77 悪魔の囁き?
「シノアさんは、居ますか?」
控え目なノックをして聞いて来ましたが、どうしましょうかな?
きっと学園の卒業式とかをサボった件で話があると思うので、面倒な事に決まっています。
適当にあしらって、エレノアさんに話を付けに行った方が早いと思うのですが……取り敢えず無視しましょう。
この部屋も私の作った認証キーなる物がないと入れませんので、持っているのはパーティーメンバーとカチュアさんだけになります。
アルちゃんは転移して来るので、キーとか関係無いけどね……。
「お姉様、アイリ先生が呼んでますが、出なくても良いのですか?」
「どうせ、学園の式の事で面倒な事を言ってくるのですから、無視で良いですよ」
「お姉様って、何の為に学園に行っているのか不思議ですよね?」
「最初は面白かったのですが、もう得る物が無いので、興味が無いのですよね……教師陣だって、賄賂漬けだから。新しい反抗的な教師とか赴任してきたら、堕落させに行ってもいいかなー」
「そんな事を聞いたら、お姉様は通わない方が良いと思います。アイリ先生を見ていると気の毒で仕方ないので、そんな人が増えるとか、悪魔が通っているのと変わりません」
私の評価が更に落ちてしまったようですが、どうしても心の奥底から、人を堕落させようと囁いて来るのですから、本能に抗えない感じなのですよね?
「最近、試したのですが、この薬なんて使えますよ」
「それは何ですか? ピンク色とか怪しすぎる液体なのですが……」
「一般に媚薬と呼ばれる物に近いと思います。以前に手に入れたバーサクポーションと呼ばれる物を改良して作ったのですが、飲んだ者を興奮状態にするのです。地味にカシムさんの伝手で売れてますよ。今の所は元々この世界にある物よりも心地よいらしくて、中々いい値で売れているみたいです。この調合が出来るのは私だけですから、手に入れるのは大変らしいですよ?」
「そんな物まで作っていたのですか……」
「販売しているのはかなり薄めていますが、濃度の調整次第では娯楽以外の有用性があります。誰にも渡していないのですが、この原液を飲ませるととんでもない事になるのです」
「試したのですか!?」
「人体への影響度を考慮しないといけません。どうなるか知りたかったので、ちょっと、カチュアさんには新作のジュースとか言って試しに少し飲んでもらったのですが……完全に自制心が吹っ飛んでしまったので、直ぐに治してあげましたが、激しい自己嫌悪に陥ってしまって、まさかの大泣きです。泣き止むまでが大変でしたよ」
「カチュアに人体実験をしたのですか!?……それは酷すぎると思います。私には絶対に試さないで下さいよ? 少しは興味ありますが、私にはまだ早い事ですし……」
真っ赤になったシズクの思考はおませな考えで一杯ですが、私は何故かこの手の事には全く関心が持てないのですよね?
私自身がそんな考えにならないのか、興味の対象にならないのです?
以前にセリスがガルド達にされていた事は理解出来ましたが、あんな事をして何が良いのかさっぱりです?
私もどんな感覚なのか自分で飲んでみたのですが、この体は薬物に対する耐性が強いので、僅かしか効果がないので体感も出来ません。
味覚だけは敏感なのに不思議ですよね?
しかし、流石にカチュアさんには飲ませた原液の物はあげていませんが、市販の物よりも濃度の濃い物をお願いされたら、あげる約束をしてしまったのです。
市販されている物は、カシムさんの所の錬金術師にレシピを渡してあるので作れますし、効果も2時間が限界なのです。
私が作る濃度の濃い物は、ちょっと特殊な配合をしないと誰にも作れないと思います。カチュアさんに渡している物は、市販の物と違って効果が収まるのに2日は続くのです。使うのでしたら市販の物に混ぜることで効果を落とせるとは説明してありますが、何に使っているのでしょうね?
「シノアさん! 居るのは分っているのですから、無視しないで下さい!」
扉を叩く音が激しくなって来ました。しつこいですね……。
この部屋は、防音仕様にしているので、会話や音は漏れないのですが、アイリ先生には、私を感知する能力でもあるのでしょうか?
「シノアさんは、いないので帰って下さい」
一応、手が離せない時に外と会話出来るように通信用の宝珠が扉の前に仕込んであるので、適当に答えると。
「やっぱり居るじゃないですか! サラ様が呼んでいるので、一緒に来て欲しいのです!」
「仕事の話なら行くけど、学園関係の話だったら、面倒な予感がするのですが……」
「いま、エルナさんが説教されている所です! 言い聞かせるのに来て欲しいとの事なのです!」
「そこで、下着姿になって逆立ちしたら行っても良いですよ?」
「こんな通路でそんな事はしたくありません! 後で、2人の時にいくらでもしますから、お願いですから出てきてください!」
完全に拒否すると思ったら、後でならするとか、随分と妥協が出来るようになって来ましたね。
こんな事なら、首輪でも付けて散歩したいとか言えば良かったです。
「仕方ありませんので行きますが、約束ですからね?」
仕方なく扉を開けるとミニスカートのメイドさんが入って来ました。アイリ先生が着ていると夜のお店の人みたいですね。
「サラ様の伝言なのにどうして私がそんな事をするのですか! いまは、とにかく来て下さいね!」
「お姉様、いってらっしゃいー」
人ごとのシズクは笑顔で送り出していますが、一体何を揉めているのやら……足取りが重いなー。
部屋に着くとエルナが激しく抗議しています。カミラまでいますが、どうしたのかな?
「サラ様、シノアさんをお連れしました」
「先生、ご苦労様です。そのままお話を聞いていてもらいたいので、一緒にいて下さいね」
「畏まりました……」
アイリ先生は、エルナに睨まれているせいか退出したそうですね。
「シノア! ちょっと聞いて下さい! 私もシノアと一緒に卒業資格をもらって、シノアと一緒に行動したいと言ったら、認めませんと言われているのです! シノアは、勿論ですが、私に味方してくれますよね?」
「貴女は何を言っているのですか? 公爵家の者が他の者の手前もあるのですから、中途卒業は認められません。自由にさせていましたが、学園の公式の行事だけは休まないとの約束を破ったのですから、残りの1年は真面目に通ってもらいます」
「それでしたら、エルナは学園に通った方が良いかもしれませんね。私は、卒業させてもらいますが、陰ながら応援しますので、頑張って下さいね」
「ほら、シノアちゃんも言ってますので、必ず通うのですよ?」
「ちょっと、シノア! どうして、お母様の味方をするのですか! それにお母様もシノアの行動を認めているのはおかしいですよ!」
「シノアちゃんは、貴女と違って成績優秀で、エレノアからも教えるどころか学ばさせてもらっていると聞いているぐらいですから、認められると聞いています。それにシノアちゃんとは、私の仕事を受け持ってもらっていますので、自由な方がこちらとしても都合が良いのです」
「お母様の仕事とは、その石ころの事ですか?」
「否定はしませんが、貴女もその石ころを大事に身に付けているのではないですか? その指に嵌めているので、他の奥方に貴女が婚約でもしているのかといつも聞かれていますよ?」
「こ、これは、シノアからもらった愛の証なのですから、当然です……」
「とにかく、シノアちゃんの同意も得られたのですから、約束通りに通ってもらいます。それとも2度も約束を破るつもりですか?」
「うぅ……シノアが私の意見に賛成してくれれば……」
なんかエルナの視線が酷いよ……とか訴えていますが普通に考えを述べただけなのですけどね……。
「一体、何の約束をしたのですか?」
「エルナちゃんが余りにも我が儘を言うので、シノアちゃんが同意した方の意見を通すと約束したのです」
なるほど、それで私を呼び出したわけですか。
「アイリ先生が気を利かせてシノアに詳細を話していれば良かったのに……恨みますよ……」
「そんな事を話したら、私がサラ様に叱られてしまいますし……」
「エルナちゃん、先生の雇い主は私とシノアちゃんなのですから、貴女に従う義務はありません。これからは、アイリ先生に毎日報告を聞きますので、もうさぼったりする事は許しません。シノアちゃんとダンジョンに行く事は、条件さえ満たしていれば学園のカリキュラムの一環なので、認めます」
「私の自由が……」
強くなってしまったので、ダンジョン制覇は目前なので、これからはエルナの大好きな勉強生活がメインになりそうですね。
可哀想ですが、私は隣の国に出張します。定期的に転移陣で戻って来ますので、お土産を考える必要が出てきましたね!
テーブルにうつ伏せになって、自由が……とか言ってますが、仮にも公爵家の御令嬢なのですから、仕方ありませんね。
カミラが慰めようとエルナに声を掛けていますが、今のエルナに近付くと何を言い出すのかわからないので、関わらない方が良いと思うのですが。
「エルナ様、そう落ち込まずに頑張れは良いと思いますので、1年の辛抱ですよ」
「……当然、カミラも私に付きあって学園に通いますよね? 私だけ置いて行くなど絶対に認めませんよ?」
「いえ、私は……」
「そうですね。カミラさんには、エルナちゃんの監視もして欲しいので、お願いできますか?」
カミラが拒否しょうとしたら、サラさんからの監視の依頼が来ましたよ。
確かにエルナ1人だけなのは、可哀想なので、道連れが必要かと思います。
決して、私の監視が減るとは思ってはいませんが、最近は、小姑みたいですから、丁度良い渡り船ですね!
「カミラは、エルナに憧れていましたから、喜んで引き受けてくれると思いますよ? 良かったですねー」
「貴女は、何を言っているのですか……サラ様、私は……」
「そうでしたのですか? 学園でのエルナの事は、カミラさんにお任せしますから、ちゃんと見張っていて下さいね?」
「あの……それは……わかりました。エルナ様の学園での事はお引き受けいたします」
あの拒否できないサラさんの笑顔で言われたら、断りにくいのですよね。
エルナは、してやったりの表情をしています。上手い事道連れを確保しました。
あそこで、カミラが声なんて掛けなければ、巻き込まれずに済んだのに失敗しましたね。
取り敢えず話が纏まったので、お開きになりました。後で、アイリ先生には私の工房に来るように言っておきましたので、約束通りに実行してもらいましょう。
私はやる事があるので工房に戻ったのですが、カミラだけは付いて来ます。文句がありそうですね。
エルナも一緒に逃げようとしてましたが、まだ話があるとの事で、サラさんに捕まったままです。
工房に着くなり早速お小言を言ってきましたが……。
「なぜ、私まで学園に通うようにしたのですか? 私には、貴女の側にいるようにノアさんに言われているのに、このままだと離れてしまう事になってしまいます!」
「ノアも見ていたはずですから、状況は分かっているので、そこまで問題にしないと思いますよ?」
「ですが……貴女も知っての通り、私は一定期間の間に貴女と接触できないと問題が発生してしまいます。セリスさんは貴女に対する感情が強烈に高まりますが、私は違うのです」
「えっ!? カミラはどんな状態になるのですか?」
「ちょっと言い難いのですが……もっとまずい状態になってしまいます」
ふむ……てっきり同じ状態にでもなるのかと思っていたのですが、どんな違いがあるのでしょうね?
「それは、私に教えるのは禁止されている事なのですか?」
「違いますが……教えておいた方が良いのかも知れませんね。私の場合は融合した力がセリスさんと違うので、攻撃的になってしまうと言われています。なので、人格にもそのように影響が出る可能性があります。いまの私を保ちたいのでしたら、なるべく貴女と離れないように言われているのです」
「力が違うとは? その言い方だと、私が眷属を増やすごとに変わってくるとも捉えられますが?」
「……そんな所だけ頭が回りますね……その考え方で間違ってはいません」
「ちょっと気になりますが、本拠地はここですから、定期的には戻って来ますので、セリスと同じ間隔でしたら、大丈夫かと思います。そう考えると転移魔術が使えるのは幸いでしたね」
「決まってしまった事は仕方ありませんが、必ず早い期間で戻って来て下さい。あと、余計な事に巻き込まれないようにして下さいよ?」
「まあ、取り敢えずダンジョンを制覇してからなのですが、問題は、この国の女神と会う事を拒否した時の事ぐらいですね。流石にこれだけ目立っていますから、何も無しは考えにくいので、注意はしておきたいのです。サテラやステラさんクラスの使徒が相手だと、レベル的に負ける可能性が出てきますからね。アルカードと戦った時のレベルがいくつか知りませんが、あんなのが出て来たら、勝てませんよ」
「お呼びでしょうかシノア様」
名前を言ったら、背後に即登場とか、どこにいたのやら?
転移魔術が使える者には、この部屋の防犯対策がまったく通用しないのですよね。
アルカードにはお屋敷の警備とお手伝いを頼んでありますが、もしかしたら、このぐらいの範囲なら、常に把握しているのかも知れませんね。
「急に現れるとびっくりしますから、この部屋に居る時は出来れば扉はノックして欲しいかなー」
「これは、申し訳ありませんでした。名前を呼ばれたので、御用かと思いましたので、失礼を致しました」
「まあ、丁度良いので聞きたいのです。私達と戦った時のレベルって、いくつあったのですか? サテラは多分見えていたみたいなのですが、あの焦り様からして、かなり実力に差があったと思うのですが?」
「ふむ、あの時ですか……肉体を持っていなかったので、レベルと呼ばれる概念はあの状態では無かったのですが、生きている者に換算しますとレベル3000から4000ぐらいになると思います」
「随分と幅が広いのですね。どちらにしても私達の実力では、無理でしたね」
「今だからお教えしますが、我らは精神生命体なので、依代が無いとマナで姿を保っているので、サテラ殿の槍などは、天敵とも言えます。それに加えてシノア様の攻撃はマナどころか私の存在すら吸収しょうとしていたので、まともに受け続けていたら私が消滅してしまう所でした。最後の一撃をもらった時は、かなり危険でした」
だから、私の攻撃だけは、受け流すかきっちりと防御していたのですね。
あれにマナなんて吸収する能力なんて無かったはずですが?
だとすると、私のレベルがもっと高くて、マナの保有量が多ければ倒せていたのかも知れませんが、その時は、優秀な執事さんが手に入らなかったので、結果としては良かったですね。
「もし、我らの同族と戦う時があれば、あの大鎌で切り刻めば良いかと思います」
「えっ!? アルカードの同族なのに殺す方法なんて教えても良いのですか?」
「構いません。弱い物は滅びるのが当然と考えていますので。上位個体ほど仲間意識は薄くなって、己の思考の行き着いた行動する傾向になります。普段でしたら、我らは倒されてしまってもしばらく眠りに就くだけなので、時間が経てば復活出来ます。シノア様の大鎌でとどめを刺された場合はもしかしたら、復活出来ないかも知れません」
ほほぅ……そうなると悪魔に対する私の脅威度はかなり高いのかも知れませんね。
ノアと話す機会があったら、ちょっと確認してみたいですね。
「重要な事なのでどうしても知りたいから答えて欲しいのですが、あの時のアルカードぐらいの強さの使徒は存在しますか?」
「そのぐらいなら、許容範囲と判断しますのでお答えしますが、現在でも存在はします。我らの存在を理解している者ならば、圧勝する事も可能なはずです」
まじですか……あの時のアルカードに圧勝とか、私達では到底勝ち目がありませんね。
エレーンさんがどのくらいの存在なのかいまいちわからないのですが、使徒を狩りまくれるので、何か相性があるのかも知れませんが、化け物クラスがいる事だけわかれば今は良しとしましょうか。
こうなってくると、レベルの強さだけが全てでは無いのに確信が出来る気がしてきました。
「もう1つ聞きたいのです。今のアルカードは体を持っていますが、その場合でも悪魔を倒す条件は同じなのでしょうか? どうなるかはわかりませんが、エレーンさんの所にも居るみたいだし、どこかで戦う事になるかも知れませんからね」
アルカードの能力は見れたのですが、こうして側にいても強者と思えないのです?
私は、シズクみたいに武術の心得とかありませんが、感覚的に自分より強いか弱いかを感じ取れる程度なのですが、大抵は感じ取った通りなので、ある種のセンサーみたいなものがあると思います。
エレーンさんなどは、見るだけ絶望したくなるので、気にしないようにしていますが、ギルドマスターのラウルさんには、未だに勝てる気がしません。
他の人も強さもそんな感じで大体わかるのですが、例外なのは、アルちゃんとアルカードなのです。
この2人からは、その手の事をまったく感じないのです?
強さに関しては、アルちゃんはエレーンさんよりも事実上は上みたいだし、アルカードはレベル1000もあるし、技能も強いので、現在の私よりも強いはずです。
相手が鑑定偽装をしていても、私の目は真実を看破するらしいので、相手がやばかったら、なるべく戦闘を回避するように努力します。私よりも完全に格上の存在だと鑑定自体が不可能なのか見えないようなのです。相手が許可すれば一部だけでも見えるのは鑑定偽装の能力だと思うのですが、私の鑑定能力ってなんか半端ですよね?
「条件については、上位個体は相手次第になると思われますので、明確な答えはありませんが、恐らく同じかと思われます。我らの事は契約した使徒と思えば良いのです。シノア様の場合は相手の悪魔の肉体を破壊する事は、力を吸収する事になるので、むしろ都合が良いかと思います」
「それは、依代になった肉体自体が、使徒が持っている力の核と同じという事なのでしょうか?」
「その通りですが、本来は奪われずに契約者の元に戻るだけなのです。シノア様に斬られた時に、エレーン殿に戴いた仮の依代なのですが、手前の部屋にいたゴーレムと同じ原理で作られていたのですが、あの体にあった力も吸収されてしまったのです。なので恐らくは、あの大鎌で斬られると強制的に力を奪っていくのだと思います」
「ふむふむ、あれにそんな能力があったのですか……すると最初は強いレベルで現れても、地道に削っていけば、相手を弱体化させる事も出来るようになりますね」
「実は、私の精神体の情報も少し吸収されてしまったので、少々弱体化しています」
「え!? ちょっと試し切りしてみたかったけど、そんな事をしたら、アルカードが更に弱体化してしまいますよね?」
「シノア様が望むのであれば構いませんが、恐らくは、そのようになると思われます」
「そんな話を聞いたら、絶対にしません。私の大事な執事さんが弱体化とか、私が困ります」
「この身はシノア様の物なのに、私をそれ程に大事に思ってくれるとは……私は、感謝に堪えません」
いや、私の強いカードを弱くしたくないだけなんですけどね。
サテラがわけのわからない事をアルカードに言うから戦闘に使えないけど、いざとなったら、強力な味方になりますからね。
現状では、レベルが一気に上がった事で余裕があるのですが、以前までは、魔術と最近は行き詰っている武器のお蔭で有利に戦えてました。いつ格上の存在と遭遇するかわからないので、手札は多い方が良いに決まっています。
まあ……いざとなれば、私が死ねばノアが敵対する者を皆殺しにしてくれるので、そこまで心配しなくてもいいのですが……もしも殺されずにマナだけ失って動けない状態にされてしまったら、私は詰み状態になってしまいます。
普段から、マナポーションは余程の事が無い限り尽きない在庫を収納に持ってますが、強敵相手に飲ませてもらえるわけがないし、複数の強敵が居て、私まで余裕が無い時にサテラやステラさんを英霊召喚なんてしたら、あっという間にマナが尽きてしまう可能性もあるので、考えて呼ばないと自滅するだけになります。
そう考えると、昔のサテラ達みたいにもっと複数人の召喚が出来ないと、地味に不便な気がしてきましたね……。
ならば、最近は使っていない私の分身体でしたら、私のその時点のマナを分割するので、私のマナが作った分だけ減るし、私よりレベルが低い欠点もあるので、私のレベルがもっとないと意味がないですよね?
あれ?
こんな事を考えていたら、私って改めて地味に魔術以外はしょぼいのでは?
しかも、半端な魔法が多いし……ちょっと悲しいんですけど?
まあ……大器晩成型とでも思って、地道にレベルを上げて強くならないと、また誰かに半端とか言われそうですね……。
気分が憂鬱になって来ました。そろそろアイリ先生が来るはずなので、嫌がらせでもして気分をすっきりさせたいのですが、遅いですね……。
かと思ったら、扉をノックしています。まずは遅かった言い訳を聞いて罰を上乗せしてしまいましょう!
「シノアさん、居ませんよね? それでは、私は仕事に戻りますので、失礼します」
ちょっと!
ノックして、言いたい事を言って逃げましたよ!
しかも、気配が遠のくのが早いので、走っていますね?
心以外は支配されているのに、愚かな事をしましたね!
私は、素早く扉を開けて足音の方に一言。
「アイリ先生、その場で止まりなさい! そして、私の前に来て土下座しなさい!」
「い、嫌です! 戻りたくないのに体が勝手に戻ろうとします! 助けて下さい!」
なんか喚きながら、私の前に歩いて来ます。言葉に意思を籠めれば私の強制力には絶対に逆らえないのがまだ理解出来てないようですね。
これは、ちょっときつめのお仕置きをして教えてあげないと駄目なようです。
そして、私の前に着いたら、得意の土下座をして待機状態です。
うん、アイリ先生にはとっても似合うポーズですね。
「さて、先ほどの対応は何なのですか? サラさんに頼まれて呼びに来た時は、あんなにしつこかったのに宜しければ言い訳を聞かせて下さい」
「だって……呼ばれた理由が……」
「理由が何ですか? 早く言わないと、このまま首輪を付けて庭の散歩にでも連れ回しますよ?」
「そんな事は、止めて下さい! その部屋に入ったら、下着で逆立ちとか言ってましたが、どうせ時間を設けて私が倒れたりしたら、やり直しとか言ってずっとさせられると思ったのです……こないだも酷い目に遭ったし……」
それは、考えていませんでした。悪く無いですねー。
ちなみに前回は、私の試作品をつまみ食いしたので、罰として一晩中走らせただけです。
甘い物を食べて、太ったら困るだろうと思って、運動させてあげただけなのに、酷い目とか言われてますよ。
「まあ、面白い事を提案したので、今回はそれにしましょうか? さあ、中に入って、扉を閉めたら自主的に始めて下さいね」
「本当にさせるのですか……わかりました……どうせ逆らえないのですから、頑張って終わらせて見せます……」
「良い心がけです。まったくアイリ先生は飽きないので、私は大好きですよ」
「私は、どうしてシノアさんの言葉を受け入れたのか後悔をしています……あの時に故郷の村に帰った方が平凡な暮らしが出来たのに……」
「来た時は、ここは最高とか言っていたのに、意味が分りませんね? それにあれだけ贅沢を覚えてしまったのに、今更生活のレベルを下げる事は出来ないので、無理だと思います。いずれ誰かの奴隷にでもなっていたと思いますので、そう思えば私の下にいる方がきっと幸せですよ?」
「こんな幸せなんて、聞いた事がありませんよ……」
諦めて部屋に入ると、カミラとアルカードがいるので驚いていますね。
「シノアさんだけでは、なかったのですか!? それにアルカード様がいるのに脱ぐなんて絶対に嫌です!」
はぁ?
アルカード様?
「別に2人の事は、居ないと思って始めて下さい。それと、アルカードに様を付けているのはどうしてなのですか? 他の方はサラさんとレートさんは、別として皆さんはさん付けで呼んでいましたよね?」
「あの……それは……」
「ちょっと、シノア。アイリ先生に何をさせるつもりなのですか?」
「先ほど約束したので、下着姿で逆立ちさせるだけですよ? そうですね……30分ほど堪えられたら、今回は許してあげますよ?」
「無理です! 30分なんて絶対に出来ません!」
「また下らない事をさせようとしていますね。馬鹿な事は止めなさい。それに異性のアルカードさんが居るのにアイリ先生に脱がせるとか、気の毒過ぎます。アイリ先生もそんな事はしなくてもいいですよ」
「もう約束したので、私の意思は変わりませんよ? 別に裸なんて見られても減る物じゃないと思いますが?」
「羞恥心の欠けている貴女にはわからないかも知れませんが、異性の前でこんな下らない事で、肌を晒す女性は普通はいません!」
カミラがいつもの下らない発言と一緒に、エルナみたいな事を言い出しましたよ。
私は、淑女などではないので、羞恥心なんて欠けていてもいいのですよ。
「じゃ、アルカードの性別を変えれば問題無いでしょ?」
「……貴女はもう少し乙女心を理解する努力をするべきです」
乙女心というのは、サテラが言っている事ですか?
要するに自分は若いという事なのでは?
「アイリ先生、その乙女心とアルカードが何か関係あるのですか?」
「その……アルカード様は優しいから……」
なんか顔が赤いのですが、まるで小娘みたいな反応ですね?
「はぁ……貴女も少しは、本当に察して上げないとアイリ先生が可哀想ですよ?」
「もしかして、アルカードに惚れているのですか? 以前に聞いた時はナッシュさんが良いとか言っていた様な?」
「どうして、貴女はそんな無神経な言い方をするのですか……」
「まあ、わかりました。話の内容によっては今回は無しにしてあげますよ?」
「本当ですか? そ、それなら言います。元々好みでしたが、アルカード様の私への対応がとても紳士的なので、いつの間にか私は本気になってしまったのです。ですから、私の情けない所は見られたくないのです。ナッシュさんは……特殊な性癖があるようなので、私には無理でした……」
「ほぉー、そうだったのですか。アルカードに聞きますが、そうなのですか?」
「お屋敷の皆さまのご要望には可能な限り対応させていただいておりますが、アイリ殿はシノア様との繋がりが深いようなので、特に丁寧に対応させていただきました」
どうやら、私の支配下にあるので、ちょっと特別に優しくしていたみたいですね。
ただの面白い人なんですがお気に入りなのは間違っていませんけどね。
「確かにアイリ先生は私が大事にしている人ですね(面白いペットとして)」
「シノアさんが私を大事にしているなんて初めて聞きましたが、本当ですか? 私はお仕置きとか理不尽な罰しか記憶が無いのですが……」
「アイリ先生、私は愛情表現が下手なので、ついついお気に入りの人には、ちょっかいを掛けてしまうんですよ?(反応が楽しいからね!)」
「そうでしたか……シノアさんの事を疑って申し訳ありませんでした。出来ればもう少し歪んでいない対応をしてもらえると嬉しいのですが……」
この人は、さりげなく歪んでいるとか言ってますよ。
そんな事を言われたら、増々何かしたくなってしまうではないですかー。
「アイリ先生、ちょっとお耳を貸して下さい」
「何なのでしょうか……えっ!? それは、本当なのですか!?」
「私が一度でも約束を破った事がありますか?」
「ありませんが……代償が大き過ぎるので、いまの私になってしまったと思うのですが……」
「では、アルカードにお願いがあるのですが、よいですか?」
「何でございましょう」
「可能な限りアイリ先生の要望には最優先で、応えてあげて欲しいんだけど出来るかな?」
「了解致しました。アイリ殿のお願いでしたら、人の身で可能な範囲で御応えします」
「ありがとうねー。では、ちょっとアイリ先生とお話があるので、そろそろ仕事に戻って下さい」
「畏まりました。それでは、御用がありましたら、お呼び下さい。それでは、失礼いたします」
今度は、扉からちゃんと退出して行きました。アイリ先生が信じられないといった顔をしていますが、さあ契約は成立ですよ!
「私は、これで約束を果たしましたので、後はアイリ先生次第です。ちゃんと約束は守って下さいよ?」
「本当に信じても良いのですね?」
「済みませんが、アイリ先生は、どんな約束をしたのですか? 非常に言い難いのですが、シノアと約束をするのは悪魔に魂を売るのと変わりませんよ?」
「シノアさんが私とアルカード様がお付き合いが出来るように応援してくれると……」
「アイリ先生、失礼ですが、彼は悪魔なのはお屋敷で紹介した時に殆んどの方が知っているはずですが、正気ですか?」
「誰よりも紳士的で、今まで出会った男性の誰よりも優しい方なんですから、悪魔でも構いません! みっともなく酔っぱらって吐きまくっていた私を優しく親切に介抱してくれた時には、もうあの人しかいないと決めたのです!」
「アルカードさんは、人間としての感覚がないから、言われた事を忠実に守っているだけと思うのですが……」
「それでもいいんです……アルカード様は、私の運命の人に間違いありません!」
「そこまで仰るのでしたら、私は何も言いませんが……それで悪魔……じゃなくて、シノアにどんな約束をしたのですか? シノアが無償でそんな約束をするはずがありません」
「どんな事を言われても必ず素直に従う約束です……もし、私が意に沿わない行動をしたら、アルカード様に逆の事をお願いすると……」
「既に体は支配されているのに心まで売ってしまったのですか……きっと後悔しますよ……」
悪魔は、アルカードだって!
私は、アイリ先生の恋の味方をしてあげているのに……カミラの言う乙女心のお手伝いをしてあげているのに、酷い言われようですね。
そんなに無理な事はお願いするつもりは無いのですが、今後はこれで面白い事が出来ると思っただけですよ?
いつまで、続くか分かりませんが、悪魔と人間って結婚とか出来るのでしょうか?




