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生まれ変わったのですよね?  作者: セリカ
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284 お説教の時間


 爆発の中心部から、マナの気配を感じる。

 奴は躱してばかりいる速さ特化型なら、これで倒せると思ったんだが……ダメか。

 先ほど使った特殊弾に籠めてあった魔法は水魔術『スチーム・コールド・エクスプロージョン』だ。

 空気中の水分を爆発させる魔法だが、魔弾の力も籠めて羽根に蓄積させたマナをエネルギー源としてかなりの威力になったはずなんだがな。

 それよりも奴がまだ動いていないうちに追撃の攻撃をするべきだ。

 まだ立ち込める煙の中心部に向かって、通常の威力の風魔術『エアリアル・ニードル』を数を増やして撃ち出しつつ装填済みの銃の攻撃にのみ魔弾の力を籠めて撃つ。

 弾幕を厚くするために撃ち出した魔法は被弾しようが無視して突き進みつつも銃弾だけは躱してこちらに向かってくるな。

 私の背後には何とか重力魔術の『グラビティ・フィールド』を維持している本体がいるので、躱して距離を取るわけにはいかない。

 かなり苦しそうに魔法の維持をしているので、一撃でももらったら魔法は解除されて、あの異様な速度が復活してしまうのは避けたいところだ。

 それでもこの重力下であれだけの動きができるとは化け物だな。

 

「まったく酷い目に遭ったよ……傷だらけで服もボロボロになったし戻ったら何を言われるかなー」


 私の攻撃を潜り抜けて正面までやってきた。

 正直、遠距離攻撃をメインとしている私としては、ここまで攻撃を躱されて接近されるとは地味に傷つくな。

 かつての私は相手を近づけさせる前に仕留めていた。

 接近戦を挑むのは私が自分から接近して相手を殺す時だけだ。

 そして、私の正面に立つこいつの姿はまともに機能していない布切れが辛うじてあるだけだ。

 私の背後で、上半身裸を晒している本体といい勝負だな。

 あれだけの爆発に巻き込まれているのに怪我の具合はあちこちが傷ついて出血しているが、致命傷になっていない。

 あの爆発をどうやって防いだのか知りたいところだ。


「そんなに身の回りが気になるなら着替えをやろうか?」


「別にそれはいいんだけど、この重力魔術を解除してくれないかな? 最低限の動きをする為に無理な身体強化に余分なマナを消費しているから、このままだと僕が倒れちゃうんだよねー」


 こいつ、もしかして私達と同じでマナ切れになると一時的に行動不能になるのでは?

 この重力下で本体のパーティーメンバーのみだけは重力負荷の影響を受けない今がチャンスとも言える。

 それならそれで、このまま抑え込めば今度はこいつが倒れて行動不能になるはず。

 そうなれば楽に殺せるな。


「じゃ、このまま死ね」


 行動するだけで、マナが余分に消費をしているのなら、接近戦で挑むだけで十分に倒せる。

 今まで通りに魔術による砲撃と魔弾の力を籠めた銃撃していたのではこちらも疲弊してしまうからな。

 私が斬りかかるとなぜか距離を取りだしたぞ?

 

「ちょっと待ってくれないかな?」


「どうした? 戦闘を継続する為にこちらに近づいたのではないのか?」


「いやー、ちょっとこのままだとまずいので、僕は帰るよー」


「はぁ?」


 撤退するのなら、さっさと引き上げるべきだろう。

 なのにわざわざ話しかけてくるとは意味がわからないな。


「戦えないことはないんだけど、ちょっときつくてねー。あっちの2人だけならなんとかなると思うけど君と戦ってマナを消耗しすぎるのはどうかと思ったんだよ」


「そんな話を聞いて見逃すと思うのか? 引くのなら初めから行動すべきだな」


「うーん……それは僕的にカッコ悪いと思ったんだよねー」


 既に全身ボロボロで身に着けている衣服が機能していない時点で、カッコ悪くないのか?

 控えめに衣服が残っているとはいえ、こいつに羞恥心というものがあったら、私の前でこんなに堂々と立っているのも問題だがな。

 

「帰る帰らんの前に聞きたいことがある」


「なになに?」


「覇王の娘の核はどうした? その姿からは所持しているとは見えないのでな」


「あー、それならここだよ」


 そう言いながら自分の腹部を指さしたが……こいつ食ったのか?


「流石にまずいと思ったから、慌てて取り出して飲み込んでおいたよ。体の方はマナの放出による全身強化でなんとか耐えたけど身に着けている物が耐えきれないと思ったんだよねー。だけど、最初から僕に付いていた羽根の場所は威力が大きかったから、今でもその場所がすごく痛いんだからね!」


 覇王の娘の核はあいつの腹の中か。

 これはどうやってもここで倒さないと取り返せないな。

 それにしてもそんな方法で耐えきるとは使える魔術が少ない代わりに体術強化型だが、どこぞの脳筋魔王よりはましか。

 あれの時は魔法による攻撃が跳ね返されるから、私も戦うことは避けたからな。


「事情はわかった。それならば尚更ここで死んでもらうぞ」


 そのまま斬りかかるが私と一定の距離を取るだけのマナはまだあるらしい。

 いつまで続くか知らんが足が止まったらお前はおしまいだ。


「もう帰ると言ってるのに止めて欲しいんだけど? 一応は最優先の目的は達したから本当に帰るよ。ヒア! よろしくー」


 誰か知らんが知らない奴の名前を呼ぶと奴の背後の空間が揺れると二本の腕が現れて奴をその空間の歪みに引きずり込んでいく。


「じゃ、またねー」


 逃がすまいとすぐさま銃で数発撃ちこんだが、着弾する前に消えてしまった。

 辺りに奴の気配をまったく感じない。

 どんな方法か知らないが、別の転移系の魔術でヒアとかいう奴があいつを回収したんだろうな。

 残念ながら逃がしてしまったが、撃退はしたのだからましだろう。

 敵がいなくなったのに気づかずにまだ頑張って重力魔術を維持している本体に教えてやるか。

 そして、本体の前に立つと頭を小突いて声をかけてやった。


「おい、もう終わったぞ」


「痛いです……どうして苦しみに耐えて頑張って魔法を維持している私の頭を叩くのですか!」


 元気な奴だな。


「お前が状況に気付いていないからだ。それにもう苦しくないだろ?」


「そう言えば全身を襲っていた気分の悪い苦痛が無くなっています! もしかして呪いが解除されたのですか!?」


「いや、残念だが刻印魔術の呪いはそのままだ。あいつとの距離が離れ過ぎたから指令が一時的に解除されたに過ぎない。それを解術するには掛けた本人を殺すしかない。その証拠にお前の体に付けられた刻印が残っているだろ?」


 私に言われて自分の胸元を見てがっかりしているな。


「そうですか……それにしてもこんな目立つところに付けるなんて着られる服が限定されてしまいますよ……」


 こいつは刻印の呪いよりも服装が大事らしい。

 私は着る物に拘ったことなどなかったが、今回は違うようだ。


「それで、強欲さんにお聞きしたいのですが、エルナの核はどうなりましたか?」


「誰が強欲だ!」


 ムカついたので、またしても頭上に拳を落としてやった。

 すると頭を押さえながら文句を言ってきた。


「痛いです!!! しかも威力がありすぎて頭から血が出ていますよ!」


「お前が私を下らん名称で呼ぶからだ」


「だって……それでは名前は私と同じシノアと呼べばよいのですか? カミラなのにいまの人格は過去の私だからなんだけど自分の名前を呼ぶのもなんだか違和感が……そうだ! でしたら、サッちゃんでいいですか!?」


 今度は叩きやすそうな頬をぶっ叩いてやった。

 

「誰が、サッちゃんだ?」


「痛い……カミラの平手はなぜかすごく痛いから勘弁してほしいです……。それにだって……あのミアって子が『強欲の殺戮者』だから、略してサッちゃんと呼んでいたから……なるほど……と……」


 かつて私をちゃん付けで呼んでいたのは私に刻印を付けた怠け者とそのガーディアンと殺されてしまった大事な友達だけだ。

 まあ、面倒なのでそのぐらいは認めてやるか。

 強欲よりはましだしな。


「仕方ないから、それは認めてやろう」

 

「では、改めてサッちゃんに聞きたいのですが、エルナの核は取り返してくれましたか?」


「残念だが、お持ち帰りされたぞ」


「それは本当ですか!? でしたら、回復したらすぐにでも取り返しに行きます!」


 自分の大事な存在を取られて珍しく感情的になったな。

 確かにその気持ちは理解できないことはない。

 私もシュリナを死に追いやった犯人や関わった奴らを最優先で皆殺しにしたからな。

 取り敢えず聖女に背後から支えられながら抱き着かれている状況だが暴れていたので、大人しくさせる為に頬をぶっ叩いてやった。


「気持ちは分かるがまずは落ち着け」


「痛いです……どうして最初に私をぶつのですか!」


「いや、ちょうど叩きやすい位置に叩きやすそうな頬があるからだ」


「……カミラが暴力的になったのは貴女の影響なのがいま理解できました……だけど、エルナが!」


「普通の者達と違ってお前の眷属になったのだから決して死ぬことがないだろう? だから取り返せばいいだけだろ?」


「そうなんですが……では、エルナをお持ち帰りしたミアはどこに行ったのですか?」


「おそらくはアスリアが拠点にしている天空の城とやらだろうな」


「では、回復次第にすぐに向かいましょう!」


 こいつの頭の中が一方通行になったな。

 それに向かったところでこのザマでは勝てんだろうな。


「一応聞くが勝算はあるのか?」


「そんなものは気合で何とかします!」


 気合論を言い出したので、勝手に手が頬を叩いていた。

 なんかこいつは叩きやすいんだよな。


「ちょっと熱くなり過ぎだ。さっきも言ったが死んだわけではないのだから落ち着け」


「痛いです……お願いですから、叩く前に言葉で宥めてくださいよ!」


「お前が学習をしないからだ」


「すみません……でもサッちゃんが手を貸してくれるから何とかなるのではないですか?」


「無理だな」


「なぜですか?」


「まず私自身が手を貸すのは今回だけだ。あとはお前達でなんとかしろ。それにこの体が使えるのは夜明けまでだしな」


「でも、カミラも同じことができるのですよね?」


「さあな。ついでにお前に警告しておくが、私が今回見せた手はもう使えん。絶対に警戒されるから本当は見せたくなかったんだが、お前が馬鹿な方法を取るから仕方なく晒したに過ぎない。大体現在の状況でマナを使い切るとはお前はアホなのか?」


「いや……あとはシズクが何とかしてくれると信用して……」


「お前は特化していない半端な存在だ。お前の剣となる存在を行先も分からない相手を追尾させて後はどうするんだ? 本来なら、お前の盾となって守ってくれるはずの覇王の娘は最初に殺されてしまったしな。どちらにしても覇王の馬鹿が最初から力を継承させていないから戦力にならないか。そしてお前をサポートする聖女もマナ切れ寸前では立て直しも厳しいだろう。最大の原因はお前が馬鹿な魔法を使うからだ」


「いや、だって……あんなに広範囲の敵を殲滅するのにいいかと思って……そしてまたしても半端とか言われたよ……」


 楽をしようとするからだ。

 半端などと言われたくなかったら、何かを極めてみることだな。


「馬鹿が。試したこともない魔法を聞いた内容だけでぶっつけ本番に使うからだ。あの悪魔に対しては時間は掛かるが長期戦で倒せばよかったんだ。仮に取り逃がしても次に会う時はあれほどの規模の眷属は持てないはずだ。それに悠久の娘がいればあのミアという奴と互角の速度で戦えた。そこに私が援護をしながら、お前達がサポートに回れば倒せない相手ではなかったな」


「言われてみるとその方法でもよかった気がしてきました……」


「お前の記憶で知ったが、あちらの世界ではゲームとやらの世界では有名人だったんだろう? その割には甘い戦略だったな」


「うっ……ううう……」


「この際だから、ついで言っておくが私の力を完全に出すことは不可能だ」


「えっ!? なんでですか?」


「ますば、この体だ。遠距離の砲撃支援だけならともかく近接戦闘をするには向いていない。リーチは伸びたがそれだけだ。そして魔術に関してだが、風魔術しか使えないのも痛い。私の戦い方はお前の体の能力を使うことが前提だったからな」


 (……)


「そんなことを私に言われても……カミラを救いたかったのは私の意志ですが、貴女と言う魂を選んだのはノアですからね」


「だから、私は傍観者に徹したいので、この体の娘が自身の力で強くなるしかない。可能な限りの能力継承と手は見せたから、あとは自分の物にして自分の戦い方を見つけるしかないな」


「そこはカミラに頑張ってもらうしかありませんね」


「まあいい。それと悠久の娘が戻ったら、この邪魔な胸をなんとかする衣装を作らせて着るようにしておけ。あいつの攻撃を躱す時に揺れ動きすぎるから斬り落としたくなったぞ」


 (…………シクシク……)

 なにか頭の中に少しだけ鳴き声が聞こえるが気の所為だな。

 大体、カミラと言う娘は粗末に扱われて育ったはずだ。

 食事だって満足に与えられている記憶がないのに発育がおかしいだろ?

 そんな状況で女性として完成された体に育ったのは母親の遺伝に違いない。

 私がこの体で気に入っているのは目つきの悪い目だけだな。


「えっ!? そんな素晴らしい物を斬り落としたいなんてサッちゃんの考えは間違っています!」


「お前の頭の中は胸の事しかないのか? とにかく邪魔だ。こんなのを喜ぶのはお前とシャロンだけだ」


「サッちゃんは欲しいと思ったことはないのですか?」


「生憎だが、私の時はそんな思考にならなかったな」


「そうですか……大きな胸には夢がいっぱい詰まっているのに残念です……」


 こいつはアホなのか?

 今回の私は本当に苦労知らずに育ったな。

 こんな奴に『識欲の隠者』が協力するわけがない。

 それに『識欲の隠者』の大切な存在は男だ。

 記憶の継承をしていないから知る由もないが、過去の時間の中で唯一の恋する乙女だったなんて想像もできないと思うだろうな。

 それはともかく夜明けまでにすることがある。


「私はすることがあるので少し離れる」


「えっ!? どこに行くのですか? それにカミラは?」


「今回は時間を決めてあるので夜明け前には元に戻るのでそれまでには戻ってくる。それに悠久の娘のこともあるのでお前も動けないだろう?」


「それならよかったです。カミラまでいなくなると私の癒しが悲しくなりますからね。シズクのことは分かっていますがこのままここにいるのもまずいのでは?」


「なら、目の前の廃墟になったあの町のどこかに居ろ。時間が惜しいので私は行く。シャロン! 聞こえているのなら私の前に転移してこい!」


 私がシャロンのことを思ってその名を呼ぶと私の目の前に魔法陣が現れる。

 やはり私の転移の印は消していなかったな。


「はいはい! カミラちゃんの声に応えて愛しのシャロンちゃん登場!」


 馬鹿なことを言いながら現れたな。

 冷めた目で見るといつもの台詞を言い出したぞ。


「あー、その覚めたように冷たい目で見つめるのは闇のカミラちゃんですね……今晩は激しい夜を期待してしまいそう……」


 こいつも頭の中が腐っているな。

 こんなのが元は王女だったとは国が滅びたのも当然だな。

 

「なんでもいい。回収したい物があるから拠点に連れていけ」


「もう、相変わらずつれないんだから……でもそんなカミラちゃんが大好きだから、2人の愛の巣に行きますよ!」


 愛の巣ね……こいつの場合は頭にカビでも生えているのかもしれんな。

 長生きし過ぎで除去不可能だな。

 私にシャロンが抱き着くと本体改め今回のシノアが声をかけてきたぞ……自分で思っていてなんだが、こいつをシノアと呼ぶのは難しいかもしれんな。


「アルカードのコインを貰うだけ貰って逃げた悪魔さんではないですか!」


「あら、また会ったわね! 美味しそうなカワイ子ちゃん!」


「協力してくれないのでしたら、渡したコインを返してください!」


「えっーいやよ。私の愛のペットになると誓ってくれたら返してもいいけど?」


「誰がなりますか! なるのでしたら、そっちがなってください!」


「ノンノン! 私は既にカミラちゃんの愛の僕なんだから浮気はしないわよ?」


 下らんことを言い出したな。

 質問をする方もする方だが、答える方も同レベルだな。


「シャロン。時間の無駄だから、早く転移しろ」


「はーい! では2人の愛の巣に転移します!」


 シャロンの言葉と同時に景色が暗転すると見覚えのある景色の場所に来た。

 着いて早々に色魔のサキュバスが身に着けている物を脱ぎだしたが、そんなことよりも先にすることがある。

 後ほど時間が余ったら考えてやるか。


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