190 護衛さんと方針
「予想はしていましたが、遭遇率が高い場所ですね。クロさんの出番ですよー」
「休む暇もないな。今度は、どんな魔物なんだよ?」
馬車の中から、クロさんが質問して来ました。
先ほど戦闘を終えて休んでいたところでしたが、早くもお仕事です。
「えっと……『ファイヤードレイク』とかいう竜の亜種みたいですね。中型ですが、アイちゃんとライザさんと一緒に頑張って倒して下さいね」
「中型とか言うが……でかいぞ……。それに2体もいるんだが……竜の亜種とか、俺が倒せるのか?」
どこかの駄龍みたいなのが大型と思うので、その半分ぐらいの大きさだから、中型と言っただけです。
ぶっちゃけ、大きさの基準が分らないから、私が遭遇した相手の平均値で判断しているだけです。
「クロさんの剣はドラゴン系にダメージが倍増するのですから、頑張ればきっと倒せますよ?」
「さっきの戦った図体のでかいオーガの時も似たような事を言っていたが、おれは散々な目に遭ったからな……」
先程戦った魔物は『オーガトロル』とか言う強力な再生力をもった通常よりも大型のオーガです。
まともに打撃を受けるとクロさんが吹っ飛ばされていましたので、地味にボコボコにされたのです。
その時も2体現れたので、一体はアイリ先生とライザさんが相手をしていましたが、クロさんは1人で戦っていたのです。
どんなにボコられてもセリスが即時に回復魔法をかけているので、例え手足が折れようとも直ぐに戦線復帰可能だったので、ゴリ押しでダメージを与えて何とか倒したのです。
ライザさん達の方は、アイリ先生がひたすら防御をして、ライザさんがダメージを与えるという連携で、クロさんよりはまともに倒しています。
ただ、アイリ先生はずっと苦情と泣き言を言いながら、耐えているだけなので、まさにただの盾というか的でした。
クロさんが吹き飛ばされる打撃を盾で受けてとめて耐えれると言うか踏ん張れるのは、無駄にレベルが高いからなのでしょう。
能力的には、大抵の攻撃に対処ができるのに怪我をするのをとても怖がっています。
私なんて、自己再生能力にマナをフルに回して、激痛覚悟で戦っているのにね。
シズクが作ってくれた最高の衣装というか防具は、露出している二の腕とか腿に薄い魔法防御しか無い欠点があるので、そこだけは物理攻撃を受けてしまいます。
それ以外はマナを消費する事で、ほぼダメージを軽減してくれるのですが……その欠点を無くすように頼んでも衣装的に可愛くなくなるという理由で却下されています。
私としては、見た目よりも完全防御重視がいいのですが……シズクの考えている魔法少女って、大変だと思いました。
まあ、それは置いといて、クロさんは男の子ですから、ここはカッコいいところを見せる為に1人で頑張るしかないようです。
こういう時は男の子って辛いですねーと、言いたいのですが、現実はセリスの強制支援を受けてバーサーカーのように戦っているようにしか見えません。
まるでセリスに無理矢理戦わされている働き蟻のようです。
完璧な支援と言うのは、前衛にとってある意味で過酷ですね。
「セリスの支援があるのですから、死ぬことはありませんので、安心して突撃して下さい」
「お前な……少しぐらいは一緒に戦ってくれるという選択肢はないのかよ?」
「えっ!? 今の私は、シズクの用意したドレスを着ているのですから、か弱いお嬢様ですよ?」
「まだそれは続いているのかよ……お前の魔法で片方だけでも、ぶっ殺すか少しぐらいは弱らせてくれれば、少しはましになるんだが……」
「ぶっ殺すだなんて、野蛮な事はできませんよ? 私はか弱い少女なのですから、今は護衛の戦士のクロさん達が頼りなのですからね」
「昼前に馬車に向かって飛んで来た巨大な怪鳥の魔物を焼き鳥が食べたいとか言って、なんかすげぇ魔法の一撃で焼き鳥にして、捌いて料理をしたのはお前じゃねぇーかー!」
「あれは食材が都合よく近づいてきたので、調理しただけです。みんな美味しいと言って満足していましたから、文句なんて無いはずですよ?」
「確かに美味かったが……あれはお前の作ったタレが良いからだと思うんだが。あれがなかったら、大味だったと思うな」
お屋敷に来てからは、私が作った食事をちょくちょく食べるようになったから、舌が肥えましたね。
私の自慢の調味料のレシピは誰にも教えていませんので、それに近い物はお屋敷の料理長も頑張って近づけましたが、何か足りないとか言っていましたね。
味を広める為に教えても良いのですが、やっぱり職人というものは技術は盗んで自分の物にしないと身に付かないからね。
それに私も苦労しましたから、それをあっさりと教えるのはちょっとね。
それよりも今はあれを倒してもらいましょう。
「何でも良いのですが、あれは竜の亜種みたいなのですから、もしかしたら美味しいかもしれません。今晩の食事に使いたいので、あまり傷を付けずに倒して下さい」
「アホか……俺はお前と違うから、無理に決まっているだろう!」
「その剣で、シズクみたいに必殺技でも使って、一撃で倒せば良いのです」
「シズク嬢ちゃんみたいに技の名前を言っただけで、必殺技が使えたら苦労なんてしないわ」
「お喋りはこの辺りにして、早く前に出て下さい。あんまり近づかれると購入した馬車に傷が付いてしまいます。セリス、クロさんに強化の魔法を掛けて、その気にさせて下さい」
私がセリスに声を掛けるとクロさん達に身体強化を掛けて、武器にも強化魔法を掛けています。
「今回は、増幅強化を掛けましたので、短時間で戦闘を終わらせなさい」
「早く倒せたら、セリスさんから何か御褒美でもあるのか?」
「あまりシノア様を退屈させた場合は、次の魔物が現れるまで治療を致しません」
「何もいらんから、治療はしてくれ。最後にどこか食い千切られたら、最悪だわ……」
「でしたら、次からは下らない発言は控えなさい。シノア様は、借金漬けのお前達の為に戦いを譲っておられるのですから、感謝をしなさい」
「はぁ……早く借金を完済したいわ。取り敢えず行ってくるぜ!」
セリスのお優しい言葉で、クロさんは立ち向かっていきました。
中型とはいえ、かなり大きさですから、どこかのお話の勇者が戦いを挑んでいるように見えます。
そして、残りの2人は片方が嫌がっているので、動きませんね。
「ほら、アイちゃんも早く行きなさい」
「嫌です! あんな大きな口で噛みつかれたら、食べられてしまいます!」
「無駄に硬いんだから、クロさんと違ってダメージなんて無いでしょ? それに今朝一番で、大蛇に丸飲みされて食べられる経験もしたから平気でしょ?」
「あんな経験は二度としたくありません! 生臭い匂いが未だに全身に残っている気がします! 大体、シノアさんがいきなり蹴とばすから、私は何もする間もなく食べられたのです!」
胃液まみれだったアイリ先生の体はちゃんと洗浄魔法で、綺麗になっているはずです。
ですが、丸飲みされて、胃袋に収納されたという精神的な感覚は消えませんから、悲しい思い出になっているのでしょう。
大体、相手がでかい蛇というだけで、前に出るのを嫌がっていたから、仕方なく蹴とばしたら……こともあろうか戦闘中なのに私の方を向いて、文句を言い出すから、頭から喰い付かれて持ち上げられたと思ったら、そのまま丸飲みされてしまったのです。
流石に私も焦りましたので、セリスに頼んで直ぐに倒してもらって救出しましたが、蛇の魔物を見ると完全に逃げ腰になってしまいました。
一応は戦士系なのに精神面が脆過ぎです。
無駄に硬くて防御力があるのに使えないとか……どこかで蛇に対する恐怖心を取り除く為の特訓でもしないといけなくなってしまいました。
毎日のように蛇の丸焼きでも食べさせて逆に食べてやったと思わせるか、無毒な小型の蛇でも集めて、蛇風呂に入れて精神面の耐久力をあげるとかで良いのかな?
考えるだけで、なんか楽しくなってきましたが、今は戦わせないとね。
「盾役なのに前に出ないからです。耐えるしか能がないのですから、率先して前に出るべきです。何でもいいから、アイちゃんも早く行きなさい! アイちゃんが愚図るから、ライザさんも困っていますよ?」
私がライザさんに話を振るとアイリ先生の説得をしょうとします。
「アイリさん、あれは私も流石に同情を致しますが……今は、あの魔物を倒すことに専念を致しましょう。前回のオーガの時のようにアイリさんが攻撃を防いでくれれば私が何とか倒しますわ」
「ライザさんのことは信用をしていますが……重い攻撃が踏み止まれて、例え直撃を貰ったりしてもマナが尽きなければ何とか耐えれるのですが……いくら痛く無くても怖いんです……私は本当は、ただの教師だったのに……どうしてこんなところにいるのでしょう……お屋敷のメイドになって、シノアさんにいじめられていた頃があんなに幸せだったなんて想う日が来るなんて想像していませんでした……」
なんと!
お屋敷で、私にこき使われている方が幸せと感じているのですか?
やっぱりアイリ先生は基本的にマゾの適性が高いようです。
肉体の耐久力も上がりましたから、ちょっとハードな嫌がらせをしても耐えてくれそうです。
今後の課題として、何をするのか考えておかないといけなくなりましたよ。
「こんなに高レベルのアイリさんが、メイドだったことにも驚きましたが、苛められることが幸せと言うのは理解に苦しみます。今は、クロードさんも向かわれましたので、早く行きましょう」
「うぅ……アルカード様がいてくれたら……」
私の影の中にいるので、実はすぐ近くにいるけどね。
そして、嫌がるアイリ先生の手を引いてライザさん達も立ち向かっていきました。
「ほら、借金返済の為に頑張ってねー」
私も励ましの言葉を贈るとアイリ先生が私を恨みがましい目で見ています。
無理矢理に戦場に引き出されて、遅れて2人も参戦しています。
アイリ先生が愚図るから、クロさんは1人でボコボコにされていたけどね。
だけどセリスがずっと癒しているから、大怪我をしたように見えましたが無傷みたいな状態です。
戻ってきたら、また楽しい愚痴が聞けそうです。
ちなみにライザさんは私に借金状態です。
闘技場で、勝っていた資金を全て失ったので、私が肩代わりしています。
欲をかかなければ、最初の資本金を失う程度で済んだのです。
あそこは最初に購入した金額だけで遊んでいれば、大した事にはなりません。
馬鹿みたいに上限を決めなかったら、この国の国民は破産しまくって、奴隷で溢れてしまいます。
要するに掛け金の追加購入をしなければ、最初の賭け金を失うかある程度儲けて終れるのです。
それが、この国のささやかな気遣いだったのにね。
資産に余裕のある者でしたら、最初に大金貨でプレート板を購入して、追加購入をしても問題はありませんが、ライザさんはシズクを信じて、最後に全てを失いました。
あろうことか、私に返しそびれた大金貨で最初の購入をして、追加の金貨を最大まで加算していました。
そして、合計で金貨1100枚のマイナスとなってしまったのです。
私に返す予定の大金貨も合わせたら、金貨1200枚もマイナスですが、当然持っていません。
帰る時にお願いされましたので、代わりに清算をしましたが、私に対して頭が上がらなくなってしまったようです。
今回は誓約魔術などは使っていませんので、普通に借用書を書いてもらいました。
当初の予定では、餌付けをして仲良くなるつもりでしたが、勝手に賭け事で自爆して、私の手下になってしまいました。
まあ、借金を返し終るまでの期間限定ですけどね。
なので、今回は王都までの道中の戦闘は全て3人に任せているのです。
頑張って魔物を倒せば素材などの報酬は3人で山分けです。
私が手を出したら、当然ですが分け前は頂きます。
ですが、戦士系のみで戦うのは厳しいかと思ったので、セリスの支援だけはありにしました。
セリスが見ていれば、たとえ死んでも即生き返らせますので、本人達は死んだと思うこともないだろうしね。
そして、私はシズクに言われたお嬢様プレイの続きをして、見物をしているふりをして戦闘中にお仕事をしています。
ライザさんがいると剣の製作とかは出来ないからね。
私としては苦戦をして戦闘時間が長い方が実は助かります。
そして、シズクがいないのは例によって単独行動で狩りに行ってしまったのです。
闘技場から敗北者として退出したので、落ち込んでいましたが、今回の件で自己鍛錬が足りなかったとか言い出して、魔物と遭遇するルートにしたのです。
そうです。
私達は王都までの道のりを最短ルートである中央を選んだのです。
この中央のルートは魔物が徘徊する地帯が多いので、本来は敬遠されるのです。
しかも地味に魔物が強いので、好き好んで進む人はいません。
冒険者を生業としている人達は、魔物の強さを調整できる『魔狼王の森』を選ぶか、中央ルートの最初に広がる草原地帯の二択になります。
私は町に滞在している時に分身体を使って深夜に探索をしておいたので、あらかた地形も把握しています。
こういう時に飛べるのは利点なんですよね。
上空からなら、地形も分かるので、後は私の頭の中で地図を作っていくだけです。
ダンジョンでのマップ作りにも役に立ちましたが、私の記憶力というか空間認識力が高いのが幸運でした。
この先にある砦の近くまで調べたのですが、どうも上空を飛んでいると砦の守備隊に魔物と勘違いされて、魔法で滅多撃ちにされたので、そこまでしか分かりませんでした。
頑張って躱したり魔法で防御をしたのですが、上空の魔物とも戦闘をしていましたので、元々のマナが減っていたので、マナが持たなかったのです。
深夜なのに飛んでいる私に気付くなんて、見張りをしている人は、とても優秀だったみたいです。
私の姿を遠目で確認ができる者がいるとまずいので、幻術で魔物に見せかけていたのも失敗の1つです。
途中で襲われた上空の魔物に化けていましたから、的が大きくなってしまったのです。
なので、私自身は大丈夫でもマナで作った部分の面積が大きくなり被弾して攻撃される度にマナが削られていくから、消耗も激しかったのです。
これ分身体だったから、最終的にはマナが無くなって消滅したので正体はばれていませんが、この様子だと王都に向かうのに深夜に上空を飛んでスルーするのも無理みたいです。
ついでに帝国寄りの北東のルートも調べましたが、国境の都市に近付いたら、更に強力な魔法攻撃を受けまくって同じく撃墜されました。
力が全ての脳筋みたいな国と思っていたのにすごくまともな国だと認識しました。
これ、開戦とかしたらフェリス王国では絶対に勝てない気がしてきました。
北のロードザインは更に強力な国家と聞いていますので、どの国とも面しているフェリス王国に勝ち目なんてある訳がありません。
戦力不明の北の巨大国家に、私の感想では、まともな国力を持っている東の国、良く分らんけど、兵力が無駄に多い西の国とか……どう考えても詰んでいるような?
唯一の利点は、どの国も恐れる個人が滞在しているだけです。
だけど、動けないという真実を知ってしまったら、すぐにでも攻め滅ぼされるかと思います。
その辺の話をして、出発前にシズクと相談をしたら、寄り道をしないで最短で王都に向かうと判断したみたいです。
中央ルートの中間地点にある砦なのか要塞都市なのか知りませんが、私が行くことで、戦力が分かります。
重要施設や軍に関係する場所に行けなくても、私にはマナの大きさで、どのくらいの兵力がいるのかは予測可能なのです。
隊長クラスの人は使徒と計算して、一般の戦力はライザさんを基準にして計算すれば良いのです。
そして、砦にいる人口の兵士と民間の人達の比率を調べてマナの総量で振り分けて計算すると、大体の戦力が想定できます。
城壁から、あれだけの魔術による弾幕が張れるのですから、侵攻の為に近付いたら、魔物との連戦の後に酷い目に遭いそうです。
航空戦力を保持していないと西側からの進軍は厳しいかもしれません。
だから、北の帝国に対してはより多くの戦力を振っているのだと予想します。
それにこれから向かう砦の前には別の地帯がありますので、突破するには骨が折れるかも知れません。
安全面を考慮するのでしたら、南側から進軍するしかないと思いますが、遠回りな上に恐らくは大抵の住民が平時には戦力になれる実力があるかもしれません。
この国の住民の比率は、亜人というか獣人系の人が多めなので、基礎の身体能力が高いのは、かなり有利です。
私の考えが間違っていなければ、都市が集中している分だけ人口が多いと思いますので、単純に兵力差で上回ってくるかもしれません。
それに滞在していた国境の都市の人達は地味にレベルの高い人達が多かったのです。
仮にあそこの人達を戦力として徴兵して、規律の取れた軍隊としてフェリス王国に攻めてきたら、苦戦は免れないと思います。
誰かが脳筋の国とか言っていたけど、やっぱり自分で確かめないと駄目ですね。
シズク達は私が無駄に滞在して寛いでいると思っていたらしく、セリス以外は驚いていました。
私が町を散策するという事は、マナの感知で、どれだけ人がいるのかが分ってしまうのをダンジョンで実践しているのに忘れられているようです。
なので、私が国を隅々まで散策してしまえば、どれだけの軍隊を隠していても人口は分かります。
そして、ダンジョンのマップまで作成できる記憶力があるのですから、私程に密偵とかに適している者はいません。
私がこの話を終えるとクロさんは感心していたし、シズクに至っては開戦前にこの国を攻める気なのか聞かれました。
そんな気はありません。
私は単純にこれから向かう道の下調べをしただけです。
私は基本的にパーティーメンバーの安全第一です。
ダンジョンと違って、私には上空から偵察する事が可能なのですから、地形ぐらいは見て把握をしておけば危険なルートを避けることができます。
本体の意識よりも分身体の方に意識を多く傾ければ、あちらの視点からも見ることが可能です。
それにギルドの掲示板の横にあった地図は頭に入っていますので、後はあれと照らし合わせるだけです。
北部と中央部は、かなり誤魔化して曖昧に記載されていました。
だから、ライザさんはギルドの待合で正確な事は言わなかったのです。
ライザさんが、あそこで感情変化もせずに私に堂々と嘘でも言っていれば、私はそれほど気にしませんでした。
なので、これはしっかりと道の下調べをしておかないと何か有った時に困ると判断したのです。
こういう時に精神を乱さずに詐欺師みたいに息をするように嘘がつけるといいんだけど、そんな人は悪人か、どこぞの権力のやり取りでもしている人か、本当に頭の回る人ぐらいですから、ライザさんには無理ですね。
仮にライザさんの隊長さんであるフォルカスさんという人でしたら、私も判断が難しかったと思います。
あの人は、最初から私を警戒していましたので、私の質問にまともに答えないと思います。
後は、私が王都にまで行く途中で、ちょくちょく分身体を深夜に飛ばしてこの国を上空から観てしまえば、この国の本当の地図が完成するし、滞在して散歩をするだけで、人口もしくは兵力を知ることができます。
ちょっと卑怯ですが、こんな便利な能力がせっかくあるのですから、私の能力をフルに活用しているだけです。
それに調べはしましたが、この事をフェリオスさん達に伝える気はありません。
シズクは、「戦いに協力しないとか言っているのに、やっぱりフェリス国の為に戦うのですよね!」とか言いましたが、オリビアを通して当たり障りのない情報ぐらいは教えても良いかぐらいです。
非常に言い難いのですが、このグラント王国は今の所は、まともに統治された国です。
私としては、同盟を結ぶか降伏をして統治されても良いのでは?と考えています。
この国と同盟を結ぶことで、戦力的な問題が解決できれば西のヴァリスだって、簡単には攻めてこれません。
あちらの兵士の質が数のみでしたら、十分に対抗が可能と考えています。
問題は、北のロードザインだけです。
あの国は昔から、進行などはほぼしないと言われていますが、動き出したら、どうにもならないかと思います。
ノアが言っていましたが、本来の目的である女神アスリアの権限をかなり持っているのですから、これを有効に使っていたら、個人の力で戦力の差なんて覆すのではないかと思っています。
そう考えるのでしたら、これだけの国を作っている獣王グラントがどんな人物かです。
交渉の余地があるのでしたら、味方にするのが理想的だと思います。
なんといっても、個人で負け知らずなんて聞いたら、私は仲良くなって、後ろ盾にとてもしたいです。
フェリオスさんみたいな人でしたら、もしかして話ぐらいは可能かもしれませんからね。
正直に言いますと私は戦争など求めてはいません。
同水準の国力を持つ国同士で、和睦を結ばせて国力を均等にするか、頭の固い国だけ攻め滅ぼして、しばしの平和を得るかを考えています。
今の所は、フェリス王国だけが弱小国家みたいなので、どこかの国と同盟を結ぶのが良いと思うんだけど無理ですよね?
グラント王国が同盟を求めていないのでしたら、ヴァリスの国を調べてみるつもりですが……どうも国の評価が低いみたいなので、前回のように頭を倒して乗っ取れないかと思っています。
あの国の女神は、個人の能力はそれほど強くないらしいので、私達だけで倒すことも可能ではないかと思っています。
そんな簡単に女神と謁見できるとは思えませんので、それなりに私達が魅力的と思ってもらわないといけないと思います。
ノアは、この考えに否定的です。
私の目的は、変わりない平和ですが、ノアの望は魂の回収なので、この世界の覇権争いの元凶の大義名分を使って、戦争をする者達のどさくさに紛れて大量に生命を狩ることですからね。
皮肉なことにその魂を得て私は成長する存在なのですが、私はその気になれないのです。
可能な限り戦いを回避する為にも、願わくば、獣王グラントが話の分かる人物であることを祈りましょう。




