278 これで決めます!
「我は望む 我が意思に置いて大地の精に命ずる 我が眼下に映す生きとし生ける者の生命を喰らい尽くせ! ライフ・ドレイン・サンクチュアリ!」
私が言葉を紡ぐと頭の中にイメージした範囲内全域の大地が命ある物の生命力を吸い上げていきます。
地上を埋め尽くしていた触手は不自然な動きをしながら灰になっていきます。
ジェレミアさんの眷属であるワーム達も大小に関係なく怪しげな叫び声でも上げているような奇声を上げて同じく灰になっていきます。
これだけの規模の生命体を一度に倒せるなんて恐ろしく威力のある魔法ですが、恐ろしい勢いで私のマナが消費されていくのが分かります。
セリスが私に優先的にみんなからマナを吸い上げて私に流していますが、これはかなりきついです。
一番マナを消費していたエルナは既に倒れています。
最初の発動の時に私のマナが枯渇寸前まで消耗しかけたので、セリスが全員から一気に私に譲渡したので、エルナはマナポーションを呑む暇もなく完全に枯渇してしまったのです。
セリスとカミラは即座にマナポーションを呑む行動をしたので、辛うじてマナを維持しています。
そして、私の頭の中では変な声と苦情が聞こえてきます。
(ちょっと、シノアちゃん!!!)
なんでしょうか?
今は魔法の維持をしているので、他ごとは無理ですよ?
(うざい程度と聞いていたのに全然違います! 倒しているのは魔物もどきのはずなのに人々の断末魔や怨嗟の声がずっと聞こえてくるのです!)
それは、ジェレミアさんの眷属の正体は殺された人達の魂が宿っているからです。
あんな姿でも元は人間や亜人だった存在です。
しかも死んで強制的に眷属にされてしまっても殺される寸前の苦しんでる状態が維持されているみたいなので殺してあげるのが一番良いとアルカードに聞いています。
彼らは他者を襲って、その生命を捕食した時だけその苦しみから解放されるので、見つけた生命体を無差別に襲ってくるのです。
触手にされている魂は捕食すらできないので、一時的な苦しみからの解放もされないと言ってましたかな?
(こんなことと知っていたら、絶対に協力なんてしませんでした!)
いやー、私がこれを受けていたら現在の人格が鬱な根暗状態になっていたかもしれないのでエレーンさんが引き受けてくれたのは助かりましたよ。
(いつまで続くのか知りませんが早く終わらせてください!)
かなりの速さで地上の触手とワームが消えていきますのでもう少しかと思います。
それに私のマナも辛うじてあるだけで、セリスからの供給が途絶えたら即ダウンです。
(これが終わったら、お願いは倍の二つを要求します!)
えっ!?
(こんなの詐欺ですから、当然の追加要求です! 私が転がりながら苦しんでいる姿をサテラは笑っているし、ステラはお菓子を食べながら私を見ないように無視をしているのです! 酷いと思いませんか!!!)
私の頭か心か知らないけれど、あの娯楽空間でエレーンさんが苦しみながら転がっているとは私も見てみたいです。
きっと私もその場にいたら、サテラと一緒の行動をしている気がしますね。
(シノアちゃんまでそんなことを考えているなんて許しません! 今からでも受け持つのを止めてもいいのですか!)
あっ、すみません。
私が悪うございました。
だから、もうちょっとだけ頑張って耐えてね!
(まったく誠意を感じません! シノアちゃんが壊れてしまうのは困るから耐えますけど、あとで覚えていなさい!)
取り敢えず私には後でお仕置きが待っているようですが、私に主導権がある空間で何をするつもりなのか楽しみですね。
まあ、最初に約束した土下座はきっちりとやります。
私は約束事は必ず守る主義ですからね。
それがどんな屈辱的なことでもね。
ノアに散々いじめられたから、多少のことでは私はへこたれません。
そんなお馬鹿なやり取りをしている間に地上のマナの感覚が無くなりました。
同時に私もマナが完全に枯渇してしまったらしく、ガラティアさんの背中に倒れこみました。
カミラも同じく倒れて動きません。
セリスだけは辛うじて立っていますがなんとかマナポーションを取り出して飲んでいる所みたいです。
いくら強力な魔法でもこんな状態になってしまうなんて危険すぎます。
このタイミングで先ほど始末した天魔族のディアスと言う人が現れていたら完全に詰んでいます。
大きなマナが突然消えたことは感じていましたので、ジェレミアさんは逃げたようです。
同時にシズクのマナも消失していますので、転移魔術で追いかけたのだと思います。
逃げ出したジェレミアさんのマナもかなり削れているはずなので、いまなら倒すことが可能なはずです。
後はシズクに任せましたよ。
「あれはいったいなんなのよ! 私は、あの娘があんな魔法が使えるなんて聞いていないわよ!」
支配をしている眷属を踏み台にしてなんとか魔法の範囲から脱出したのはいいけど、私が貯めていた魂がほとんど残っていないわ。
例え倒されても魂だけは私の元に戻ってくるはずなのにあの魔法の効果で消滅したのかしら……そんなことよりも!
女神アスリア様の話では、あの娘は不死の命を持つ自分に近い存在なのだけど、能力は自分が生み出した使徒と変わらない程度としか聞かされていないわ。
まさかこの私が騙されるとは……こうなった以上は女神アスリア様……いえ、アスリアの元に戻るよりもここから先は私の好きにさせてもうわ。
幸いにも今回の事で、最後の契約は果たしたのだから、付き従う必要はない。
そうと決まれば、まずは失った魂を集めなおして力を回復させることが最優先ね。
時間をかけて眷属を共食いさせながら強化したのに全て失ってしまったのは残念だけど、新しく育てなおすと思えばいいわ。
まずは、ファルモニウムの森に逃げ込んだ者達と近くに魔族の町があるはずだから、そこからかしらね。
今までは許可なく行動ができなかったので控えるしかなかったけど、戦力を増やしてからあいつらと交渉して……なに?
なにか近づいてくる気配があるわ!
「必殺! 雷光剣!」
頭上に現れた人物が掛け声と共に私に斬りこんできたわ!
咄嗟に回避行動をすると同時に片腕を複数の刃の形状の触手に変化させて対応したけど何本か切られてしまったわ。
触手の先だけ刃の形状の時は、軟体生物だけど刃以外の部分も強度は簡単には切られない硬さがあるはずなのにそれを斬るなんて誰なの!?
よく見れば私が遊んでいた小娘のようだけど、どうやって私を追跡してきたのかしら?
あの魔法が発動して、危険と判断した時にこの娘からも一番離れている眷属の位置に移動してから脱出したはずなのに追ってこれると言うことは……。
「そう言えば、お嬢さんは転移魔術が使えたわね。私を追跡して来たということは、私の本体に印をつけるのに成功していたのかしら?」
「時間は掛かりましたが、本体と思われるモノに目印をつけておきました。本当にそれが正しいのか判断できませんでしたが、襲ってくる方向からは確かに邪悪な気配を感じ取れていましたので成功したと信じていました。そして、その判断は間違っていませんでした!」
私と同じだけのマナの大きさの眷属も混ぜておいたのに見分けるなんてこのお嬢さんはやるわね。
だけど、これはチャンスだわ。
本命の娘は手に入らなかったけれど、この子を手に入れれば早く力を取り戻せるはず。
それに目印を付けられているのなら、ここで始末をしておかないといつまでも追ってこられてくることも考えれば都合もいいわね。
「そう。丁度いいので、死なせない程度の状態にして私の中で飼ってあげるわ!」
そう目の前の悪魔の女性が言葉を発すると両手が複数の触手に変化すると先端は鋭い刃となって襲い掛かってきます!
躱せるものは躱して躱しきれない刃に対してだけは刀で弾くことにしました。
数は多いのですが、対処ができない訳ではありません。
弾きながらチャンスがある時は伸びきった触手を切り落としているといつの間にか枝分かれして数が増えるのですが、本体から伸びている触手以外は精密さに欠けます。
ですが、切り落としてしまうと数が増えてしまうので、気付いてからは弾くだけに専念しています。
このままだと、ダメージが与えられないのでなんとか本体に斬り込むしかないと判断して、距離を縮めようとすると足元の地中からも同じ触手が突き出てきます。
咄嗟に空中に足場を作り出して離れて距離を取ろうとすると、私が降り立つ地点からも同じ触手が私を狙って突き出てくる始末です。
そんなことを続けていると段々と先ほどと同じ状況にになっていくのですが、個々の意志を持っていたワームなどは現れないので、現在増えているのはこの悪魔の本体の一部だからなのと思います。
この悪魔は地面に接している部分からは自在に自分の分身を出せるようですが、その範囲は時間が経つと段々と領域が広がるようです。
ただ、先ほどと違うのは体と頭だけは同じ位置にあることです。
両手は既に触手になって私を執拗に狙ってきます。
両足も変化して地面に埋まっているように見えるので、まるで樹木の魔物を連想させるのです。
もしかしたら、この悪魔はステラさんが使っていた樹木魔術を行使しているのでしょうか?
試しに私が使える最大火力の火魔術をぶつけてみると弾くことしかできなかった先端の刃を焼失させることができました。
私はお姉様ほどの威力のある火力は出せないのですが、十分に対処ができるようです。
だけど、今となっては全ての触手を焼き払うのは私には無理です。
ここにお姉様がいれば、今なら確実に焼き払って倒せると思います。
私にできる事となると、相手のマナを消費させるために手当たり次第に焼き払ってみましたが勢いが衰えません。
いくら私達が強くなっても太古の悪魔となれば保有しているマナは私よりも確実に多いはずです。
私はみんなの中で、一番マナの回復速度の速いので持久戦も可能なのですが、それは相手も同じだとしたら終わりが見えません。
ここは何とか近づいて悪魔の本体のコアを叩くしかありません。
アルカードさんは私達と同じ核のようなものがあると言っていましたが、私は識別をするために悪魔の場合はコアと呼ぶことにしています。
あの悪魔の本体は移動をしていないので、転移魔術で一気に距離を縮めることは可能ですが何度もやると対策されてしまうので私としては一発で勝負を決めたいと思っています。
相手はまだ自分が負けるとは思っていないのか攻撃のパターンはそれほど変わっていません。
あるいは直接の接近戦は得意としてないのかもしれません。
考えている内にも地面から突き出てくる刃の触手が増えていくだけなので、この辺りで勝負を決めたいと思います。
幸いなことに切り落とさない限りは両腕の刃の触手の数は増えていないので、相手の頭上は比較的に入り込む隙はあります。
私の刀が確実に届く距離で体の中心にあると思われるコアを確実に斬らなくてはなりません。
前回に首を斬り落とした時に弾けて触手に切り替わっていたので、おそらく頭部には存在しないと予測します。
首を斬り落とされた体は触手とワームの群れの中に沈んでいったので、体の方が本体と判断したのです。
まずは本体との距離を縮めると同時に両腕の触手が攻撃してくる範囲に入って本体の防御を手薄にしたいと思います!
「忍法! 爆風陣!」
私が使える火魔術の範囲魔法『フレイム・ストーム』です。
指定範囲に炎の嵐を起こして周囲を焼き払う魔法です。
これで、正面の数を減らすと同時に続けて技名の台詞を言う暇がなかったのですが、火魔術の『フレイム・ロンド』を使って私の周りに複数の火球を召喚して距離を縮めます。
この魔法は以前はお姉様が好んで使っていましたが、現在はノアさんにあげてしまったので使えなくなってます。
術者次第で火球を大量に作り出して、指定した方向に撃ち出せる魔法です。
私はそれほど作り出せませんが、この魔法は炎の弾が当たるだけではなく数回ぶつかった後に爆散するのです。
最初に弾いて距離を取ってしまえば爆発からは逃れられるので知っていれば十分に対応が可能な半端な魔法ですが、今回のようにどこも敵だらけならば最後には必ず数減らしに仕えます。
私は正面の本体に集中的に放出していますので、両腕の刃が弾いているのですが、代わりに弾かれて周りの触手に被害が出ています。
「忍法! 暴風槍!」
続けて正面に大型の風の槍を召喚してぶつけます!
単体の大型の一本の槍状ですが、集約された風が回転しながら突き進むので簡単には防げません。
それを両腕の触手の刃が受け止めて防いでいるのですが、ここで転移します!
転移先は、相手の頭上です。
両腕が正面の攻撃を防いでいますが、相手も即座に私の位置に気付くと背中から同じ触手の刃が生えてきましたが、数は多くはありません。
転移後に風の足場を即座に作り出して勢いよく蹴って、このまま落下速度も利用してこの一撃で本体を斬ってみせます!
私に触手が伸びてくると同時にこちらも数を増やします!
「奥義! 舞姫!」
言葉と同時に私の姿が5人に増えます!
私がマナで作り出した4つの分身です。
なんとか残像ではなく実体のある分身の術が使えないかと試行錯誤して、ようやく気合で実体のあるマナの残像を作り出すことに成功したのです。
ノアさんとアルカードさんの協力もありましたので、実戦に使えるレベルにはなっています。
私自身のマナもかなり使いますので、4体までが限界です。
しかも1分も持たない短時間しか維持ができない欠点付きです。
お姉様のようにマナの大きさで本体を見破られないように自身のマナを均等に振り分けて作り出していますので、これが失敗すると私はマナを使った大きな魔法や魔法の連続行使も厳しくなります。
伸びてくる触手の刃も私の分身に攻撃を分散すると本体が私の刀の間合いに入ります!
「必殺! 斬魔剣!」
純粋な上段切りですが、咄嗟に頭に浮かんだ言葉を口にしていました。
悪魔を斬るのなら……と、なんとなく思いついたのです。
しかし、その斬り込みは更に生えてきた触手の刃を無かったかのように切り裂き本体の肩から中心を通る剣筋で体を切り裂きました!
途中で初めて何か硬い物を斬った感覚がありましたので、おそらくコアに届いたと確信します!
反撃があるかもしれないと予想して大きく距離を取ったのですが、相手の反応がありません。
周りを見ると地面から湧き出ていた触手が力なくその場に崩れ落ちると動かなくなりました。
悪魔の方を見ると元の人型の姿に戻っていて私に斬られた形跡もありません。
これは、どうなったのでしょうか?
私は倒すことに成功したのか、相手が戦うのを止めたのでしょうか?
悪魔の表情はやれやれと言った感じで戦おうとする雰囲気が感じられないのです。
もしも、私の攻撃が届いていなかったのだとしたら、次に同じ攻撃をすることはできないのですが……。




