196 私の指名料?
取り敢えずは正体不明のおじ様(仮)達を席に案内をしたので、ライザさんにオーダーをガルドに伝えるようにお願いをしました。
ですが、ライザさんは厨房に向かう前におじ様に跪いて臣下の礼みたいなことをしています?
やっぱりこの国の偉い様で間違っていないと思いますが、ライザさんの表情がとても真剣というか……態度からして普段のライザさんでは拝謁もできない相手なのかもしれません。
私が疑問に思っているとおじ様の方からライザさんに声を掛けています。
「お前は確か前回の大会で良い動きをしていた娘だな」
「覚えていていただいて光栄にございます」
「今回の大会にも出場するのか?」
「いえ……今回は控えようと思っている所存でございます」
「ふむ……以前よりも強くなっていると見たが残念だな」
「今回は恐るべき強さを誇る者が出場致しますので……バルバス様のご報告書はお読みになられましたでしょうか」
「バルバスの奴の報告……そう言えば面白いことが書いてあったがなるほど。お前がここにいるという事は出場するのはその娘がそうなのだな?」
私の方を見ていますが、報告書とやらになんて書いてあったの?
シズクじゃあるまいし武術の大会とか興味ありません。
私が出るとしたら、料理大会なら出たいと思います。
「いえ、あちらにいます小柄の少女が出場を致します」
「あちら元気の良い娘か……確かにあの娘も強そうだな。話は分かった。あまり長く話しているとそこの娘が困ってしまうので下がるが良い」
「それでは失礼を致します」
「それよりもわしの注文を忘れぬようにな」
ライザさんは会釈をすると今度こそ厨房の方に行ってしまいました。
隊長さんの前でもお気楽に話していたのに、この人にはちゃんと敬語で話しているとは……。
下手な事をしたら私は無礼者として拘束されてしまうかもしれませんね。
シズクの事も強そうと言っていますが、ライザさんが届けた報告書も読んでいるみたいですが……思い出したような感じでしたので、それとは別でここに来たことだけは分かりました。
まあ、席には案内をしたので私は入り口に戻って他のお客さんの案内でもしましょう。
席が埋まって案内ができなくなったら、私もウェイトレスとして働かなければいけないのです。
最初の頃は良かったけど最近は忙しくなってきたので、私はサボれないのです。
それこそシズクにサボっているのがばれたら、ブツブツと文句を言われる始末なのです。
とにかく私は店内にいないといけないときつく言われているのです。
私がオーナーなのにちょっとサボるだけで文句を言われるとは意味がわからないのですよね。
私が次のお客さんの案内をしょうとしたら、おじ様からお声が掛かりました。
「娘よ。このままわしと話でもせぬか?」
なんとおじ様は、私まで御所望のようです。
ここはそう言うお店ではないのですが、お店の中にいる女性陣の中で私を選ぶなんて見る目がありますね……あれは負けていますが今回はツインテールにして可愛らしさをしっかりと演出しているつもりなので、私に惚れてしまったとか?
しかし、開店当初の時間に余裕がありまくっていた時なら良かったのですが、現在は人手がもう少し欲しい状況なので御断りをしましょう。
「申し訳ありませんがお店の方が忙しいので、ご遠慮をさせてもらいます」
「わしはそなたに興味が湧いたのだ。これで代金を先払いをするので、わしがいる間は相手をしてくれぬか?」
そう言って取り出したのはオリハルコン硬貨です!
私の感覚があれは本物と言っていますが、そんな物で支払いをしたら、お釣りを用意する方が大変です!
しかし、あれを私にくれると言うのですから、私が席に着くだけでそれだけの価値があるということですよね?
きたよ……私が可愛い美少女としての価値を示す時が!
今後は私の指名料としての参考にしたいと思いますので、ここはお受けしましょう!
ああ……私って、高い女ですね……。
「それはオリハルコン硬貨とお見受けいたしますが、本当に宜しいのですか?」
「うむ。わしに二言はない」
まじで本気のようです。
古参の使徒はお金持ちと確信致しました!
これは気が変わらない内に受け取ってしまいましょう!
「それではおじ様の相手をさせてもらいます」
「自分に素直な娘だな。では受け取るが良い」
「まいどですー」
オリハルコン硬貨を受け取るとつい変な言葉遣いが出てしまいましたが相手は気にしていないので良しとしましょう。
まずはシズクに念話で事情だけ話して私が話し相手をする事だけ伝えておきましょう。
そうしないと休憩時間以外はサボっていると言われて苦無が飛んでくるかもしれないので、危険なのです。
どうやって狙っているのか知らないけど、必ず手の甲に命中させてくるのです。
衣装を着ている部分には絶対に攻撃はしてこないのですが、私が大げさに反応して衣装に血を付けたりしても怒られるから、理不尽すぎます。
それでは……(もしもしシズクさん。私はちょっとブルなおじ様の接待をしますので、店の事はお任せします)
これで良しと思っていたのですがシズクからは真面目な声で返事がきましたよ。
(お姉様。その者達は危険なので離れることをお勧めします)
(えー。もう賄賂じゃなくて高額な指名料を貰ってしまったから、無理ですよ?)
(どうしてそんな物を受け取るのですか!)
(だって、オリハルコン硬貨だよ? この店の全メニューと私が話し相手になるだけで手に入るのですから、得しかありませんよ?)
(……お姉様の思考回路はどうなっているのですか? 私が脅威と感じているのですから、お姉様には大きなマナを持つ高レベルの相手だと分かっていますよね?)
(そんな事はわかっていますが、私の指名料がオリハルコン硬貨なのですよ? 私がこの店で一番可愛い美少女と認められた証です!)
(私はそんな事は初めから理解しているつもりなので常にお姉様の魅力を引き出す衣装を提供しているはずです! 今回だって、お姉様の姿をお披露目する為にしっかりと働いてもらっているのです! 言葉で言って欲しいのでしたら普段からもっと私の衣装を着た時に喜んで下さい!)
なんと……シズクは初めから私を美少女と認めていたなんて……今度、シズクのお願いを何でも聞いちゃいそうです!
しかも働くことで、私の可愛らしさをアピールさせていたなんて……そんな事を言われたらサボれないではないですか。
普段から褒め言葉を言ってくれたら、私も自分に自信が持てたのに……幼女趣味のエルナしか褒めてくれないから判断にとても迷います。
何と言っても普段の扱いが謎の修行で叩きのめされたり誰かさんに説教されたりだしね……。
しかし、もう指名料を受け取ってしまったので、お相手をするしか選択肢はありません。
シズクは私に念話でブツブツと文句を言いながらも笑顔で他のお客さんに対応をしているなんて、妄想じゃなくて、考え事をすると停止してしまう私とは大違いです。
私の能力にあるだけで全く役に立たないというか使えない『並列思考』を持っているか使えているのでしょうか?
主よりも眷属の方が能力を使いこなしているとか、私って欠陥品みたいなんですよねー。
まあ、原因はわかっているのですが……今の所は問題になって無いからいいんだけどね。
「娘よ。いつまでも立ったままでは話もしづらいので、お前も座るが良い」
おっと!
また考え事をしていたので、その場で立ち尽くしていると思われたようです。
シズクと念話で話している時からうわの空で立っているとかアホな娘と思われたかもしれませんね……私を知っている者は病気と判断していますが、この国の偉い様にまで同じ事を言われるのは避けたいので、しっかりと代金の分だけはお相手をしなければいけません!
「こんな高額な硬貨を貰ってしまったので、ちょっと感動していたのです。それでは私も失礼して座らせてもらいます」
私が座るといつの間にかテーブルにはスィーツ類が所狭しと置いてあります。
こんなに出されるまで私は立ち尽くしていたとは……。
しかもあちらの方達はすでにいくつか食している状態です。
おじ様は一口で豪快に食べていますけれど、お姉さんは上品に食べているのですが私の方をずっと見ているのです?
もしかして、私が知っている人なのでは?
うーん……私は記憶力は良い方なので、一度でも話をしたりすれば確実に覚えているはずなのですが……理由も分らずにただ見られているのってとても気になりますよね?
それにしてもどんどん運んできているのに食べるペースが早いな……私がその食欲に感心をしているとライザさんが紅茶を持ってきた時に私に小声で囁いてきました。
「シノアさん。この御方は……」
おっ!
私にこの人達の正体を教えてくれるみたいです。
ですが、直ぐにライザさんの口にシュークリームが詰め込まれて、その先は言えずじまいです……残念でした。
「余計な事を言わなくても良い。わしの事を知らぬ方が面白そうだが、わしが帰った後に娘が興味を持ったら教えるが良い。その美味いパンはいま言わない口止めの報酬と思って食べておけ」
ライザさんは押し込まれたシュークリームを口の中いっぱいにされたので、そのまま頭を下げまくって下がってしまいました。
私と違って権力には勝てないようです。
うん、私には誰かに仕えるとか無理ですね。
それにしても話がしたいと言いながら、食べることに集中しているんですが……紅茶だけは私の分もありますので角砂糖でも入れまくって飲んで待ちますか。
もしかしたら、お座りだけの観賞用なのかも知れませんが、その場合でも私が見るだけで価値があるという証拠になりますので悪い気はしません。
一通り食べ終わると紅茶に飲み始めたのですが……なんか絵になる2人ですね。
近くにいたライザさんに追加の注文をするとようやく私に声を掛けてきましたがまだ食べるのですか?
「中々美味い食べ物だな。部下の奴らに好評だったからわしも食べに来たが、久しぶりに新しい味覚に遭遇したといったところだな」
「ご満足して頂けましたら、私も嬉しく思います!」
「あの報告が確かなら、お前はフェリス王国から来たことになるが、あっちは美味い物を食っているな。どうだ娘よ、そのままこの国に滞在せぬか?」
おっと、食べ物関連で勧誘がきましたよ!
こっちの方面からのお誘いだと条件次第では考えてもいいんだけどね。
「嬉しいお誘いですが、私は旅人なので1つの国に留まるつもりはないのです」
「ふむ、旅人か。他の国の視察ではないのか?」
やんわりと断ろうと思ったら、次の質問はフェリス王国の間者と思われているみたいですね。
あの報告書とやらになんて書いてあったのか知りませんが当然の疑いかと思います。
「いえ、私は初めからあの国の出身ではありませんから特にそんな気はありませんよ?」
「そうかそうか。ならばお前程の強さを持つ者をこの国の陣営に誘うのは問題無いな?」
結局強さに関係する勧誘に切り替わりましたが、報告書を見ているということは最低でもセリスとシズクの実力は伝わっているはずです。
そしてライザさんが私の事を高く評価して報告していれば、自動的に私も強者の部類に入るわけですが……ここで話がこじれて戦うことになると私はこの人に勝てる気がしません。
話の途中から、私を品定めするような目で見始めたのですが、その視線を感じた時にこの人には絶対に勝てないと私の中で何かが警告してきます。
最後の言葉を言った時の威圧感は間違いなく本物です。
ですが……。
「申し訳ありませんがそちらの方面の勧誘もお断りします。私は自由に楽しく生きたいだけですから、縛られたくはないのです。それとお聞きしたいのですが、私を強いと決めつけている理由が知りたいのです。ライザさんの報告書を読んでいるのでしたら、私ではない者に声を掛けると思ったのですが?」
「ふむ。報告書は読んだが、わしがお前達の中で一番強いと感じたのはお前だ」
「感じた?」
もしかして、この人は私と同じでマナの大きさでも感知ができるのですか!?
仮にそうだとしても私とセリスとシズクのマナの大きさは全く同じなので優劣は分らないはずです。
そうなるとシズクみたいに武術関係の相手の実力が分るというやつになるのですが……それだったら、オンオフのできるシズクは分かりにくいかもしれませんが常に相手を警戒しまくっているセリスなんかは最初に目を付けられるかと思います。
私に害になると判断したり男性が自分目当てで声を掛けてきただけで、相手に対して殺意が湧くとか恐ろしい思考をしていますからね。
何にしても私が一番強いと感じている根拠が知りたいです。
もしかしたら……私の中のノアを感じているとしたら……。
そしてノアはその事を知っているから、私の考えに対してまったく反応を示さないのかもしれません。
あの時のノアの警告はいつものお気楽なノアと違って初めての反応でしたからね。
気軽にお店を営業したのはまずったかな……。




