58 勉強の成果
結局、カミラにずっと泣き付かれてしまいました。
どうして、そこまで泣いているのかさっぱり理解出来ないのです。ずっと私に人を思いやるように諭して来るのですが、何故か訳がわかりません?
普段なら、めんどいとか思うのですが、聞かなくてはいけないと思うのです?
でも、言われてみれば確かにそんな事を考えていた気がするのですが、なんだか頭に靄が掛かったように薄れている感じなのです。
私は、元々の考え方から変わっていないと思うのですが……。
何とかなだめて、エルナの所に戻る事にしました。誰かに抱き着いていないと大抵は起きて来るのですが、カミラは誰を生贄にして抜け出してきたのでしょう?
部屋に入るとちゃんと何かを抱いていますが……あれは何ですか?
「カミラに聞きたいのですが、エルナが抱いている物は何ですか? 私の絵が描いてあるのですが……」
「あれですか? あれは抱き枕という物らしいです。シズクさんの世界では、好きな人の絵を等身大で描いた物をその人の代わりに抱いて寝るアイテムなのだそうです」
「では、どうして絵が私なのですか?」
「エルナ様が一番好きなのはシノアなのですから、当然ですよ?」
何が当然なのでしょうか?
書くなら、自分の絵にして下さいよ……。
「それは、友達としては嬉しい事なのですが、エルナの将来が不安です。そして、なぜ全裸の絵なのですか?」
「ノアさんに教えてもらったのですが、抱き枕の絵はこれが常識と言われたのです。シズクさんも、向こうの世界では想い人の代わりに使うと言っていました」
嫌な常識ですね……枕の私の口の辺りがエルナの涎か何かで湿っています。何をしていたのか想像できますが、自分の絵が描いてあるのを見るのは複雑な気分です。
エルナに抱き着かれると、私とカミラは寝ている間に色々とされているみたいなので、本当に寝ているのか怪しいぐらいです。
しかし……どうでも良いのですが、とても正確な絵が描いてあります。絵ぐらいはもう少し胸が成長した姿にしてくれても良いかと思うのですが……気が利かないですね。
「それにしても実に正確に描いてありますね? カミラに画家としての才能があるなんて初めて知りましたよ」
「これは、シズクさんに作ってもらったのです。製作を依頼したら、喜んで色々な姿の絵の物を作ってくれましたので、エルナ様が喜びそうな表情の物を譲ってもらいました」
……私はいつあんなエロっぽい表情をしたのでしょうか?
如何にもキスでもおねだりしている表情なのですが……これは、別の物も確認しておく必要があります。
明日というより今日ですが、学園から戻ったら、シズクを問いただす事が確定しました。ちょっとお説教をする必要がありますね。
エルナから、如何わしい枕を回収すると同時に襲われました。仕方ないので、朝まで耐える事にしました……残念ながら、私の力ではエルナの寝ぼけた腕力には全く勝てませんので……。
翌朝、寝るのも面倒なので、エルナが起きるまで抱き着かれながら寝顔でも見ていました。どんな夢を見ているのか知りませんが、だらしない顔で嬉しそうに私の口を貪るのは止めて欲しかったです……私は、起きるまでは完全に意識が落ちているので何をされているのかやっと理解出来ました。
こんな事を寝ぼけてされているのですから、道理であちこちが湿っていたのですね……今度、寝ている間に拘束でもしたらどうなるか試してみたいです。
そんな事を考えていると、エルナが目覚めたようです。
「おはよう、昨日はどんな夢を見たのですか?」
「シノア、おはようございます。よく私が夢を見ていたとわかりましたね? しかし、昨日はカミラに抱き着いて眠ってしまったはずなのですが、いつの間に入れ替わったのですか?」
「それは……私がベットに入ったら、エルナが寝ぼけて私を掴んで抱き着いてきたのですよ。それから嬉しそうに何か言ってましたから、楽しい夢でも見ているのかと思ったのです」
「そうでしたか、昨日の夢はとても良かったのです……シノアが私の要望を素直に聞いてくれたので、私はとても頑張りましたよ!」
「私はいつもエルナの要望は殆ど聞いていますが?」
「ちょっと、夢でしか叶えてもらえないお願でしたから……起きている時にお願いすると世間が認めてくれないのですよ?」
夢で何を頑張ったのか知りません。ちょっと何を素直にしたのか聞いてみたいのですが、起きている間も強要されては困りますので聞きません。
そこまで理解しているのでしたら、そろそろ真っ当な道に戻って欲しいのですが……。
「そんな認めてもらえない事は諦めて、現実の事に目を向けましょうね? 1つ聞きたいのですがエルナの好みの男性はどんな人なのですか?」
「私は、夢を諦めたりはしません。いつか必ず実現させるつもりですよ? それで、私の好みですが理想としてはシノアが殿方になった場合が良いですね。以前にシノアが酔って私にしてくれた性格などは、私の最も理想的です……あのままでしたら、私は何をされても全て受け入れたので、残念です。御伽話にありましたが、性別が変わる薬が欲しいです」
それは、ノアに襲われたいという願望なのですね……エルナはあんな悪魔のような人格が好きなのですか?
しかし、童話になっているのですから、もしかしたらそんな薬も存在するのかも知れませんが、私の錬金魔術のレシピには見当たりません。
「実現させないで下さい。近い所で、ユリウスとかクロード先輩などはどうですか? エルナは公爵令嬢なのですから、話が来ても良いと思うのですが?」
「ありましたが、私の好みから離れすぎているので、謹んで辞退させてもらいました。この国は王族よりも有力貴族の方が実権を握っていますので。王族はただの飾りです」
うん……その通りなのですが。ユリウスが頑張る気持ちとクロード先輩が冒険者になりたいというのがすごく理解出来ます。
「そんな事より、そろそろ起きないとリンが来てしまうので、いつものお目覚めのキスをして下さい。これだけは約束したので、絶対に譲りませんよ?」
「はいはい、わかりました」
寝ぼけながら、あんなに堪能したのにまだ足りないとは、何が楽しいのやら……昨日、セリスがされていた事も理解出来ましたが、何が良いのかさっぱりわかりません?
海でかなり大きいクラーケンに似たような事をされましたが、全身を拘束されているので、脱出をするのに苦労したと記憶しています。
シズクに海の魔物の話をしてたら、「薄い本のネタですね……」とか言ってました。顔が真っ赤になっていたので、心を覗きませんでしたが見れば良かったですね。
しかし、最初に比べると朝食の顔ぶれが随分と増えましたね。
初めの頃は、私とエルナとレートさんとサラさんとカイくんだけで、執事のロイさんとメイドのリンさんとセリスと数名のメイドさんでした。
今では、シズクとカミラとクラスメイトのポーラとミルとシャルムにサテラまでいます。
キャロとアイリ先生はメイドとして、後ろに控えていますが賑やかになったものです。
カイくんは、シャルム達に可愛がられている感じで懐いているように見えます。3人に向ける感情がエルナに近いのですが、エルナとは違うと信じています。
サテラをみんなに紹介しようとしたら、昨日の着ぐるみのまま来ましたよ!
ちょっと目まいがしたのですが、時間も無いので簡単に紹介をしたら、みんなに普通に受け入れられてしまいました……なぜ?
そして、サテラは着ぐるみのまま食事をしているのですが、どうして誰も何も言わないのでしょうか?
私としては、「ペンギンがご飯を突いています」とか言いたいのですが、余りにも自然に食事をしていますし、レートさん達も何も言わないどころか暖かくこの光景を見ています。私の感覚はおかしいのでしょうか?。
これは、きっと気にしたら負けなのですよね……まあ、そんな事よりも大事な事があります。
「ところで、今日のテストは大丈夫なのですよね? もし成果が無かったら、次のテストまで置いて行きますからね?」
「大丈夫ですよ? 私が本気になれば問題はありませんし、今回の予想範囲もわかっていますので、もしかしたらトップになってしまうかも知れませんよ?」
「そうなのですか? それはすごく頑張ったのですね。まさかとは思いますが、テストの問題まで知っているとかはではないですよね?」
「それは、ありません。アイリ先生は、除け者になっているので問題の製作には関与していません。普通に出そうな所を教えてもらっただけです」
「あの……私は、除け者になっている訳ではなくて、学園長に許可をもらってエルナさんの勉強を見る時間を多くしてもらっただけですから……」
「授業でも十分なのに余計な事をして時間を貰えるなんて、除け者にされているからですよ? 学園長に撤回のお願いに行ったら、その方が結束が高まるので丁度いいからこき使ってあげて下さいとまで言われましたよ?」
「そんな事を言っていたのですか……私は、そこまで……しくしく……」
調子に乗って、教師陣をこき使うからですよ。
もう私が卒業するより早く学園は辞めさせて、私に仕える従者にでもした方が良いかも知れませんね。
「宜しければ、エレノアには私から言っておきましょうか? あの子は私のお願いでしたら、何でも聞きますよ?」
サラさんが楽しそうにアイリ先生に囁いています。私は知っていますよ……サラさんがどれだけエレノアさんの弱みを握って逆らえないようにしているのかを……一言で説明するのでしたら、悪魔の所業です!
「いえ、私がしでかしてしまった事なので、そんな事をお願いしたら、余計に恨まれてしまいます。今更ですが、目が覚めましたので、自分で何とかしてみます」
「そうですか……少し残念ですが頑張って下さいね。私の力が必要でしたら、いつでも待っていますよ?」
「サラ様、ありがとうございます」
アイリ先生は、素直に感謝していますが、サラさんは内心では、エレノアさんに嫌がらせが出来なくて残念に思っているだけですよ。
いつものように門を出る時に爽やかな笑顔で私達を送り出してくれるコクマーさんですが、昨日の痛いポーズを決めながら台詞を言っていたのを思い出したのです。出来れば忘れたいです。
アイリ先生がエルナを除くみんなに励まされながら歩いています。少しは助けてあげましょうかな?
「まあ、心を入れ替えて皆さんに接していれば、元に戻れますよ? なんでしたら、私に支配されてしまった事を打ち明けてしまえば同情してくれるかも知れませんよ? あの博識ぶって、偉そうにしているフリーク先生なんて、私に土下座をした事があるのですから」
「それは本当なのですか!? あの自尊心が強くて決して頭など下げない偉そうな人が……私が届けているポーションを渡す時も融通はしてくれますが、絶対に意思を曲げなかったのに……」
酷い印象をもっていますね……ちょっと持ち上げて欲しいだけのお茶目なお爺さんなのに、偉そうとか思われていたのですね。
取り敢えず、教師陣に対する考え方を改めないと、誠意など決して認めてもらえないかと思います。
まあ、ポーションの効果を教えていませんので、特殊な液体としか思っていないのでしょうね?
薄かった毛が濃くなっているのに気付いてもらえないとは、それはそれで気の毒ですね。
「それでは、アイリ先生に各々の先生に対する好感度を上げる方法を伝授しましょうか? まず、エレノアさんは……」
仕方ないので、それぞれの教師に効果的なお世辞を教えておきました。
内容は聞かずにとにかくさりげなく褒めるように教えましたが、お蔭で私はカミラ達からは冷たい目で見られています。
「シノアって、本当に悪魔みたいな事をしているのですね……それだけ先生達の情報をどうやって調べたのですか?」
カミラから、すかさず突っ込みが入りますが、そんなの簡単ですよ。
「お屋敷に昔からいる密偵の方に調べてもらいましたので、簡単に家族構成から本人の趣味に至るまで直ぐにわかりました」
「シズクさんの隠密以外にそんな人達がいたのですか……」
「元々はサラさんが作った組織らしいのですが、今でも活躍しているというか……現在は、御庭番に組み込まれているはずです。一応は、サラさんの直轄らしいですよ?」
「お母様の密偵ですよね? リンもその1人ですから、私に関わる事は事前に調べて来るので、迷惑極まりないのですよ……お蔭で私は隠すのに必死ですよ?」
一体、何を隠しているのか知りませんが、いっそ公開して、心の綺麗なお嬢様に教育した方が良いと私は思うのですが?
「シノアって、もしかして私達の事も調べたりしていたの?」
シャルムから質問が来ましたが、流石に友達にはしませんよ。
「私は、友達にはそんな事は調べたりはしていませんよ? 教師陣は、何かと都合が良いので調べましたが」
カミラは背中とか見えない所に変な怪我をしているから心配だったので、こっそりと調べてしまいましたけどね。
「シノアさんは、私達の気遣いなども自然にして下さるので、いまの話を聞いたらもしかしてと思ってしまいました」
珍しくポーラからも突っ込みが来ましたよ。
「私は、誓ってそんな事はしていませんから、安心して下さい。エルナ程ではありませんが、勘が良いだけですよ」
それから、適当に誤魔化しましたが、カミラだけは私が感情でその人を観察している事を知っているので視線が痛いのです。
小声で「確かに調べたりはしていませんけどね……」とか呟いていました。こういう時こそ私を援護して欲しいのですが、絶対に援護してくれません。
全く、主に対する忠誠心が足りないようなので、なんとか難癖を付けていじめたくなるのですよ。
だからと言って、セリスのように何でも私が正しいとかいう価値観は困りますが。
セリスが帰ったら、お話しがしたいと言っていましたので、飛ばされてからどうなったのかも聞きたいですね。
「シノアさんは、話をしていると雰囲気で分るらしいので、先生はいつも誤魔化そうとしても直ぐにばれてしまうのですよね……少しくらいは見逃してくれてもいいと思うのですが……」
「アイリ先生が常に誠心誠意でいてくれれば問題など存在しないのに、隠れてこそこそと何かするからいけないのですよ? アイリ先生は悪い事をすると直ぐに行動に現れるのですから、隠し事は向いていませんので、正直に生きる事をお勧めします」
「私は大人の女性なので、少しぐらいは秘密があるのですよ! 悪い事などと決めつけないで下さい!」
何か生意気に反論していますが、その大人の女性の秘密を暴いてあげましょう。
「でしたら、シャルム達にちょっと聞いてみましょうか? みんな1つずつで良いから、気になった事を言って下さい」
「気にはなっていたけど、私にメイド服が嫌とか恥ずかしいと言っていましたが、いつも廊下に飾ってある鏡で自分の姿を見て身だしなみを楽しそうに整えていたね」
ふむふむ、シャルムにはメイド服が恥ずかしいから嫌とか言っていたのですね。
「アイリ先生は、食堂にいるナッシュさんに色々と気を使っているみたいですが、好きなのですか? 私は少し露骨なアピールだと思うのですが……」
ポーラも食堂でのナッシュさんに対する態度を見ていたのですね。
セリスに弟子入りでもすれば、結婚出来るかも知れませんよ?
「私の家の者に聞いたのです。今でもたまにバーに入り浸っているそうですが、また騙されてしまいますよ?」
ミルは、アイリ先生の結婚詐欺の事件を知っていたのですか……しかも、バーに出入りしていた事も知っているし、また通っているとか全然懲りていませんね?
「貴女達は、どうしてそんな事を知っているのですか! しかも、バーの事まで知っているなんて!」
「ほら、みんな何か必ずアイリ先生の痴態を知っているのですから、そろそろ素直になった方が楽になれますよ?」
アイリ先生は、そこまで気付かれているとは思っていなかったみたいで、驚いていますが、どうして気付かれてないと思えるのでしょうね?
「……聞きたくないのですが……もしかして、クラスのみんなも知っているのですか?」
さらに自分から聞きに行くとは、見えている罠を確認して、自ら進んで踏みに行くようなものですね。
もしかして、自分を追い込むのが好きなのでしょうか?
「男子は、先生が色っぽい服装をするようになったので、単純に喜んでいますが、他のクラスの女子は、派手な下着でスカートが短くなったので、良い人でも出来たのかと噂しているぐらいかな」
「……」
そう言えば、最近は地味な服から、きわどい服か色気のある服が多いですね。
シャルムとポーラはお互いの意見から、納得したように頷いています
「私の家は、犯罪者を捕らえる管轄の者がいますので、少し前に詐欺師を捕まえたので、全て余罪を吐かせたから、アイリ先生が被害者だと知っています。公にはしていませんので安心して下さい」
「……」
いや、ここに居るみんなにはこの瞬間に知られてしまいましたので、秘密を知っている者が増えましたよ?
「皆さん……お願いですから、それ以上は語らないで下さい……お願いします……」
流石に落ち込んでいますので、それ以上は何も言いませんでしたが、これで少しは反省でもして自粛してくれると良いのですが。別にもっと私の為に踊りまくっても良いですが、楽しい人ですね。
そう考えると、お金って人生をここまで狂わしてしまうとか怖いですね。
何か人生が終わったような悲壮感の漂うアイリ先生を、仕方ないので連れて行ってから、テストを受ける事にしました。
ちょっと落ち込みが激しかったので、エレノアさん達に私が事情を話して、さらには私の誓約魔術を受けてもう自由が無い事を教えてあげたら、流石に同情をしたのか以前のように普通に接してくれると約束してくれました。
考えてみたら、羽振りの良かった時に自分達も散々奢ってもらっているのですから、アイリ先生だけを責めるのは気の毒だと思ったようです。
しかし、私に誓約魔術が使えるとわかったので、なるべく私には貸しを作らない方が良いと今更気付いたようですが、手遅れだと思います。
帰りにアイリ先生を迎えに行ったら、なんだか皆さんに励まされて謝罪とかしていました。キャロには言っておくので、落ち着いたら帰るようにと言っておきました。
私の賄賂の効きが薄くなってしまうかも知れませんが、このぐらいは心のケアをしてあげないとねー。
どうせ、他の教師達もエレノアさんを筆頭にもう戻れない所まで来ているので、私が卒業するまでは耐えて下さい!
早めにお屋敷に帰ってから、セリスからお話を聞く事にしました。あの後、カインさんは子供になってしまいましたが、生き返ったとの事です。
孤児院に預けて、また会いに来ると約束して、別れて来たそうなのです。
そして、私が無抵抗で耐えて殺された事にひたすら申し訳ないと謝られました。私はどうせ死なないので問題無いと諭しましたが、次に同じような事があったら、迷わず戦ってほしいとお願いされました。
私がセリスの髪が短くなっている事を聞くと、それが今回の代償の対価としてノアが記憶を貰ったそうなのです。長くて綺麗な髪でしたので、今度ノアに会えたら文句を言ってやりましょう!
いつも対価とか言っていますが、今回の事でも別にそんな事をしなくても、ノアならきっと出来たはずです。
セリスは、十分すぎる奇跡なので、満足していると言っていますが、あの髪を大事にしていたのは、私だって知っていましたからね。
お屋敷の皆さんは、セリスを見て驚いていましたが、戦いに参加した御庭番の方達は、自分達が不甲斐ないせいで姉さんの美しい髪が……とか嘆いていて、逆にセリスに励まされていましたけどね。
シズクに抱き枕の件を聞きに行ったら、工房の部屋に居なかったのですが、シズクの作業部屋のベッドの所に沢山の私の抱き枕が……勿論、全て回収をしていたら、シズクが戻って来て抗議して来ます。
「お姉様! それは、私の仮眠用の枕なのですから返して下さい!」
「これは没収しますね。二度と作ってはいけません」
「そんなの横暴すぎます! 私の大事な枕なのですから、認めて下さい!」
仕方ないので、中身の枕だけ無言で返したのですが。
「……カバーがありません……私の渾身の力作なのに!」
「あんな卑猥な絵を描くなんていけません! 大体、私はあんなポーズや表情などした事が無いのにどうやって描いたのですか?」
「お姉様……私の極限まで集中した妄想力でしたら、お姉様のどんな姿でも想像出来るのです!」
頭痛がしてきました……こんな下らない事に集中して想像が出来るとか恐ろしい子ですね。
「これを誰かにあげたりはしていないでしょうね? 答えによっては返してあげますが……」
「発案者のカミラお姉ちゃんとオリビアお姉ちゃんがどうしても欲しいと言うので、2人にだけ進呈しました」
オリビアまで、持っているのですか……カミラの使い道は身代わりとしても、一体何に使っているのやら……。
「仕方ありませんので返してあげますが、今後一切誰にもあげたり見せたりしないで下さいよ?」
「……わかりました。これ以上はもう作りません」
なんか歯切れが悪いですね……それに感情が揺れまくっています。
これは、追及した方が良いですよね?
「怒らないと約束をしますので、抱き枕について隠し事をしているのでしたら、素直に話してくれませんか? 今でしたら、大目に見てあげますが、私が見つけた場合は内容によっては、お仕置きがきつくなると覚悟して下さいよ?」
シズクが珍しく苦悩しています。
普段から、私はなるべく心を読まないと言ってありますので、素直に喋って欲しいというか……こういう事は、本人の口から直接言わせた方が楽しいので、読む前に早く話してくれないかなー。
いつもなら、ここまで言えば素直に話すのに……まさか何かもう手遅れなのでしょうか?
「お、お姉様は絶対に怒らないと約束してくれますか?」
「先ほども言いましたので、約束は守りますよ?」
「では、言いますが……実はもうカシムさんと話をして商品化してしまったのです」
はぁ?
まさかと思いますがこの王都で販売でもしているのですか!
「まさかこれと同じ私のエロい絵では無いですよね?」
「それは、ここにあるのと2人にあげた物だけですから、他の人にお姉様のあられもない抱き枕を抱かせるなど絶対にしません! ただ……」
「ただなんですか?」
「武術大会のコスプレの姿のは、販売していると思います……サンプルでエルナお姉ちゃんのも作りましたので……それ以外は、カバーは購入者の要望の人を一度だけ転写出来るように作りましたので、すごく売れています……私に売り上げの2割も入るので……」
付与の技術で、その人の念を籠めれるとか無駄に高性能な枕ですね……。
カシムさんがご機嫌だったのがやっと理解出来ました。
てっきりまた何か賭け事でもして私に賭けて儲かったのかと思っていましたが……売り上げがどのくらいか知りませんが結構貯め込んでいそうですね。
ちなみに私達のダンジョン攻略の期間が賭けの対象になっているとの噂があるらしいのですが、誰がどこでやっているのかが分らないのです。
「その転写出来る絵はこんな裸の物も作れるのですか? だとしたら、普通に問題になりますよ?」
「それは、大丈夫です。優れた妄想力が有っても、衣服を着ている姿しか転写出来ないように設定してますので、パジャマ姿が限界になっています。下着とか水着を想像して念写して作ろうとすると、首から下がムラマサ師匠のふんどし姿になってしまうのです。ちゃんと説明してあるので、後は自己責任です」
えっ……邪な妄想をして作ったら、あのマッスルジジイになるのですか?
頭だけ、自分の好きな人で首から下がムキムキマッチョのジジイのふんどし姿とか恐ろしいですね……。
「それなら、良いのですが……では、私のはなんで、こんなエロ枕なのですか?」
「それは私が直接作った物なので、販売している物とは違います。私の最高傑作の特殊な付与をするペンで私が描きました。一つ作るのにすごくマナと時間が掛かるので、簡単には作れませんし、ただ描いた物ではありませんので、絵を保つのもほぼ完璧です! しかも、枕の本体の方に人肌の体温を感じる付与がしてあるので、思い込みが強ければ本人を抱いていると思うはずです!」
この枕にそんな無駄な努力が……。
「販売用の枕本体に人肌の付与がしてある物は、5倍の値段に設定しているのにすごく売れるのですよ!」
……そんな枕にお金を使うより、その想い人に何か買って上げた方が近道だと思うのは私だけなのでしょうか?
「まあ、今回は大目にしますが、どうして私は裸なのかを説明して下さい」
「最初に作る時は普通に作ろうと思ったのですが、カミラお姉ちゃんがノアさんから、この方がエルナお姉ちゃんが絶対に喜ぶからと言われて、お姉様とお風呂に入っている時の事を必死に思い出して作りました」
「では、この表情は何ですか?」
「これなのですが……カミラお姉ちゃんが持って来てくれた絵を参考にしました……これを貰ったのは言わない約束なので、カミラお姉ちゃんを責めないで下さい! じゃないと私が喋った事がばれてしまいます!」
これは……ノアですね……目の色が違いますから、私ではありませんが確かに同じ表情です。
どうやったのかは知りませんが、これをカミラに持たせて作らしたのですね。
そうなると発端はノアなので、あまりきつく怒れませんね。
だけど、カミラは製作に関してはシズクにお任せみたいな事を言っていたのに、こんなエロい表情を作るように仕向けたのはカミラではないですか!
これは、後ほどお仕置きのネタに使いたいのですが……今回は、諦めるしかありませんね。
それから、アイリ先生の帰りが遅いので様子を見に行こうとしたら、戻って来ました。ギースさんに支えられて酔っぱらっています。
「帰りが遅いので様子を見に行こうかと思っていましたが、ギースさんが迎えに行ってくれたのですか?」
「これは、シノア様。奥様から、先生が遅いので迎えに行って欲しいと頼まれました。シズク様からも先生が遅い時は誰かが様子を見に行くように言われています。今日は私が当番だったのです」
そういえば、いつかシズクに、ちらっとアイリ先生がどうして私の誓約魔術を受け入れたのかを聞かれた時に、詐欺の件も含めて心配なので時間がある時は見ていて欲しいと頼んだ事がありましたね。
いまは執事服なので、御屋形様などと呼ばれません。あの服はもう着ないで欲しい所ですね。
「ギースさんも強くなりましたね。その辺にいる貴族枠の使徒でしたら、敵ではありませんね」
「これも全て、シノア様とシズク様のお蔭です。最初は従ったふりをして戻ろうと思っていましたが、あの時の口約束だけで、私を信用して自由をくれたり、自分にまだ強くなれる道を示してくれましたので、以前の私は死んだ事にして仕える決心を致しました」
「元の主にばれても知りませんよ?」
「奥様から聞かされていますが、我らは死亡扱いらしいですので、向こうに戻る所はもうありません。それにこの歳で、こんなに楽しめるとは思ってもみなかったので、悔いはありません」
「でも、よくシズクに仕える気になりましたね? 確かに剣の腕と戦闘のセンスは子供と思って舐めてかかると大変な事になりますが」
「シノア様は、真剣になられているシズク様を見ていないので、そう思うだけです。確かに無理な事を修行と称して課してきますが、強くなる為の指導の仕方はとても子供とは思えない配慮をしていますよ。必ずその者に合った訓練をさせて成果を出せば、必ず労ってくれる所など、私を育てた訓練のみの教官とは大違いですね」
「シズクがそんなに面倒見が良いとは初めて知りましたが、あの趣味も本当に共感しているのですか?」
「シズク様の好きな設定ですね。中々面白いと思いましたので、私も若い者に負けないようにその気でやらさせてもらっています。シズク様が本気で熱く語っていますので、中にはかなり本気の者もいますが、実際に強くなっているので、皆はノリノリです」
あんな設定でも本気で信じれば強くなれるとは、思い込みも侮れませんね。
実際に、昨日の戦闘で誰も死んでいないのはすごいと思いました。
いくら、私が教えた魔術とまともにぶつかってはいないとはいえ、相手は10倍以上なのですから、欠ける者がいてもおかしくはありませんよ。
「シノアさん! ありがとうございます……みんなから聞きましたが私の為に……zzz」
突然、大声で感謝してくるので驚きましたが、どうも上手く仲を取り戻せたみたいですね。
この辺で、少しは教師としての威厳を回復してあげないと、落とすのが面白く無いですからねー。
酔っ払いが眠ってしまいました。何か落としましたが……ふむふむ、今回の結果ですね。
おおっ!
なんと、エルナが4位とか実は、すごく成績優秀なのですね……初めから本気でやれば、きっとSクラスだったのでしょうね。
あの腹黒で、可愛い物におかしい性格さえ何とかすれば、完璧なお嬢様なんですけどね。




