60 ペットは間に合っています
朝、カミラと同時に起きたので目が合ったから、おはようと挨拶したのですが、すごく疲れた感じです。
その目は、もう今日は何もしたくないと物語っている程ですが、エルナに抱き着かれている私を置いてさっさと着替えています。
「ところで、ノアは承諾してくれましたか?」
「……約束は取り付けましたので、私の禁酒を解除して下さい。皆さんが起きてくるまで、ちょっと貴女の酒蔵で飲んで気分を変えたいのです……」
朝っぱらから飲みたいとか、カミラが酔っ払いになってしまいました。
私と違って調整などは出来ないので酔えないのですが、強いものほどマナに変換すると気持ちが良いので、満足感は得られるのですね。
「約束ですから構いませんが、何が有ったのですか?」
カミラの手を取って禁酒を解除してあげましたが、気になりますね……。
「貴女は気にする必要はありません。今日の夜だけ会ってくれますが、1つだけ忠告しておきます。最初の警告を無視すると会ってくれないので、絶対に実行して下さい。そうしないと私の苦労が無駄になってしまうので、どんな事でも守って下さい」
「今日の夜だけなのですか? もし明日とかにしたらどうなるのですか?」
「私は、また同じ事をするか違う事になると思います。同じぐらいの難易度だと思うので、もう二度としたくないのです。嫌ですよ」
「わかりました。一体何をしたのですか?」
「詳しくは言いたくないのです。山を登る人の気持ちが私にはまったく理解出来ないとだけ言っておきます……」
それだけ言うと部屋を出て行ってしまいましたが。山?
夢の中で登山でもさせられたのでしょうか?
山登りの苦労とか想像が出来ないのですが……ましてや今のカミラは疲労などはしないので、体調面の欠点と言えばマナ切れと痛覚ぐらいなのです。登山家という人がいるぐらいなのですから、山に登るのは良い事なのでは?
そう言えば、聞き忘れてしまいましたが、最初の警告とは何なのでしょう?
絶対に実行しないといけないみたいなのですが、それがノアと会う為の最低条件のようです。何をするのでしょうね?
エルナに捕まっていなければ、カミラを追いかけたいのですが、がっちりと掴まれているので、私の力では脱出不能です。
レベル的には私の方が倍以上なのにまだ腕力で勝てません……重い物などは結構楽に持てるようになったのに、どうして勝てないのでしょうか……もし、同レベルだったら、エルナに思いっきり抱き締められたら、全身の骨が砕かれるかも……。
パワー重視のお嬢様とか、普通のお嬢様と呼ばれる存在はお淑やかなイメージだったのに、童話などの書物は嘘つきです。
しかも今日はどんな夢を見ていたのか知りませんが、エルナの涎で私はベタベタです……お風呂に入りたいのですが、そうなるとエルナも一緒に付いて来ますから、余計な時間が過ぎてしまうので、洗浄魔法を使っています。このだらしない所だけはなんとかならないのでしょうか?
「シノアさん、おはようございます! 貴女の為に頑張ったアイリが起こしに来ましたよ!」
キャロでは無く朝からテンションの高いアイリ先生が起こしに来ました。何を頑張っているのか知りませんが、珍しく先生ではなく自分の名前を主張していますね。
「おはようございます。いつもはキャロが来るのに頼まれたのですか?」
「今日は、シノアさん達は出掛けてしまいますから、その前にお願いがしたいので、キャロさんに代わってもらったのです」
「それで、お願いとは何なのでしょうか?」
「シノアさんに頼まれて、エルナさんの成績を上げる事が出来たのですから、私にもご褒美が欲しいと思ったのです!」
「アイリ先生は、元々ここに花嫁修業とエルナの勉強を見る為に来たのですから、そんな事は当然の義務ではないのですか? しかも、エルナに買収されてさぼっていたのですから、本来ならお仕置きされるのが当然かと思いますが?」
「そんな!!! 私は、シノアさん達が居ない間はエルナさんに冷めた目で見られながら、肩身の狭い思いをしながら教えていたのですよ……キャロさんに事情を話したら、同情するどころか呆れて、ダメな人の見本とか言われてしまいました……」
この人は、私に言われた事をしたら、当然のように何か貰えると思っているのです。ちょっと甘やかし過ぎたのかも知れません……大体、事の発端の原因の1人なのに何か勘違いをしているので、一度、縛り上げて鞭で叩いてあげた方が反省でもするのではないかと私は思うのですが?
ベットに倒れて泣いているのです。せっかく洗浄魔法でシーツもついでに綺麗にしたのにアイリ先生が涙で濡らしています。
キャロには、アイリ先生には遠慮なく厳しく接するように言っておきましたが、良い事を言いますね。
いつも思うのですが、リアクションが毎度の事ながらオーバーなんですよね……まあ、それが面白いので、気に入っているのですけどね。
「仕方ありませんね……それで、何が欲しいのですか?」
「ありがとうございます! ネックレスが欲しいのです! 奥様が身に付けているアクセサリーの事を聞いたら、シノアさんが作ったと教えてもらいました! 貴族の御用達の業者顔負けの加工をするので、すごく人気だと聞いたのです!」
さっきまで、この世のお終いと感じるぐらいで泣いていたのに、一気にテンションが上がって、要望を言ってきます。この切り替えの速さは最早技能と言っても良いぐらいで感心しますよ。
サラさんが私の工房に来た時に、何気なく私が鉱石とか宝石を魔法で加工していたら、アクセサリーの類が作れないかと質問されたので、たまたま作ったら完成度が高いので定期的に頼まれて作っています。
技術で加工するのではなく、魔術で錬成しますから、私のイメージ次第でどんな加工も可能なので、シズクの知識も活用すればこの世界には無い物も作る事が可能です。
ただ、武器と違って魔術的な付与が出来ないので、元の鉱石や宝石に何らかの力が無いとただのアクサセリー止まりなのです。シズクが付与魔術を使って何かを籠めれば魔術的なアイテムも作成可能なので、シズクからも隠密に配る携帯可能なアクセサリーを頼まれています。私がお屋敷に居る時は地味に仕事があるのですよね。
「この間、何か無理して買ったとか言っていたではないですか? それなのにまだ欲しいのですか?」
「シノアさん……私が詐欺に遭った時にそれも全て売り払っている事は知っているのに聞くのですか? 私もシノアさんが作った物が欲しいのです……奥様のを見たらその辺の売っているのなんて、しょぼいですよ……」
長年それで生活をしている人に対して失礼な事を言ってますよね?
私は魔術でいんちきして簡単に作っているのですが、それを職人の腕だけで作るのは努力した成果なのに……まあ、私が作って、サラさんが独自のルートで販売してるのがいけないんですけどね。
「今回は特別に作ってあげますが、次に自分が原因なのに褒美を求めたら、お仕置きしますから忘れないで下さいね? それでどんなイメージの物が良いのですか?」
「もう二度と、エルナさんには買収されません! 作ってもらえるのでしたら、シノアさんが私に似合うと思う物でお願いします! 奥様に聞いたら、シノアさんはセンスが良いとの事で、いつもお任せしていると聞きましたので!」
ふーん、そうですか。
では、アイリ先生にピッタリと似合う物を作りましょう。
適当に材料を出して、寝ながら適当に錬成して渡しました。
「あの……これは……」
「首輪ですよ? なんと7種類も宝石を組み込んでいますので、中々綺麗ですよ? アイリ先生に似合う物と言われたので、私にはこれしか思いつきませんでした。さあ、早く着けて私に見せて下さい」
「こんなの違います! 確かにどうやって加工したのか分らない見事な宝石が散りばめられていますがこれでは、私はペットではないですか! 私が欲しいのはお洒落なネックレスです!」
「えっ! アイリ先生は、私のペットみたいな物ですよね? まさか自覚が無かったとは……これは、一度しっかりと躾をする必要がありますね……」
「酷すぎます! 確かに誓約魔術でシノアさんに自由は全て握られていますが……これはあんまりな仕打ちですよ! 私だって、1人の女性なのですから、少しはお洒落がしたいのに……このような仕打ちまでしてるのに、まだ躾をするとか酷すぎます……」
喜んだり落ち込んだり楽しい人ですね。
セリスがしていたチョーカーとさして変わらないと思えば良いのに、反省の色の無いアイリ先生にはピッタリと思うのですけど?
「わかりました。それを付けて四つん這いになって、三回まわって、わんと言って、私にお手をしたら、サラさんの物に近いイメージの物と交換してあげます」
「……私は本当に犬なのですか……わかりました! ここまで来たら、何でもしますよ! 約束ですから、必ず守って下さいよ!」
冗談で言ったのに首輪を着けて実行しましたよ……完全に威厳どころか人としての尊厳も捨てましたね。
私の背後で、起きていたエルナが笑うのを堪えて震えています。エルナに面白いネタを提供してしまったようです。
「わん! ……しました……こんな姿を誰かに見られたら、私はもうお終いです……」
もう一番知られてはいけないエルナに見られたけどね。
仕方ないので、アイリ先生に似合いそうなネックレスを作って交換してあげましたら、すごく喜んでいますね。
「これなら、満足しましたか?」
「はい! すごく素敵です! 流石はシノアさんはセンスが良いですね! 早速着けて食堂に行きますので、シノアさんも早く来て下さいね!」
あれだけ落ち込んでいたのに、嫌がらせをした私を褒めるとは、変わり身の早い人ですね。
身に付けると喜んで出て行きましたが、起こしに来たというよりも私にねだりに来ただけですね。
「朝から、楽しい先生ですね! もうすっかりとシノアのペットになってしまったようです。笑いを堪えるのが大変でしたよ?」
「アイリ先生をからかうのは楽しいですからね。あれだけ浮き沈みが激しいと、私としては飽きないので、反省するように言いましたが、反省などしない方が面白いですよね」
「いまの光景は私の魔術にしっかりと記憶させてもらいましたので、後ほど使わせてもらいます」
「記憶? いつの間にそんな魔術を使えるようになったのですか?」
光景を記録する魔術とか、すごく便利な魔法ですよね?
「私は、かすり傷も治せない『ヒール』と『ライティング』と『ホーリー・アロー』しか使えませんが、『ライティング』だけは光の明るさの調節だけは出来るぐらいにはなっていました。知らない内に自分が見た光景を光で壁などに投射すれば、その記憶を写す『イメージ・プロジェクション』という魔法が使えるようになったのです。これは私のお願いを女神様が聞き届けてくれたと思っています。お蔭で私は、一度見た記憶でしたら、覚えている限りは映し出せるので、シノアとの愛の記憶もいつでも見れるのですよ?」
知識としては知っていましたが、私には使えない魔法です。一番使えるとまずい人が使えるようになりましたよ!
サラさんのように言葉巧みに脅すよりも、確実に相手に証拠を見せるのですから、秘密をどこかに映像で暴露された日には、その人の人生は終わりますよね?
私もこれからは、エルナの前ではまずい事は避けるとします。愛の記憶とかすごく嫌なんですが……。
取り敢えずいつものお約束をしてから、エルナに指示だけはしておきましょう。
「それは良いとして、そろそろ着替えて食事に行きましょう。用意が整ったら工房に集まってから向かいます。かなりの強敵が居るとの事なので、エルナは前に出るよりも自分とキャロの護衛をメインにしてください」
「わかりました。シノアがそう言うのであれば、自分とキャロの護衛に徹する事にします」
と、私の服を脱がしながら言っています。指示には確実に従ってくれるので、この辺りは独断専行をしたがるシズクとは違って、頼りになるのですよね。
多少の要望も言いますが、私がダメと言えば気持ちを切り替えて行動してくれるのはエルナの美点と私は思っています。
「カミラの事は宜しいのですか? 何となくですが、いつの間にか私より強くなっている感じがするので、必要は無いと思いますが?」
「多分、必要は無いと思います。私の予想では、身体能力がいつの間にか私より上になっています」
「シノアより上なのですか? それはすごいですね。カミラは隠れて努力しているのは知っていますが、シズクさんの道場で稽古でも付けてもらっていたのかも知れませんね」
「下手したら、エルナよりも強いかも知れませんが、嫉妬とかしたりはしないのですか?」
「嫉妬などしませんよ? むしろ褒めてあげたい所です。私と違って、カミラは真面目な努力家なので、差が開くのは当然かと思います」
普通なら、自分よりも弱かった者が自分を越えてしまったら何かしら思うのに、努力した者を認めるのはエルナの良い所です。
それにしてもエルナの人を見る目というか、勘は冴えていますね。
魔物と戦う時でも、自分と相性の悪い相手とは決して無理をしないで、私の判断に委ねていますからね。
鑑定などは持っていないのに、相手を見ただけで判断できるのはすごい事だと思います。
「わからないのは、筋肉などは付いていないのに身体能力だけが上がっているのが不思議です? 私などは体型を維持する為に少しは努力しているのですが、出来ればその秘密を教えて欲しいのです。体質みたいな事を言っていましたが、それだけが謎なのです」
それは、カミラが海で死んでしまった時の魂の情報が維持されているので、外見はもう決して変化しないというか出来ないだけなのです。
私が悪戯で胸を揉みまくってからは少しづつ大きくなっていたので、あのまま揉み続けていれば、もっと胸が育ったはずなのです。それだけが悔やまれます。
着替えが終わって、食堂に向かいたいのですが、壁にカミラのお風呂の時の映像を写して、体形を見比べて私に聞いてきます。こんな事まで覚えているのですか……私はカミラの胸が大きくなった事しか確認出来ませんでしたが、カミラがこの事を知ったらどうなるのか、楽しそうですね。
食堂に行くとみんな寛いで紅茶などを飲んでいますが、何故かオリビアまで居ます?
今日は、遅めに起きたので、時間的には学園に居るはずなのですが?
「おはようございます、シノアさん。今日は森に探索に行くそうなのですね。頑張って下さいね」
「おはようです。オリビアは学園はどうしたのですか?」
「カチュアに色々と聞かせてもらいたい事がありますので、本日はお休みさせていただきました。ついでに剣の訓練もお願いしました。学園にはダンジョンの申請もしてありますので、明日は行きますから問題はありません」
まさかガルドの事ではないでしょうね……シズクが言い聞かせているのですから、ありのままを話すとは思いませんが……。
「そうなのですか……」
「マクガイア家が何をしていたかを聞くだけですから、他の事は一切詮索するつもりはありません。上の方で反乱を企てたとの話なのですが、肝心の一族が全て消えてしまったので……カチュアには以前に少しだけ調べてもらっていたので、何か知っているのかと思ったのです。それに彼女は余分な事は昔から絶対に話したりはしませんので、他の事は教えてはくれないとはわかっています」
これは、何となく気付いているけど、知らない振りをすると言っていると思います。
以前は非常に迷惑な存在でしたが、仲良くなったら、これほど空気が読める存在になるとは思いもしませんでした。
何となくさっきの首輪を指で回していたら、気になったようですね。
「ところで、先ほどから気になったのですが、その首輪のような物はどうしたのですか? 地味に凝っていますので、高価そうな物と見ましたが?」
「これですか? 先ほどアイリ先生に作ってあげたのですが、我が儘をいうので、別の物を代わりに作ってあげたのです。これはどうしようかと思っている所ですが、オリビアは興味ありますか?」
「それはシノアが作ったのですか? よく見ると精密に作られていますね……こんな加工が出来るなんて、サラ様が一部の者に譲っている物はシノアが作ったのですね」
これを見ただけで、そんな判断が出来るとは、私が作る物には何か共通する癖みたいなものでもあるのでしょうか?
「もし宜しければ私が購入したいので、譲っていただいても良いでしょうか? 貴女に付けてもらえたら、私は貴女のものになれると思うのですが……」
……これさえなければ完璧なのに……どうして私に服従したがるのか意味がわからないのですが……こんな物を付けたら、私に付けて貰ったと学園でも堂々と言い張るに違いありません。
そんな事になったら、私の百合の噂が更にレベルアップしてしまいます。
公爵家の娘を2人とも手籠めにしたとか、絶対に話題になります。
ただでさえ、1年の女子に「お姉様になら、手籠めにされてもいいので、好きにして下さい」とか言われているぐらいなんです。
エルナは、羨ましそうに見ていますが、私は望んでいないので、勘弁して欲しいのですよ。
誰も否定してくれないので、もう私のイメージは変える事は出来ないどころか、少しでも何かすると変なイメージだけが増えていくのです。
「アイリ先生と違って、流石にオリビアにはそん事は出来ませんよ」
「残念です……付けてもらえたら、学園の生徒達にしっかりと認知させれたのに……」
予想はしていましたが、本当に実行するつもりでしたか……おそろしい人ですね……。
こんな物は残しておくと……。嫌な予感がしますので、さっさと別の物に作り変えてしまいましょう。
キャロに淹れてもらった紅茶を飲みながら、別の物に作り変えたら、オリビアが名残惜しそうな目で見ています。お願いですから、更生してください。
「そんな目で首輪を見ないで下さい。公爵家の令嬢様がこんな物を付けていたら世間が驚いてしまいますよ。代わりにこれをあげますので、後ほどシズクに何か付与でもしてもらって下さい」
代わりに指輪に錬成し直しました。
体積が減った分だけ付いている宝石を圧縮したので、少しなら強力な付与が出来るはずです。
色んな宝石が融合していますので、地味に綺麗な宝石になっています。
「これを私にいただけるのですか? 七色に輝いているのです。とても綺麗ですが、とても無償でいただける物ではありませんよ」
「私がオリビアにあげたいのですから構いません。材料は、私の収納にいくらでもあるので実質無料です。いらないのでしたら、エルナに……」
「ありがとうございます! 早速付けさせていただきます。とても気に入りました。大事にさせてもらいますね」
エルナと言おうとしたら、すかさず私の手から取って、当たり前のように左手の薬指に嵌めています。そこは結婚する人の意味でしたよね?
「シノア、私も同じ物が欲しいので今すぐに作って下さい。まさかオリビアにあげて私は無しなんて、シノアは絶対に言いませんよね?」
オリビアがエルナに良く見えるように手を翳して、当然のように対抗心を煽っていますから、エルナも当然のように欲しがっていますので、同じ物を作って渡しました。
エルナも同じ指に嵌めています。この2人は変な事で競っていますからね……正直、悩みの種です。
「2人に言っておきます。その指輪を私から貰ったなどと学園で言ったら、必ず没収しますので、絶対に言わないで下さいよ?」
「勿論わかっています。2人だけの愛の秘密なのですね?」
「エルナさんは、この手の事は口が軽そうなので、没収されてしまえば、私とシノアさんだけの2人の証になりますから、早く自慢でもして下さい」
「オリビアも気を付けた方が宜しいですよ? 私とシノアの間に割り込んだ邪魔者なのですから?」
「何を仰っているのかわかりません。思いが強ければ時間をも超えるのですよ? エルナさんもまだまだ理解が足りませんね?」
……下らない言い合いになってきましたので、無視して食事をする事にしました……今日も厨房のおっちゃんのご飯は美味しいなー。
サラさんが、弁論合戦はどっちが勝つかとか言い出したら、大半の人がオリビアを支持しています。
控えて居たメイドさん達にも聞いているのです。身分というかノリのよい人達ですが、自分達のお嬢様よりオリビアが勝つと思っている辺りはよくわかっている証拠ですね。
不毛な勝負に、気が済んだら工房に準備をして来るように言って、さっさと向かうと既にエルナ以外は居ます。サテラはペンギンの着ぐるみのままなのですが、まさかそのままとか言わないで下さいよね?
「サテラに聞きたいのですが、着ぐるみのまま行くのですか? 確か足捌きがしにくいとか言ってましたよね?」
「行く前には着替えます。そろそろ出発するのでしたら着替えますね。これは私のお気に入りの室内着になりましたので、戦闘に使うなんて事はしませんよ?」
そう言うとみんなの前で、さっさと脱いで着替え始めました。私がやると必ずお説教コースです。
カミラは頭でも痛いのか額を押さえてぶつぶつ言っていますが、セリスとキャロは全く無関心で、気にしていません。
シズクは、感想を聞きながら、追加点などの要望を聞いています。目の前の事などいつもの光景みたいなので、当然のようですが、きっとカチュア達も同じ事をしているのでしょうね。
紐みたいなパンツだけでシズクと話している所にエルナが来ましたが、どうなるのかな?
「お待たせして申し訳ありません。オリビアが中々認めないので、またしても私が言い負かされてしまいましたが……サテラちゃん! 何をしているのですか!」
おっ、やっとですが普通の反応が来ましたよー。
「何って、勿論着替えている途中だけど、エルナちゃんは何を驚いているのですか?」
「何って、いくら何でもみんなの前で着替えるなんてはしたないですよ! サテラちゃんは可愛い女の子なのですから、男性に見られたらどうするのですか!」
「そう言われても、私は特に気にした事が無いのですが。万が一ですが、欲情して襲って来たら、必ず殺しますので、見られた事にならないから大丈夫ですよ? それにここには女の子しか居ないので、問題はありませんよ?」
ふむふむ、サテラを襲ったりしたら、死体が増えるという事が判明しました。
他の事をしながらでも魔物の急所か魔石を確実に攻撃していましたので、人間だったら、確実に心臓を一突きで殺してしまいそうですね。
「それはそうなのですが女性としての……」
「エルナちゃん! 私は、貴族でも何でもありませんので、以前みたいに嗜みとか言われても絶対に守るつもりはありません。私に何かを守らせたいのでしたら、私に勝ってからにして下さい。こないだ私の体の自由を賭けてズタボロにされたエルナちゃんには、私に何か言う権利はありません! 私はようやく自由を手に入れたのですから、今度は好きな事だけをして生きると誓いました!」
エルナが言い負かされていますが、そんな勝負をしていたのですか……はっきり言って、この中で一番強いサテラに勝てるわけがありません。
マナの自然回復をしない今の体でも、槍術だけで無双状態なのですから、だらけた行動をしていますが化け物です。
特にあの槍がやっかいなのです。模擬戦をしたら私の魔法を切り裂いて吸収するとかありえないのです。攻撃魔法を使うのは逆にサテラのマナが回復してしまうので、純粋な武術の勝負しかないのですが、私とシズクの2人で挑んでも、余裕であしらわれています。
死なないと思って、『イグニス・フレア』をお見舞いしたら、ごちそうさまとか言って斬られたのはショックでした。
特にシズクは刀に風の魔法で武器強化もしているのですが、サテラの槍に触れてしまうと全て効果が消されてしまうので、あの恐ろしい早さが殺されてしまっているのです。
そんな事で諦めたエルナの目の前でエロドレスに着替えましたが、キャロから質問が来ました。
「シノア様、お聞きしたいのですが確かパーティーを組めるのは6人までと聞いたのですがここには7人いるのですがどうするのですか?」
最近、色々と勉強中のキャロは当然と思いますよね。
言えませんが、その答えは簡単です。
「キャロちゃん、大丈夫ですよ。私はこの中で一番強いので単独で行動しますので安心して下さい」
「サテラは単騎でも問題無いので、パーティーを組むのはサテラ以外になります。恐らく私達6人で挑んでも勝てませんよ」
「サテラさんは、そんなに強い方でしたのですか……差し出がましい事を聞いて申し訳ありませんでした」
「そういう事だから、気にする必要はありませんよ!」
まあ、実際は私とエルナとシズクとキャロの4人しか認識されていないのですよねー。
セリスとカミラとサテラは、私と同一人物と世界に認識されているので、実は私だけ経験値が4倍状態になっています。
なので、意図的にシズクとエルナとキャロだけは、強敵の止めを刺す時にわざとパーティーから外したりとかして調整していたのですが、ガルドの事件で私達だけがレベルが一気に上がってしまったので、どうしょうかと困っています。
シズクは戦いになるとバトルマニアになってしまうし、キャロは範囲魔法を使わせればなんとかなると思うのですが、問題なのはエルナです。職業の恩恵でレベルに比例しない能力があるのは助かりますが、何とかレベルを上げる方法を考えないといけません。
せめてエルナに魔術の適性があれば良いのですが、初級魔術しか覚えられないのが残念です……制御の才能はあるのにこんな所まで残念な事に……そう言えば、制御と言えば明かりを灯すだけの魔法をあんなに自在に調整出来るのですから、唯一使える攻撃魔法の『ホーリー・アロー』を一度に複数作り出す事が出来るのでは?
普通の人は1本しか撃てませんが、もしかしたら連続で作り出せるか一度に複数同時に撃てたら、範囲魔法と変わらないですよね?
「いま思いついたのですがエルナって、『ホーリー・アロー』を何か調整して使えたりしますか?」
「使えますがよく知っていますね? 1発だけなら、私が思ったところに必ず当てる事が出来ますよ?」
「それもすごいのですが1発だけとは、どういう事なのですか?」
「ただ撃つだけでしたら同時に複数撃てますが、威力が落ちてしまうので攻撃には使えません。シノアの盾の真似をして1発だけ作り出して、私の周りに飛ぶようにしておけば、剣が間に合わない時に相手に不意打ち程度の攻撃に使えます。あんまり長く維持していると意識が逸れてしまうので大して役に立ちません」
元の魔法を、魔力に関する技能も無いのに、そこまで違う使い方をするなんて、そんなの私にも出来ないのです。制御だけなら完璧ですね。
私の場合は、イメージで強化するだけなので、そこまでの応用は出来ません。
アルちゃんみたいに盾の魔法を剣にする訓練もしてみたのですが、どうしても私には変化させる事が出来ませんでした。
「エルナちゃんって、魔術の才能がありますね。私の知る限りそんな事が出来たのは2人しか知りません」
「でも、私はシノアから沢山のスクロールを貰って試しましたが、元から使えた『ホーリー・アロー』と『ヒール』以外は唯一覚える事の出来た『ライティング』とシノアの愛の記録の魔法しか使えません」
「愛の記録というのはわかりませんが、惜しいですね。これで色々な魔法が習得出来ていたら、恐ろしい聖魔術の使い手になっていましたね」
「私は、これだけでも十分に便利と思っていますので、問題はありませんよ? 光でシズクちゃんの視界を潰してしまえば、私も勝てる割合が増えましたからね!」
「突然、私の目をずっと光で眩しくされてしまったら、エルナお姉ちゃんを捉えるのに気配だけになってしまうので、私にもまだちょっと厳しいです。実戦なら、とても有効な方法には間違いありませんが、練習では止めて欲しいです……正直に言いますと、眩しくて目が痛いのです……」
「方法はともかく、シズクに勝てるとはすごいと思います。私は、ずっと連敗中ですよ。たまに負け続けると凍らせてしまいたくなります」
「お姉様……あの魔法はシャレにならないので、練習試合では絶対に使わないで下さい……セリスお姉ちゃんが居なかったら、私は指が無くなってしまう所でした……」
私が使える水魔術の『フリーズ・ゼロ』は、範囲は小さいのですが触れた場所を部分的に完全に凍らせるのです。状態異常を回復する魔法か術者が解除しない限りは凍ったままなので、普通の人がそのままにされたらその部分が壊死してしまいますから、地味に使える魔法と思ったのですが……。
「あれは、たまたまシズクの手に触れる事が出来たので、つい試して見ただけなのです。あそこまで効果があるとは思っていなかったのです。解除したのに、まさか動かなくなるとは、思ってもいなかったのですよ」
「あの時は、いきなり手首から先の感覚が完全に無くなってしまったので、すごく怖かったです……すぐにセリスお姉ちゃんが気付いて治してもらったのですが、最初は僅かにしか指が動かないので、もしも治らなかったら、衣装が作れなくなるところでしたよ……」
「もう二度と使いませんから、早く忘れましょう。代わりにシズクに頼まれた物は必ず作ってあげているのですから、思い出してはいけません」
あの時は、セリスの回復魔法で治したのに最初は少ししか指が動かせなかったので、部分的に細胞が死んでいるとでも認識されていたのかも知れませんね。
刀が握れない事よりも衣装が作れなくなると言って泣いていましたので、私はあれ以来はシズクのお願いを聞きまくりです。
以前は、めんどいので、後回しにするか何か用事を言い付けてからしか作っていなかったのに、大変な弱みを作ってしまいました。
自分の腕が斬られて止血代わりに使っていたので、問題無いと思っていました。私にはマナさえあれば完全再生出来るので問題は無かったのですが、普通の生物に使ったら致命的な魔法と認識しました……せっかく使える魔法と思っていたのに、またしても安易に使えない魔法です。
「済みませんが御二人とも武術の練習なのですから、そういうのは本当に止めて下さい。純粋な武術の試合でしたら、卑怯以外何でもありませんので……真剣勝負の殺し合いでしたら、有効な手段と認めますが……」
この話をすると、シズクから武術のなんたるかを説明されて、私が折れるしかないのですから、話題に触れないようにしていたのです。
場の空気が私に不利なので、さっさと転移する事にしました。
キャロは気付いていないみたいですが、サテラも一緒に移動しているのですから、さっきの疑問の答えがおかしい事に気付いてもいいのですけどね!
しかし、転移魔術というのは便利極まりないですが、重力魔術の件があるので、どうしてこんな便利な魔術をノアが開放してくれたのか不思議です?




