。本来なら抵抗されると完全には支配出来ないのですが、封印されて眠っている状態なので、完全に掛ける事が出来るはずです。

 ちょっとこの子の胸の中に手を入れて、心臓の辺りに手を添えて、私のマナをこの子の心臓に送り込んで、私とパスを繋げは完了です。

 ノアは詠唱を足して、シズクを支配していたらしいですが、あの時は昇華していなかったからなので、今の私なら無詠唱で可能なのですよ。

 それにしても、この子は胸が全く無いみたいです。私より無いのは好感が持てますねー。

 シズクは最近ちょっと私に近いぐらいになって来ましたので、このまま成長すると私より大きくなる可能性があります。

 お風呂に一緒に入ると成長しているのがわかるので、ちょっと切ないのですよね……私も成長がしたいです……。

 そんな事を考えながら掌握が完了しました。これで、この子は私の支配下にありますが、どうやって封印を解けば良いのでしょうね?


「支配が完了しましたが、この後どうしましょうね?」


「お姉様が命令すれば、目覚めるのではないでしょうか?」


「じゃ、呼んでみますか。レン、目覚めなさい」


「この子はレンと言うのですか? 等身大のお人形みたいに綺麗な子ですから、いい名前ですね!」


 確かにお人形と思えるぐらいに綺麗な子ですが、シズクの考えているのは等身大のフィギュアと思っていますよ!

 私が呼びかけると目を開けました。綺麗な赤い瞳ですね。


「私を呼んだのは貴女ですか? 私には目覚めない封印が掛けられていたはずなのですが……」


「ちょっと貴女の精神を支配したので、私の命令の方が封印よりも強かったみたいですね。起きられますか?」


「貴女が私を支配したのですか? 確かに貴女に隷属したい気持ちが私の心を占めているようです。長く眠っていたようなので、体が動かないみたいなのですが、私に少しだけ血を飲ませて貰えれば行動出来るようになると思います」


「血ですか? では私の……」


「私の血を吸って下さい。シノア様は主なのですから、このような事は私が引き受けます」


 そう言って手を少し切ってレンの口に飲ませあげようとすると……。


「済みませんが主様かそちらの子でお願い出来ないでしょうか?」


「どうしてですか?」


 もしかして、好みとかあるのでしょうかね?


「申し訳ないのですが、そちらの方からは乙女の気配がしないので……」


「お姉様、この子は処女の血が……」


 言い終える前にセリスに拳骨をもらって頭を抱えています。

 

「セリスお姉ちゃん! 痛いですよ!」


「貴女は、なんて事を言い出すのですか! 仕方ありませんので、シズクが飲ませて上げなさい」


 なんかセリスがすごく怒っていますが、そんな事で血の味でも変わるのでしょうか?


「うぅ……本気で叩くから、すごく痛かったですよ。じゃ、私の血を飲んでみてください」


「そう言えば、感染して眷属にするとか聞きましたがシズクを眷属にしてはいけませんよ?」


「大丈夫です。一定量を吸って、同時に相手を精神支配しないといけないのです。ちょっと吸ったぐらいでは眷属に出来ませんので、安心して下さい」


 シズクがちょっと指先を切って飲ませてあげると動けるようになったのか、起き上がって棺から出てきました。シズクと同じぐらいの身長の美少女ですね。


「改めて申し上げます。吸血鬼のレンと申します」


「私は、シノアと申します。この子はシズクで、このお姉さんはセリスと言います。堅苦しい事は嫌なので、気軽にして下さいね」


「レンちゃん、宜しくね!」


 シズクは同年代の友達が出来たと思っていますが、年齢はすごく年上なんだけどね!


「ところで聞きたいのですが、どうして、ここで封印されていたのですか? 聞いた話では吸血鬼は既に滅ぼされた種族との事なのですが?」


「私は生まれてから、13年しか生きていません。逃亡中に生まれたのですが、この地に辿り着いた時からの記憶が無いので大した事は知りません。最後に誰かに何か言われて休眠状態になったとおぼろげに覚えています」


「そうですか……すると約2500年の間は眠ったままなのですね。その割には技能やレベルが強力ですね」


「主様は鑑定が出来るのですね。私の能力とレベルは生まれつきなので、詳しくはありません。魔術に関しては何も習得していないので、使えません」


 なんと……最初からこんなに強いとか、私と大違いですよ。


「では、レベルが高いので、戦闘などはどうなのですか?」


「お恥ずかしい話なのですが、人間より力があるだけなので、そこそこのレベルで鍛錬した者と戦えば恐らくは負けてしまうかと思います。いまの私はただの力押しでしか戦えません。生まれた時から逃げるだけの生活で大した鍛練などはした事がないのです」


「大体わかりました。その主様と呼ぶのは止めて下さい。私の事はお姉ちゃんとでも呼んで下さい、レンはシズクと同じぐらいなので、私の妹として扱いたいと思いますので」


「宜しいのでしょうか? 主様に対して礼を失するかと思うのですが……物心が付いた時から親族はいなかったので憧れはありますが……」


「気にしませんよ? 眠っていた時間を引けばシズクと同い年なのですから、私の事はお姉ちゃんと思って甘えていいのですからね」


「では……お言葉に甘えて……お姉ちゃん……」


 真っ赤になってモジモジしながら呼んでくれました。これは中々良いですね。

 エルナが喜ぶ気持ちが何となく理解出来ましたよ。


「取り敢えずここが終点見たいなので、これで探索は終了して、レンをパーティーに入れて一旦帰りましょうか」


「あの……お姉ちゃんに少しお願いがあるのですが、申しても良いでしょうか?」


「お屋敷に帰ろうかと思いますが、時間的に夜なので、泉で一晩過ごしてから戻るとします。何でしょうか?」


「少しだけお姉ちゃんの血が欲しいのですが……先ほどからどうしても飲んでみたくて仕方ないのです……」


「構いません。いいですよ?」


「それでは、ちょっと首筋から頂きます」


 そう言って私に抱き着いて牙を立てて、首筋から吸ってます。ちょっとチクリとしましたが、まあ、問題有りません。

 しかし、段々と目がすごくトロンとして酔っている感じがします。

 私に抱き着く力も強くなっていますが……。


「私の血はワインの味でもするのですか?」


「済みません……もうちょっとだけ飲ませて下さい……お姉ちゃんの血は今まで飲んだ事がない美味しい味です。もう他の血が飲めないほど美味しすぎます……」


「じゃ、もうちょっとだけ良いですが、そんなに私の血が美味しいのですか?」


「それはもう最高です……味がもの凄く濃縮されたような味なので、何だか力が湧いて来る感じです」


 ちょっと自分の指に噛みついて舐めてみましたが、普通の血の味です……鉄分じゃなくて、ミスリルでも混じっているのでしょうか?

 この子、私にしっかりと抱き着いて来て体を摺り寄せてきます。自分より小さい子に甘えた感じで抱き着かれるのは悪く無いですね。

 しかし、血を吸われている程度なので僅かなマナが減っているだけですが、この子いつまで吸っているのかな?


「レン、そろそろ終わりにして離してくれないかな?」


「はい、済みません……本当に美味しかったので、つい止められなかったのです。体の方は大丈夫でしょうか? 人間は余り血を失ってしまうと死に至ってしまうのに……ごめんなさい……」


「大丈夫です。私は人ではありませんから、いま吸われた血も私にとってはマナが減った程度です。自然回復の範囲内なので、問題有りませんよ」


「お姉ちゃんは人間ではないのですか?」


 つい言ってしまいました。まあ、良いですよね?


「お姉様は、この世界の神や魔王と同格の存在ですよ!」


「するとお姉ちゃんは女神なのでしょうか?」


「違います。シズクが勝手に言っているだけですから本気にしないで下さい。取り敢えず、ここで話すのは止めて一旦泉に行きます。何かマナが集まって来る気配がしますので、もしかしたらここにいた蠍が復活するのかも知れません。通路の方でも同じ気配がしますので、蜘蛛のメイドさん達も同じかと思います」


 レンをパーティーに入れて転移陣を書いたら、蠍が新たに湧いて来た所で急いで転移しました。この古城の魔物は、どうも倒されると一定の時間で復活するようになっているみたいです。

 アクラネとか蠍の死体は回収してありますので、これを提出すれば良いと思いますが……蠍はともかくアクラネの死体は上半身が女性なんですが。見せたら殺人犯とか言われるかも知れませんね……しかも、結構美人系が多いから、魔物の素材として売る事が出来るのか疑問です。

 レンの棺と祭壇にあった目ぼしい物はちゃっかり回収してあるので、後で検分したいと思います。

 何はともあれ、調査完了で良いですよね?



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