300 お好みのままに
「わかりました。エレーンさんの要望を聞きますので、アルちゃんを目覚めさせる協力をしてください」
「シノアちゃんが全ての条件を呑むなんて意外でした。本当に約束を守ってくれるのですか?」
「一度交わした約束は必ず守ります。それにそのぐらいでしたら私に損はありませんので許容範囲内です」
「私は一つぐらいしか無理だと思っていたのですが、シノアちゃんって意外と心が広いのですね!」
「まあ、再会してからのエレーンさんの境遇を考えると少しぐらいは良いかと思ったのです。それでどうすれば良いのですか?」
「取り敢えずここではシノアちゃんの体が使えませんので目を覚まして起きてください」
「うーん……こんなに早く話がまとまると思っていなかったから、あと30分ぐらいは目が覚めないんですよね」
取り敢えず1時間だけ眠ることにしたのです。
それで話がつかなければ追加で眠る予定でした。
大した要求じゃなかったから、私があっさりと要求を吞んだのです。
エレーンさんからは3つの要求をされました。
なぜ3つかと言うと、ジェレミアさんとの戦いで範囲魔法の身代わりになってもらった件で2つと今回の情報の対価で1つという訳です。
2つは私にとってもプラスになるので私が暇な時に好きにさせればいいし、もう一つはその状況になるかがわからないのでなったらですからね。
「シノアちゃん! それでしたら、残りの時間は私と対戦をしなさい!」
私がこの後のことを考えているとサテラが話しかけてきたんだけど、対戦ゲームですか?
前回にボコボコにしてあげたのでリベンジでもしたいのだと思いますが、数日程度のやり込みでプロの自宅警備員と言われた私に勝てると思うなど浅はかですね。
ここは今回もボコボコにして実力の差と言うものを教えてあげますよ!
「いいでしょう。今回もしっかりと敗北を刻んであげますよ!」
そして、残りの時間はサテラに付き合うことにしました。
エレーンさんはその様子をソファーに寝ころんで傍観しながら菓子ばっかり食べています。
誰がどう見ても駄目な大人の見本にしか見えません。
しかも例のTシャツとパンツしか穿いてないとか、だらしなさが際立っています。
せめて私みたいにジャージでも着てまともな身嗜みをして欲しい所です。
残っているステラさんはケーキとか甘い物ばっかし食べているんだけど、太らないと思ってよく食べまくりますね。
現実だったら、今頃はお腹が確実に出ていると思いますが……どちらにしても生きている実体がないから現実の方だと私の負担が増えるだけなのでここにいる方が安心ができます。
そして……。
「馬鹿な……私がサテラに負け越しました……ありえないことです!」
「ふふん! 当然の結果です! ここにあるのはシノアちゃんの記憶をも元に作り出した物なのですから、私はずっとシノアちゃんと同じ行動をするAIと戦っていたのです。なので、シノアちゃんの行動パターンはほぼ把握しています!」
「まじか……」
私のAIとかなんですか?
しかもゲームをやることしか知らないと思ったら、AIなんて言葉を使うなんてサテラの癖に地味に学習をしています。
もしかしたら、この空間に干渉でもできるようになったのかもしれませんが……まさかこんなに早くも敗北する日が来るなんてとても悔しいです!
現実に戻って練習がしたいけど、現実に戻ったらゲームなんてないし、作れないことはないけど、プログラムとか電源とか色々と労力がかかるのでとてもめんどくさいのです。
いや、予備の電源は大量に持っているのですが、遊びに使う予定ではないのでなるべく温存がしたいのです。
今も時間がある時はこまめに電力を作り出しているのですが、あれを稼働させたらガンガン減っていくので無駄遣いができないのです。
それにしてもあちらの世界ならそんな心配はいらないし、本体とソフトだって買ってくるだけで済むんだけど……こちらに売っている訳がありません。
この分では、近いうちに一勝もできなくなる日が来るかと思いますので、サテラとは対戦を避ける方向で行きましょう。
「シノアちゃんがサテラに負けるという事は、私でも勝てるかもしれないわね……シノアちゃん! まだ時間がありますから、私とも勝負をしなさい!」
「いいでしょう……廃ゲーマーになったサテラには負けましたが、エレーンさんにまで負けるはずがありませんので受けて立ちます!」
堕落のお手本のエレーンさんにまで負けるはずがないので、サテラに負けた鬱憤を晴らす為にボコってあげます!
以前に見た時はサテラに容赦なくボロカスにされていましたので、自分勝手なサテラがゲームをほぼ占拠しているのですから、まともに練習もできないはずですからそれほど上達しているとは思えません。
そして結果は……。
「こんなに頑張ったのに私だけ勝てない……どうして!!!」
「残念でしたねー、私に勝とうなんて100年早いのですよ?」
「くっ、悔しいーーーー!」
はぁ……実は危なかった。
意外なことに本気でやらないと負けるところでした。
生活習慣も堕落していると思ったけど、サテラにボコスカにされつつも動きが良くなっていたのです。
このまま引き籠っていればその内に追い越されてしまうので、エレーンさんとも次は対戦をしないようにしておいた方が無難ですね。
「それにしても私は引き籠り四天王の最下位から脱出できないのね……好きなことをしていた昔が懐かしい……」
いまだって、好き放題して堕落しているじゃん。
私の心の中という限定された空間ですが、食っちゃ寝しながら遊び惚けているんですから羨ましい限りです。
それにしてもいま謎の単語が……。
「その引き籠り四天王ってなんですか? てか、もしもエレーンさん達を指しているのでしたら3人なので名称が違いますよ?」
「シノアちゃんは何を言っているのですか? ここにはシノアちゃんを合わせて4人いるのですから間違ってはいませんよ?」
「私も入っているのですか!?」
私も同類扱いのようです。
外ではみんなが寝ている時もせっせと仕事をしている働き者の私はここには滅多に来ないのに違うような?
私がこまめに色々としているから生活に支障が出ていないのですから、今の私は引き籠ってないよ。
「当然ですよ? それでサテラがゲームの強さで序列を決めようと言ってきたので、さっきシノアちゃんが負けたから暫定2位に陥落したのです」
「なにそれ?」
勝手にくだらない序列などというものが導入されています。
まあ、私が最下位ではないので構いませんけどね。
「シノアちゃんが来るまではサテラが2位でステラが3位で私が最下位の4位だったのです……だからシノアちゃんに勝てれば最下位脱出ができたはずなのに……」
するとさっきの対戦をしなければ私がトップだったのですね?
知らなかったとはいえ最強の座から転落は残念です。
あらかじめにサテラの腕と序列なんてものを知っていたら対戦なんてしませんでした。
どうでも良いことなのですが、なんか惜しい気もします。
「そういうことですか。それにしてもくだらない格付けをしていますね。だけどステラさんが最下位ではないのが意外でした」
どう考えても食べてばかりいるステラさんが格闘ゲームに強いなんてイメージが湧きません。
てか、ゲームをしている所を見たことがないよ。
「ステラの実力はサテラとほとんど互角です。単純にサテラが辛うじて勝ち越しているだけです。ほとんど練習をしていないのにズルでもしているのかと思うぐらいの強さなので私は全く勝てないのです……」
まじか……だったら、まともにやりこんだらサテラより強いんじゃないのですか?
これは謎の序列2位を確保する為にステラさんとも絶対に対戦しない方がよいですね。
てか、もう誰ともここで対戦できないよ。
やりこめない私が一番不利だしね。
「早く最下位から脱出して、この服装から普通の服が着たいです……」
「こないだからずっと着ているから気に入ったのかと思いましたよ」
最強から転落して最弱になったエレーンさんには負け犬Tシャツがとても似合っています。
どちらにしても今のだらけている姿を誰がどう見ても生活能力の欠けている大人の女性にしか見えないので違和感すら感じません。
「これは敗者の印の服なのだそうです。少しだけ私も強くなったので下着だけは許可してもらいましたけど……私もサテラ達みたいに色々な服が着たいのです……」
よく見ればサテラはあちらの世界の今どきの若者のスタイルです。
ステラさんは可愛い系のミニドレスを着ています。
どこにそんな物があったのかと思って周りを見渡すといつの間にかクローゼットの扉が増えていて辺りに服が散乱しています。
食べ物の次は衣装が散乱とか私の心がどんどん汚部屋になっていくよ。
てか、誰か掃除でもしてくれる人がいないとそのうちに私の精神に影響を及ぼすのでは?
私が溜息をつくと体が薄れていくので起きる時間がきたようです。
そして、私が最後に見た光景はエレーンさんがソファーから転げ落ちてポップコーンと飲んでいる炭酸をぶちまけているシーンです。
お願いだから、誰か掃除してください……精神的に疲れながら目を覚ますとカミラが私を覗き込んでいました。
「戻ったようですね。それでわかりましたか?」
「アルちゃんを目覚めさせる約束は取り付けました。だけど、精神的に疲れたと言うか心の汚染度が上昇した気分です……」
「汚染とはなんですか?」
「いや、ただの独り言です。それではアルちゃんを起こしたいと思います」
「お願い致します、シノア様」
カミラの隣にいたカリンさんからもお願いされました。
それでどうすればいいのですか、エレーンさん。
(まずはその子のコアを掴んでください)
コアってなに?
(シノアちゃんには眷属を作る要領と言えば良いですね)
要するにカミラたちの場合は核と呼んでいる物がアルちゃんの場合はコアと呼ばれているだけなのね。
それなら同じ要領で体を同化させればいいだけです。
アルちゃんの可愛らしいドレスの胸元を開けてすべすべの肌をまさぐってから同化させます……まったく膨らみがないけど触り心地が良かったのでつい堪能してしまいました。
私も幼女趣味に目覚めそうですね……それはいいとしてそれらしき物を掴みました。
それでどうするの?
(ちょっと、情報を読み込むので待ってください………………これは……)
どうしたのですか?
(レベルと従者以外は完全に初期状態になっています)
眠る前にカミラに確認してもらっていた経緯を見ていなかったのね。
それで本当に能力どころか記憶とかもないのですか?
(ありませんね。仕方がありませんので、このままシノアちゃんと繋がりを持たせて新たに目覚めさせるしかありません)
具体的にどうやってですか?
(まずは名前を決めてください。それからこの子の方向性を決めるのです)
名前からですか?
それなら、名前は以前と同じ「アルフィン」に致しましょう。
いまさら違う名前にしたいとは思いませんからね。
後は方向性って言われてもね……私の可愛い妹とか娘とか?
(なんで、妹とか娘になるのですか! そんなことを思ったら……あっ!)
どうかしたのですか?
(……私は知りません。もうすぐ目覚めるはずなので、後は頑張ってください)
ちょっと、意味が分からないのですがどうなったの!?
私が更に聞こうとしたところでアルちゃんが目を覚ましました。
そして私を見るとじっと見つめて言葉を発しました。
「お姉ちゃん? ママ?」
「はい?」
「マスターが望んだ」
「えっと……マスターって、私の事?」
私が自分に指をさしながら質問をすると首を縦に振りました。
やっぱり私のことを完全に忘れてしまったようです……ちょっと悲しいです。
だけど時間は掛かるかもしれないけど、もう一度あの可愛かったアルちゃんに戻して見せます。
ちょっと危険なところがあったけど、あれは無しの状態でね。
取り敢えず私がアルちゃんに妹か娘がいいなーと思ったのでどちらで呼んだらいいのか迷っているみたいです。
私には出産経験もないし娘を持ったこともないので、お姉ちゃんの方がいいかな?
外に連れ出して、みんなの前でママと呼ばれると誤解どころかろくでもない想像をされそうですからね。
「では、私のことはお姉ちゃんでいいですよー」
私の言葉に頷くと私に抱き着き……。
「マスター……いえ、お姉ちゃん。私はお姉ちゃんの望むままに」
「うーん……可愛いな……所で私の望むままってどういうことなのかな?」
私が悩んでいるとカミラが質問をしてきました。
「少し聞きたいのですが、貴女は何をしたのですか?」
「何と言われると初期状態だったらしいので、改めて名前を付けてあげたのです」
「名前だけなのですか?」
「あと、方向性とか言われたんだけどまだ特に決めてないはずなんだけど、どうかしたの?」
「いえ、その子の名前と職業が追加されたのですが……」
「名前は前と同じアルフィンにしたけど、職業なんて決めていませんよ? ちなみに何になっているのですか?」
「貴女の『放蕩娘』もいい加減と思いましたが、この子は『ガーディアン・マスコット』となっています」
「なにそれ!?」
マスコットって、なんですか?
てか、戦闘とか可能なんですか?
ちょっとエレーンさん!
分かるように説明してください!
(……シノアちゃんが悪いのです)
私は何も決めていませんよ!
(名前を付けた後にシノアちゃんが思い浮かべたことが適用されただけです)
まじですか!?
だったら、最初に説明してくださいよ!!!
(普通は方向性を決めると考えればどのタイプの戦闘向きにするのかと考えると思ったのです。私の場合は、自らに欠けている魔術と防御を補える存在が欲しいと思ったので、それぞれに特化したガーディアンになったのです)
じゃ……。
(シノアちゃんは戦闘よりも自分好みの幼女を求めただけです。『ガーディアン・マスコット』などと言う職業は初めて聞きましたので、どんな能力なのかは私にはまったくわかりません)
なんてことでしょう……アルちゃんは戦闘向きではなく私の心を癒す存在になってしまったことになります。
ただでさえ戦力が負けているのに強化にならなかったけど、どうしょう!?
私がエレーンさんと会話をしながら頭を悩ませているとアルちゃんが私の手に触れながら穢れを知らない純粋な瞳で私を見つめています。
以前は危険な子だけど、頼りになる可愛い子と思っていましたが、目覚めたアルちゃんは私にも保護欲を掻き立てるほどにとても可愛い子です。
やばいよ……私にもエルナの病気とも言える幼女嗜好が目覚めかけています。
もう、この際戦力とかどうでもよくなってきました。
いまはこの可愛い娘さんが私の物になった事を歓迎すべきだと思いました!




