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生まれ変わったのですよね?  作者: セリカ
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238 八つ当たりは良くないような?


「さて、これからどうするかですが、廃墟の探索と吸血鬼のテリトリーに向かうのと、どちらにしますか?」


 背後の叩かれる音が止んだので、後ろの2人に話しかけてみました。


「何もしたくありません……」


 セリスは何事も無かったように私の隣に来ましたが、私の意見に全面的に従うので、どちらが良いとは大抵は答えません。

 指定をして質問をしても「シノア様が御選びになる方を支持を致します」としか答えませんからね。

 なので、シズクの意見次第なのですが、不貞腐れて後部座席のシートに転がったままです。


「どうでもいいんだけど、誰も見てないとはいえ、お尻丸出しで転がっているのは年頃の娘さんとしては良くないのでは?」


 ちょっと叩かれ過ぎて、真っ赤になって可愛らしいお尻が大きくなっている気がしますが、下着ぐらいは穿こうね。


「お尻が痛すぎて、パンツも穿けません……。それに男子がいる訳ではありませんので、どうでもよいです……ぎゃああああああ!」


 可哀想なシズクを慰めてあげようと、ちょっとさすってあげたら珍しく悲鳴みたいなものをあげています。


「何をするんですか、お姉様!!!」


「いえ、ちょっと痛みを緩和させてあげようとさすってあげようと思いましてね」


「触らないで下さい!」


「そんなに痛いのでしたら、自分で治癒魔法を掛けてさっさと治せばいいのでは?」


「治しても良いのでしたら、とっくにやっています! セリスお姉ちゃんから、自然に回復するまで反省するように言われているので、勝手に治したら罰を追加すると言われているのです!」


「そうでしたか。それでは仕方がありませんね」


 ついでに後で、車内カメラの映像を保存しておきましょう。

 車内で叩いていたし、いまもお尻丸出しで転がっているので、これは後々に強力な手札になります。


「高校生にもなって、お尻が腫れあがるまで叩かれるなんて予想外でした……」


 見た目は幼めの中学生のままだけど、実年齢だけは18歳になっていますからね。

 だけど、自分のお金で、どこに行くにも子供料金で誤魔化していたのを私は知っているので、そういう所はちゃっかしズルをしているんですよね。

 まあ、こちらに来たら、そんなの関係無いんだけどね。


「お姉様……こちらの世界に来たので無意味な質問なのですが、私はライセンスなどには詳しくないのですが、運転免許証は定期的に更新をしないと取り消しになるのではないのですか?」


 普通はそうなんだけどね。

 世の中には特例と言うものがあるのですよ。

 

「永続的なライセンスもありますが、更新が必要な物も確かにあります」


「私の聞き違いでなければ永久的と聞こえたのですが……」


「シズクに聞きますが、例えばセリスに運転免許証の更新ができると思いますか?」


「習得するだけで人の人生を狂わせているので、無理かと思います……」


 私の背後にセリスがいるのにそんな事を言うなんて叩かれ過ぎて思考が鈍っているのでしょうか?

 まあ、セリスはこの程度は聞き流してしまうので気にもしないけどね。


「シズクの危惧した通りです。更新をする度に被害者が出るのを防ぐために色々と手を回したのです。一度、運転免許の更新の葉書が来ていたのですが、更新期限を過ぎていたので無視をしていたのですけどセリスがそれを見つけて同じ教官を呼びつけて更新をしろと命じたのです」


「期限を過ぎていたら取り直しとかになるのでは?」


「海外にいたから、更新ができなかったんだけどセリスの教習担当の人がエルヴィラさんに泣き付いて永続免許を強引に作り出したのです。彼は何度も三途の川を渡りましたから、更新の度に呼びだされていてはいくら報酬で安定した幸せな生活が送れても生きた心地がしなかったのでしょうね」


 最初の内は死んだことを信じていなかったのですが、生き返る度に首の回りは血だらけだし、その内に亡くなった筈の祖父に会えたとか言い出したのです。

 殺され過ぎて落ち込む度に諦めないで頑張ってもらう対価としてボーナスを渡していたけど、命がけなので割りが合うのかは微妙なところですね。


「セリスお姉ちゃんに運転方法を教えただけで、高額な報酬にも驚きますが……お金があっても定期的に呼び出されていたら恐怖しかありませんね」


「他にもあったんだけど、これは被害者を出さない為の処置です。じゃないと毎回手間が掛かりますからね」


「お金と恐怖を最大限に利用しているとも言えますね……」


 シズクは納得したみたいですね。

 目の前でこれだけ言われているのにセリスは我関せずです。

 善悪の基準が私の方に一方通行だから余所見をしないのは世間的には欠点ですが私的には都合のいい美点です。

 話が終わるとシズクは後部座席で不貞腐れて転がっているのを継続しています。

 こうなると、シズクは行動不能なので、廃墟の探索は無理ですね。

 ならばこんな所で立ち止まっているよりも、吸血鬼のテリトリーとやらに先に行きたいと思います。

 シズクはそのまま後部座席に転がしておけば、着く頃にはお尻の腫れも大分ましになっているかと思います。

 そして、再びセリスの荒々しい運転で出発です。

 私は、前回と同じ助手席ですが、シズクは後部座席を倒して寝転べる状態のままなのですが、今度は両手でしっかりと倒したシートを掴んでますので、転がっては行きません。

 ただし、お尻丸出しで不貞腐れながらなので、またしてもストレスが蓄積されていそうなので、どこに八つ当たりをするのか怖いなー。

 順調に進んで行くと、木々が生い茂っているので、装甲車はここまでのようです。

 遠目から、町らしきものが見えていたので、ここからなら徒歩で十分に着けます。

 取り敢えず暗くなってきているので、少し離れた所で野営でもするべきかな?

 その前に装甲車の洗車もしたいからね……。

 道中で、小型の魔物がいたのですが、セリスは当たり前のように跳ね飛ばすから、あちこちに魔物の血が付いています。

 動物系の魔物ばかりだから良かったのですが、ゴーレム系みたいな硬い魔物だったら、へこみまくっている所です。

 聞くのが恐ろしいのですが、あちらの世界でも平気で人を殺さないように撥ね飛ばしていたので、安全運転とは無縁の存在です。

 逆に死なない程度の加減ができるところがすごいと思います。

 私はあちらの世界に行ったばかりの時に交通ルールなんてものを知らなかったから、大型のトラックに撥ねられた経験がありますが……私じゃなかったら、絶対に死んでいたかと思います。

 あれはとにかく痛かったな……。

 取り敢えず目的地の近くまで来たので、シズクの意見を聞いてみましょう。

 私が後部座席の方を振り向くと身嗜みを整えて倒していたシートを元に戻して普通に座ったところで私と目が合いました。

 何となく落ち着いているように見えますが、ちょっと不貞腐れていますね。

 まあ、せっかくストレス発散の魔物狩りをしたのに久しぶりに体罰を受けているとか別の鬱積が貯まったようです。

 早々に発散をさせないと私に不幸が降りかかる予感がします。


「お姉様、私の目を見たまま黙って何を考えているのですか?」


「いえ、お尻はもう大丈夫かな~と思ったのです」


「まだ、痛みで違和感があります。そんな事よりも目的地に着いたのですか?」


 まともに話しかけてくるシズクの反応がなんか怖いよ。

 早くいつもの調子に戻ってくれないかな……。

 取り敢えず、私も真面目に答えましょう。


「一応は近くまで着きました。目の前にある規模の小さそうな森を抜ければ吸血鬼のテリトリーと思われる町につけるかと思います」


「どうしてこのまま突っ切らないのですか?」


 別に不可能じゃないんだけどね。

 障害物があっても多少の事は、強行突破で走行ができる事を想定して作りましたので、結構頑丈に作ってあります。


「大木に直撃しなければ問題は無いと思いますが、木々をなぎ倒して進むのは自然破壊になるので宜しくないかと……」


「道中で、魔物を散々撥ね飛ばしていたのに自然は守ろうとするのですね?」


 いや、撥ね飛ばしていたのはセリスであって私ではありません。

 私はどちらかと言うと、装甲車が血で汚れるから、回避して欲しかったんだけど……セリスはあからさまに撥ね殺すつもりで突っ込んで行くのですよ。

 フロントガラスの汚れを取り除くワイパーとは、雨ではなく血を拭き取る装置だと実感をしたぐらいです。


「私が止める前に猛スピードで走っているから、仕方がなかったのです」


 セリスの突撃ほ回避した魔物もいたのですが、ドリフト走行で強引に側面撥ねとかするんだから、もうどうしょうもないんですよね。


「わかりました。では残りは徒歩で進む訳ですね?」


「まあ、そうなりますが辺りはもう真っ暗なので、野営でもしてからにしましょうか?」


 私がそう提案すると……。


「不要です。今すぐに森を抜けて吸血鬼のテリトリーとやらに向かいましょう」


 野営の提案は却下されて進みたいとの事です。

 どうも相手が襲って来ると思っているので、戦いたいのだと思います。

 強さがどれぐらいか知らないけど、吸血鬼に同情したくなってきました。


「ですが、魔族を撃退するほどの吸血鬼なのですから、明るい方が良いのではないのですか?」


 実はこの世界の吸血鬼の特性なんて、大して知らないんだけどシズクの世界の話だと夜の眷属とかではなかったかな?


「問題はありません。レンくんと吸血鬼に付いて色々と話したことがあります。夜でも昼間と同じように目が見えると言っていましたが、私もその程度は誤差の範囲で対応ができます」


「シズクって、こっちの世界の吸血鬼の特徴を知っているのですか!?」


「吸血鬼自体には興味がありましたので、レンくんに色々と聞いています。お姉様が想像している私の世界の吸血鬼とはかなり違います。まず第一に欠点らしいものがありませんので、上位の存在は不死にかなり近い存在です」


「では、日の光に弱いとか十字架とかニンニクが駄目とか言うのは?」


「ありません。日光に関しては、レンくんのような上位存在なら無関係です。それよりも吸血鬼としてのランクが下がると昼間は少しづつマナの回復率が落ちるだけと聞いています。他には十字架とか信仰の関係で無意味です。食べ物に関しては、個人の好き嫌い程度になりますが、レンくんはお姉様に出された物は何でも食べていましたよね?」


「なるほど……考えてみれば、それとなく近い物もレンは食べていました」


「こちらの世界の吸血鬼の唯一の欠点は、一定の期間内に血液を摂取しないといけないことです。これを怠ると精神が少しづつ退化してしまうので行き付く先は知性の無い化け物となってしまうことです。どうしても血液が摂取できない場合にこれを回避するには自らの生命活動を停止させて眠りに就くことになります。ただし、この場合は守ってくれる存在がいないと無抵抗になってしまうので、簡単に倒されてしまいます」


「レンも眠っていましたからね」


「吸血鬼を倒すには、頭部を破壊するしかありません。頭部さえ残っていれば生存も可能なのですが、体の欠損部位は再生ができないので、体を再生させてくれるような存在がいなければ元には戻れません。ですが、手足などが健在の場合は斬られた部分を繋げることで、自己修復は可能のようです」


「ノアがそんな事を言っていたような?」


 確か頭部さえ残っていれば死なないとか教えてくれた気がしますが、それが間違っていなければ、首を刎ねられてもひっつけておけばその内に復活する事になります。

 ある意味で私と変わらないので化け物じみていますね。


「ただし、その条件が適用されるのは中位ぐらいの存在までです。下位の存在は首を刎ねられた時点で、死んでしまうみたいです」


「先程から気になっていたのですが、上位とか下位の基準ってわかりますか?」


 私は、レンしか知らないから、ランクなんて知らないですからね。


「感染させた順番です。レンくんは私達の知識だと上位の真祖クラスです。なので、レンくんが誰かを感染させるとランクが下がりますが上位の個体になります。その個体から順番に感染させると最後には吸血鬼と言うだけの存在なので、能力的にもかなり劣化しています。吸血鬼は感染させた相手を絶対服従をさせる代わりに能力を飛躍的に強化できるのですが、これも適用されるのは中位ぐらいの存在だけです。下位となるとちょっと身体能力が上がった程度なのですが、恐ろしいのは爆発的な感染力です。なにせ感染させられたら、自分を感染させた者もしくは、上位者の命令は絶対になるのですから世界の脅威と思われても仕方がありません」


 ノアからそれらしい事を聞いていたから、レンには誰かを感染させることは禁じていました。

 血を吸うだけでは感染はしないので、意図的に相手を感染させるつもりじゃないと感染はしません。

 例外的に危機的状況と判断した場合にはレンには最善の行動を取るように指示はしてありましたが……現状だと千年も経過しているから、それがどうなっているのやら。

 それはともかく。


「その話を聞く限りは、吸血鬼の集団とか脅威ですよね? せっかく来ましたが引き返しますか?」


 いくら私達が強くなったとはいえ、そんな存在が集団でいる町に行くのはまずいかもしれません。

 どのくらいの規模か知らないけど、ほぼ不死の軍団と言うか下位の存在がめっちゃいたら、シズクの世界のお話のゾンビの町じゃん。

 しかも理性が残っているんだから、厄介ですよね?

 現になんとなく遠くの方にマナの反応がありますので、目の前の森を抜けてしまえばどのくらいの規模か分かると思います。

 確実に確認をする為にはもっと近づかなければいけません。

 後は、この目の前の木々が何か私の感知能力を妨害している気がするのですが……気の所為かな?

 私が安全を優先するとそのお答えは……。


「引き返しません。このまま突き進んで退治をしたいと思います」


「えっ! 退治をするのですか?」


「襲ってきたらです。話し合いができるのでしたら、我慢します」


 なんか我慢とか言っているけど?


「私としては、話し合いが良いのですが……ちなみに我慢の理由を聞いても良いですか?」


「こんな目に遭ってまで到着したのに帰るなんて私の気分が晴れないからです! 精神が劣化した吸血鬼の集団でしたら、ゾンビかグールでも退治すると思えば全て狩ってしまえば良いのです!」


「……そうですか」


 やっぱりただの憂さ晴らしじゃん!

 あちらの世界で押さえつけた反動で、シズクが何だか過激になっています。

 襲って来たら狩りたいとか……一応ですが、吸血鬼は魔物ではなく種族に分類されます。

 感染されて増える種族というのも怖いんだけどね。

 5年前と違って、セリスに思考が近づいているような……。


「お姉様が引き返すと言うのでしたら、途中にあった廃墟で私と模擬戦をして下さい。当然ですが手加減無しにしますので、現在のお姉様の技量もついでに測れます」


 えっ!

 危険と言われている廃墟でシズクと手加減無しの模擬戦?

 嫌ですよ!

 私の武術の腕前はシズクに劣ります。

 相手のマナの流れが見えるから、辛うじて対処ができているだけなので、特に速さに特化したシズクとまともに戦ったら、敗北は確実です。

 あちらの世界でたまに自主的に道場の人達の稽古に混ざって鍛錬もどきをしていましたが、私はそこそこの武術が使える魔導士なのです。

 まともに戦うのを前提として、私の勝率を上げるには盾となって戦ってくれる前衛が必須です。

 てか、その前衛役がシズクなんだけど!

 ここで引き返すと、模擬戦とか言いながら修行に切り替わって私に苦行が待っています。

 助け船も出さなかったので、どこまで続くのやら……なので。


「では、進みますか。先頭はシズクにお任せ致しますよ?」


「お任せ下さい。襲ってきた者達は全て倒してみせます……私はお姉様の剣なのですから、安心をして下さい!」


「頼りにしていますよ」


「先程のファルモニウムの森の魔物よりも強敵がいると信じています!」


 そう言うとシズクが前に進み始めました。

 進むと決めたら、少しだけ機嫌が良くなったのか、いつものシズクに戻りつつあります。

 私とセリスも付いて行きますが、早くシズクの機嫌が元に戻ることを祈っています。

 襲ってくる吸血鬼には申し訳ないのですが、頑張って下さいとだけ心でお願いをしておきます。


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