5 怪しい人です
しかし、この世界は、あまり希望がなさそうですね。
おじいさんが昔、この国の女神様に聞いたそうなのですがこの世界は見捨てられた世界らしいです。
始まりの創造神様が多くの眷属を生み出して、この世界を発展させようとしたのですが、いつの間にか争いを始めて力の奪い合いになってしまったそうです。
気が付けば、多くの力を取り込んだ者が神や魔王を名乗って、さらに戦禍は拡大していったそうです。
最初の創造神様が何とかすれば良いかと思うのですが。
知らない間に制御不能になり、個々の力が強くなり過ぎて、団結とかされたら抑えることが不可能になっていたそうです。
生みの親なのに自らが作り出した子に負けるとか、創造神とか言われてますが威厳とかありませんね。
そこで、それ以上は力を取り込めない様にだけして、勝ち残った者に全てを委ねるとか言って居なくなってしまったそうです。
これって……要するに手に負えなくなったから、職場放棄ですよね……神様なのに最低です。
きっと、適当に部下に権限を与えて自分はさぼっていたら、手が付けられなくなったのでしょうね……ちょっと呆れてきたのですが。
この国の女神様はこの状態になって、自分の過ちを悔やんだそうですが、襲ってくる他の勢力がいる為に自国だけは守ろうとしたようです。
最初の内は、ほぼ同じ力の者だけが残っていたのですが、創造神の真似をして、自分の使徒に相手の力を取り込むことを考えたそうです。
本人は無理でも部下の使徒には枷が適用されなかったのです。
なんて、半端な枷なんでしょうね。
きっと、目先のことしか見ていない神様だったに違いありませんね。
今度は、使徒との繋がりを重視して、奪った力の半分は主の元に返還されるようにしたので、自分を超えられない仕組みにしたそうです。
この辺りは上手く考えましたが、自分の親とか素晴らしい失敗例もありますので、当然ですか。
それが理由で、使徒はめったに本国を離れたりはしないそうなのですが、確実に勝てる時だけは出てくるそうです。
それはそれで、卑怯というかせこい神の使徒ですね。
万が一にも滅ぼされてしまうと国の国力が落ちてしまいますし、取られた分だけ相手は強くなっているのですから、まずいですよね。
そこで目を付けたのが自分たちの庇護下にある人間や亜人などの強化です。
これなら、倒されても相手の強化にはならないし、上手くいけば、それだけで有利に戦えますからね。
なので、神様公認の人体実験ですね。
そんなことを認めているから、私のような者がいるのですよ……酷い世界ですね。
神様じゃなくて、みんな魔王の方が納得出来るのではと思いましたが。
この国は500年前に攻めてきた魔狼王フェリオスを撃退して、かなりの力を取り込むことに成功したので、かなり上位の国力みたいです。
今では滅多に戦争など起きないらしいのですが、これは余程の戦力を整えない限りは戦争は起こせないからだそうです。
言い換えると戦力さえ揃えば、すぐにでも侵略するんでしょうね。
取り敢えずは色々とお話が聞けて良かったです。
おじいさんからはこの虚像の指輪とゆうアイテムも頂けましたので、これで私の正体は鑑定不可能なはずです。
私にくれた理由が……。
「お前さんの力を取り込んで、成長まで出来てしまうと大変なことになってしまうので、正体を明かさない方が良いだろう」
と言ってくれたのですが「これ、女神様から下賜された物では」と言ったら。
「他にも見えなくするアイテムとかも有るが、それは神の目すら欺くので、安心じゃぞ」と。
そうじゃなくて!
「凄く貴重な物を初めて会った私に渡すとか良いのですか?」
すると、おじいさんは
「お前さんの存在が知られたら、きっとまた戦争が始まるよ」
「その程度では、それほどの変化は無いと思うのですが?」
「何せ、もしもだがお前さんを取り込んで際限なく強くなれるかも知れないからな」
力を取り込む時に技能のいくつか奪うことも出来るみたいなのです。
しかし、そんな無限に強くなれるとしても時間が掛かりますよね?
職場放棄した神様の枷の内容を詳しく知りたいですね。
現状で、得られる力は最大の状態で、成長が出来るのでしたら、私に価値が出てきます。
もしかすると、私のように使えない力がプールされているのかも知れないので、鑑定が出来たら見たいです。
「まあ、最早わしには無用の物なのだからな」
どうも隠居する時に返すつもりだったのですが、忘れて領地に引きこもってしまったので、もう会える機会が無くなってしまったそうです。
何も言ってこないので、放置してたそうです。
そんな物を渡してしまっても良いのかな?
いつかその女神様とやらに目を付けられないことを祈るしかありませんね。
「代わりにわしの孫のエルナと一緒にいてくれぬか? お前さんはあの子が初めて連れてきた友達でもあるので」
聞けば、エルナは公爵家の令嬢なので、同世代の子達は距離感があるみたいです。
今まで友達と呼べる子がいなくて寂しい思いをしてたそうです。
身分を隠して仲良くなっても、公爵家の令嬢と分かると距離感が出来てしまうそうなのです。
私は、そんなことは知らないので普通に呼んでますが(本人が怒るから)
それに私には貴族とか王様とか言われても、何も思う所は無いので、従うつもりとかまったくありませんけどね!
私の当面の目的は達成されていますので、エルナと一緒に居た方が面白そうですね。
私が了承すると、ついでに一緒に王都の学園にも通って欲しいそうです。
手続きや学費などは全て持つと言ってくれましたが……。
はっきり言って、私は勉強とかした事は生まれてからありません。
偏った知識だけはあるのですよね。
文字は何故か読めるので困りませんが、勉強とか言われても私は今まで聞いた知識しかありません。
一度聞いた事は覚えているので助かってますが、大丈夫かな。
エルナを呼んでこの事を話すと喜んでいたので、もう後には引けなくなりました。
おじいさんは孫娘からの評価が急上昇したので、とても満足していますが私は恐ろしく不安です。
3日後には王都の学園に戻るそうなので、私はまたもや着せ替え人形と化しています。
学園の制服やら、私服なども色々と用意するそうなので、とても張り切っていますね。
制服はともかく、私服は普通の目立たない地味なのをお願いしたのです。
「貴女に似合う可愛い物を沢山揃えるから、安心してね?」と言ってます。
私は目立ちたく無いのですが、どうもこの手のことに関してはまったく聞き入れてくれないのです。
初めての対等な友達なので、かなりご機嫌な様子で、何を言っても任せての一点張りなのです。
まあ、普通とか一般的と呼ばれる物が私は分からないので、もうどうでも良いかな?
作ってくれるのは嬉しいのだけど、普段はサテラさんからもらった装備にするから、要らないと言いたいけど。
後は、隠していても仕方が無いので。
取り敢えず、エルナには正直に勉強などしたことが無いと伝えましたら、「私が教えるから安心してね!」と意気込んでます。
無学な私にそんな短期間で、可能なのでしょうか?
実際に教えてもらうと……。
文字は読めても書いたことは無かったのですがちゃんと書けます。
参考書などは、一度読めばその全てを記憶してしまうので、素晴らしいです!
改めて、この体のスペックの高さを実感致しました!
ありがとう―、女神様!
しかし、自分で言うのも何ですがおかしいですよね。
日頃から真面目に勉学に励んでいる人に知られたら、恐ろしく非難されそうです。
エルナは、まったく気にしないどころか喜んでいます。
まあ、恥をかかないで済みそうなので、良しとしましょう。
エルナも優秀な同級生の友達が出来ることで満足しているみたいなので。
変なぼろが出ないと良いのですが、学院に行ったら単独行動は控えて、なるべくエルナと一緒に居れば良いかな。
ちょっと学園と呼ばれる所が楽しみになってきました。
取り敢えず勉強などは問題が無くなったので、私はちょっと街を探索してみることにしました。
1人で探索しょうとしたら、エルナが「街の案内なら、私に任せて!」と言ってくれたのですが。
エルナはこの街のお姫様の立場なので、一緒に回るのはちっとね。
きっと皆さんが気を使ってしまうので普通の対応が分からなくなると言って、なんとか諦めてもらいました。代わりに私の衣装などの選別を頑張ると言ってましたが普通のが良いな。
取り敢えず、このドレスから一般の町娘の着ている動きやすい服に着替えさせてもらいました。
「私の普段着にしましょう」と言ってくれたのですが。
エルナの普段着は普通に貴族のお嬢様のだし体形が合いません……。
私と同じ年代なのに、この差は何なんでしょうね。
生まれ変わる時に体形もリクエストしておけば良かったと深く後悔をしています……。
どうせ作り直すのですから、きっと可能だったはずです!
気を取り直して、まずは冒険者ギルドに行ってみましょうか。
流石に全額負担してもらうのは心苦しいので、私が今まで狩った魔物を買い取ってもらえばそこそこのお金になって、費用に充てられると思います。
受付の方に買取は出来ますかと聞いたら、冒険者の登録が必要と言われましたので、お願いしたのですが。
冒険者のランクは、8つあるそうです。
Sから、A、B、C、D、E、F、Gとあるそうで、ギルドで実力試験を受ければ、実力に見合ったランクから登録も可能とのことです。
更にSの上に特殊なランクがあるらしいのですが、今までに1人しか居ないそうです。
ランク別の強さなどさっぱり分かりませんが、一つだけ言えることは私には永遠に無関係ですね。
正直、私は目立ちたく無いので、買取がしてもらえる最低限のランクGで、十分です。
ランクを上げても一定期間依頼を受けないと降格してしまうそうですが、ランクGは落ちようがないので安心です。
取り消しとかになると思ったのですが、間違って重複したことが有ったので、犯罪でもしない限りは抹消されないそうです。
高ランクの冒険者ともなると、王家とか身分の高い貴族の方の依頼が増えたり、緊急時の召集などがあるそうです。
まあ、私は永遠にランクを上げる気は無いので問題ありません。
買い取りさえしてくれればいいのですからね。
それに、偉い人の依頼とか召集で呼ばれるとか、私にとっては困ります。
ここは最低ランクを維持することに徹底すると決めていますので。
ランクFからですと自分に合った職業を選ぶ事が出来るそうですが、私には不要ですからね。
普通の人は、職業に就いているとその職業の恩恵を受けて有利になるらしいのですが、職業不要な私は無理と思います。
そんな恩恵が受けれるのでしたら、迷わず料理人を選びたいです。
料理人を極めて、全ての美味しい物を味わうのが今の私の目標となりました。
仕返しとかは、私のレベルが3桁になった時に相手が生きていればすれば良いと思う程度ですね。
しかし、ここでまた問題が……。
買い取ってもらう物を聞かれたので、ここで出すと少しずつしか出せませんのですがと聞いたら。
「どこに持っているの?」と聞くから、収納にあると言ったら。
何か疑いの眼差しをしながら、広い場所に案内してくれたのですが。
ちょっとあの目が気になったので、驚かせようとして武器の材料になりそうな物以外は全て出したら、本当に驚いていました。
案内された場所に合わせて出しただけなので、実はまだ残っているのですがいくらになるのかな?
ちょっと見ていたら、何か偉い人が呼んでいるそうです。
その間に査定をしてくれるそうなのですが……何でしょうね?
その部屋に案内されると、ここのギルドマスターが居ましたが。
私にお偉いさんの知り合いなどエルナのおじいさんしか居ませんが?
「君がシノア君だね」
「はい、そうですがどんなご用件でしょうか?」
ちょっと見てみると
名称:ラース
種族:ハイ・エルフ
年齢:326歳
職業:ハイ・ウィザード
レベル:121
技能:上級杖術 中級精霊魔術 最上級風魔術 上級聖魔術 初級誓約魔術 上級魔術耐性 中級魔術無効 鑑定 魔力感知 気配感知 危険感知
固有能力:
ちょっと!
この人、おじいさんより強いよ!
しかも中級魔術無効ってなに?
これ、私の魔法は全て通じないのかな……。
おじいさんにも初級があったけど、こんな技能があったら駆け出しとか中堅の魔術師とか廃業なのでは?
しかも……レベル121とか早くも4倍の人が……。
女神様の嘘つき!
強い人がいっぱいいるじゃーないですか!
私、さらに自信を無くしましたよ。
「先ほど、アリオスさんから、君に色々としてあげて欲しいと連絡がきたので」
「アリオスさん?」
「君にその指輪をくれた人ですよ」
「おじいさんの名前でしたか」
「エルナからは御爺様としか紹介されなかったので(忘れていたとは、言えませんね)」
「面白い子だね。一応、彼はこの町の最高権力者なのにおじいさん扱いとは」
「この町には初めて来ましたし、ご本人も何も言わなかったので、そのままおじいさんと呼ばせてもらってます」
後で聞いたのですが、現役を引退したと言ってもその実力はそんなに衰えてはいないそうです(みんな嘘つきですね)
ギルドに来たら、その実力に見合ったランクを与えてあげて欲しいと連絡が来たそうなのです。
目立ちたくないので、ここは丁寧にお断りをする方向にしましょう。
「連絡をしてくれたロイさんから、聞きましたがこの辺りの魔物は敵では無いと聞いたので、取り敢えずランクDに認定しょうかと思ってね」
いきなりランクDですか?
「勿論、試験は受けてもらうけどね」
ロイさん……教えなくてもいいのに……。
それにこんな小娘がいきなりランクDとかになったら、注目も浴びてしまうし、色々と問題が起こりそうですよ?
「あの……私は、細々としていたいので、そのご厚意はありがたいのですが辞退させてもらいます。ランクは先ほど登録したGのままで、お願い致します」
「事情は分からないですが、アリオスさんには可能な限り望みを叶えてあげて欲しいと言われてますが」
「正直に言いますと、目立ちたくないのです。私のような小娘がいきなりそのような待遇を受けるのは悪目立ちをしてしまうと思うのです」
「それはありますが、実力さえ示せば問題ありませんよ? この世界は強さが全てと言って良いぐらい強者を求めていますので」
えっ!
なにそれ!
強さが全てとか嫌な世界ですね。
強かったら、何をしても許されるのでしょうか?
良い人が強い分には良いのですが、悪意のある人が強さのみで支配とかしてたら……うん、忘れましょう。
取り敢えずは余計なことに関わりたくないので、無視しましょう。
私の正体が知られたら良くないから、この指輪をくれたのですよね?
「済みません、認めてもらわなくてもいいので」
「分かりました。少しだけ私とテストだけ付き合って頂けませんか? 貴女の実力だけは知っておきたいので、軽く模擬戦とか見たいですね」
模擬戦って、まさかこの人と戦うのかな?
少しだけ興味がありますが絶対に勝てませんよ?
何故か案内された闘技場で、誰か待機していますね。
ちょっと見てみると
名称:ミシェル
種族:人間
年齢:25才
職業:魔剣士
レベル:35
技能:中級剣術 初級槍術 中級体術 初級火魔術 中級護身術 初級衝撃耐性 初級魔術耐性 気配感知 危険感知
固有能力:
ようやく私より少し強い人と遭遇出来ましたよ。
私よりレベルが高いですが、初めての対人戦ですね。
魔物と違って、どんな戦いになるかちょっと楽しみでもあります。
まあ、戦ってみればわかりますよね。
技能だけは相手より多いので、そこは工夫ですね。
「嬢ちゃんが俺の相手か? マスターに頼まれたんだが中々やりそうだな」
あれ?
私を小娘と侮ってくれませんね。
これはまともに戦うと冷静に対応されてしまいそうです。
「えーとっ、私はただの小娘ですので、か弱いですよ?」
「見た目だけならな。俺の感覚が警報を鳴らしてるから、なめてかかったら、きっと負けるな」
……あの危険感知とかゆう技能が働いているのですね、中々余計な能力ですね。
あれ?
確か私にもいつのまにか増えていたのでありますが。
おじいさんやラースさんの時には勝てないと感じましたがこの人には感じませんね?
このレベルとは意外と当てにならないですね
取り敢えず人では無いことがばれないようにだけ気を付けましょうか。
ラースさんの説明によるとここには結界が張ってあるので、全力で魔法を使っても良いそうですが、体を失うような攻撃は禁止だそうです。
さらに相手を殺してもおっけいとか。
死後10分以内であればラースさんが蘇生出来るそうですが、頭を潰されたり蘇生しても致命的な怪我が残る場合は無理なので、体の一部分を消滅させる行為は禁止だそうです。
例え生き返っても、手足が無くなっているとかで、あくまでも留まっている魂を戻すだけらしいです。
持ち物などは自己責任になるそうですが、それでも死んだのに生き返るのですから、十分に世界の摂理を捻じ曲げていますね。
まあ……私は死にまくっているので、そんな事を言うのはおかしいのですが、身近に神様がいるのですから、もう何でもありの世界ですね。
それならばと私の行動は……最初から全力で、範囲魔法をお見舞いしてあげました!
「フレイム・ストーム!」
ミシェルさんは驚いていますね。
まさか最初から範囲魔法で焼き殺そうとするとは思わないですからね。
しかし、炎の中から切り込んで来るではないですか。
慌てて剣で弾いて対応しましたが、遅れたら私の首が飛んでましたよ。
護身用に一つ作って置いて良かったです。
槍では、今の剣撃には間に合いませんでしたよ。
「いきなり、か弱い少女の首を刎ねようとするなんて、怖い人ですね」
「やかましいわ! いきなり人を焼き殺そうとするなんて、剣を持っているから剣士かと思ったのに魔術師とはな」
「これはただの飾りの剣なので。私は剣術とか剣士のなんたるかなどは、まったく知りませんよ?」
会話をしてる間に足を固定してしまいましょう。
「アース・バインド!」
驚いていますが、まさか闘技場の石材が変化して足に絡みつくとは思わなかったでしょうね。
的が出来たので、後は狙い撃ちます。
「ライトニング・ボルト!」
「ぐっおおお!」
なんか煙が出ていますが耐えましたよ!
必ず当たるし、真正面を狙えるので便利なんですよね。
少しだけ威力を上げる為にマナを込めたのに……もっと込めれば良かったですね。
「少し焦げてますが大丈夫ですか?」
「動けなくして、雷撃の魔法とは手堅い攻撃をしてくるな……」
「だって、剣で斬られたら痛いから、魔法で死んでくれたら楽かな? と思ったのです」
「今ので、死んだら楽か……しっかりと殺す気じゃねぇか! こっちもその気で行くぜ!」
電撃をまともに喰らったのに真っすぐに突進してきますよ!
しかもかなりご立腹ですが、死んでも大丈夫と最初に言ったのに理解出来ません
考えてるうちに剣が届く間合いですが、剣で戦ったら負けるので、魔法で攻めましょう。
「ストーン・ウォール!」
振り下ろす前に壁を盾にしてから。
「なに! 壁が盛り上がっただと!」
「ウィンド・ボム!」
壁の向こうに爆風を起こして吹き飛ばしてから、テストを兼ねて魔法を一発放つ。
「フレッシュ・トゥ・ストーン!」
「足元が石化していく! まさか石化魔法か!」
この魔法は、魔物に使うと石になるのですが、魔法抵抗力が高いと半端にしか石化しないのですよね。
私がマナを多めに込めれば良いのですが、結構消費が大きくなってしまうのが欠点です。
「残念です。足しか石化しなかったです……対人には使えると思ったのですが」
「石化魔法とか初めて見たがこれ治るのか?」
「治したことは無いのでわかりませんが、ラースさんなら大丈夫なのでは?」
「私も初めて見ましたが……状態回復の魔法で直せますが、石化とか魔物が使ってくるぐらいしか見たことがないのですが……」
えっ……ちゃんと土魔術のリストにあるけど人気ないのかな?
ラースさんの方が私よりレベルも年齢も上なんだし、ハイ・ウィザードとか魔術師の上級職ですから、知っていると思ったのにね。
「か弱い少女を斬ろうとしたから、近付けない様にしただけなんですけどね?」
「ああ……近付けなくなったよ。俺も少しは魔法は使えるんだぜ?」
まだ諦めてないのですね……仕方ありません。
足が石化してるし、固定した場所に舞台と融合しているので移動は不可能なのにね。
魔法でも連発しょうと思ったのですが粘られてマナが尽きたら大変なので、槍の届く範囲で戦いましょう。
そして、私がバルディッシュを収納から取り出すとまたも驚いてますがどうしたのかな?
「収納持ちか……お嬢ちゃんは、槍の使い手だったのか」
「近付くと危険なので、剣の届かない位置から攻撃しますので、頑張って反撃して下さいね」
「……人の足を石化しておいて、ちょっと卑怯過ぎるんじゃないか?」
「あれ? さっき、ラースさんは勝てば何でも良いみたいなことを言ってましたよ?」
「まじか! ギルドマスターとして、その発言は問題だぞ!」
「ちょっと、私はそんなことは言ってませんよ!」
ラースさんは慌てて弁解していますが、この場合は私の方が信じてもらえそうですね。
では、蘇生も出来るのですから、さっさと殺してしまいましょう。
「何でも良いですが、生き返れるみたいなので、取り敢えず死んでください!」
「あほか! そんな簡単に死んでたまるか!」
腕と首を適当に攻撃しているのですがよく頑張りますね。
魔法を使わせないように連続で攻撃していますが、疲れないのは便利ですね。
少しづつマナを込めているので、あちらの剣が刃こぼれしてきました。
こっちの方が思いっきり振り下ろしてるので、威力も乗ってますからね。
バルディッシュは種類としては槍ですが、突くより斬る方に特化していますので、叩き斬るのには良いんですよね。
私としては、首を落として終了とかの方が楽です。
生き返るのが可能なので、諦めて死んだ方が痛い思いをしないで済むと思うのですが。
殺し切れない威力で結構傷だらけになっていますが痛くないのでしょうか?
しかし、しぶといですね。
私が思うにこの状況はもう詰んでいると思うのですが。
刃こぼれはしていますが、普通の剣でしたら弾くどころか一緒に切断出来るはずなのに。ちょっとあの剣に触ってみたいです。
ラースさんや職員の方も何か驚いていますが、そろそろ終わらせないと無駄にマナが減るので、次で終わらせます。
「頑張りますね……もう、次の一撃に耐えれたら、私の負けで良いです」
「はぁはぁ……どういうことだ?」
しかし、よく対応出来ますね。
私でしたら、無理です。
剣術を鍛えればあのようなことが出来るのでしたら、ちょっと上げておきたいですね。
でも、私には剣術の技能は無いので、無理ですが。
少しは練習したり、見よう見真似で剣を使ってみたのですが変化無しですから、きっと私には才能がないのだと思います。
「今から、私は貴方の首を全力で斬りに掛かります」
「はぁ!? なんで、首なんだ!」
「それは私の趣味なので、魔物でも首を落とすともう動かないので、なるべく首を狙う癖がついてしまったし、何となく好きだからです」
「……嬢ちゃん、女の子がそんな趣味を持つのはお勧めしないんだが、試しに聞いても良いだろうか?」
「何でしょう?」
「その全力の威力は今まで受けていた攻撃からどのぐらい上がるんだ? 受ける攻撃が少しずつ重く感じるんだよな……」
少しずつ威力を上げていたのに気づきましたよ!
やっぱり本職の剣士の方は少しの変化がわかるのですね……私だったら、まったく気付かないと思います。
このまま切り刻むのは流石に気の毒なので、答えましょうか。
「威力は、ちょっと多めにマナを込めますので、2倍ぐらいになりますから頑張って耐えて下さい」
「はぁ? そんなことが出来るのか……と、言いたいが、攻撃が重く感じるわけだしな……しかも、お嬢ちゃんは息も乱れてないし、どうなっているんだ?」
息も乱れてないのは、疲労しないからですよ。
「その武器はマナを込めれば威力が上がるのかよ……次に倍の威力なんてもらったら、剣と一緒に俺の首がまず落ちそうだな」
何となく、一緒に落とせると思いますがダメなら諦めましょう。
無理に頑張って、マナ切れになったら、非常にまずいですから。
「降参だ、攻撃をやめてくれ!」
良し、勝ちましたよ。
ちょっと姑息な方法ですが接近戦とかしたら、あの人の剣を捌く自信が無いので、私が負けますね。
最初の攻撃に反応出来たのは正直まぐれでしたから。
「では、私の勝ちですね。お疲れ様でした!」
「死なずに済んだが俺の装備がズタズタだな」
「それはきっと言い出したラースさんが弁償してくれると思いますよ?」
「こんな方法で一方的にされるとは思わなかったわ。どの辺りがか弱いのか教えて欲しい所だ」
「どこから見てもその辺の町娘で、ちょっと可愛い美少女かと」
「これでもそれなりに強いと思っていたが、中距離で戦う奴とは要注意だな」
スルーされましたよ!
エルナ達は可愛いとか美少女と言ってくれたので、ちょっと自信が有ったのですが……。
ラースさんが状態回復の魔法を掛けてます。石化が治りましたね。
治らなかったら、速攻で逃げようと思っていましたよ。
「ちょっとその剣を見せてもらっても良いですか?」
「ああ、構わんが」
それでは、鑑定の時間です。
名称:トゥハンデッドソード
効果:なし
状態:破損率85%
うん、ただの大型の硬い剣ですね。
壊れかけですが、よくもった方ですよ。
構造はわかりましたが、これなら私の作った剣も遜色ありませんね。
もっと凄い物を期待したのですが、これなら私の作る剣でも十分に使えると理解出来ました。
「どうもありがとうございました」
「何か見る物でもあったのか?」
「どんな物かと思いまして、お返ししますね」
「お嬢ちゃんは、剣術はダメだと言っていたのに、剣の目利きとかは出来るのか?」
「ちょっと見てみたかっただけですよ?」(嘘です)
「はい、その辺りで宜しいでしょうか?」
今まで、静観していたラースさんが話しかけてきましたね。
取り敢えず模擬戦はこれで、おっけいなのかな?
まさか次は私となんて言わないで下さいよ。
「ミシェル、後で、掛かった修理費を受付に出して置いて下さいね。依頼賃とは別に出します。それと、今回の件はご内密にお願いします」
「ん? それは構わないが」
「ちゃんと色を付けておきますので、その辺りも内緒で」
「それなら、了解したよ」
「シノアさんは、一緒に来て下さいね」
「お嬢ちゃん、いい勉強になったよ」
「剣が扱える様になったら、次はちゃんと戦いますね!」
まあ、ランクとか上げる気は無いので、そんな日は来ないと思いますが。
取り敢えず戦って見た感想としては、レベルの多少の違いはあまり強さに関係ないような気がしてきましたね。
これはもしかしたら、保有する技能が強さに関係しているのかも知れませんね。
ミシェルさんは私よりレベルが高いのに私を強いと感じていたように。
私はミシェルさんを強いとは感じなかったのですからね。
もしかしたら、レベルとはその人の体力的なものか経験値的なものなのかも知れませんね。
最初の部屋に戻ってきましたが、何かため息をつきながら考え込んでますね。
私の答えは決まっているので、悩む必要など無いと思うのですが?
私に王家とかギルドに貢献とかを期待するのは無駄です。
そのような考えが一切ないのですから。
今は、先ほどの戦闘で、思いついた物も作ってみたいので。
「相談なのですが……」
「お断りします」
「まだ、何も言ってないのですが?」
「言わなくても、大体想像が付きますので、辞退させてもらいます」
「はぁ……まさか5属性の魔法まで使えるとは予想もしませんでしたよ……」
種類だけで、強力なのは使えませんよ?
私としては、消費の少ないマナで威力のある魔法が欲しいです。
「一応、剣を下げてますが、魔法の方が楽なので、これは飾りですからね。別に他の種類の魔法が使えても問題無いのでは?」
「普通は、使えたとしても1種類の適性しかありません。習得用のスクロールを使って他の属性を試したら習得できる場合がありますが、そのスクロール自体が高額な上、さらに魔法を籠めてもらうのに術者に頼まなければならなくて、そこでも大抵はかなりの値段を請求されます」
私の使える魔法に価値があれば、ぼろ儲け出来ますね。
特にお金も必要ないですけどね。
「もしかして、私ってすごいのですか?」
「私も色々と試しましたが、3種類しか習得出来ませんでした」
「えっ? 4種類ありますよね?」
「鑑定まで、持っているのですか……精霊魔術は精霊と契約すると行使できる様になるので、別と考えて下さい」
思わず突っ込んだら、技能が1つばれてしまいました……これからは、黙って聞く事にしましょうー。
「別に迷う必要は無いのでは? おじいさんからもなるべく私の要望に応えてあげて欲しいと。聞き間違いでは無いのでしたら、そう聞こえましたが?」
「実はですね、この世界は常に覇権を争っていますが、冒険者ギルドだけは公平に協力しあっているのですよ」
「それは素晴らしいですね」(どうでも良いです)
「先ほど貴女が負かした方は、一応ランクEの冒険者なのですよ」
ちょっと!
一応とか言ってますよ!
本人が聞いたら、絶対に怒りますよ。
「そうなのですか」
「そんな貴女をランクGで、このギルドで登録したとなると他のギルドに示しがつかないのですよ」
めんどくさいですね……そんなの私には関係ないじゃないですか。
「大丈夫ですよ、どこに言っても絶対にランクは上げるつもりは無いので、問題になりませんよ?」
「しかしですね……」
「それにもうランクGで、一応登録は完了しているので、正式なカードはもらいましたよ」
「それちょっと貸してもらえませんか?」
「拒否します、買い取りの時も受付の人に提示するだけでよいみたいなので、もう誰にも渡しませんよ?」
「誰がそんな余計なことを……」
「受付のお姉さんに文句を言って下さい。正直に言いますと素材の買い取りをして欲しいので登録をしただけなので、私は出世とかにはまったく興味はありません」
「ランクが上がった方が色々と便利になりますよ?」
「では、ランクが上がれば、この世の全ての美味しい物が好きなだけ食べ放題になるのですか?」
「それは……貴族の方と繋がりとかが持てれば、機会が増えるますよ」
「でしたら、私は公爵家ともう繋がりが出来ましたので、不要ですよね?」
「アリオスさんか……」
しつこいな。
こんなに拒否してるのに了承するわけないのですから、そろそろ諦めて欲しいですよ。
300歳以上のおじさんがこんな小娘に面倒を押し付けようとしているとしか考えられません。
「どうしてもダメですか?」
「ランクSにしてくれると言われても拒否します」
「はぁ……困りましたよ……先に試験をしてから、登録をするべきでしたよ」
さっさと登録だけ済ましておいて正解でしたよ。
私が来るよりも早くおじいさんの伝言が届いていたら、危ないところでしたね。
私は目立たずにひっそりと生まれ変わった人生を堪能したいので、余計な身分とかは要りませんよ。




