27 エルナの実力
翌朝、エルナがご機嫌で大きな鞄を持っていますが、何を持ってきたのでしょうね?
いつもは、何でも私の収納に預けてしまうのに気になりますね。
ちょっと聞いてみますか。
「その鞄の中身は何なのですか? 今日は、試合ですので特に要る物は無いと思いますが?」
「これは、後で教えてあげます。今は秘密ですよ?」
うーん……ちなみにエルナの大剣と防具などは、私がいつも預かっていますので、わかりませんね。
買い物に付き合っても、荷物は全て預かりますのに……あれ?
よく考えて見たら、私って、エルナの荷物持ちですよね?
セリスも屋敷のみんなに買い物の時は必ず連れて行かれるそうです。
収納がある事は内緒にしていたのですが、何故かリンさんにばれてしまって、有意義に使われているそうです。
「それにしても、こんなにゆっくりでいいの? エルナは他の人の試合とかは見ないのですか?」
「私は、知らない相手と戦う方が良いので、相手の方の試合などは見ませんよ? それを言ったら、シノアだって見ないでしょ?」
要するに行き当たりばったりが好きなのですね。
エルナって、勉強とかはそれなりに出来るけど、自分から調べようとはしませんからね。
テストとかの日程を聞いても予習とかまったくしません。
カミラが必死に勉強している横で、シズクとお茶しながらお喋りしてますが……いい迷惑だと思うのですが?
「私は、相手の情報は既に知っていますので、現状では見る必要は無いと判断しました」
私はある程度の情報を集めたりはしますが、基本的には適当ですけどね!
「あの……現時点で、お二人に勝てる方は居ないと思います。順当に行けば前回の優勝者のクロード殿下がシノアと当たるので、純粋な剣術の試合でしたら少し分からないのではないでしょうか?」
「シノアの初戦の相手は、確かユリウス殿下だったと思うけど、いつかのテストの件があるから、全力で来ると思いますよ?」
エルナと戦う事しか考えていませんでしたが、カミラの言い方ですと真っ当な剣での戦いなら、クロード殿下には苦戦するかも知れませんね。
出来るだけ剣で戦おうと思ってましたが、立ち合って厳しそうでしたら、ちょっと考えますか。
ユリウスの技量は知っていますので、如何に後腐れが無いように倒すかしか考えていないですね。
「クロード殿下はそれほど強いのですか? 私の聞いた話によると、現在、ダンジョンの14階層辺りに居るとのことでしたから、私でも勝てると見込んでましたが?」
「剣の扱いだけでしたら、多分ですが、私より上でしょうね。私は、その……力押しで押すしかないので、決勝まで当たらないで良かったと思っていますよ?」
「エルナ……今までは、言わなかったけど女の子が力押しとか……おかしくないかな? 少し前までは、ちゃんとした剣術で私と模擬戦とかしてたよね? 」
「それは……えーと……魔法は殆ど使わないので、純粋な剣の職業にしようとしたら、見た事がないのが有ったので変えてみたら、何故か力が強くなったのです。マナも身体能力の方に勝手に流れているみたいなのです」
なにそれ?
普段から、身体強化に漏れてるとか、意味がわかりません?
私がそんな事になったら、突然倒れてしまいますよ。
「それで、普段からやたらと力があるのですか……」
「特に剣を持つと更に力が沸いてくる感じになるのですが、私の唯一の攻撃魔法も使えないので、クーちゃんにマナを流して、威力を上げるぐらいしか出来ませんよ?」
剣の事と思いますが……クーちゃんて、何?
「そのクーちゃんって、何ですか?」
「いつも使っている大剣のことですよ? エレなんたらクレなんとかという名前でしたから、可愛らしくクーちゃんと命名して、呼んでますよ?」
「エレメンタル・クレイモアです。あの凶悪になってしまった剣の名前がクーちゃん……」
「シノアが私の為に作ってくれた大事な剣なので、シノアと思って愛情を込めて呼んでますよ! 」
私と思ってとか……愛が重いです……。
そのうちにいつぞやの夢の再現がなされそうですね。
あの剣は、耐久率が下がった時に他の鉱石を混ぜて直していますが、もう最初の剣とは違う剣になってます。
取っておいたアダマンタインとかいう鉱石を使ったら、耐久力が滅多に下がらなくなりました。
最近になって気づいたのですが、私の作った武器に別の物を混ぜて補修をすると少しづつですが強さというか能力が上がってます。
あのひたすら作っても変化の無い技能は、最初に基礎を作って進化させていくのではないかと思っています。
「シノアさんにエルナさん! 来ないかと思って、先生は心配しましたよ!」
「アイリ先生、おはようございます」
「別に私達の試合はまだなので、問題無いのでは?」
「問題大有りですよ! 開会式に2人だけ居ないから、どうしょうかと議論していました。試合には間に合うと思って進めましたが……忘れられているのかと思いました!」
「えっ!? そんな式が有ったのですか? でも、そんな説明は受けていませんよね? エルナは知っていましたか?」
「私は、去年は興味が無かったので、大会の間は欠席していましたよ?」
「エルナさんは、去年は、体調が悪いから大事を取って休まれたはずですよね?」
「えっーと……そうです! 体調が悪かったので、寝ていましたよ?」
そんなことでしたら、普通に出てくれば良かったですね。
他の選手に睨まれそうです……困りました……。
しかし、エルナが仮病を使って休むとは、よくリンさんがそんなことを許しましたね?
「もしかして、それで失格とかあるのですか?」
「そんな事はありませんし、2人に賭けている方が多いから、そんな事をしたらもっと問題が……」
まさか……アイリ先生達も賭けていたのですか!
この学園は腐敗しています!
「アイリ先生、生徒を賭けの対象にするとか、この学園の常識は、どうなっているのですか? もしかして、自分達の為に私達が来ないから迎えとか言って探しに来たのですか?」
「シノア、賭けって何ですか?」
「この学園にそんな事はありません!」
さっき、私達に賭けている人が多いとか言っていたのに……早速お仕置きの時間ですね!
「アイリ先生、正直に言わないとトイレに行けなくなりますよ?」
「トイレがどうかしたのですか?」
「何でもありません! エルナさんとカミラさんには後でお話をしますので、済みませんが先に行って安否を伝えてもらえませんか?」
「それは構いませんが、そのままみんなで行けば良いと思うのですが?」
「先生は、ちょっとシノアさんとお話しをしながら行きますので、お願いしたいのです!」
「アイリ先生がそう仰るのでしたら、先に行きますね。シノアも早く来て下さいね」
教師のお願いなので、2人は素直に行きましたね。
「シノアさん、何でも話しますから、お願いですから許して下さい! 我慢をするのは本当につらいのです!」
この間、調子に乗って他の先生をパシリにしていたので、罰として、用を足せないようにしたら、半日で泣き付いてきましたからね。
「まあ、賭けの事は知っていますので、誰にいくら賭けたのですか?」
「私は、シノアさんに貯金の半分を賭けてしまったので……不戦敗などになったら、私は大損してしまいます……他の先生も2人かクロード殿下に賭けていると思います」
「呆れましたね……教師がそんな事をして良いのですか? 学園公認とか、この国はどうなっているのですか?」
「学園としては許可していないのですが、黙認している状態なのです。なので教師としてではなく、個人で買っているのです……」
この学園はダメですね。
何かもう卒業する必要が無い気がしてきました。
取り敢えずダンジョンを制覇したら、他の国に行きましょう。
その頃には結構な強さを得れると思うので、旅をするには十分かと思います。
いまのままですと、ちょっと強い人とか下っ端の使徒と遭遇したら、敗北する可能性が高いかと思います。
それに、私の為に色々としてくれた、おじいちゃん達の事もありますからね。
「ちゃんとエルナにも説明して下さいよ? 放っておくと勝手に聞きまくりますから、そうなったら、私は知りませんからね」
「分かりました……いつの間にか、私はシノアさんには逆らえない体になっているのですが……どうしてなのですか? 以前のような誓約魔術は掛けられた覚えが無いのですが……」
「欲しがっていたワインを何本かあげろためにアイリ先生の自宅に行った時ですね」
「あの日は……ちょっと記憶が飛んでいるのですが何が有ったのですか?」
「1本だけ飲みやすいけどすごく酔いが回る物を飲んだだけですが、その時に私の最高の誓約魔術を掛けても良いかお願いしたら、良いと言ったので掛けさせてもらいましたよ? アイリ先生が素直でしたので、楽でしたね!」
実は、相手の承諾を得るか屈服させないと魔術が成立しないのですよね。
大抵は、令呪で刻印をしてしまえば、対象がもう逆らえないと勘違いをして心が受け入れてしまうから奴隷に落とせるのですが、ここで心が折れなければ、完全では無いので自力で抜け出すことも可能なのです。
なので、まずは拷問とかして相手の心を精神的に追いつめてから掛けるのが、現在の主流になっています。
誓約魔術とはその名の通り約束に力を与えるだけの魔術、といまの私にはわかるようになりましたので、ある意味で使えるようになったのは良かったです。
「シノアさんの最高って……私には令呪が無いので奴隷になってはいませんよね?」
「真の誓約魔術には、令呪など不要です。これはただの約束の魔術なのですから、現在の奴隷に落とすのに最適だというのは間違った認識なのですよ」
「でも……私はシノアさんに逆らえません……」
「アイリ先生には、その身を全て捧げる約束を本人同意でしてもらっただけですからね。ですから、私の言葉には体が素直になるだけですよ?」
「私の全て……酷すぎます! お願いですから、解除して下さい!」
「何もしなければ無害な魔術なので問題有りませんし、アイリ先生はたまに欲に目が眩んで何かしますので、ちょっと面白い……じゃなくて、何か付けておかないといけませんからね」
「いま、面白いと……」
「大丈夫です! それ以上に良い事があると思うので、気にしなければ良いのです!」
「うぅ……どうしてこんな事に……やっと私にも運が回ってきたと思ったのに……」
「私が存命の間は、後悔させませんよ? 多分ですけどね!」
「信じていますからね……」
まあ、何事も無ければ死なないので、老後も安心かと。
生きるのにお金が掛からないので、お金の心配もありません。既にかなり貯め込んでますので、贅沢とかしなければ大丈夫です。
そんな話をしながらも学園に着きましたが、人が一杯ですね。
私達は裏口からこっそりと入りましたが、エルナは正面から入ったので、苦労したみたいですね。
「シノア、待っていましたよ! 大勢の人が居ましたので、着替える時間が厳しかったですよ。それで、どうですかこの服は? 急いで作ってもらいましたが似合ってますか?」
あの大きな鞄の中身はこれでしたか。
赤を基準としたドレス風の軽鎧と言ったところでしょうか?
いつもの装備よりもファッションを重視した感じで、本来のエルナには良く合っています。
「とてもエルナに似合ってますね。まるで、お姫様の戦装束と言った感じで、綺麗ですよ」
「お姫様だなんて……シノアがそう言ってくれるのでしたら、嬉しいわ! シズクちゃんがデザインしてくれたのを作ってみたのです」
「あの娘は絵が上手いですから、再現とかしやすいのですよね」
「シズクちゃんの世界のアニメとかいうのに出てくるヒロインの服装らしいです。私がそのヒロインに似ているから合うと思って、前々からスケッチが何枚も書いてあったそうですよ」
そう言えば、昼間はいつも絵を描いているとセリスが言ってましたが、みんなの分も何か描いているのかも知れませんね。
両親が厳しかったので、その手の物は見つかると知らない間に捨てられてしまっていたと言っていましたからね。
私がいうのも何ですが、そんな事を抑制すれば余計に反抗しますよね?
趣味でも何でもそうなのですが、本人が納得するまでやらせれば、本人が満足して自然に控えるか飽きてしまいますよ。
逆に、反対などするから余計に逆らいたくなると、私は思っています。
私は勿論ですが反対されると余計にしたくて仕方ないので、何としても嫌がらせ……じゃなくて、実行して見せます!
私は思うのですが、むしろ、そこで諦めてしまうような考え方では向上などしないでしょうね。
ダメな事を達成すると気分が良いですからねー。
「エルナさんの装備は、シズクさんと言う方が考えたのですか? 私が注文した衣装よりとてもいい感じですね。お屋敷のお抱えのデザイナーさんなのでしょうか?」
アイリ先生は、エルナの服に興味津々のようですね。
「シズクちゃんは、シノアが見つけて来た異世界人の娘で、私達の妹として一緒に住んでいますよ」
「あの……私もお会いしてみたいのですが……お願いして、私もデザインとかお願いできないでしょうか?」
「今日は、観戦をしに来るはずですので、後で紹介しますよ。アイリ先生には、その内に会わせるつもりでしたからね」
「シズクちゃんにお願いすれば、普通の服でしたら、直ぐに作ってくれますよ。セリスさんに教えてもらって裁縫技術はお店の方と遜色のないレベルです。最近はギムさんに防具の組み合わせ方なども教えてもらっていますので、師匠とか呼んでましたね」
たまにギムさんの工房に出入りしているのは、そういう事でしたか。
よく魔物の素材の皮とか欲しがっていたのは防具にする為だったのですね。
この世界なら、趣味のコスプレが自由に出来るから、楽しそうです。
いまは良いですが、向こうの世界に帰る方法が見つかって帰りたくなった時には、何とかしようと思っていましたが、どうなるのでしょうね?
「そんなすごい子なのですか! ぜひお友達になって、私の服も作ってもらえるようにお願いしたいです!」
「きっと、作ってくれますよ。お屋敷のメイド達やお母様も色々と作ってもらっていましたし、私やカミラも何着か作ってもらいました。あちらの世界の衣装って、新鮮で良い感じの服が多いみたいです」
「私は、そんなのもらっていませんが?」
「シノアの服も何着か作ったみたいですよ。納得が行くのが出来たらプレゼントしたいと言っていましたので、その内にプレゼントしてくれると思いますが、今の話は聞かなかった事にしておいて下さいよ?」
「それなら、楽しみにして待つとしますね」
「そろそろ、私の試合の時間なので、くーちゃんを出して下さい」
エルナに渡すと肩の留め金に大剣を固定して一段とかっこよくなりました。
ちゃんと大剣を背中の右肩から斜めに装備するイメージで作ったのですね。
「エルナさん、すごく似合っているというか、かっこいいです! きっと、その衣装もどうやって手に入れたかも話題になりますよ!」
「衣装の事は、シズクちゃんから許可を得られないと教えれませんからね。いまでもお母様が社交界で聞かれていますが、うちのお抱えの者としか公表していませんので。それでは、行ってきますので見ていて下さいね!」
そう言って会場に行ってしまいましたので、私もアイリ先生と生徒の観客席に向かいました。
さて、相手の方はどんな方なのでしょうね?
「それでは、Bブロックの第3試合を開始致します!」
学生の大会なのに中々の賑わいですね。
今日中に二回戦までの20試合を二つの試合場に分けて10試合ずつをするみたいなのですが、終わるのかな?
長引いたら、私は8試合目なので、遅くなりそうですね。
「東のゲートから、2期生Sクラスのオリビア嬢の登場です!」
あれは、私に嫌がらせというか何かと言い掛かりを付けてくる巻き髪の人ですね。
確か同じ公爵家なので、物の言い方も遠慮なく言ってきますから、ちょっとうざいです。ここでエルナにぼこぼこにされた方が私はすっきりとしますね。
「対するは、西のゲートから、2期生Bクラスのエルナ嬢です! 何とドレスのような服装での登場ですが、大丈夫なのでしょうか? とても高そう……では無く防御面が不安な装備です!」
「ちょっと、エルナさん。そんなヒラヒラの服でわたくしと戦うおつもりですか? それともヴァレンタイン家の意向なのですか?」
「これは、ワイなんとかの皮を加工して染色した物らしいので、その辺の鎧より丈夫らしいですよ? 何かのエンチャントもしてあるので、破れにくいそうです」
「そんな物が作れる防具職人を抱えているのですか? 私が勝ったら、その職人を教えて下さいませんか? デザインも中々良い見たいですし」
「うーん……勝てたら、名前だけは教えてあげますけど、シノアのいう事しか聞かないので、無理だと思いますよ?」
「あの平民上がりの娘ですか……まあ良いですわ。今度、本来の身分をしっかりと教えて差し上げますので問題無いですわ」
「……オリビアさん……私のシノアを侮辱するのでしたら、手加減は出来ません。本気で来る事をお勧めします」
「もう勝った気でいるみたいですが、この剣と鎧は我が家の家宝の一つなので、貴女に勝ち目などありませんわよ?」
「何でもいいので、早く打ち込んで来て下さい。最初は譲りますので」
何やら、二人の空気というかエルナの機嫌がすごく悪いです。
めっちゃ怒っていますが、あの巻き髪女は何を言ったのでしょう?
エルナは、普段はのほほんと聞き流していますが、怒ったりすると一気に沸点が下がるから怖いのですよね。
私の方がレベルは高いのですが、威圧されると私も素直になってしまうので、怒らせたりしないのですよ。
「それでは、試合を開始して下さい! 勝利の女神はどちらに微笑むのでしょうか!」
「何を言っているのか分かりませんが、行きますわよ!」
「オリビア選手から打ち込みに行きましたが、エルナ選手は剣すら構えてはいません! このままではまともに斬られてしまいますが!」
「ミリア様もいらっしゃるので、安心して、斬られなさい!」
そのまま上段から斬りつけたのですが、左肩に触れたと思ったら剣が弾かれましたね。
反射のエンチャントでも付けているのかな?
しかもかなり強力な付与です。
これは、普通の攻撃では通りませんね……私も対策を考えないとまずいです。
しかし、いまの攻撃は防御していないとは言え殺す気でしたよ?
とんでもない人ですね……これは、他の試合もどこまでやるのか見ておきましょう。
「なぜ? いま確かに肩に剣が当たったのに弾かれてしまいましたわ!?」
「おおっと!いま確かに左肩に当たったと思った剣が弾かれました! これはどうなっているのでしょうか!」
「最初は譲りましたので、次は私の番ですね。絶対に倒れないで下さいよ?」
エルナが大剣を構えると相手が怯んでますね……きっとかなり威圧されているのでしょうね。
普段でも結構な威力なのですが、剣を構えると更に鋭くなるので、動物系の魔物もあれで一瞬怯むのです。私も威圧の技能は欲しいです。
「なんですの……わたくしが怯えるなんて……こんな事は初めてです……」
「動かないで下さいね。まずは体には当てませんので、動いたりしたら、保証は出来ません」
そう言って、真っすぐに上段から振り下ろした相手の目の前の地面が、剣圧で沈みました。
鎧も切り裂かれていますが、剣で受けようとしたので、剣も折れてしまいましたね。
「我が家の家宝の剣が折れるなんて! ありえない!」
「何と! エルナ選手の一振りでオリビア選手の剣と鎧が切断されてしまいました! さらに地面も陥没するとは凄まじい威力です!そして……着こんでいた服も正面が切れてしまっているので、大変なことに!」
「鎧って……見ないで下さい!」
剣はともかく鎧と下に着ていたインナーと下着まで斬れてますがあの子は大丈夫かな?
公衆の面前で公開プレイとか、公爵家なのにまずいのでは?
観客の男性陣はしっかりと見ていますね。
男って……。
その場にへたり込んでいますが、露出公爵令嬢とか言われそうですね。
「私は、動かないでと言ったはずですが? 少し動くから、余分な物まで斬ってしまいましたよ?」
「こんな辱めを……絶対に許しません!」
「では、続きをしますので、立って構えて下さい。次は、倒れないように剣の腹で叩きのめしてあげますので、倒れられると思わないで下さいよ?」
「わたくしがこんな……こんな事があり得る訳がないわ!」
「口上は良いので、早く立って下さい。私は、シノアを侮辱する者は決して許しませんので、死なない程度に教えて差し上げます」
「これは、もう続行は無理だと思いますが、大会のルールでは敗北宣言をするか場外に落とされない限り勝敗は決まりません!」
実況の人も鬼ですね。
どう見ても剣は折れてるし、あんな恰好では続行不可能でしょ?
男じゃあるまいし、胸丸出しなんですから、学生にストリップでもさせたいのでしょうか?
「わたくしが……こんな無様な姿を晒して負けなんて認めれませんわ!」
立ち上がりましたが、剣は折れて、胸は丸出しで、エルナの威圧に耐えながら挑むとは勇者ですね。
いくら剣術を嗜んでいるとは言え普通の女性ならもうとっくに心が折れているのですが、貴族のプライドとかいう物なのでしょうか?
「よく言いました。その心意気に免じて一撃で、落としてあげますので、耐えて下さいね」
そのままエルナが剣の腹で左側からはたくように叩きつけましたが、落とすどころか観客の壁に叩きつけられていますよ。
「オリビア選手が場外なので、勝者はエルナ選手です! しかし、壁がへこむほど叩き付けれらていますが、大丈夫なのでしょうか? まったく動かないです!」
審判の人も見てないで、止めようよ?
仮にも公爵令嬢様なんですから、彼女は明日からどうなるんでしょうね?
でも、ちょっとだけ、楽しみです!
そのまま、試合場からもどって来ましたが、機嫌が悪そうですね。
「エルナさん、お疲れ様ですけど……相手の方は大丈夫なのでしょうか?」
「ずっと機嫌が悪かったみたいだけど、どうかしたの?」
「あの方は、シノアを侮辱したので、ちょっとお仕置きをしてあげただけです。本当は、もっと叩きのめすつもりでしたが、あの状態で意地を見せたのであれで終わりにしました」
「あれがちょっとお仕置き……エルナさんを怒らせてはいけないと良く理解しました。同じ公爵家なので問題が発生しそうですね……」
「私は良いのですが、エルナの立場が心配ですので、私に出来ることが有ったら、何でも言って下さいね」
「自分の事よりも私の事を心配してくれるなんて、嬉しいです! では、ちょっと勝利のご褒美にしばらくぎゅっとさせて下さいね!」
仕方ありません。控室だから良いのですが、周りから見たら危ない雰囲気ですよ。
アイリ先生は、赤くなって、「これが愛なのですね」とか訳のわからない事を言ってます。後で、お仕置き決定です。
他の試合も見てましたが、さっきのはやり過ぎですね。
シズク達と合流してお昼にしていますが、カシムさんから、エルナとの対戦について大丈夫でしょうかと聞かれてましたので「当たらなければ何とかなります」とだけ答えておきました。
「エルナお姉ちゃんの太刀筋は良くなってきましたね! 相手が動かなかったら、鎧だけ斬れていたでしょうね!」
「そうなんですよ! 動かないでと忠告したのに動くし、剣で防ごうとするから、ちょっとずれてしまいました。シズクちゃんの衣装をヒラヒラとか言うし、シノアを侮辱するから、本当は同じ所から斬り込もうと思っていたのです」
「お姉様を侮辱するのは許せませんが、あの人と同じ事をしたら殺してしまいますよ?」
「そうね、流石にオリビアさんを殺してしまったら、シュタイナー家が抗議をしてきますからね。既に家宝の剣と鎧を破壊した件で文句を言ってきましたが、そんな大事な物を使用する方に問題があるのですと言っておきました」
サラさんに既に文句を言って来たのですか。
無駄な事をしますね。
私も同じ事を言うと思いますが、脆い家宝ですね。
「学生の大会にそんな物を使う方にも問題があると思うのですが、あんな簡単に壊れてしまうのでは大したことは無いのでは? 」
「シノア様、あれはシュタイナー家に与えられていた宝剣アルムスと、名前は公表されていませんが下位の魔法を無効化する鎧だったと記憶しております」
カシムさんが教えてくれましたが物知りですね。
「カシムさんは、物知りですね。しかし、鎧はともかく、宝剣という割にはもろい剣ですね」
「500年前の当主が使徒だった時に使っていた剣なので、本来の力を引き出すのには何か条件が有ったのかも知れませんが、いまの技術で直せるかは不明でしょうね」
そんな大事な物を使わせて失ったとか、御先祖様が知ったら怒るよりも呆れるかも知れませんね。
「お母様、我が家にもあるのですか? 」
「お父様が持っている剣がそうだったと思いますが、どんな効果があるのかは知りません。あの剣を使っている時は、剣の速度が速すぎて見えなかった記憶があります」
「速さに特化した剣なのですね! 機会がありましたら、手合わせをお願いしたいです!」
「シズクの剣の速さもすごいですからね。私にはもう見えませんから、立ち合いとか不可能です」
シズクと剣で戦うとか、もう不可能です。
特に居合抜きとかいうのは、手が動いたとしか認識出来ません。
少し前にダンジョンの休憩所で、服装にケチを付けた冒険者の着ている物だけを斬って、「コスプレを馬鹿にする者には、着る物など不要」とか言って、全裸にしてました。
どうやって、着ている物だけ斬れるのでしょうね?
「シノアさん、その子がシズクさんなのですか?」
「そうでした。この子がシズクですので、仲良くして下さいね」
「お姉様の先生ですね! 先生の事は、たまに学園で見ていますので知っていますよ! シズクと申しますので、宜しくお願いしますね!」
「素直で元気な子ですね! Bクラスの担任をしているアイリと言いますので、宜しくお願いしますね」
「先ほど、エルナお姉ちゃんから、お話は聞きましたので、私で宜しければお洋服を作ります。今度採寸させて下さい! アイリお姉ちゃんはどんな服が良いのですか?」
「お姉ちゃんなんて呼ばれたのは何年振りなのでしょう……シズクちゃんが私に似合うと思う物を作ってもらえると嬉しいです! サラ様の衣装も見た事の無い物ですがとても綺麗ですから」
「あら、分かりますか! これは外出用のお気に入りなのです。シズクちゃんの服はとても良いですよ!」
衣装の話に変わっていますが、女性はこの手のお話が好きですね。
その気の無さそうなセリスも我関せずの態度を取っていますが、残念ながら、私には興味津々なのがばれています。
カシムさんは唯一の男性なのに会話に付いて行けるのがすごいですね。
逆に私が一番浮いてます!
だって、怪我をしなくて動きやすい服なら、何でも良いと思っていますからね!
そんなことを口に出そう物なら、エルナからの説教が待っていますので、適当に相槌を打って合わせています。
さて、午後からのユリウスとの試合はどうなるのでしょうね?
私としては、エルナみたいに目立ちたく無いので、地味な戦いにしたいと思っています。




