1 助かったけど……
「そなた、助かりたいか?」
えっ?
私はいま殺されそうになって、崖から落ちているはずなのですが?
しかも、瀕死の重症なので魔法の行使もままならないので、即死確実です。
それに私の知っている魔法を使ってもこの状況から助かるわけがありません。
いま、この状況で話しかけてくる人がいるのでしょうか?
「わらわの声が聞こえているはずなのだがもう良いのかな?」
あれ、また声が?
待ってください!
はい、聞こえていますが……私は既に地面に叩きつけられて、生きていないのではないかと思うのですが?
「うむ、ちょっと時間を止めたので、そなたはまだ死んではいないのだ」
時間を止める魔法とかあるのですね。
初めて知りましたが使ってみたいです。
「そなた死ぬ寸前なのに軽いの」
時間が止まっているお蔭なのか痛みとか感じなくなっています。
どうして私とお話しをしているのですか?
貴女は誰なのですか?
「精霊たちからそなたを助けて欲しいと頼まれたので、ちょっと様子を見ていたのじゃ」
見ていたのですか?
では、私が殺される所もですか?
「うむ、せっかく脱走に成功をしたのに上手く崖に誘導されて捕獲されるはずが手違いで吹き飛ばされて落ちた所かな?」
そこから見ていたのでしたら、あの時に助けてくれれば……。
「わらわは、この世界には余り関渉は出来ないので、あのような場面に介入してしまうとまずいのじゃ。それに風の精霊がそなたを誘導しようとしていたのに言うことを聞かないからの」
だって……指示された方向には追手の気配がありましたので必然的に居ない方に逃げるのは当然なのでは?
「そなたの能力なら、魔術を使えば見張りぐらいなら倒せたぞ。あの者達は、あの施設から逃げた者を必ずあの崖に毎回追い込んでいたようだしの」
私って、そこそこ強かったのですか?
「まあ、生まれた時からあの場所で、実験されていたようだし戦闘経験なども無く言われるがままでは仕方ないか」
私は、戦ったことなんて無いですから、どちらにしても無理だったと思います。
「指示に従って、別の道から逃げていれば、精霊たちが手助けしてくれているのだからなんとかなったじゃろうに。その後にそなたと会おうと思っておったのじゃが……まさか死ぬとはの」
一応は、まだ死んでいないのですよね?
「時が動き出したら、即地面に叩きつけられて死んでしまうので、もはや生きているとは言えないのでは?」
では、時間が動き出したら、数秒で即死ですか。
いまの流れでしたら、貴女が助けてくれるのですよね?
何となく神様とか女神様と思うのですが。
私の考えは間違っているのでしょうか?
「そなたは、あの様な施設育ちなのに地味に知識が有るの。普通は一般常識などは皆無と思うのじゃが性格も実験の被験者なのにやたらと前向きで軽いし、普通はもっと無気力な物なんだがの」
私は、精霊達とお話しが出来たので内緒で色々と教えてもらえました!
「ふむ、そなたの固有能力か」
私の能力?
普通は話せないのですか?
「そなた自分を見たことが無いのか?」
自分を見る?
「普通は見れないのじゃがそなたには翡翠眼と言う目があるので、全てを見通すことが出来るので、自分を意識して見てみるが良い」
これ自分も見れたのですか!
てっきり相手しか見れないと思っていましたよ!
ちょっと自分を意識して見てみると……
名称:451番
種族:亜人クォーター
年齢:15
職業:実験体
レベル:14
技能:中級精霊魔術 中級風魔術 中級土魔術 初級闇魔術 初級錬金魔術
固有能力:翡翠眼 精霊の加護 精霊の寵愛
女神様、クォーターって、何なのでしょう?
「そなたは、4つの種族をかけ合わせて生み出されたようだが他にも血が混じっているが中でも4種族の力を強く感じる存在じゃな。あの目を得たハイ・エルフはそなたと血縁関係にあるから、移植出来たのだな」
私は、あの先生が母親なのですか?
「違うな、血縁者のようだが己を高めることしか考えていない者じゃな」
良かった……でも、同じ身内では、ないのでしょうか?
凄く嫌なのですが……。
「あの者は自身を高めることしか考えていないぞ。身内を使って自分の研究の為にそなたを生ませたのじゃろ」
生ませたって……私の両親はどうなったのか知っていますか?
「知らぬ方が良いと言いたいがもう亡くなっておるみたいじゃ」
では、あの先生が殺したのですか?
「聞いてどうするのじゃ?まあ、この世界自体がもうおかしいからの」
それはそうなのですが……
「まあ、話を戻すがこの世界の普通の者はレベル10くらいで、鍛錬した者はレベル30ぐらいじゃな」
すると私って、普通の人よりは、まあまあ強い方だったのですか?
「あんな所でどうやってレベルをあげたのか知らんが、精霊たちの指示に従って逃げていれば、そなたの力で突破出来たはずなのじゃが、なまじにそんな目などあるから周りの気配も感知してしまったのじゃな」
でも、片目は取られていましたので、あの先生にはいずれ見つかりますよね?
確か自分の目に完全に馴染んだから、もう一つも貰うとか言ってましたし、あの先生はレベルが三桁だったと思います。
「あの者は、初めからあの場所に待機しておったので、向かわなければ、遭遇せずに済んだのだぞ。なので、そなたが待ち合わせの場所に来たら、接触するつもりじゃったがどうするかの」
あれ、私は助けてもらえるのですよね?
なんか、予定と違うからダメみたいな感じなのですが……
「予定していた事をしてもそなたは数秒後に人生終了だから、ちょっと困っているのじゃ」
これってただの反省会とかなのでしょうか……
要するに私の選択ミスで死ななくていいのに自ら死亡ルートを選んだよと教えてもらって。
しかも、このお話しが終わるとすぐに人生お終いとか無駄に未練が増えただけの様な……
すぐに死んでしまうので未練など有りませんがしーちゃん達に聞いた外の世界を見てみたかったです。
なんかちょっと最後に悲しくなってきましたよ。
これなら、そのまま何も知らずに死んでいた方が良かったよ。
最後にこんな思いをするのでしたら、泣きたいです。
「死亡ルートとか、本当に妙に知識があるの。本来なら余り干渉は出来ないがまあ良いかな? そなたの全てをわらわに捧げるのなら、生き残れるぞ? どうじゃ?」
えっ!?
それは本当ですか?
やっぱり止めるとか言わないで下さいよ?
「その代わりに人を辞めることになるので、全てがそなたの思っている通りにはならないし、不都合や制約なども付いてしまうが良いのか?」
まったく問題ありません。
「精霊達との約束もあるし問題はないのじゃがもう一度だけ聞くがそなたの全てじゃぞ?」
それ選ばなかったら、このまま終わるのですから、むしろ感謝しますよ!
「そして、この先に何があろうとも変える事が出来ない永遠の契約なので、後から文句などは一切受け付けないぞ?」
ちょっと気になる事もありますが今は生きたいと思いますので、宜しくお願いします。
「今後を左右する事なのに軽い奴じゃの……まあ良いか、ではそなたの存在をもらうぞ」
はい?
いま存在とか言いましたがそれで、私は続きがあるのでしょうか?
なんか眠いというか意識が遠くなってきましたが取り敢えず次に目が覚めたら、生きていると信じましょう……
「これ」
「zzz」
「おーい」
「うーん……」
「起きるのじゃ!」
「むにゃむにや」
「これ、そろそろ目覚めぬか!」
久しぶりに気持ちよく寝てたのに……
「あっ、おはようございます!」
「呆れた奴じゃな。あの状況で起きたら、おはようとかそなたはどういう性格をしておるのじゃ」
「あれ? 両目がありますし吹き飛んだ足と無くなった手も戻ってます」
「まあ無いと不便じゃろうし、そもそもそなたの存在を作り替えたので、体の調子はどうじゃ?」
「はい、とっても快適ですし以前よりも凄く動きやすいです」
「ちょっと自分を見てみるが良い」
では、私の新しい体をちょっと拝見してみますか。
名称:
種族:見た目は人
年齢:不要
職業:不要
レベル:1
技能:初級精霊魔術 初級風魔術 初級土魔術 初級聖魔術 初級闇魔術 初級錬金魔術 初級武器創製 鑑定
固有能力:精霊の加護 紅玉の魔眼 反転 吸収 次元収納 ?の加護 ?の使徒
継続してる物もありますが何か増えてますがこの見た目と不要とか何ですか?
さらにレベルが1に下がっているので、弱体化してしまったのでは?
「どうじゃ?」
「済みませんがこの見た目は人というのはなんなのでしょうか?」
「そなたはもう人でも亜人でも無く、わらわの眷属なのじゃが、この世界には鑑定などの姑息な技能があるので、ちょっとごまかしておいたのじゃ」
これちょっとなのですか?
余計に怪しいと思うのは私だけなのでしょうか?
「では、この不要とは?」
「わらわは永遠と言ったではないか?」
「永遠ですか?」
「なので、わらわが滅びぬ限り存在を消す事は出来ないので、この世界での名称は、わらわの使徒と呼ばれる存在がそなたのクラスじゃな」
「私、レベルが1になっているのですが?」
「そなたは生まれたてなので、当然レベル1じゃ」
「精霊のみんなの声が聞こえなくなったのは、固有能力が変わったからですか?」
「それは、精霊の寵愛と呼ばれる固有能力がどこかに行ってしまったからじゃな。わらわは、知らんぞ?」
「私には翡翠眼という便利な目が合ったのですがあれはどこに?」
「知らんぞ? わらわの影響で、魔眼が増えたが使いこなせないだろうから、代わりに鑑定の技能は付けておいたぞ。愚か者を探すのに有った方が良いからの」
「では、増えている物はどのような能力なのですか? 意識をして見てもわからないのです」
「それは、わらわの影響で増えたのとそなたの元の種族の能力が発現しただけじゃから、わからないのはそなたの実力不足じゃ頑張って、自分を鍛えるのじゃ」
「実力不足って、ダウンしたレベルをおまけでくれれば良いと思いますが……もしくは、レベル最大とか……」
「そなた……生まれ変わってやり直せるだけでも、ありがたい事なのにそこまで、求めるのか? これは、最初にお仕置きをせねばならぬかの」
「ごめんなさい、我が儘を言って申し訳ありませんでした。反省していますので許して下さい」
「まあ良い、ちょっとのお仕置きで許そう」
ちょっとって……どんなお仕置きが……。
「では、最後にそなたの名前を決めようかの」
「私の名前が無くなっていますね」
「流石にあの番号の名前は酷いのでな」
「あれって、普通では無いのですか? 偉い人以外は番号と思ってましたよ」
「この世界の者では無いわらわが言うのはなんだがそなたは意外と知識などがあるようで、一般の常識などが欠落しておるの」
もし逃亡に成功していても常識知らずなので、恐ろしくハンデになるかすぐに見つかってしまっていた所ですね。
「そなたに知識などを教えた、しーちゃんとやらは一般の常識などは教えなかったのか?」
「しーちゃんはいつも話しかけてくれたシルフィードという風の精霊ですから、略して、しーちゃん!」
「精霊からの知識では仕方ないが……この娘の教育を間違えておるぞ……」
間違えているとか、私の人格を完全に否定していますね……。
「では、わらわもそれに習って、そなたにシノアと名付けよう(451の当て字なんじゃが)」
「シノア……うん、響きが良いですね、ありがとうございます!」
「気に入ってくれたのならば良いが最後に言って置くがわらわは、干渉がほぼ出来ないのでこの先は自力でこの世界の行く末を見るが良い」
「はい、ありがとうございます!」
ん?
世界の行く末とか言ってますがどういう事なのでしょう?
「ではの―」
女神様? はその言葉を最後に消えてしまいましたが、そう言えば名前を聞いていませんでしたね?
まあ、私の固有能力の? がわかれば良いと思いますが。
これで晴れて私は自由ですね!
そして、今頃になって気づいたのですがここはどこなのでしょう?
森の中の泉の側としかわかりません。
さらに私は見事に何も持っていません!
しーちゃんから聞いた童話の物語でも武器とか装備は王様から何かもらえていたはずなのですが、所詮は作り話の中の出来事ですね。
現実の私は、この体一つしかないので、当然服すら無いのです。
赤ん坊ではないので、普通に生まれたてでも一枚ぐらい服でも着てると思うのですが!
もしかして、これがお仕置きなのでしょうか?
余計な事を言ったのがまずかったですね……寒くはないのですが。
女神様が着ていたドレスの様な物とは言いませんので、一枚ぐらい適当なのを付けて下さいよ。
私が今まで着ていた愛用? のぼろは、どこに?
考えても仕方ありませんが服とかどうやって手に入れましょうか?
どう見ても見渡す限りは森しか有りませんが木の皮で作れるかな?
もし、誰かに遭遇でもしたら、私は何と言って挨拶とかすればいいのでしょう……間違いなく痴女と思われるでしょうね……困りました。




