242 過去の経緯を聞きましょう
あれから、ミリちゃんにほぼ全て食べられてしまって落ち込んでいたマリちゃんを改めて慰めてあげました。
お菓子の類は買いだめしてあるので、新たに同じシュークリームが入っている箱を渡したら、ミリちゃん同様元気になったんだけどね。
今度は自分の手で早速食べていますが、マリちゃんが美味しそうに食べている隙を狙ってミリちゃんが素早い動作で箱の中から盗み出して食べているんだけど、次は知らないからね?
まあ、この2人は甘い物で釣れるので単純で助かります。
ナオちゃんは特に欲しがったりはしないのですが、2人が喜んでいるなら……と言った感じで見守っているので、この双子よりは精神的に大人に育っているみたいですね。
森の中だし、雰囲気的にたき火でもしながら話しでもしょうと思ったのですが、この森は精霊の力で意思を持っているらしいので、極力火気厳禁だそうです。
仕方ないので、セリスにそのまま頭上の光球を維持してもらおうかと思ったのですが、どうせならとこちらで最初に作り出した簡易の拠点小屋をもう一度作り出して、中でお話をすることにしたのです。
今回の中身は、1LDKとまではいきませんが、ダイニングキッチンとお風呂しかないんだけどね。
そこそこ広くないと6人で座れないし、お風呂は自分が入りたいからつい作りました。
親睦を深める為にはお風呂は必須アイテムです。
決して、成長したこの娘達の成長具合がみたいからでは……はい、あれが確認したいだけです。
中に入るとセリスは当たり前のように目についた冷蔵庫を開けて飲み物を出してコップに注いで持って来てくれます。
中身の家財道具とかは建物を作りながら設置したんだけど、シズクも私がどこに何を設置するのか理解していますので、家具の棚の中にあるお菓子を持って来て勝手に食べています……この手の要素を否定しているのにちゃっかり寛いでいるんだから、理解に苦しむなー。
「では、適当に座ってもらったら、今までの話を聞いても良いですか?」
「どこから話せばよいのでしょうか?」
3人が顔を見合わせると代表で、私の正面に座っているナオちゃんが答えてくれました。
「そうですね……私達がグラント王国に向かった後に連絡が取れなくなったでしょ? そのぐらいの時期かな?」
私は定期的に転移魔術で帰っていたり、アルカードを通じて連絡だけはしていたのです。
だけど、私がシズクの世界に飛ばされてしまったのですから、音信不通になっていたはずです。
アルカードも本体が私に付いてきたので、残っている分体との連絡が取れなくなってしまったんだけど、本体との繋がりが途絶えると消えてしまうと言っていたので、契約している私に何かあったと思ったはずです。
「アルカード様が消えてしまって、ヴァリスが侵略してきた時期ですね」
「えっ!? 侵略されたの!?」
不可侵条約とやらは、どこにいったの?
条約違反は死刑ですよー。
「期限まで時間があったはずなのですが、突然攻めてきたのです」
「確か、兵力的にはかなりの格差があったので、勝てる望みは薄いと思いますが……」
領地持ちの貴族達の動き次第だと思いますが、私なら焦土作戦でも提案して本国に戦力を集中するかな?
フェリス王国には地形的に要所となるような地点などが無かったと記憶していますので、まともに戦うのは愚策だと思います。
魔物いっぱいの森はロードザインの方面に集中しているからヴァリスからはあまり役に立たないからね。
そして、相手は大軍を擁しているのですから、当然物資の略奪と駐留する拠点は確保したいと考えているかと思います。
少しでも有利に運ばせない為に最低でもこちらの使える拠点や物資などを奪われたくないですね。
「国境付近の都市などは同時に落とされました。貴族や町の代表などの指揮できる者達だけは処刑をされてしまい残った兵士や民衆は僅かな食料だけ渡されると解放されたのです。その難民たちが次の都市や町に避難すると直ぐにそこも攻められて同じように進行して来たのです」
「なるほど……相手の国の民衆に食料などの物資を消費させるつもりなのですね。自国の民が助けを求めてきたのに追い返すわけにはいきませんので、悪くない手です」
要するに物資などは備えは十分なので略奪する必要はないけど、相手の国の物資だけは確実に消費させる為ですね?
おまけに貴族達もそうですが、指揮ができる者を始末してしまえばいくら兵力があってもまとまりがなければ戦力とは言い難いですからね。
個人の力で戦局が変えられる存在がいればもう少し変わると思いますが、それでも個の力だけでは限界がありますからね。
「エルナ様の実家の領地の方にも多くの難民の方が押し寄せていましたので、エルナ様の祖父のアリオス様を助ける為にエルナ様とカミラ様とロイド様が御庭番の方達を引き連れて向かわれたのです」
「アリオスさんは領主様ですから、捕らえられたら処刑は確実ですが……」
正直、そんな用意周到な相手なのですから、本国までの作戦は徹底されていたかと思います。
しかも短期間で確実に占領しているとなると内部からの手引きも予想できます。
いくら戦力差があるとしても防御側の方が少ない兵力でもある程度は有利に戦えるはずなのですから、事前の仕込みは既に完了していたとしか思えません。
例えば国境辺りの領主などは、手引きする代わりに自己保身でも確約していたのかもしれないのですが、あっさりと裏切られたのかもしれません。
まあ、殺してしまえば死人に口なしですからね。
蘇生させるにも時間制限があるので、日数が経ってしまったらお終いです。
それにしてもエルナとカミラがそこに向かってしまったことです。
私としては申し訳ないのですが、見捨てて欲しかったのですが……まあ、普通なら無理な考えですね。
カミラはエルナの護衛を頼んでいたので、必ず付いて行くと思います。
ロイドさんは、恐らくフェリオスさん辺りにエルナを死なせないのは私との関係を保つ為に必要と感じて同行させたのか……もしくは、ロイドさんは出会った時のことを改めて私とエルナに謝罪をしていましたので、護衛の役を買って出たのかもしれません。
「難民の方達が来る前に領民の方達を先に王都に向かわせて最小限の人員で受け入れているふりをしながら脱出させようと考えていたのですが、今回に限って敵の襲撃が早まり乱戦の中で可能な限りを逃がしたのです。その時にエルナ様達が最後まで踏み止まってくれたお蔭で被害は少なかったのですが……皆さんは散り散りになってしまいエルナ様も……」
「その時の状況に随分と詳しいみたいですが、ナオちゃんも同伴をしていたのですか?」
「時間がある時に習い事程度の剣の指導は受けていましたので、エルナ様にお願いをして連れて行ってもらったのです。私はエルナ様の従者なのですが……」
「それで、エルナはどうしたのですか?」
ナオちゃんはエルナがどうなったのかをはっきりと言いませんが、離れ離れになったのか死なせてしまったのかと思っているのかもしれません。
私にはエルナを失っていないという曖昧な感覚があるので、死んだとは思ってはいません。
なので、手掛かりさえあれば私はどこまでも探しに行くつもりです。
「申し訳ありません! 本来なら私はシノア様に顔向けができる立場ではありません!」
えっ?
立場とか私にあるとは思えないのですが……どちらかというと暇があると趣味か仕事ばっかししている半端な職人です。
眠っても夢も見られないから、何かしていた方がいいからなんだけどね。
あの頃は一応ですが、貴族であるエルナの身内扱いでしたから、ナオちゃんがそう思うのは仕方がないことですね。
「何があったのか分かりませんが、その事でナオちゃんを責めたりはしません。なので、エルナがどうなったのか話してくれませんか? 特にその剣を所持をしていて扱えている方が私には疑問です。その剣は所有者をエルナに固定してあるので、他の人に抜くことはできないのです。そして、エルナ以外には何の力も発揮しないただの重たいだけの剣なので運搬する事も困難なはずです」
正確にはエルナ以外にはただの精錬された鉱石の塊です。
他に持ち運びができるのは、製作者の私か眷属であるカミラ達だけです。
「エルナ様は私を庇われた為に深手を負ってしまいました……最後まで笑顔でいらっしゃいましたが足元の出血は幼い私にもわかる程に酷かったのです。頑張ってエルナ様を支えながら王都に戻ろうとしたのですが、治療もせずに辿り着ける道のりではありません。そこに御庭番の方の1人が合流してくれたのですが……エルナ様は自分を置いて、私を連れて行くようにその方に命じました。その方もエルナ様の生存を最優先にするように命じられていたのですが、エルナ様の命に従いました。その時に私にこの剣を委ねて下さったのです」
「なるほど、それで?」
「最初に渡された時はとても持てるとは思えなかったのですが、エルナ様が剣に語り掛けると幼い私にも持ち上げる事が出来るようになったのです。そして1つだけ私に伝言を託されました」
「その伝言は私が聞いても宜しいのですか?」
「勿論です! 私はそれを伝える為にどんなことをしても生き残っているのです。シノア様に必ず伝えるように言われています」
「では、お聞きしますが、エルナはなんと?」
「エルナ様は仰いました「必ず貴女ともう一度会いますので、待っていて下さい」と……」
重傷な状態で、その場に残ったエルナが助かるとは思えません。
ですが、私の感覚が彼女を生きていると感じているのですから、探し出してみせます。
私が思案をしているとナオちゃんが新たな情報を与えてくれました。
「エルナ様が生きているのかは分かりませんが、所在は知っています」
「それはどこ!?」
「ファルモニウムの森の奥深くです。私達が偶然迷った場所に魔物が唯一近づかない場所が存在しているのです。そこには美しい小さな泉があるのですが、そこにエルナ様が沈んでいらっしゃったのです。そのお姿は千年前と変わらずに……」
魔物が近づけない特殊な泉というのは私が最初に目覚めたマナの泉で間違いありません。
あそこは女神レア様が唯一この世界に関渉ができる場所でもあります。
恐らくですが、私が時間の逆行ができたのですから、女神レア様は時間に関渉する力を持っているはずです。
そうなるとマナの泉の時間は恐らく静止している状態が保たれているのかもしれません。
そこに何らかの方法で、エルナを泉の中に封印もしくは眠らせるとこができたのなら、生存が可能なのでしょう。
エルナ本人か誰かがその処置をしたのか分かりませんが朗報です!
だから、私がこの世界に戻れた時にファルモニウムの森の中に現れたのは、エルナが一番近い場所だったからです。
もしかしたら、あの近くにマナの泉があったのかもしれません。
そうと分っていたら転移のマーキングをしておくべきでしたが……ナオちゃんが場所を知っているのでしたら問題はありません。
「状況はわかりました。ナオちゃんにお願いがあるのですが、私達をそこに案内をして欲しいのです。頼めますか?」
「勿論ご案内を致しますが……あの近くには恐ろしく強いオーガ・ウォーリアが徘徊をしていますので、近くにいる時は簡単に近づくことができません。それに道中もマリーナ達がいないと魔物が強力なので……」
恐ろしく強いオーガ・ウォーリアって、私が倒した奴じゃないのかな?
ロゾフさん達もあそこまで強くなった個体は滅多にいないみたいな事を言っていたような?
「多分ですが、それ私達が倒してしまった個体かもしれません。龍族を圧倒していた個体だったけど、助ける時に始末したからね」
「龍族を圧倒するオーガ・ウォーリアを倒されたのですか!? あの森にいる龍族はかなり強い存在なので、私達では戦えない相手なのですが……シノア様はとてもお強いのですね……」
一応は、この世界での強さは最大の筈です。
後は能力次第だと思いますが、復活した女神アスリアがこの世界のルールをどのくらい書き換えたかで内容は異なります。
1つだけ言えるのはマナの許容量だけは最大になっていることです。
ナオちゃんのお蔭で次の目的地は定まりましたけど、この先の吸血鬼の町にも私の知り合いがいるのか確認をしておきたいし、もしかしたらカミラの消息も知っているとしたら問題が一気に解決を致しますよ。
「後ほどナオちゃんには道案内をお願いするとして、この先の町には私の知り合いはいるのですか? それとカミラの消息も知っていたら教えて欲しいのです」
「町にはヴァレンタイン家に縁のある者達が多く居ます。御庭番の方達も何人かは私達と同じく吸血鬼となっていまも存命です。私にはカミラ様のことは確証はないのですが知っている者がいます」
カミラの所在まで分るのなら、取り敢えずは町に行くべきですね。
結構生き残っているみたいなので、当然レンもいるのでしょう。
レンがいなかったら、吸血鬼になれないと思いますが、他に心当たりがあるとは思えないしね。
「もしかして、町を治めているのはレンとか?」
「レン様は、そういった役職には就いていません」
あれ?
吸血鬼って、支配されると上からの命令は絶対になるんだよね?
そうなるとレンが一番上の存在だと思ったのだけど……違うみたいです。
「ナオちゃん達の始まりの吸血鬼はレンで間違いないんですよね?」
「そうです。王都の危機に直面した時にレン様が自分の正体を明かしてくれました。戦闘で重傷を負ったメアリ様を助ける為に吸血鬼にしたのですが、それをきっかけに劣勢を覆す為に御庭番の方達も吸血鬼となることで能力を上げたのです。そこからは、少しづつ相手の指揮官クラスを感染させて押し寄せているヴァリスの兵力を支配下においたので完全に不利な状況からは脱しました」
「ヴァリスに攻められている時にやったのね。話の途中でしたが、戦況はどうなったのですか?」
エルナのことが分かったから、ついそちらを優先してしまいました。
王国の人達には申し訳ないのですが、私の優先順位はエルナが最優先ですからね。
「最終的には王都を完全に包囲されてしまいました。相手も吸血鬼に感染された部隊は味方もろとも広範囲の魔法で殲滅して来たのです。アストレイア様やフェリオス様の使徒の方達も奮闘なされましたが数の前に倒されてしまいました。ヴァレンタイン家のお屋敷ある地域は使徒ではありませんがとても強い方が守っていたので、被害の方は少なかったのです」
「当時の使徒以外に強い人達って誰?」
ロイドさんのことはどうなったのか聞きそびれましたが、仮にもフェリオスさんの使徒であるミュラーさんとフェリシアさんは個の力の強さを持っていたはずです。
そうなると強い人となると……。
「1人はサテラ様です。最初の頃は相手の指揮官と互角の戦いをしていたのですが、戦いの途中で突然強くなられて、相手を圧倒し始めたのです。押し寄せる大軍には強力な雷魔術で全滅させてしまうなどすごかったのです」
サテラでしたか。
その突然強くなったのは、私が使えなかった余剰レベルを解放したので、世界は違っても私と同等の強さになったので、サテラ個人の能力が魔王クラスになったのでしょう。
サテラが使った雷魔術とは、『ライトニング・テンペスト』かと予測します。
あれは、雷魔術の範囲殲滅魔法なので、高レベルになったサテラが使ったのですから、その威力は絶大かと思います。
そうなるとステラさんも参戦したのかな?
「もう1人は、サテラ様が前に出てしまった時に突然現れたアルフィン様のペットと名乗るカリンと言うお方です」
「カリンさんですか?」
しかも、人前でアルちゃんのペットを自称するとか恐ろしい忠誠心です。
長く生きすぎて、もう元王女様の威厳とか消滅してしまったのでしょう。
「お知り合いでしたか?」
「まあ、知り合いなんだけど……服は着ていましたか?」
いつも裸に首輪という姿なのに堂々としているというか違和感がまったくない人でしたからね。
私と身体的には同類なので、個人的には友達と思っています。
シズクを紹介してからは衣装を身に纏う事をようやく許されていましたね。
「なぜか誇らしげに首輪をしていたのですが、どこかで見たことのあるドレスを着ていました。口調は私達には優しく敵であるヴァリスの軍にはお話に出てくるような悪の女王様のように挑発をしていましたが、その強さは個人でサテラ様と同じく魔術で軍隊を退けてしまう強さでした」
確かアルちゃん自身は戦いに不介入のはずだけど、ヴァレンタイン家にはちょくちょく入り浸っていたから、自分の代わりにカリンさんに力を与えて戦わせていたのかもしれませんね。
ドレスを着ていたということは、シズクがプレゼントをしたものと思います。
流石にいつもの裸に首輪状態で現れたら、敵味方も関係無くドン引きか一部の男性が喜ぶだけですからね。
「ステラさんは、どうしていたのですか?」
サテラがそれだけ強くなったのですから、ステラさんの力は防御面から考えればとても役に立つはずです。
姉妹で戦えば私が見る限りでは完璧だと思うのです。
「ステラ様は戦いに参加されておりません」
「えっ!?」
まさか、以前に戦争には絶対に加担しないと言っていましたが、自分が住んでいる国がピンチなのに何もしなかったの?
変な所で頑固ですね。
「仮にも自分が暮らしていた国なのに無関心とは、ステラさんって意外と冷たいですね」
私も微妙な考えをしていますが、友人ぐらいは助けたいと考えるので国はともかく身内だけは手助けすると思います。
「シノア様、それは違います。ステラ様は前線に出ているサテラ様に力を送っていたのです。サテラ様は確かに強いのですが、個人ではマナの回復方法が限られていましたので……」
そう言えば、サテラは私に触れないとマナが回復しないからマナ切れになると飛ぶことや魔術の類は一切使えなくなります。
完全に枯渇してしまうと体の維持も不可能になってしまいます。
魔槍ミスティルテインの力を使えば回復は可能ですが、効率はいまいちだったような?
ステラさんは、樹木魔術の応用で少しづつだけど木々や植物を利用した大地から回復ができたはずです。
「これはステラ様に聞いたのですが、お2人には繋がりが合ってマナや能力を一時的に譲渡ができると聞きました。なので、御二人が同時に前線に立ったことはないと教えられました」
なるほど、要するに片方がバックアップをすれば通常の倍の行動ができたわけですね。
大戦期にサテラが魔王の1人を倒せたのは、ステラさんの能力を上乗せしていたから相手にサテラの実力が知られていても戦場では実質は倍の力を持っていて有利に戦えていたのでしょうね。
そして、私が不在なので必然的にステラさんが後方支援と言うよりもサテラのマナの補給に徹するしかありません。
ステラさんの事を冷たいとか言ってごめんなさいー。
「それだと役割的には当然ですね。だけど、それだけでは、マナの回復が追いつかないのでは?」
「はい、サテラ様は敵の一部隊に突撃した後に行方不明となりました。サテラ様が使っておられた魔槍だけがいつの間にか戻って来られたのです」
恐らくですが、マナが完全に無くなって体の維持もできなくなって消滅してしまったのだと思います。
そうなると私の中に魂が戻る筈なのですが、私にはサテラの存在を感じられません。
魂も消滅してしまったのか、それとも……。
「サテラの魔槍ミスティルテインがどこにあるのか知っていますか?」
「私達の町にあります。触れるとマナを奪われるので誰にも扱うことができないので封印をして保管がしてあります」
魔槍ミスティルテインは、攻撃した相手や単発の魔法を切り裂くことで、何割かのマナを吸収をして持ち主のマナに変換する素晴らしい武器です。
ただし、正当な所有者以外には触れた者の力を奪う危険な武器なので魔槍と呼ばれていると本人から聞いています。
「あれ、中々いい槍だと思うんだけど、所有者がサテラに固定されているからね。ステラさんの方はどうなりましたか?」
「ステラ様も同じ頃にいつの間にかいなくなってしまいました。ステラ様が所持していた聖槍はこの森の中の一番大きい大木の根元に刺さっています。こちらは触れることができるのですが、誰にも抜くことはできません」
ステラさんの聖槍ミスティルテインはこの森にあるのですか……これって抜いたらシズクの世界のお話だと勇者とかのフラグですか?
ちょっと私も挑戦してみたくなったんだけど?
ん?
この森にステラさんの聖槍があるという事は、ここはもしかして元はステラさんが樹木魔術で作り出した森とか?
そうだとしたら、いまも感じている違和感は術者本人がいなくなったけど、私だけは監視をする命令だけが残っているのかもしれません。
「ここって、もしかしなくてもステラさんが作った森ですか?」
「そうです。王都に敵軍の侵攻を許して王国内が混乱している状態の時に突然私達は見知らぬ場所にいたのです。この結界の森を含めたフェリス王国の一部の土地がこの地に移動してしまったのです」
「すると戦争というか戦いの方は、決着が着く前に終わってしまったのですか?」
「その後の戦況やお城の方はどうなったのか分かりません。ただ私達は戦火を免れたことになりますが……当時は周りに見たこともない強い魔物がいたので、戦える者達で対処をして一緒にいた住民の方達の安全の確保などを最優先としたのです。その時にヴァリスの兵の方達もいたのですが、状況を察してくれたのか戦いを止めて協力もしてくれたのです」
ヴァリスの国民とかノアが狂信者とか言っていたのですが、よく協力する気になりましたね。
もしかして、軍隊の者達は意外とまともとか?
「それで、この地に飛ばされた人達をまとめて暮らしているという訳ですか。いまから向かう町の人達って、みんな吸血鬼になっているのですか?」
「違います。当時に強い力を持っていた人達だけが吸血鬼になっているだけで、後は普通の人達です。吸血鬼になった者達がこの町の守護をする代わりに住民の人達に血を吸わしてもらっているのです。吸血鬼は同族の血を吸っても生命維持にならないので、必ず他種族の血が必要なのです」
「なるほど、それだとナオちゃんは吸血鬼にならなくても良かったのではないのですか?」
不老不死などと言えば権力者の類は渇望するかもしれませんが、長い時を生きるというのはそれなりのリスクがあります。
過去の私が時間を巻き戻しているのですから、長生きをしても良いことなんてないのかもしれませんしね。
「エルナ様に託されたシノア様への伝言は伝えましたが、エルナ様があの泉にいる限りは私はどんなことをしても生き長らえるつもりです。それに私にこの剣を託されたエルナ様はきっと私が強くなられることをお望みの筈です」
いや、エルナが望むとしたら当時の可愛らしい姿を望むと思うけど?
まあ、そんな事は言わないけど、剣を託したのは自分の身代わりのつもりだったと思うんだけどね。
エルナは独占欲が強いので、自分の剣を渡すことで「この子は私の物だから、手を出さないで下さいね?」ぐらいの考えだと思います。
端折っていますが、そこそこ話が聞けたので夜が明けたら行動をすることにしましょう。
いつの間にかシズクとマリちゃんとミリちゃんはいないのですが、お風呂の方から声が聞こえるんだけど、シズクは話ぐらい聞こうね?
てか、私がミリちゃんとお風呂に入りたかったのに先を越されたんですけど!
それならば、立派に成長したナオちゃんと一緒に入ることにしますが、私の行動を許してくれるかです……エルナの教えを今も守っているのでしたら多分可能です。
拒んでもさっきの戦いの疲れを癒す為とか言って癒させてもらいましょう!




